人として母として死ぬこと
次第に夢が形を保てなくなっていき、解けていく。
残ったのは脳をイジッてノイズの無くなった、クリアな暗闇の世界だ。
調整室のベッドから体を起こし、フチに腰かけるアストラ。
アストラ:また夢を見るか。珍しいこともあるもんだな……あれから、もう25年が経つか。
あの時の決着はマクシムスが勝利して終わった。
そしてカルカリーナは第一線を退き、リーナを産んだ。
リーナにとっては不幸の始まりだっただろう。
5年後に戦争が起こり、傭兵の俺達は人型兵器グラディエイトのパイロットとして戦火の中に引きずり出された。
相手は大国。俺とマクシムスの力をもってしても、防戦一方となっていた。
オペレーターを務めていたカルカリーナも現場に復帰して、戦線に戻った。
しかし前線から退いてブランクがあった、カルカリーナは戦死した。
残されたリーナの元に残ったのは二人の男。
強さを求め続け、人としての心を手放した、実の父親のマクシムス。
それと同じく強さを求め続け、人であることを辞めて機械の体に置き換えた俺だ……
調整室の扉が開きリーナが入って来る。
リーナ:どう、アストラ?調整は終わったかしら?
アストラ:あぁ、ちょうどいま、終わったところだ。
リーナ:出撃準備をして下さい。
アストラ:タイタニストが来たか?相手の戦力は?
リーナ:まだ不明よ。分かり次第伝えるわ。
アストラ:あぁ、頼む。
リーナがアストラの向かいのベッドに腰かける。
リーナ:顔色が優れないわね。本当に大丈夫?
アストラ:大丈夫と言いたいところだが、どうだろうな。機械が古くなったせいか、それと俺が歳を取ったせいか……また夢を見た。
リーナ:またママの夢?
アストラ:そうだ。お前が生れる少し前の出来事だ……俺とカルカリーナとマクシムスの三人が一緒に居た時の頃の夢だ。
リーナ:ママはどうしてた?
アストラ:強い奴の子供が欲しいと言っていたよ。アイツの望みは叶ったな。お前は強く育った。
リーナ:そうなのかしら、分からないわ。ただ人間味が薄いだけなんじゃないかと思う時があるもの。私は冷たい人間だから。
アストラ:体を機械に置き換えた人間に育てられたんだ。そうなってもしょうがない。
リーナ:……まだ、聞いたことなかったけど、アストラはどうして私の元に残ったの?マクシムスのように私を捨てれば良かったのに。
アストラ:お前が俺の手を掴んで泣いていたからだ。カルカリーナが死んだ日にな……中々手を離してくれなく困った覚えがある。
リーナ:そう。じゃあ……マクシムスはどうして、私を捨てたと思う?私が可愛くなかったから?それとも必要じゃなかったから?
アストラ:さあな……また会うことがあれば聞いておくさ。
ベッドから立ち上がり、調整室の扉へ歩き出すリーナ。
リーナ:母さんは、私を産んで幸せだったかしら。
アストラ:慣れないことばかりで大変そうにしていたが、人間として充実していたと思うよ。後悔をしてる言葉は一つも零したことはなかった。アイツは人として死んだよ。母親になったんだからな。それが幸せかと言われたら、分からないがな……
リーナ:そう、もし答えが出たら教えて……仕事に戻るわ。
アストラ:俺もすぐに向かう。みんなを集めて置いてくれ。
リーナ:分かったわ、声を掛けて置く。じゃあね……
リーナが調整室を出ていく。一人残されるアストラ。