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幕章 竜の悪魔

主人公のライバル登場です。

 しかし時を同じくして、この新たな神座王(アマデウス)登極(かくせい)は、倭蜃(わしん)国は愚か遥か西界(せいかい)の国々にいる王たちにも感じとられていた。

 

 そうここにも……。

 



 時は、この覚醒よりも些か(さかのぼ)り、西界――『セフィロト王国』もとい改め『セフィロト専制帝国』第八都市『ホド』にて……。

 




「あ、あぁ……!」


 霧深い峻嶮(しゅんけん)なる山々の中で、ひとりの褐色の肌に尖った耳の戦者が呻き声を発しながら、這いうずくまっていた。


 身にまとっている壮麗であったろう甲冑は面影もなくボロボロで、片方の腕は既にない。


 両脚もズタズタで用を為さない。


 おまけに腹部の大部分が失われ、彼を中心に血の池を形成している。


 誰がどう見ても致命傷だ。それが物言わぬ屍となるのも時間の問題だろう。


 しかし、それは彼にかぎったことではない。


 見渡せば、辺り一面おびただしいことこの上ない戦者の屍が落ち葉のように打ち捨てられ、傍には戦車の残骸と神獣の位階を持つ神鳥ガルダの死骸が、葬送の供物のごとく散乱していた。



