第弐章 大蜘蛛の巣中 間章 二 傷の回顧
「ひっくっ……! ぅうぅぅぅ……!」
謁見室を後にした後、レイヴンは自室にこもって、しゃくり上げていた。そんな彼女を背中を擦って上げながらシャリネが介抱している。
「……レイヴン、大丈夫ですか?」
「っ! だ、大丈夫ですっ。わ、私が悪いんです……! 私が、あの方のお気持ちも考えずに……っ」
「でも、それをいったら兄さんこそひどすぎます。陰になり日向になって尽くしているあなたにあんな……!」
と、怒りをにじませた声で弾劾するシャリネにレイヴンは激しく首を横に振った。
「あの方は、ご自分の本当の名前を呼ばれる度に過去の惨めさが思い出されて仕方ないのだと思います。無理もありません。あの頃、あの方は一族の誰もにソッポを向かれていたばかりか、母君にも妹君たちにすら見放されていたのです……っ!」
そう――レイヴンは幼い時分から、主が努力を積み上げる中での中傷と侮蔑をも見てきた。自分は、自分だけはその気持ちを理解していなければならなかったのに――!
「それを思えば"カイ"という名など、あの方にとってみれば昔の傷口を抉るものでしか……っ!」
そう断じようとするのを、シャリネが大きな声で遮る。
「そんなことありません!!」
「シャリネさん?」
レイヴンはびっくりして雫が止まった双眸で隣の少女を見る。
「その辛く惨めな過去があるからこその今ではありませんか!! そも騎士ならば、武人ならば、真の己と向き合ってこそ真の強さを得られるのです! 少なくとも私は、アンナ師匠からそう教わりました……」
シャリネは強い声音で訴え最後は少し悲し気につぶやいた。
「カイ兄さんだって、そのアンナ師匠――実の叔母上から薫陶を受けてきたはずなのに。何故あのような愚にもつかない願いを……」
「……カイ様だって最初からあんなふうじゃなかったんです。ご幼少の頃から母上様や姉上様たちのような騎士になりたいと真っ直ぐに努力を積まれて来ました。でも、その憧憬はいつしか……」
そう言ってまたもしゃくり上げるレイヴンの背中を、シャリネは擦って上げることしかできなかった。
謁見室に独り残されたアイアコスは、兜の下半分を外して、金紫に輝く彫りが深い鱗のような彫刻が施された脚付杯で葡萄の果実水を乱暴な仕草で呷っていた。
喉に爽やかな甘みが染み入るように流れこんでくる。だが、その反面心中は荒み乱れていた。
――どうかしている。自意識過剰にもほどがある。
アイアコスは、とてつもない自己嫌悪に苛まれていた。
レイヴンは幼少の頃からの幼馴染だ。自然とかつての名を呼んでしまったとしても、どうしてそれを咎められるだろう。
ましてや、彼女は一族郎党から軽蔑され軽視されていた頃から誠心誠意自分に仕えてくれた数少ないひとりだというのに……。
――なのに、あんなふうに八つ当たるなんて最低だ……!
