ぐうたらやんきーがーる!
イチカが家事を初めてから、一ヶ月程たった。気合いをいれて覚えた甲斐もあり、今では洗濯は日々のルーティーンになっており、慣れた手つきでこなしていた。
本日は、ミキとカナ以外に大事なお客さんが一人来る。
その人にもイチカは手料理を振る舞うことになっていて、今はその準備をしている。
(自信ないな。)
料理に関しては、まだまだ練習中といったところで、まだ誰かに食べさせるぐらいのものではないとイチカは思っていたが、どうしても食べてみたいとしつこく頼まれたので仕方なく振る舞うことになってしまった。
「おじゃましまーす。」
「おう! 待ってたぜ。……って、もう来たのか!?」
ミキとカナには約束の時間より早く来て、料理を手伝ってもらおうとこの時間に呼んでいたが、そこにいる男はもう少し後に来ることになっているはずだった。
その男の顔を見るなり、イチカの身体は熱を帯びたように熱くなった。
初めて見せる、自分がエプロンをつけて料理をしている姿が小っ恥ずかしかったのだ。
「ユ、ユウキ、来るのが早えーよ!! 約束の時間にはまだ三十分以上あるじゃねぇか!!」
「ごめん、ごめん。一人で居てもヒマだったから、家を早めに出たんだ。」
「……ま、まぁ、来ちまったもんはしょうがねぇけど、今度からは気をつけてくれよ!」
こんなに腹を立てる必要などなかったが、心の準備をする前に恋人のユウキが来て混乱してしまい、イチカも自分自身を制御しきれていなかった。
ユウキは、座敷の上に腰を下ろした。
「すみませんでした、姐さん。兄貴さんはあんなことを言っていますが、私たちが家まで迎えに行って連れてきてしまったんです。」
「そうなんッス。遅れるよりかはいいと思って……。」
ミキとカナは、自分たちの余計な行動でイチカに迷惑をかけてしまったことを反省している様子だった。
「いや、むしろ感謝したいくらいだよ。気を使ってくれてありがとうな。」
イチカの頭にあったのは、ミキとカナに言う文句だったが、二人のショボーンとした顔を見た瞬間、口に出た言葉は文句ではなく感謝の言葉だった。
「さぁ、客を待たせてるから手伝ってくれ!」
「「ハイ!」」
いつの間にか、イチカの体に帯びていた熱は、スっーと引いていた。
三人がテキパキ料理をしている周りを、ユウキが心配そうな顔でうろちょろしている。
「ユウキ! ちょっと邪魔だから向こうで静か待ってて欲しいんだけど!」
「俺も何か手伝おうか?」
ユウキは柱に持たれて、まるで、どんなことでも余裕でこなすから、なんでも言ってくれという態度だった。
しかし、ここでユウキに手伝って貰う訳にはいかない。あくまでユウキはお客さんなのである。それに、多分ユウキに手伝えることなんて何一つ無い。
「いや、私たちでできるから気にしなくていいよ。」と告げると、ユウキは少し寂しそうに、元いた所に戻っていった。
そうして、しばらくすると三人が作っていた料理は見事完成した。
――☆――☆――
「どっちも、めちゃくちゃ美味かったぜ!」
ユウキは、オムライスとポテトサラダをぺろりと完食した。
それを聞いて、イチカは胸を撫で下ろした。
ぶっちゃけると、あまり自信がなかったのである。自分の舌には合っても他人に合うかは分からない。一応、ミキとカナは美味しいと言ってくれたが、この二人を含め後輩なら先輩であるイチカが作った料理が不味かっても、美味しいと言うだろう。
「イチカも料理が得意だったんだな!」
三人は聞き逃さなかった。
「「「も!?」」」
「お前たちには言ってなかったが、少し前から料理に凝ってるんだ。得意料理も結構あるし、……それに夢もできたんだ。」
ユウキも昔は、イチカと同じ暴走族で、周りからはバケモノのように強いことから『幽鬼』と呼ばれているほどの男だった。
そんな男が料理が得意だなんて、ありえない!
「そ、その夢ってなんなんですか? 兄貴さん。」
カナは固唾を飲んだ。
(分かってないなぁカナは。多分、自分の店を持つこと! なんて言うはずだぜ。まぁ、それなら私にも手伝えるな。最初はユウキの妻になるために始めた料理だったけど、そんなところでも役に立つなんて、料理を覚えてよかった気がする。)
「その、俺、専業主夫目指してるんだ。恥ずかしいよな男が家事をするなんて。」ユウキは照れくさそうに言った。
(え!? 主夫!! ……じゃあ、私の今までの努力は……。)
――☆――☆――
三人は帰っていくユウキを見送った。
その後、しばらくの間は誰も一言も口にしなかった。
そこで、とうとうこのなんとも言えない空気が、我慢できなくなって口を開いたのはカナだった。
「……今まで家事を練習してきましたが、こうなったら仕方がありませんね。姐さん。働きましょう!」
「……マジ?」
「もちろんマジです。それか、兄貴さんの妻にならないかのどちらかです。」
考える必要などない。イチカの答えは見えていた。
「……わかったよ。私、働くよ。でも一つ……条件がある。」
「条件? 何っスすその条件って。」
「ちょっと休ませてくれー! 疲れた! 今すぐ働けなんて言われても無理だからな!」
「「ちょっと、姐さん!!」」
ぐうたら生活を脱出したと思われたイチカだったが、また振り出しに戻ってしまったようだった。
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