「グッ! ち、ちくしょう……! な、なんで、なんでこんなことに……!?」


 戦者は片腕だけで這いながら、息も絶え絶えに悪態をつく。


 さもありなん。彼にしてみれば、これは勝ち戦であったはずだからだ。


 いや、その想いは彼ひとりのものではない。それは、この地に攻め入ったリグ=ヴェーダ軍全将兵の共通認識だったろう。



 なにしろ自分たちは八万規模の軍勢で攻め入った。それも最強クラスの神獣ガルダの航空戦車軍団を含む精鋭でだ。


 対して、ホドは現在兵力を西南のヴァルトシュタイン王国への備えに当てている上に、戦力も竜もどきに過ぎない飛竜の騎兵隊二千……。


 どうあっても負けることなどありえない戦だった。


 それが――



「この様――か」


 事実最初こそ自分たちが圧倒的優位で戦況を押していた。


 脆弱な竜もどきの騎兵など最強の突破力と火力を持つガルダの戦車の前には玩具も同然だからだ。


 そのはずだった。


 だからこそ無様に逃げていく敵軍を、総大将の第二皇子の号令もあって自分たちはいい気になって追撃したのだ。


 その時、まぎれもなく自分たちこそが狩る者であり、ホドの猿どもこそが狩られる獲物でしかなかったはずだ。


 だが追撃している内に、自分たちはホドの険しく狭い峡谷(きょうこく)まで突き進んでいたことに気づいた。


 霧が深かったことも災いしたのだろう。周りの状況が何もわからずに、敵の巣深くにまでまんまと自ら上がりこんでしまったのだ。


 その時になって、さすがに楽観視していた自分たちも"まずい"と思った。


 狭い峡谷の中では、小回りが利かない戦車の機動力は絶無だ。


 戦車から騎兵に切り替えれば話は別だろうが、神鳥と名高いガルダは己を駆る者を選ぶ高貴な神獣だ。直接騎乗できる戦者など庶子の第一皇子を含めても片手で数える程度だ。


 もし、こんなところをホドの連中に襲いかかられでもしたら――


 その不安は、数瞬もしない内に現実となった。


 まず上空から無数の岩石が雨霰(あめあられ)のように降りかかった。


 それもただの岩石ではない。魔術やマントラの防御が紙屑のように突き破られ、戦車隊の六割が堕ちた。おそらく土属性を持つ飛竜のブレスだったのだろう。


 しかし、この時はそんなことを思考する暇すら許されなかった。


 それから間を置かずに、狭隘(きょうあい)な山峡から細針のごとく飛竜の騎兵が翔けてきたのだ。


 騎竜は三騎ずつ陣形を組んで、矢・ブレスの雨霰を大盤振る舞いとばかりに、戦車部隊へとたらふく喰らわせた。


 当然自分たちも応戦しようとしたが、手狭な戦場、木偶になり下がった足手まといの戦車、加えて霧がまたも深くなったことで、攻撃は愚か防御すらままならない。


 その上、反対側の山峡からも同様の攻撃を仕掛けられ、こちらの士気は完膚なきまでに挫かれた。


 しかも、どういうことかホドの連中や飛竜は、この最悪の視界で己や敵である自分たちの位置がわかっているらしい。


 そういえば、ホドの騎竜民族は元来、鼻がよく利く上に肌で風の向きを読み、霧の中でもおおよその位置を把握できると聞いたことがあったが、よもやこれほどとは……!


 狭隘な山峡の上に視界の悪い霧の中を、縦横無尽に飛翔する常識外れの機動力を御する騎乗技術に、正確無比な弓術、それに加えて巧みかつ緻密な連携攻撃……! 


 こんなことが人間技でできてたまるか!


 しかし、これだけの戦術を実行するには指揮官の高度な指揮が必須だ。


 ましてや、自分たちとて山深い地で戦車が物の役に立たぬことがわからぬほどの阿呆ではない。


 常に高度をとって飛翔し、山中(敵のホームグラウンド)に入らぬよう相応の警戒をしていた。


 にも拘らず、まんまと己の独壇場まで誘導するなど尋常ではない指揮に加えて、緻密などという言葉が生温く思えるほどの神算鬼謀の計算がなければ、とうてい不可能だ。


 指揮官まで人間ではないとでもいうのか!


 まるで、悪魔(マーラ)……竜の悪魔(アジュガル・マーラ)じゃないかっ!!



「く、そぉぉ……! この、ままぁ、終わって、たまるか……!」


 戦者は残った拳を強く握り絞めて、今にも抜けていきそうな生命を必死に繋ぎ止めんとする。


 こんなところでは終われない。俺とて、常世で最も高貴なる者(クシャトリヤ)のひとりなんだ! 持たざる愚図(シュードラ)どもならまだしも、その俺が、こんなところで終わっていいはずがないんだ!!


「こ、のまま、引き下がって、なるもの、かァァッ……!!」


 戦者は苦しまぎれに懐から、栓と封印の札が施された瓶を取り出すと、札ごと栓を歯で(かじ)りとり、中身を一気に呷った。


「ぐっ……がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 途端に戦者は絶叫をあげるや、その身体は甲冑を突き破って膨張した上、青白く変色して失われた腕も異形の形で再生されていき、骨、筋肉ともにズタボロだった両脚も瞬く間に治癒されていく。


 しかし、同時に戦者の姿はもはやひとのそれではなかった。


 頭髪は禿げ上がり、顔面は右目が異常に大きくなって左目を潰してサイクロプスのような様相となっている。


 体格に至っては元の三倍には膨れあがり、四肢はその四倍ほどにまでなり鋭利な爪すら生えている。


『ギギギッッッ! チカラ……! チカラガ、ワキアガルウゥゥゥゥ!!』


 呂律(ろれつ)も既に回らなくなり、まともな人語すら発していない。それどころかまともな思考能力すら失せていた。


 そこには、ただただ殺意と憎悪、それらをごちゃ混ぜにした破壊衝動と殺戮衝動しか残されてはいない。


『ホドノザルドモォォォ……! ゼゼゼ、ゼンイン、ミナゴロジ……! トサツ! メチャクチャニィィ、シテヤルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!』


 獣は湧き上がる殺意と力の衝動のみを咆哮し、もはや誰ともわからぬ怨敵を探し求めて歩を進めた――

 



「――これが噂に聞くスラー酒か? なるほど。私がいうのもなんだが、良くも悪くも見るに堪えん醜悪さだな」



『ガゥ!?』


 突如、聞こえた声に獣が振り向く。そこには、全身を黒鉄の甲冑で固めた騎士が仁王立ちしていた。


 一対の巻き角を持つ変わった兜は顔の全面をおおい、上半分はまるで竜を思わせる意匠をしており、下半分は白く人の唇と下顎を模している、兜の後部からは、灰銀の長髪が(たてがみ)のようになびいていた。


