プロローグ 転校生の美少女
その日、教室中がどよめいた。
窓の外では桜が舞っている心穏やかなこの時期に一人の少女もまた、この地へ舞い降りてきた。
色素の薄い透明感のある金色の長髪。
瞳には済んだ青空を想起させる程綺麗な碧眼。
スラッとした理想のような体型に気品のある立ち居振る舞い。
まるで絵画から飛び出てきたかと思わせる美しさであった。
「ミア・テイラーです。本日よりこの桜山高校2年1組の生徒になります。ここへ来てまだ日が浅く至らぬ点も多いかと思いますが、是非仲良くしてください」
流暢な日本語かつ天使のような微笑みで皆を魅了する。
それは男子どころか女子にまで影響を及ぼしており、かく言う俺も魅了はされていないまでも視線は釘付けだ。
「では、テイラーさん。一番後ろの窓際の空いている席に座ってください」
先生が指し示すは俺が座っている横の席。
始業式からわざとらしく空いていたため、転校生の噂は飛び交っていた。
しかし、ここまで期待を越える美人が他にいるだろうか。
ミア・テイラーは俺の隣りの誰もが望む窓際最後列にゆったりとお淑やかに座り、俺へと会釈する。
たったそれだけでクラスは更にヒートアップする。
それも、仕方があるまい。
俺もまた、ミア・テイラーと同じく学校中誰もが憧れる存在だったからだ。
最上 京──それが俺の名前である。
そして、この名を聞けば学校中の誰もが俺の顔を想像するであろう。
頭脳明晰、運動神経抜群、信頼も厚く、自他ともに認める容姿端麗、烏滸がましいかもしれないが事実である。
今までに告白された女の子は数しれず。
生徒間の問題すら何度も解決しているため、男子から密かには知らないが大々的に恨まれたことは無い。
言ってしまえばカンペキS級の男である。
それ故にただミア・テイラーが会釈するだけで周囲はザワつくのだ。
「ミアさんと最上君美男美女過ぎる」「もうあの二人だけ別次元」「あそこの匂い嗅ぎたい」
あちこちで何らかの声が聞こえる。
若干、変質者が紛れていたかのように思えたが、存ぜぬ装いで無視する。
その後も終始クラスは静かにならないまま朝礼は進行していった。
先生も何度か注意はするものの最後には諦めてしまっていた。
「──これで朝礼は終了です。最上君、テイラーさんが困っていたら助けてあげて下さい」
先生は俺に軽く依頼する。
俺ならば基本なんとでも出来るだろう、そういう信頼があるのは間違いなかった。
俺は、はい、と答え、ミア・テイラーの方を向く。どう眺めても美しさは変わらない。
「俺は最上 京。よろしく」
「ミア・テイラーです。よろしくお願いします」
互いに挨拶をする。海外では握手が主流と言うが、ここまで流暢な日本語ならば日本に来て長いのだろうか。
何かしらの質問をしようとしたその時、窓が少しばかり開いていたせいで教室に春の陽気な風が流れる。
ミア・テイラーは靡いた髪を手で抑える。
光で綺麗なブロンドの髪が煌めく。
天使が実在するならば、彼女のような格好をしているのかもしれない。
「日本の春は桜が綺麗ですね」
窓の外を一瞥し、ボソッと呟く。
確かにここから見える舞い散る桜は誰もが美しく感じるだろう。
しかし、明るい光も更に明るい光には歯が立たないことをその時の俺は理解した。
読んで頂きありがとうございます
プロローグなので若干短めです
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また、本日9時、12時、18時に次話投稿予定ですので、お読みいただけたら幸いです