だが、アイアコスにとって"カイ"という名は忌避されるべきものだった。竜に例えるなら逆鱗と言ってもよい。
アイアコスは、今でこそセフィロトでも随一の精鋭騎士として名を馳せているが、そこに至るまでの道のりはとても順風満帆とは言い難いものだった。
アイアコス・フォン・アグリッパ――否。カイ・セルヴァスが生まれた『セルヴァス家』は、セフィロトでも指折りの名門騎士一族だ。
殊にカイの祖父に当たるシャルル・セルヴァスは『剣聖』とも称えられる天才騎士で、セフィロトの始祖ウリエル王を支えたセフィロト創建の四傑――俗にいうウリエル四天王に数えられる大英雄だ。
そして、その娘にして現当主たる母も父に引けを取らぬ剣才と魔力の持ち主で『聖騎士』の称号を与えられた女傑であり、騎士学院では筆頭教授にも名を連ねている。
さらには、長姉のゲルダや長兄ジークフリードに次兄のリュカ、二人の妹であるセレネとアリスも一族の才に愛された麒麟児たち。
長姉のゲルダに至っては、七つの齢で初陣を果たし、敵将を屠っているという母に負けず劣らずの神童ぶりだ。
おまけに母も姉や兄、妹たちも容姿端麗ときてる。父も含めてだ。
それにひきかえ、自分はというと…………。
我ながら思わず自嘲まじりに苦笑する。
それにひきかえ、カイ・セルヴァスという愚図はどうしようもない一族の欠陥品だった。
魔力無し、剣才無し、体力無し、ついで容姿も平々凡々といういいところ無しな一族の落第生だ。
唯一の取柄として頭の出来は一応悪くはなく勉学だけは苦労しなかったが、それがこの一族の中でどんな価値があるだろう。あるはずもない。
事実、一族郎党の誰も彼も子供に至るまで"お勉強だけができるバカ"と公然と指差されきた。
それ故に、母からも姉からも無難に官吏を目指せと口を酸っぱくして言われたものだ。
だが、僕がなりたいのはそれではなかった。僕の夢ではなかった。
そうだ。僕は騎士になりたかった。
英雄になりたかった。
騎士道物語に出てくるような、祖父のような、母や姉、兄たちのような偉大な騎士こそが僕のなりたい夢だった。
しかし、現実は酷薄で非情だった。
どれだけ走っても、すぐに息切れする身体。いくら腕立てをしてみても、まるで身につかない筋肉。同年代に比べて低い身長(それもセレネよりも低い)。
剣や槍、弓といった武技のセンスにも恵まれず、何より、それらの地力を底上げする魔力がそもそもないという最悪最低のディスアドバンテージ……。
はっきり言って、これが天才と謡われた母の息子なのか?
神童の名を欲しいままにしてきた姉や兄の弟なのか?
騎士学院のエリート候補生である妹たちの兄なのか?
こんな無様な奴が?
それが一族郎党を含めた世間が僕に向けるおおむねの視線だった。
なにしろ僕だってそう思うんだから間違いない。
それでも僕は諦めきれず努力を続けた。
時には、体力を無視して三里を走り抜いたり、時には重りを着込んで腕立てや腹筋、木剣の素振りもしたりした。
時には、背を伸ばすために牛や山羊のミルクをがぶ飲みしたりも……。
だが、何れも結果に繋がることなどなかった。
それどころか母達も一族もそんな僕の行為は無意味な奇行としてしか見られず、見咎められるたびに「無意味だからやめろ」と口を揃えて言われた。
また一族の子供たちは、それでも諦めきれない僕が気に障ったのか、ことある毎に因縁を吹っかけて甚振ってきた。中には僕よりも二つも三つも下の子もいたが、それでも魔力を有しているので逆らえる道理もない。
ほとんどの大人たちも止めるどころか、ほぼ見て見ぬ振りだったし、時には間接的に加担することすらあり、中には公然と――
『本当に、こんなのがジャンヌ様の息子でゲルダ様やジークフリード様の弟なのかぁ? 魔力もなけりゃ剣才もロクな体力すらない。ついでに顔もなんか地味だし。華ってやつがないよ』
などと僕の前で口走る者もいた。
無理もない。母は雪のような白銀の髪に深い翡翠の瞳に白皙の面立ちをした麗人で、姉も蒼玉の瞳を除けば、ほぼ母に瓜二つの端麗さだ。
父も兄も流れるような宵闇を溶かしたような黒髪の美丈夫で、リュカ兄さんは言わずもなが、二人の妹たちも見目麗しく愛らしい……。
それにひきかえ、僕はというとだ。
ともすれば、老人の白髪と見まごうくすんだ灰銀の髪に、安っぽいガラス玉のような薄い緑の瞳、際立って特徴もない顔立ちと、どこをとっても家族の何れにも似ても似つかない。