「"スラー酒"早い話が強力無比な劇薬。服用した人間の潜在能力と生命力を爆発的に引きだす代わりに、命は愚かひとであることすら捨てる禁断の魔薬だったか。本来は、歩兵の奴隷(シュードラ)に使われるものと聞いていたが、戦神族(クシャトリヤ)とも在ろう者が戦に敗れ、自棄を起こしたということか……」


 講釈を垂れる騎士に構わず、獣は眼前にまんまと現れた獲物へと飛びかかり剛腕を振るう。


『ウガッ!?』


 しかし、対する騎士はそれを指一本で止めた。


「見た目ほどの威力はないな。力任せなだけで重さがまるでない」


 侮蔑すら含めた声音に、獣は怒りと同時に明確な畏怖を感じ思わず下がった。


 それはほぼ本能的な悪寒だ。眼前にいる騎士が、自分よりも遥かに巨大な魔物にすら思えた。


「彼我の実力差もわからないわけではないか。が、逃がすわけにはいかん。もはや、ひとに戻ることすら能わず殺戮の衝動のみが残る獣を放置すれば、ホドの民に、ひいてはセフィロトすべての民に、その牙が及ぶことは必定。故に排除する。それがこの第八都市『ホド』を預かる伯爵(カウント)たる、このアイアコス・フォン・アグリッパとしての責務だ」


『ア――』


 騎士の総身から溢れ返らんばかりに放出された凄まじい鬼気を前に。それに当てられた獣は完全に戦意を喪失した。


 その瞬間に理解してしまったのだ。


 眼前の男は"敵"どころか"獲物"ですらない。それ以前に自分風情が対峙していい存在ではないと。


 この男の前では、自分など唯の"餌"でしかないのだと――


『~~~~~~~~~~ッ!!』


 そう悟ってしまった今、一時もこの場にいることなど耐えられなかった。


 本能が、ひたすらに警鐘を鳴らして急かしている。


 逃げろ! とにかく逃げろ! 一刻も早く、この場を立ち去れ! でなければ間違いなく、十中八九、死ぬぞ!!


 獣は、本能が命じるままに、すぐさまこの男を背にして駆けようとした。


 だが、動かない。まるで動かない!


 まるで金縛りにでもあったかのように――否! 真実、獣は金縛りにあっていた。もはや、指一本すら動かせなければ、瞬きひとつもできない!


「逃がさん」


 アイアコスはそういって右腕を伸ばして右掌を獣にかざしていた。まるで身動きを掌握するかのごとく――否、事実としてこれにより獣の動きを拘束しているのだ。


『バ、バナゼェェッ!! ゴノグゾヤロウッ!! オマエノヨウナバケモノ! アイテニデキルガァァァァァァァッ!!』


 恐怖と錯乱が綯い交ぜになった悪態に、アイアコスは呆れたような嘆息をつく。


「……化け物? まあ否定はしないしできないが、少なくとも貴様にだけは言われたくないな。さて、このまま圧潰してもいいのだが、貴様の醜悪な肉塊と血をこのホドの地にぶちまけるというのも忍びない」


 その言葉に、獣は安堵の声を出した。それは見逃してくれるという意味ではと。


 だが、それはあまりにも浅はかな希望的観測だった。


 先にも告げた通り、理性なく目についたものを喰らう狂獣を目溢ししてやるほど、甲冑の騎士は慈悲深くはなかった。


()()()()()()()()()()退()()()()()()()()


