ミーナ無双(2)(第三者視点)
予想通りと言っては何だが、ミーナも圧勝して見せた。
「隊長、ハルド、ちょっと話があるにゃ。」
既にミーナが戻ってきた段階で自発的に正座している二人に対して、改めてミーナが笑顔で説教を始める。
「なんなんにゃ?あのどっちを応援しているかわからない叫びは?状況わかっているかにゃ?」
「いや、わかってはいるのですが、兄であるオルドも戦闘したので、自分の出番が得られる可能性に少しでもかけたと言いますか・・・」
「そ、そうだぞ。いえ、そうですよミーナさん。私も隊長として少しでもミーナの訓練になるように相手に発破をかけただけであって、決してミーナさんを応援していなかったわけではありません。」
なんとも情けないやり取りをしている。
しかし、その話を聞いていると最後の鍛練ではミーナと他の近衛達の実力は拮抗していたらしい。その力を試したくてあのようなことをしてしまっただのなんだの言訳をしている。
だが、今までの総合戦績では圧倒的にミーナが勝利を収めているので、何とも言えない立場になっている二コラ隊長とハルドだ。
一方の魔神は、かなり驚愕はしたものの、自らの戦闘欲求が激しく喜びを訴えているのがわかった。
以前神と戦った時でさえ互角の戦いであったが、今回は正直はるかに格上だ。つまり、命の危険が大いにある状況での戦闘になるので、本能から戦闘を求めている魔神としては願ってもいない状況になっている。
ミーナと対戦させた<融合>と補助魔法まで加えて強化した魔神との一方的な戦いを見て、自らも極限の戦いに身を置きたいという思いが溢れ出てきて止められなくなったのだ。
こうなると、最早神への復讐などどうでもよくなって来ている。
「そこの猫獣人。なかなかの強さだ。それでいて未だ本気を出していないとは恐れ入る。だが我は腐っても魔神、神の一柱である。散っていった部下とそこに捕えられている部下の為にも、貴様に一騎打ちを申し込む。」
もともと一対一の戦いであったのだが、あえて戦闘相手にミーナを指定してきた魔神。
その要望を聞いた二コラとハルドは、説教が終わるという喜びを感じたが、同時に自らが活躍する場が無くなったことを認識し、絶望に打ちひしがれている。
その時、今だ瘴気の除去や神の探索が終了していなかった唯一の地である<ジロム大陸>の対応を行っていた【諜報部隊】のウェイン隊長が<転移>してジンに神の開放まで終了した旨報告している。
当然魔神も神の力で状況は把握しており、既に魔神軍は自分だけになってしまった事も理解している。
それでも、目前に迫った戦闘に心を震わせているのだ。
指名されたミーナは、ジンに確認を行う。
「あんなことを言っているにゃ。私が再戦でいいのかにゃ?」
「俺は良いと思うけど・・・」
ジンは、二コラとハルドを見ると、彼らはしょんぼりとしている。
どちらを選んでも残された方が不満を感じるのならば、指定されたミーナが出た方が良いのか?
そう考えたジンは、ミーナに戦闘の許可を出す。
ジンに報告をしていた【諜報部隊】と【幻獣部隊】の隊長であるウェインは、魔神を一瞥すると何やら術を発動しジンに追加の報告を入れる。
「ジン様、把握されているかと思いますが、多大な犠牲による会得したであろう<神殺し>については、剥奪させて頂いています。既に任務も終了しておりますので、私もこのまま観戦してもよろしいでしょうか?」
ジンを始め、この場にいるメンバーで魔神が持っている<神殺し>について把握できていない者はいなかったが、魔神が戦闘に出ていない状態だったので誰も<剥奪>を行わなかったのだ。
近衛は<剥奪>の能力を得ていない為、警戒するのみではあったが・・・
「もちろん問題ないよ。お疲れさま。ゆっくり観戦して。」
ジンから許可を得たウェインは、マーニカの近くに行き共に結界を張る準備を始めた。この辺りは、既に<念話>で状況をマーニカから聞いて把握していたのだろう。
そして、この結界の処置は、ミーナが本気になった場合の大陸の保護対策になる。
そうこうしていると魔神が中央に来た。
「我が武人としての全てを懸けてお前を倒す。」
既に相対しているミーナに対して高らかに宣言する。
既にミーナは武具を二段階目まで開放している。
一段目の開放では、かなり危険である事を肌で感じているのだ。
だがそこまでだ。
現時点での最終形態である第三段階解放を行わずに勝てるという感覚がミーナにはある。
