七人の脳内名探偵
「ねえ、何で私が怒ってるのか分かる?」
世の男性の頭を悩ませ、心臓を締め付け、胃に穴を開ける恐怖の難問も、僕が本気を出せばあっという間に解決してしまいます。なぜなら、僕の脳内には七人の名探偵がいるのですから。
「今回の問題は非常に単純明快だ。今日は火曜日、つまり僕のゴミ出し当番の日。そして、そのことをこの瞬間まですっかり忘れていた! 彼女の怒りの原因はそれに違いない!」
「いやいや、それは見当違いというものだよ。もし、その件で怒っていたのなら、朝の時点で叱られていたはずだろう? 彼女の沸点の低さは全員承知しているはずだ。今注目すべきはテーブルの上に置かれているコップだよ。そういえば、この前飲み終わった後はちゃんと台所に持っていくよう注意されたばかりだったはず……あの半日放置しっぱなしのコップこそが真犯人だ!」
「甘いな……二人共、彼女の心理がぜんぜん読めていないね。大事なのは、あの質問をした意図を考えることだよ。女性というのは共感を求める生き物。だからこそ、あれは腹が立っている自分に寄り添ってほしいという気持ちの表れなんだ。きっと職場で何か嫌なことでもあったに違いない!」
「確かにその推理は惜しいところまで到達している。でも、残念ながらそれでは不正解だ。元々は愚痴を聞いてもらいたい一心だったのかもしれない。だが、現状として怒りの矛先がこちらに向いていることは明らかじゃないか。そして、その原因は、ヘッドセットを付けていたせいで彼女の帰宅に気付かず、三時間ほどゲームし続けていたことに他ならない!」
「はあ……よくそれで名探偵なんて名乗れるなあ。もっと観察眼を磨きたまえ。彼女が右手に持っている手鏡が目に入らないのか? おそらく口紅……いやアイシャドウを変えたのだろう。ふふ、それさえ指摘すれば逆に有頂天になって喜ぶはずだ!」
「おいおい、そんな単純なことに気付かない訳ないだろうが。お前こそ忘れてるんじゃないか? アイブロウが変わったことを指摘したら、目聡すぎて気持ち悪いと罵られたことをな。あの手鏡は俺に突き付けるために持ってきたってことさ……大方、無精ひげの剃り忘れが気に入らないんだろう」
「90点と言ったところかな。彼女は隠しているが実はヒゲフェチなんだ! つまり、気になっているのはヒゲじゃなく、寝ぐせと目ヤニのほうだ!!」
彼女はツカツカと僕に歩み寄り、手鏡を突きつけました。今回は7番目の名探偵に軍配が上がったみたいですね。
「……もう我慢できない! 何か質問する度に口と目を半開きにしてフリーズする癖、いい加減どうにかしてよ!!!」
とりあえず、しばらく脳内名探偵会議は自粛することになりました。