 その言葉の意味を、獣は測りかねていた。


 だが、次の瞬間にはその意味を理解した。


 己の後ろの空間がパックリと割れ、そこから渦のような引力が生じ巻き上げられるようにして、自分の身体が物凄い勢いで吸いこまれだしたからだ。


『ナ、ナンダ!! コレハァァァァァァァッ!!?』


「現世とは異なる次元へと通ずる穴だ。一度踏み入れば、何人たりとも戻ることは叶わん。このまま十億万土の彼方で永劫に彷徨うがいい」


『ギャッ!!』


 その言葉の意味を鈍化した思考に浸透した瞬間、獣は唯でさえ崩れた相貌を引きつらせて呻くと、恥も外聞もなく泣き叫んだ。


『ヤ、ヤメロォッ!! ヤメテクレェェェェェ―――――!!! イヤダ! ゾンナドコロ二ナンゾ、イギタクネェェェ……!!』


 しかし、異次元の引力は、その懇願など歯牙にも掛けず「却下」と言わんばかりに獣を捩じ切るように巻きあげて呑みこみ、断末魔が途切れると同時に穴は元通りに塞がり、黒鉄の騎士のみが残る。




「……リグ=ヴェーダの戦神族(クシャトリヤ)の質も落ちたな。このようにまんまと我らが天地に足を踏み入れ自滅し、あまつさえ逆上してこのような麻薬に頼るとは……」


 アイアコスは軽蔑も露わに吐き捨てる。そこへ、


「まあ、そうおっしゃいますな。御身の戦術に的確な対処ができる者なぞ、ディルガネシュ皇子ぐらいなものでしょう。あの七光りの第二皇子サマが総大将では、貴方のお相手は荷が勝ちすぎるというものですよ」


 そう辛辣かつ慇懃な物言いをしながら、黒に近い藍のロングストレートをなびかせ、瞳孔が開いた鋭い紅い双眸を愉し気に光らせた美青年が、黒髪のロングをおさげに結った灰色の瞳を持つ人形のように整った美しい少女をともなって現れた。


「リュカ、レイヴン、敗残兵の処理はどうなっている?」


「お、おおむねは完了しました。ほとんどは捕虜としました。中にはその者と同様にスラー酒を口にして抵抗する者も数名いましたが、シャリネ卿やカラコムさんが鎮圧しました」


 少女――レイヴン・クローセルが、若干たどたどしくも報告した。


「ご苦労……」


「それはそうとです伯爵(カウント)。たった今、早馬で陛下より次なる勅命がきております」


 仰々しく、またはワザとらしく畏まりながら青年――家令のリュカ・セルヴァスがそう告げると、騎士は怪訝な声を出す。


「陛下から? それで内容は」


「はっ。なんでも我が国のお抱え商人ゼファードル・カルドゥーレが、帝宮第一神殿の最奥から厳重機密封印指定に処された刻鎧神威(グレイル)の一柱『アフリマン』を盗み出し出奔したとのことでございます」


「なに!?」


 アイアコスは兜の下で眼を剥いた。彼もカルドゥーレという商人のことは知っているどころか、個人的な面識もそれなりにある。


 国際貿易都市として名高い第四都市『ケセド』出身の大商人であり、今では若輩ながら莫大な財と人脈を築いた若き辣腕家にして我らが主君ミカエラ女王からの信任も厚い男。それが……!?


 ――しかも、よりにもよってあのアフリマンを!? 莫迦な! あれほどの思慮を持つ男が何を考えている!? 大量虐殺でも行なうつもりか!!


 アフリマンの危険性を聞き及んでいたアイアコスは焦燥と憤りを禁じ得なかったが、ひとまずはそれを内心で噛み殺し、家令である青年に今肝心なことを問い質した。


「……それで行き先は判明しているのか?」


「それはまだ何とも……。今、メタトロニオスの御曹司が躍起血眼になって洗っている最中ですが、些か難航することは避けられないかと」


 リュカの言葉に、アイアコスは嘆息をはいてうなずく。


「だろうな。本をただせば、カルドゥーレを陛下に紹介したのはミーノス卿であったのだ。責任を感じているのだろうが、あの類の人間がそう簡単に尻尾をつかませるはずはない……。それで私への勅命は、カルドゥーレの捕縛とアフリマンの奪還か?」


