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第肆章 神座王集う 七 狡狐たちの饗宴

 数刻後――豊楽院(ぶらくいん)

 


 饗宴に用いられる施設。新嘗祭(にいなめさい)大嘗祭(だいじょうさい)の宴を始め外国人使節の歓待のためにも使われる。


 そして今現在は後者だ。

 

 アイアコスたちは施設専用の席に座り、その反対側の席では……。


「さて皆の者。本日は、西界(せいかい)からのお客人をお招きしておじゃる。皆、粗相なきように歓待いたそうぞ」


 是叡(これあき)がにこやかに盃を手に取ると、公家たちがいっせいに倣って盃を掲げた。


 卓には各々に膳が置かれ、焼き(たこ)、蒸し(あわび)といった魚介類や脂がのった(すずき)(たい)(こい)の刺身、(きじ)の干し肉、柑子(こうじ)梨子(なし)干棗(ほしなつめ)などの果実が並んで花のように彩られている。


 是叡は上機嫌な笑顔でアイアコスたちを歓待する。


「いかがかな? 西界のお客人。我が国を挙げての宴、楽しんでいただけたかのう?」


「過分な歓待感謝に堪えません」


「それは何より。それはそうと、今宵は麿の可愛い姫も顔を出す故、どうぞよしなにのう」


「恐れ入ります」


 アイアコスは型通りの挨拶をする一方で、眼前に並べられた豪勢な馳走に半ば冷ややかな視線を注いだ。


 ――よくもまあ、官営の市がああも痩せ細っている現状で、これだけの高級食材を揃えられるものだ。おそらくは、商品を安く買い叩いた挙句に占有しているといったところか? 内戦状態にあるとは聞いていたが、絵に描いたような内憂外患だな。


 師が兜の下で大いに顔をしかめている横で、ユリアが大きな目をキラキラと輝かせ耳と尻尾をせわしなく動かしてはしゃいでいた。


「お師匠さま! お師匠さま! すごく大きくて豪華です! お食事もすごく美味しいし! セフィロトの王宮にも負けてませ……あうっ!!」


 たちまち青筋を額に立てたリュカが、拳骨を振るって黙らせる。


「静かにしろ。従者として伯爵(カウント)の品位を落とすような振る舞いをするな」


「しかし、大内裏を訪れた時から思っていましたが、まさか極東の国にこれほど見事な建造物があるとは……」


 カラコムがを感嘆の視線を、朱色に染められた柱や梁に沁みひとつない白壁に注いだ。彼の出身地であるホドではまずお目にかかれないものだ。


「しかし、この歓待はどういうつもりなのでしょう? あの男に私たちを疎んじこそすれ、歓迎する理由などまるでないはずですが……」


 シャリネは懐疑的な視線を、にこやかに音頭を取っている是叡に注いでる。


 ――確かにな。あれは俗に"狸"と呼ばれる人種だ。なにか明確な利がなくば、ここまでの歓待などすまい。


 アイアコスもまた心中で疑念と警戒を(くす)ぶらせ思案している。

 


 父の名代として末席で出席している尊昶(たかあきら)もまた困惑していた。


 是叡は自分が知るかぎりにおいても、保守的な思考を持つ公家の代表格だ。余所者をとかく嫌い抜いているはず。それがこのような宴を催して招くとは。


「まったく、どういう風の吹き回しなのか。はじめからロクな用件ではあるまいと覚悟しておりましたが、いよいよもってきな臭くなってきましたな若……」


 隣で控えていた、浮浪者を装い路地で尊昶を迎えにきた爺――大柄な老武士も渋い面持ちで苦い息を吐く。


 彼は、尊昶の守役にして殯束家の家老である。名を日向(ひゅうが)柾秀(まさひで)といい、今回の上京にも若殿の随身として共をしている。


「うむ。てっきり我らに丸投げなさった後は、体よく諸共に都から放り出すものと思っていたのだがな……」


 ――何かまた良からぬことをお考えでなければよいのだが……。


 と、心中で祈ったが、それが聞き届けられることはなかった。

 