実際、僕が何度母の息子で姉や兄たちの弟、妹たちの兄と言っても誰もなかなか信じてはくれなった。
冗談は顔だけにしろとばかりに。
繰り返しになるけれど、無理もない。僕の目から見たって、こんな欠陥品が、あんな神々に愛された芸術品と同列視されるわけがない。
実際、セレネからも「お願いだから外で話しかけてこないで! チビでダサいあんたみたいなのが、お兄ちゃんとか恥ずかしいし! せめて、わたしよりも背が高くなってジーク兄さんみたいな姿と才能に生まれ変わってから出直してよ!」と蔑視される始末……。
無論。当時はそんな無茶なと途方に暮れたものだ……。
だが、事実なだけに返す言葉がひとつもなかった。
そんな中でリュカ兄さんや従姉のリオナ姉さん、敬愛する祖父シャルル、叔父のオリヴィエ、叔母のアンナだけは僕の味方になってくれた。
上記の陰口にしても『あんな卑劣な囀りなど気にすることはない』と励ましてもくれた。
稽古もつけてくれたが、祖父シャルルは僕が五歳の頃に病没し、叔父上は戦の中で消息を絶った。
リュカ兄さんや叔母上にしても騎士としての責務が忙しくなり、僕ごときにかまけている余裕などなかった。
リオナ姉さんに至っては、王室付きの騎士なのだからなおさらだった。
母からも、三人には僕と違って大事な仕事があるのだから、これ以上の我が儘は慎めと告げられ、自然と疎遠になっていった。
さらに、僕は僕でこともあろうに、当時王女であった陛下のお命を危うくする不祥事をやらかしてしまい、母や一族からしこたま叱責され「いつまでも夢ばかりを追ってないで現実を見ろ」と官吏を養成する学院への入学が強制的に決まり、これで僕の騎士への夢は閉ざされた。
そう絶望していた折、セルヴァスが治める領地に何処かの軍が夜襲を仕掛けてきた。
そのどさくさで僕を含めた何人かの魔力を持たぬ子供たちがかどわかされたのだ。
そうして連れて来られたのは、魔導の研究がより進み、かつ魔力のない者を極端に差別する小国『クレオン共和国』だった。
そこで僕たちは地獄のような実験の被検体となり、来る日も来る日も子供たちの屍が山のように、あるいは塔のように積み上げられた。
特に連中が執心していたのは、古代の最強種族『竜族』と人間の融合体などという愚にも付かぬものだった。
ある手段で確保した竜の魂魄を人間に憑依させることで、その比類なき力を手にしようという試みだ。
だが、竜と人ではその肉体は言わずもなが、魂の在り方すら著しく異なる。
前提からしてそもそも無理無謀な試みであることは、誰の眼から見ても明白だった。
それも被検体は、僕たちのような魔力を持たない通常の人間にかぎられた。
それというのも魔力の素養を持つ者では、融合の際に竜の魔力と自身の魔力が体内で衝突し、暴れ狂い対消滅してしまうからだった。
だが、当然ながらその前提条件の上でも、成功確率は天文学的数字であることに変わりはない。
大抵は憑依された竜の魂に肉体は愚か、魂ごと喰われて完全消滅する。
事実最初は百人ほどいた子供も三日を過ぎる頃には半分を切った。
そうした血みどろな殺戮を生き延び、奇跡的にも竜と息を合わせ、魂レベルの融合を果たした竜人と化すことに成功した者は、僕を含めて十二人しかいなかった。
その結果として僕らは、竜の鱗、角、翼、尾という異形の肉体と化した代償に、竜の強靭な肉体と膂力に莫大な魔力、龍図と呼ばれる竜の身体エネルギーを獲得した。
そう。僕は非人道な実験の末に、皮肉かつ図らずも欲しくて堪らなかった魔力を手に入れたのだ。
しかし成功した当初、僕たちのほとんどはまともな理性など保ってはおらず、獣のように唸り暴れ回るばかりだった。
そして、そんな僕たちは竜族専用のルーンの鎖に繋がれて、さらなる実験と兵器への転用に使われることが決まっていた。
だが、実験房に努めていた研究者のひとりが裏切り、セフィロトに情報を流したことでそれは終わった。
実験房にはセフィロトの軍勢が押し寄せ、研究者たちは散り散りに逃げ去った。これで僕たちの地獄は終わったと言えたが、事はそう簡単には収まらなかった。
なにせ、上記の通り僕たちは猛る竜そのものだった。保護をしようにも手がつけられない有様だったのだ。
それを制圧したのが、現在の我が主――ミカエラ・クラウディア・フォン・セフィロト。太陽の神焔を統べる絶対君主。
その苛烈な暴威に、僕はただただ圧倒されざるを得なかった。
僕のような継ぎ接ぎの不良品などとは比べ物にもならない、生まれながらの誉れ高き宝玉……!