「然りです。カルドゥーレという男は商人の身ながら卓越した武人ですらあります。追手を派遣するにしても相応の相手でなければ返り討ちは必定……。加えて、万一の場合にアフリマンの暴走を抑え得るのは、伯爵(カウント)が持つ刻鎧神威の中でも最強を誇るスーリヤ神ぐらいなものでしょうから……」


「武力や刻鎧神威の力なら、ラダマンティスやアヴニール卿も負けてはいないが?」


 アイアコスがどこか卑屈めいた声音で問うと、リュカは鼻で嗤って主をなだめた。


「お言葉ですが、貴方の力も彼らに決して見劣りするものでは既にありませんよ。第一、アズトール家の次男は現在、クシャルタへ遠征中。クリフォトの公子殿は帝都で陛下の護衛に当たっております。結果、たった今、こうしてリグ=ヴェーダを見事に打ち負かした我が主(マイ・ロード)に、白羽の矢が立ったというわけです」


 その言葉に、アイアコスは憮然としながらも、頭を早々に切り換えてうなずいた。


「……承知した。無論のこと謹んで拝命するとも。元よりこの身は、我らが女帝陛下のための剣。それに叛くというならば斬る」


 その声音には、一切の躊躇も逡巡もない剣のごとく鋭い覚悟があった。


「はあ、素直に()()()じゃなく、()()って言ったらどうです? ここには俺たちしかいない」


「ゲホっ!?」


 リュカの言葉に、アイアコスは兜の下で吹きだし咽ながらジト目を向ける。


「……リュカ兄さん、からかわないでくれ。陛下のことをそのように考えたことなど一度もない。恐れ多いにもほどがある」


「今は兄さんはやめろ愚弟。というかこれくらいで動揺するようではまだまだだな」


「………」


 一瞬、口調を砕けさせて意地悪い笑みを浮かべる家令(あに)に、伯爵(おとうと)は兜の奥から歯軋りを響かせる他なかった。


「と、とにかく! カルドゥーレの足取りを我らも洗うぞ。追跡しようにも、行き先の見当がつかなければ話しにならん。さっそく奴の本邸に――」

 

 と、そこから先の言葉は続かなかった。


 何故なら、ちょうどその時、感じてしまったからだ。


 神々しくも禍々(まがまが)しくおぞましい巨大な波動を。


「ッ―――!?」


 大きすぎる波動に当てられ、アイアコスは目元をおさえてうずくまる。


 兜の下の双眸には、十字架(クルス)の刻印が――神座王(アマデウス)の証が浮かび上がって発光し続けていた。


()()……!?」


()()様っ!?」


 リュカとレイヴンは主の急変に思わず、その真名を口にして駆け寄る。それをアイアコスは手で制して、おもむろに立ちあがった。


「……私は、()()()()()だ。それよりもわかったぞ、カルドゥーレの――アフリマンの行方が」


「なっ!? 本当ですか!」


「それで何処に?」


「……今、極東(きょくとう)の地で、遥かに巨大な何かが目覚めるのを感じた」


「極東……といいますと、倭蜃国(わしんこく)ですか?」


「さっそく、永らく振りに悪食の餌になった奴でもいたか?」


 リュカがどこか面白がるように問うと、アイアコスは顎に手を当てながら言う。


「あるいは。もしくは――」


「まさか、何者かが既に悪神と契約をしたと?」


 レイヴンは息を呑みながら推察を口にする。それにアイアコスは東の方角へ身体を向けながら断言した。


「何れにせよ――行かねばなるまい。遥か極東のサムライの国、倭蜃国へ。女帝陛下の敵を誅すことこそが、その剣たる私の務め故にだ」

 

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[良い点] 序章を読んだ瞬間に「これは専門用語が多くて難解なタイプかな……?」と思ったのですが杞憂でした。 とにかくキャラクターが魅力的でした!!樰永と朧の兄妹はもちろんなのですが、堅物だけど「大きな…
[良い点] おぉーっ、主人公のライバル登場ということでワクワクで読みました! アイアコスさんがライバルなんですね(*'ω'*) リュカさんとの会話で女帝陛下について話すあたり、アイアコスさんの性格がち…
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