「さて、アイアコス殿。貴殿らが我が国に参られた目的は、盗み出された国宝の奪還とその不届き者の捕縛でおじゃったな」


 是叡の言葉に、アイアコスは怪訝に思いながらも「然り」とうなずくも次に出た言葉に瞠目(どうもく)することになる。


「それに関して耳寄りな情報が、今しがた手に入ったところでおじゃるぞ」


「――まことですか?」


「左様。これは確かな筋からの情報でおじゃる。そのカルドゥーレとか申す商人が向かったのは、鷹叢(たかむら)の猿どもが陣取っておる北應州(おうしゅう)秋羅国(しゅらのくに)とのことでおじゃる」


 口角を裂けるほどに大きく上げて喜色満面の笑みを作る摂権(せっけん)に、アイアコスも、尊昶も、この古狸の魂胆がようやくわかった。


 ――西界人(せいかいびと)の兵力で北應州の鷹叢を叩こうというのか!? なんと浅慮な!


 尊昶は憤りを湛えた双眸で是叡を睨む。


 ――異国の兵を借りて戦をするなど愚行以外の何物でもない。後でどのような対価を支払うことになるのか、まるで考えておられぬのか!

 

 一方、アイアコスもまた兜の下で苦りきった顔を作っていた。


 ――事前の調査としてレイヴンに調べさせ、この男は北應州で産出される莫大な黄金に執着しているとは聞いていたが、ここまで形振りを構わないとはな……。


 確かに、鷹叢氏が例の刻鎧神威(グレイル)を保有しているというなら自分たちとしても捨て置けない。


 しかし、かと言って戦をしに来たわけではないし。そのための備えも用意してはいない。


 ましてや、こちらが連れて来た手勢はせいぜいが数百騎に過ぎない。そもそも大切な兵の命を、このような奸物のダシに使い潰されるなど御免被るというのが、アイアコスの正直な感想だった。


 しかし――


「かと言って……その鷹叢とやらが素直に引き渡すとも思えませんな」


 リュカが最大の懸念事項を口にする。


 ――そう。それこそが一番の問題だ。思えないどころか、十中八九あれほどの力を手放すことは、まずありえまい。


 そうなれば、どんなに不本意であろうとも戦をするしか取り戻す手段がなくなる!

 

 そんな両者の焦燥を知ってか知らずか、是叡はこれ見よがしの薄ら笑いを張り付けながらのたまい続ける。


「恥を明かすようで気が引けるのじゃが、我が国の應州という地は、古来からならず者どもがのさばっておる無法地帯でのう。かつての王に対してもロクに租税も納めず、今に至るまで政を私しておる天を恐れぬ痴れ者どもでおじゃる」


 その言葉に、尊昶は内心で呆れ返っていた。


 ――そもそも"蝦夷(えみし)"という謗りで差別し極端に搾取してきたのは、どこの何方々(どなたがた)だというのだ。


「その痴れ者どもの中でも鷹叢の猿どもは随一よぉ。元は、秋羅国の国司として正式に任官された兼城(かねしろ)家の家臣にお情けで拾われた俘囚(ふしゅう)上がりの陪臣(ばいしん)に過ぎぬ分際で成り上がり、今では北應州の覇者などと(うそぶ)いておる。笑わせる! 猫糞(ねこばば)した黄金と我らの認可しておらぬ交易で私服を肥やす卑しき守銭奴の分際で! 盗人猛々しいにもほどがあるでおじゃる! そして此度は、とうとうその卑しい本性を現したでおじゃる。よもや盗品を買い取り我が物顔で振舞うとは厚顔無恥もここに極まっておじゃる」


 流れるように根も葉もない罵りと悪評を吐く摂権に、兜の下から冷たい視線を突き刺しながらアイアコスは言った。


「つまるところ何がおっしゃりたいのですか?」


 その言葉に、我が意を得たりとばかり笑みを濃くした是叡は言い放った。


「なに。そのような蛮族故に、貴殿たちも遠慮は一切いらぬということでおじゃる。貴殿たちは盗み出された国宝を何としても取り戻したい。そして、我らは何としても鷹叢の猿どもを大掃除したい。利害は一致しておじゃろう? なに貴殿らの案内に着けた尊昶殿たちもきっと助力してくれようぞ」


