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姐さんと勤労?

「率直に言いますけど、ねぇさん、働いてください!」

 

 カナは容赦(ようしゃ)なく言い放った。。


「うっ、いきなりなんだよ。」

 

 ぐうたらイチカにとって、一番言われたくないことだった。しかし、後輩に弱いところは見せまいと、至って冷静な様子を見せた。


「私とミキで相談したんですが、今のようなぐうたらした状況が続くと、姐さんがダメ人間になってしまうんじゃないかと心配なんです。」


「働くったってなぁ。二人とも知ってるだろ。私には無理だってことを。」


 イチカには、少々特殊な事情があった。


 実はイチカは、過去に一度だけコンビニでアルバイトをしたことがあったのだ。


 そこでは最初こそ順調だったが、喧嘩っ早い性格のイチカは客と口論になり、止めに入ったバイト仲間を突き飛ばして怪我をさせてしまった。幸い客には手を出さずに済んだが、同僚を怪我させてしまったことと店内でおおきなトラブルを起こしてしまった責任として、(みずか)らバイトを辞めた。


「それに、()()じゃあ、どこも雇ってくれないんじゃないかな。」


 イチカは自分の左側の二の腕をさすった。


 イチカには働けないもう一つの理由があった。


 それは、腕に()ってあるタトゥー。


 彼女たちの世界では、あまり派手ではないワンポイントタトゥーなど普通に()れている人が居たが、世間ではタトゥーをれることはあまりいいこととはされていない。イチカはその事に最近になって気がついた。


 しかし、後悔はしていなかった。むしろ誇りにすら思っていた。天邪鬼(あまのじゃく)。それがイチカのポリシーである。


「それじゃあ、せめて家事を覚えるのはどうっすか?」


「家事!? 私、家事なんてやったことないぞ。」


「じゃあ、やっぱり働いてください。姐さんのその喧嘩っ早い性格を直すのは難しいから、あまり人と接しない職業を選べばいいですし、タトゥーは長袖を着て隠せば問題ありませんよね。」カナは、いつもの(あね)を慕う後輩らしい感じではなく、突き放すような冷淡(れいたん)な口調で言った。


「そうと決まったことッスし、早速街に出て職探しに――」


「――私……やっぱり家事を覚えようかな。」


 二人は、ニヤリと口角をあげた。


「それじゃあ、早速覚えましょう!」


 ☆――☆――☆


「まずは洗濯からッス。」


 肩を落とし、いかにも面倒くさそうな雰囲気のイチカを前に、ミキは洗濯機の使い方を最初から説明しようとした。しかしイチカがそれを遮った。


「いや、いつもお前たちにやってもらってるけど、わざわざ教えてもらわなくても、洗濯のやり方なんて何となく分かるぞ。脱いだ服を洗濯機に入れて、洗剤も入れて、それからボタンを押すだけだろ。」


「正解ッス。じゃあ明日から毎日、姐さんが自分でやってくださいね。」


「毎日!?」


「そうッスよ。姐さんはあまり部屋着を持ってないんッスから。」


「服なんて、二日・三日連続して着ればいいじゃないか。」


「洗濯せずに同じ服を連続で着るなんて、絶対ダメですからね!」イチカに押され気味のミキを見て、カナが助け舟を出した。


「特に、今は夏で汗をかきますから、そんなことをしたら絶対にダメですよ。もしそんな事をしたら兄貴(にい)さんに嫌われてしまいますよ。」


「――わかった、わかった。毎日洗濯すればいいんだろ。」


 「洗った衣服を干すのも忘れないで下さいよ。姐さん。」


 イチカはしぶしぶ、毎日洗濯することを約束した。


☆――☆――☆


「次は料理を覚えましょう。」


 キッチンに集まった三人。


「料理ってアレだろ。弱い敵をサッと倒すことだろ。それなら得意だ!」イチカは、面倒なことをやらされているお返しにと、少し二人をからかってやった。


「あの時を思い出すッスね〜。今の姐さんもかっこいいけど、あの時はシビれる程かっこよかったッスよ〜。」


 何故かカナが乗ってきた。


「そんなに褒めるなよ〜。照れるじゃねーか〜。」


「――違いますよ。そっちの料理なわけないじゃないですか。」


 痺れを切らしたカナは、吐き捨てるようにツッコんだ。


「わかってるよ! ちょっとボケただけさ。てゆうか、そんな目で見るなよ! 」


 カナは、じとーっとした視線を二人に向けている。


「わかったよ。謝る。ごめん。さぁ、早く料理を教えてくれ。」


 イチカとミキは、このピリピリした空気を感じ取り反省した。


 カナは、一回深呼吸をしてイライラする気持ちを落ち着けた。


「それじゃあ、始めますよ。」


 イチカは、いつの間にか二人が用意していた、キッチン道具の使い方、食材の調理の仕方など、料理に必要なことをあらかた教わった。


☆――☆――☆


「冷たいっ!!」


 イチカは、カナに腰に湿布を貼ってもらっている。久しぶりに長い時間動いていたので、腰が痛くなってしまった。


 「……どうして()に働けなんて言ってきたんだ?」


 いつもは、そんなことを言ってこない二人が今日になって突然言ってきて、何かある、と勘が働いたイチカ。


 「……実は私たち、ある作戦を立てまして。」


 ズバリ、イチカの勘は冴えていた。やはり、二人は何かを(くわだ)てていたのだ。


 「作戦?」


 「はい。その名も……『姐さん花嫁計画大作戦』!」


 「は、は、花嫁!? 私が!?」


 「そおっス。最近のぐうたらした姐さんを見ていられなくなって。でも私たちが働いてくださいとお願いしても色々文句を言って働いてくれないだろうと思って、それならもう姐さんを兄貴さんの奥さんにしてしまおうとなった訳っす。」


 イチカの顔は一気に紅くなり、今にも湯気が出てもおかしくないくらい熱くなった。


 「バ、バ、バカ! 私が主婦になれる訳――」


 「――それじゃあ、働いてくださいね。」


 カナは笑顔で――実際には、顔は笑っていたが、目は笑っていなかった――言った。


 「……っ!」


 イチカは、ぐうの音も出なかった。


――☆――☆――


 帰り道、二人は小さくハイタッチを交わした。


 二人は、イチカが、重い腰を上げてくれたことを喜んだ。


「最初から姐さんに家事をしてくれるように頼んでいたら、絶対にやってくれなかったよね。」


「うん。だから最初に姐さんに外に出て働くことを提案して、その後に、それよりも姐さん的にはハードルの低い、家事を提案したら絶対やってくれると思ってた。」


 ここ最近の悩みの種が解決して、やっとスッキリした。


「それにしても、以前の姐さんからは想像できないくらい、ぐうたらになったよね。」


「でも、昔の、野心を剥き出したようなバキバキでカッコイイ姐さんも好きだけど、今のぐうたらしたカワイイ姐さんも好きだな。」


「私も同じ。」









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