そんな本物を前に偽物が慄いていると、あの御方は冷笑のまま問われた。
『貴様、そんな様になっても生きたいか? だが、その道は死に勝る茨道だぞ』
わかってる。どうあれこんな怪物となった僕が、今まで通りの生活になんて戻れるわけがないことくらい。
『酷を言うようだが、あるいは、ここで介錯してやった方が楽かも知れん。世間に怪物と後ろ指を指されるのは身が狭かろう』
わかってる。元より居場所なんてない僕だけれど、それでもずっと朽ちずにいまだに灯っている夢がまだ残っている……!
そう思ったら僕はみっともなく泣きわめきながら叫んでいた。
『ぼ、僕は……! 僕は……!! 僕は、騎士になりたかったんだぁっ!!』
そしたら――蹴り飛ばされた。
転げ回りながら痛みに耐える僕に、あの方は居丈高に言い放った。
『だったら、なればいいだろうが。 泣いてる暇があるくらいなら励め!』
ほとんどの人が言ってくれなかった、最も言って欲しかった言葉を、この女は平然とくれた。かつて僕の軽率な行動で御身が危うくなったにも拘わらず……!
多分この方にしてみれば、竜の力に対する興味本位な気まぐれの類なのだろう。それを軍事に利用できるなら儲けものという程度の……。
それでも僕は嬉しかった。
この時に、僕は――私はこの方の騎士になることを決めた。
その日から僕は、唯一駆けつけてくれたリュカ兄さんの元で、改めて厳しい文武の訓練に励む日々を送った。
それはとても厳しいが、今までの人生で最も充実した日々だった。棚ボタで手に入れた竜の肉体と魔力を使いこなすため死に物狂いで鍛錬に励んだ結果、僕の武技はリュカ兄さんすら打ち倒すほどのものとなり、兵法や用兵に軍略なども今まで以上に学んだ。
アイアコスという名を陛下から授かったのもこの頃だ。周囲からの侮りを緩和するためにいただいた。"カイ"という、どこにでもあるような平凡な名ではとても騎士にはそぐわぬから当然と言えた。
その甲斐もあって不良品の落第生だった僕はいくつもの功績を挙げ、今ではセフィロト随一の騎士という名声を得て、伯爵位と第八都市『ホド』という大領を拝領するまでに至った。
出来損ないの三男坊には身に余る大出世だ。因みに、これを機にリュカ兄さんは僕の家令となって公の場ではあのような敬語を使うようになった。
正直むず痒いにもほどがあったが、親族だからこそ立場と序列は守らねばならないと押し切られた。
とにもかくにも、僕は幼い頃の夢に手を届かせたのだと言える。
だからこそ――家族に負けない実力と功績を得た僕が次に望むものは、家族に負けない容姿だった。
母や姉のような白銀の髪。
父や兄のような端麗な顔。
母や妹たちのような深い翡翠の瞳。
普通に考えて、それはどうあっても叶わない夢だと一蹴されるものだが、今の僕なら不可能な夢ではなかった。
僕は、上記の実験の結果として己の肉体構造をも改変する魔力や竜の力ともまた異なった、どちらかというと東界の仙法――もっといえば、念動力に近い力を目覚めさせた。
言うなれば、それは意思の具現ともいうべき力で対象を動かしたり拘束したり、あるいは破壊することができる力だった。
しかも、その力はそれのみにとどまらず、己の肉体を改変するという副次的な能力も発現させた。
