父と娘
潜水都市ダイバー・ノアの食堂で、食事をするリーナとアストラ。
アストラ:夢を見た。
リーナ:いつものことだけど、唐突ね。話しを聞いて欲しいなら、もう少し気を惹く努力をしたら?
アストラ:体を機械に置き換えただけでなく、脳までイジった弊害だ。どうにもならん。
リーナ:努力は必要よ。アストラは人間らしさを放棄しているんじゃないかしら。
アストラ:否定はしないさ。
リーナ:否定しなさい。仮にも娘に人間味がないと言われたのよ。
アストラ:口が減らない娘だな。母親に似てしまったんだろうな。
リーナ:口は一つしかないもの。減っては困るわ。
アストラ:ふっ……カルカリーナも同じことを言っていたよ。
コップに刺さったストローに口を付け、流動食を飲むアストラ。
リーナはビーンズソテーをスプーンですくい口に運ぶ。
アストラ:俺と食事をするのはつまらなくないか?
リーナ:誰と食事をしても同じよ。食料が足りてないのだから、美味しいものは食べられない。アストラの飲むエネルギー補給用の流動食と変わらないわ。
アストラ:そういうもんかね。
リーナ:そういうものよ。なら、せめて朝と夜くらいは家族と共に過ごすのも良いのではないかしら?
アストラ:家族ね……話を戻すが、夢の内容はカルカリーナが出てきた。
リーナ:そう……夢の中では、ママは元気にしてたかしら。
アストラ:あぁ、元気だったよ。勝ち気で、俺達男に囲まれても一歩も引かなかった。そして、あいかわらず腕の良いパイロットだった。
リーナ:でも死んだわ。パイロットとしてね。戦場に出ず、ずっとオペレーターをやってたら良かったのに。
アストラ:そうしたら、俺はこの場にはいなかっただろうな……
リーナ:でも、もしもはない。ママは死んで、アストラは生き残った。それが現実よ、受け入れるしかないし、私は受けて入れている。
アストラ:冷たい人間になっちまったな。
リーナ:そうよ、どこかの誰かさんみたいに、心を機械に置き換えたのかもね。
アストラ:残念だが、心臓までは置き換えちゃいない。
リーナ:皮肉だと受け取りなさい。冗談が通じないのでは、アナタの部下も大変ね。
アストラ:だろうな。昔の俺だったら、毛嫌いしてたよ、きっとな。
食事を乗せたトレーを持ったマッキナが、リーナの隣に遠慮なく腰かける。
マッキナ:俺も隊長のその愛想のなさと冗談の通じなさは嫌いですよ。
アストラ:朝の挨拶にしては、パンチの効いてる言葉だな。
マッキナ:軽いジャブですよ。それに心の中では、おはようございます、隊長って言ってます。
アストラ:口に出す言葉と、心の中で思う言葉は逆しろ。
マッキナ:素直な人間なものでね。思ったことがつい言葉に出ちゃうんですよ。あ、ところでリーナ。この席空いてるかい?空いてるならこのまま座ってたいんだけど。
リーナ:座る前に聞くべきね、マッキナ。アナタのその無神経さは好きではないわ。
マッキナ:座る前に聞けば、断るだろ?断られるのは好きじゃないんだ。慣れてなくてね。
リーナ:許可するわ、マッキナ。でも無駄な話しはしないこと。それでも良いかしら?
マッキナ:オーケー。それなら重要な話しをしよう。俺とデートをしてくれる気にはなってくれたかい。
リーナが片手を額に当て、溜息を吐く。
リーナ:それが重要な話しなの?
マッキナ:あぁ、俺にとってはね。
アストラ:俺は邪魔者かな。そうであれば退散しよう。
席を立ち、移動しようとするアストラ。