 しれっと尊昶にも出兵を命じる是叡。


 それに異を唱えたのは、尊昶でもアイアコスでもなくシャリネだった。


「待ってください。あなた方の情報は、あくまでもカルドゥーレが秋羅国に渡ったというものであって、その国主である鷹叢家がそれを手に入れたというものではありませんよね。ならば、我々が無用な戦をする理由などないと思いますが」


「そちらこそ異なことを……。"疑わしきは罰せよ"とゆう言葉が、古来からあるでおじゃろう。そのような甘い――」


「恐れながら私も反対です」


「ん?」


 遮るように異を唱えたのは、尊昶だった。


「……今は睦月(むつき)にございます。即ち應州の雪が最も厳しい時期。雪国での戦がどれほど消耗を強いられるとお考えか? 兵糧をはじめとした兵站の確保とて儘なりますまい。まして地の利もないとなればなおのこと。それに対し、当然のことながら鷹叢の者たちは雪の戦いを日常茶飯事と言いきれるほどに慣れておりましょう」


 理路整然と語る若殿に追随(ついずい)する形で、老臣も「至極当然」と深くうなずいて主の言葉を継ぐ。


「加えて、我らも今現在動かせる兵などござらぬ。何分宗叵(むなかた)への備えで手いっぱいにございますれば。第一、セフィロトの方々が連れて来た兵とてたかが知れてござろう。それに対し、北應州一帯を統べる鷹叢は最大でおよそ十七万騎の精鋭騎馬軍と七百艘の水軍を擁してござる。どう考えたとて戦になり申さぬ」


 ぎろりと公家たちを睨み据えて委縮させると、止めとばかりに憮然とした声で結論を告げる。


「このように、天の時も、地の利も、人の和も、すべてが欠けた有様でどうして戦ができましょうや。無策無謀で戦をはじめたとて、それは多くの兵の命を無為に打ち捨てるだけの結果としかなり申さん」


「そもそも私は父の名代に過ぎず、そのような確約を結ぶ権限などありません」


 きっぱりと断言する若武者と老臣を、摂権は明らかに不機嫌な光を瞳に湛えたが、それを表に出すことはなかった。


 ただ側近の前嗣(さきつぐ)が「無礼な!」と怒声を上げて捲し立てはじめた。


「摂権殿下の命は、王命の代命ぞ! それをかような屁理屈で拒むとは……! おまけに戦う前から及び腰とはのう。殯束家は武士の風上にも置けぬ怯懦(きょうだ)の雄でおじゃる!」


 しかしその侮りに、尊昶は憤激するどころか清々しい笑みすら浮かべて流麗な声で答える。


「是非もなく戦ともなれば、命を賭すは武士として当然の義務。されどそれ故に、その使いどころは慎重でなければならぬと思いませぬか。知恵も尽くさず、後の結果も省みず、ただ猪のごとく突き進み死に逸るは、武士(もののふ)の死に花に非ず。それこそが怯懦(きょうだ)故の無駄死にでございます。武士ならば死力を尽くし懸命に生きてこそ務めを果たせると存じます」


「ぐぬっ……!」


 前嗣は忌々し気に唸り返す言葉を思案したが、それに待ったをかけたのは他ならぬ主である是叡だった。


「まあ、落ち着くでおじゃる前嗣。尊昶殿の申すことにも一理おじゃろう」


 この言葉には、前嗣ら公家は愚か、尊昶や柾秀、アイアコスたちも意外だという顔になった。


 だが、次に出た言葉で全員が唖然とすることになる。


「そ・こ・で・じゃ。麿に妙案があるでおじゃる」


「は?」


 何を? と皆が問う前に、是叡は口角を大きく上げて、お歯黒を剥き出しにしてのたまう。


「兵ならば南應州を統べる芦藏(あしくら)に借り受ければよい。かつて全應州を統べておじゃった貴奴らなら鷹叢の土地にも明るかろう」


「っ!」


 ――まさか、そう来られるとは……!