現にそれによって僕は剣技や体技に向かない自分の肉体を、鍛錬の試行錯誤の末に向くように造り変えたのだ。
元来あるべき肉体の形を無理矢理に変える。それは想像を絶する苦痛をともなったが、弱い自分のままでいる苦痛に比べれば、どうということもなかった。
故に、顔の皮一枚や骨格に髪や瞳の色素を変えるぐらい、今更造作もないことだった。
それさえ獲得できれば、僕もようやくセレネすら認める家族の一員に――
けれど、その願いを告げた途端、あの方は――
「あの……お師匠さま」
白銀の狼耳と尻尾をしな垂れさせながら愛弟子が、遠慮がちに謁見室に足を踏み入れ声をかけてきた。
「なんだ?」
アイアコスはハッとなって、感情の見えない兜の下から愛弟子を億劫そうに見る。
「その、あの、レイヴンさんは決してお師匠さまを侮辱したわけじゃ――」
「わかっている。悪いのは私だ……」
愛弟子の言葉を継ぐように、アイアコスは自嘲すら含めた声で嘆息する。
「い、いえ! そんなことを言いたいわけじゃなくて、ですね……」
「もういいから、おまえも休め。倭蜃国に着けば、休む暇すらないかも知れん」
半ば突き放すようにいう師に対し、愛弟子は愛らしい唇を真一文字に結んで首を横に振った。
「嫌です」
きっぱりと断言する弟子に、アイアコスは嘆息を吐いた後、ポツリと口を開く。
「レイヴンに悪気がないことなんてわかっている。私が――僕が子供なだけだ……。だけど、もうあの頃には絶対戻りたくはない。あんな無力感に支配され抑圧されていた日々には……」
「お師匠さま……」
どこか追い詰められた声に、ユリアは怯えと憂いがまじった声を出す。
「レイヴンの言いたいこともわかってはいる。けれど、僕は僕の願いを譲る気はない。他人から見たらどれだけ馬鹿馬鹿しかろうが、それはまぎれもなく僕が命を懸けるに能う大望だ」
そうだ。そうでなければこれまで何のために――!
「さあ、もう休みなさい。倭蜃国に着けば、おまえの力が必要な場面も出てくるだろう。その段になって倒れられても困る」
「は、はい。でもお師匠さま! わたしは、そのままのお師匠さまが大好きです! それはレイヴンさんも、そして女王さまも同じだと思います!」
「っ!?」
ユリアはそう言って頭をぺこりと下げると、そのまま退出した。
ひとり取り残されたアイアコスは、グラスの宝石のごとき光沢を放つ魚子紋を凝視しながら、これまでで大きな嘆息をついたのだった。
――それでも僕は、家族にふさわしい存在になりたい。それはそんなに責められることなのか?
その瞬間、その願いを告げた途端、今にも泣きそうな顔で自分を見つめてきた主君が脳裏に飛びこみ、竜の騎士はそれを首を激しく振って振り払う。
――迷うな。誰が何と言っても、くだらないと言われても、僕にとっては一生の夢だ……! 今度こそ家族に見合う自分になる! もう爪弾き者になんて絶対ならない! そうでなければ、僕はなんのために生まれてきたのかすらわからないじゃないかっ!!
もう一度迷いを振り切るように、グラスを一気に呷った。中身の果実水は疾うにぬるくなっており、結果しつこい甘味だけが喉を通り抜けて、この上なく不快だった。