 思ってもいない切り口に尊昶は絶句するも、すぐに気を取り直して反論を口にする。


「しかし、芦藏とて今は前当主である頼嵩(よりたか)殿が逝去され、喪に服している最中であるはずですが?」


「芦藏には、麿が命を出そう。頼嵩の喪は即刻取り止め出兵せよとな」


 しれっとのたまう是叡に場は騒然となった。

 


「おいおい、そこまでして阿呆を通すのか? 凄いものだな倭妖とは……」


 リュカはセフィロト語で呆れ半分嘲り半分で吐き捨てる。


「リュカ様! けれど、このまま本当に戦になってしまうのでしょうか……」


 レイヴンの懸念に、シャリネは憤然として声で言う。


「まさか、あのような男の口車に乗った戦など御免被ります! そうですよね、兄さん」


「シャリネ……私もまったくの同意見だが、真実鷹叢一族がアフリマンを保有しているというなら、ことはどうあっても穏便にはすむまい」


 アイアコスは兜の下で眉間をしかめる。


 ――しかし、どうにも強引が過ぎる。これは本当に摂権自身の考えか?

 

 一方、清聡(きよさと)もまた是叡のやりように義憤を禁じ得ず、拳を爪が食い込むというほどに握り締め、憤激と嘆きを堪えていた。


 ――是叡殿…っ! 貴方とゆう方は、どうあっても應州で潰し合いをさせる所存であらしゃいまするか!? こないなやり方では乱世はさらに深まり、国力を損なうだけやと何故おわかりになられぬのや!!


 しかし同時に、彼もまたアイアコス同様腑に落ちぬものを感じていた。


 ――せやけど、妙や。確かに元から強引なお人やったが、今回はいつになく性急にことを進められようとしてはるように思える。いったい何を急いておられるのか?

 


「これならば、そちの父御……光昶殿も否とはゆうまい。使う兵は芦藏のものなのだからのう。それに何よりそちと嵩斎殿、それにアイアコス殿や近習のシャリネ殿という強大な神座王らがともに戦うならば、地の利なの些かの瑕瑾にもなるまい。勝利間違い無しよ」


 哄笑を上げて勝手をのたまう摂権に対し、尊昶はなおも食い下がった。


「戦とは左様に簡単なものではございませぬ。もし殿下のおっしゃられるように例の刻鎧神威が鷹叢の手に渡っているとしたならば、彼らの戦力とて未知数……何れにせよ苦戦は避けられませぬ! それよりもまずは、事の真偽を鷹叢に問い質すことこそが正しい順序のはず」


 しかし、それを側近の前嗣が一喝して黙らせる。


「黙りゃ! 殿下が直々に策を授けてくだされたとゆうに、なおも臆病風に吹かれるか!? ましてや、殿下に物事の序列を説くなど僭越千万なるぞ!!」


「……爺!」


 その言葉に何かを言おうとした柾秀を、尊昶は首を横に振ってたしなめる。


「何れにせよ、私の一存で決められることではありませぬ。一度、国に戻り父上に事の次第を話さぬことには……」


「あからさまな時間稼ぎよのう。そうやってのらりくらりと先延ばしをすれば、有耶無耶にできるとでも思っておるのでおじゃろう!」


 前嗣がせせら笑いながら却下しようとするも、是叡は敢えて逆に余裕のある声でたしなめた。


「まあ待つでおじゃる。尊昶殿にも名代としての弁えねばならぬ立場がおじゃろう。光昶殿には麿が直々に文を出しておこうぞ。弾正大弼(だんじょうだいひつ)の官位付きでのう」


「っ!」


 官位を授けるということは正式な勅命に他ならない。理由もなく断れば、朝敵の謗りは免れないだろう。


 そのことを理解した尊昶は内心で呻いた。


 ――駄目だ。これ以上どう言い繕っても戦は避けられぬ!


「ホホホホホホホホッ! まことにめでたきことよのう! これで、西界のお客人の目的もつつがなく果たせる上、我らも国に仇名す蛮族どもを駆逐できようほどに! いやあ、まことにめでたい!!」


 その葛藤と焦燥を見透かしたような哄笑が饗宴に響き渡り、誰ひとりとしてそれを止める術を持たなかった。

 

 





 ――冗談ではありません!!


 外で気配を断ち聞き耳を立てていた(おぼろ)は、そう叫ぶのを懸命に内で耐えていた。


 ――まさか、ここまで事態が突き進むなんて……! このままでは芦藏嵩斎が鎮守府(ちんじゅふ)将軍となる前に、秋羅国……いえ北應州が戦場――いいえ、火の海となってしまう! 早く兄様に知らせなければ!!


 朧は意を決して兄の元へ赴くべく、音もなく駆け出そうとする――が、まさにその瞬間、悪寒を感じ取り後方へと飛び退く。


「っ!」


 ――何者!?


 朧はキッと睨み据えて隠していた小刀を抜く。


「まあまあ、そう警戒なさらないでください、姫君(プリンセス)。私です」


「カルドゥーレ殿っ!?」


 今まさに、故郷が危機に瀕している元凶たる男の姿を視認した朧は、一瞬呆気に取られるも次には半ば怒りを込めた瞳をカルドゥーレに注いで詰問する。


「カルドゥーレ殿、これはどういうことなのです?」


「どういうことも何も貴女が先刻お聞きした通りですよ」


 それに対し商人の答えは、涼やかでいけしゃあしゃあとしたものだった。


「聞いた通りって……! わかっているのですか!? 今、私たちはあなたのために滅亡の危機に瀕しているのですよ!」


 朧は努めて声を抑えながらも強く咎めた。


 しかし、カルドゥーレは何ら動ずることはなく逆に優雅な笑みを浮かべたままオウム返しに問い返した。


「では、私の首とアフリマンを彼らに渡して釈明なさいますか?」


「っ! そ、それは……」


 あっさりと己の死命を引き合いに出して逆に是非を問われ、朧は思わず絶句する。


 ――そんなの――!


 朧の懸念を肯定するがごとく商人は推論をつらつらと述べる。


「厚顔無恥を承知で申し上げますが、望み薄でしょう。アイアコス卿らはそれで手も引きましょうが、是叡公(ロード・コレアキ)や芦藏はまず引っ込みますまい。彼らの真の目的が、北應州とそこから産出される莫大な金である以上はね。彼らにしてみれば、私もアフリマンも切っ掛け作りに過ぎません」


「―――ッ! 本当に厚顔無恥ですこと」


 朧は憤懣(ふんまん)やるかたない想いを嘆息として押し殺した後、毅然とした面持ちと態度でカルドゥーレに言った。


「今更あなたの首を刎ねて引き渡したとて、どうにもならない事態だということは理解しました。ですが、その責任上あなたにもこの事態を打破するため相応に働いてもらいます。まさか、否とは言いませんよね」


 微笑すら浮かべて有無を言わさぬ圧で要請(めいれい)する姫に、商人はいかにも畏まった立ち振る舞いでうなずいた。


御意、姫君イエス・ユア・ハイネス。もちろんですとも。私としてもこの期に及んで尻尾を巻いて逃げるくらいならば、今ここにこうして死地へと赴いてはおりませんよ」


「よろしい。とにかく今はなおのこと兄様と合流し、この事態を知らせます」


 決然とした立ち振る舞いで身を翻し歩を進める姫の後ろ姿に、カルドゥーレは感嘆の息を吐き笑みを広げた。


 ――万民を統べるべき女王の背中……というべきですか。いやはや血は争えませんね。若殿(ユア・ハイネス)と同じく彼女の頭上にも王冠が確と見える。つくづく愉しませてくれますね、この国は……。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 政治の力で無理やり戦をさせる……モヤモヤざわざわが止まらない(;´・ω・) 尊昶は健闘してくれたけど、戦は避けられそうにないですね……。
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