第二段階解放時は、ガントレットとソルレットから魔力があふれ出し、ミーナの体を覆っている。
物理的にも魔法的にも防御力が上昇する上に当然身体能力も跳ね上がる。
対する魔神も、主たる攻撃は拳闘タイプの様で武器は一切持っていない。
「行くぞ!!」
魔神は掛け声と共にミーナに連撃を放つ。
ある拳は灼熱の炎を纏った拳、ある拳は真空の刃を纏った拳、脚撃も同様だがミーナは全て軽くいなしている。
そして、若干大振りになった拳を避けて近接すると、鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。
第二段階の開放まで行ったミーナの拳は、魔法の付与を行わずともあまりの拳速によって無条件で衝撃波と摩擦による炎が発生する。
拳による衝撃、衝撃波と炎の追撃を全て受けた魔神はマーニカ、ウェイン両隊長が張った結界に激突する。
口から血を流しながら立ち上がると、自然治癒能力では時間がかかると踏んだのか自らも治癒系統の魔術を行使してダメージを無くした。
「流石は我が見込んだ対戦相手。全力で行かねば手も足も出んか。」
そう言って魔神は自らの胸に手の平を当てて呪文を唱えると、手のひらを当てていた箇所・・・おそらく魔神の命の源である核があるであろう場所から瘴気があふれ出した。
そう、この核が神の力でも破壊できずに封印するしかなかった魔神の生命の源なのだ。
更に自らに付与魔法を極限まで実施した魔神は、
「改めて、参る。」
何やら武人としての意識が完全に芽生えた魔神は、格上と認めたミーナに挑むべく突進した。
突進と言うよりも最早瞬間移動だ。
移動時にも瘴気により辺りを破壊しながら移動している。
次の瞬間、こちら側の結界にミーナが激突した。
この場にいる近衛達は、起こったことを認識できずに唖然としている。
今この時点ではほぼ互角の力になってはいるが、【近衛部隊】最強のミーナが一撃を受けて吹っ飛んだのだ。
ミーナは、障壁に激突はしたものの、落下時に体制を立て直して無事着地している。
「流石にゃ、この状態では勝てなくもないと思うけど大変だにゃ。あんまり無様な戦いをするとロイドに何を言われるかわからないからにゃ。こっちも本気で行くにゃ。」
聞いたこともないミーナの旦那であるロイドの名前が出て、今一つ理解ができない魔神ではあるが、本気になってもらえたのはよく理解している。
自らは限界までの力を出しており、相手も本気を出してくれるというのだ。
武人としての意識が目覚めた魔神として、これ以上の喜びはない。
「フフフフフ、正々堂々正面から受けてたとう。」
それを聞いて、ミーナは武具を第三段階まで開放した。
今まで黄金と黒になっていたガントレットとソルレットは、粒子のようになり視認し辛くなっているが、漏れ出た魔力がミーナを覆っているのは変わらない。
しかし、他の近衛達の第三段階解放と同様に、粒子のおかげかミーナ自体も黄金に輝いているように見える。
「じゃあ行くにゃ。一撃で消し飛ぶにゃよ!!」
そのセリフと共に、ミーナは消えた。というよりも視認はできない速度で移動している。
決して<転移>を使っているわけではない。
移動のために一歩を踏み出したであろう場所は、あまりの脚力により大きなクレーターができている。
瞬時に近接すると、同じように鳩尾を狙い強烈な一撃を入れんと拳を振るう。
魔神も最大限まで力を使っているために、かろうじて防御態勢を取り両腕でその拳を受け止めようとするも、両腕をへし折られた上に結界までなすすべなく吹き飛ばされる。
落下中に回復と体制を立て直そうとするも、既に落下方向に移動済みのミーナによる追撃を受けて上空の結界に激突する。
たった二撃を受けただけだが、既に意識は朦朧としている。
二撃目は核がある位置に受けてしまい、衝撃と炎の影響で神でさえ傷すらつけられなかった核にヒビが入っているのだ。
こうなってしまうと、神の力も大幅に減少して自動再生能力も激減する。
力なく落下し地面に激突すると、既に虫の息だ。
ミーナは、最早魔神が戦えない事を理解しており、ジンにこの後をゆだねることにした。
「ジン様、この後どうするにゃ?止めを刺すかガジム隊長に引き渡すかにゃ?」
あまり長時間第三解放を維持できないのか、既に第一段階の開放状態に戻しているミーナ。
しかし、ジンが止めを刺すように命じればすかさず第三段階の開放状態になるだろう。
ジンは正直自分では答えを出せないでいた。
周りを見ると、同じように悩んでいる近衛やマーニカ、ウェイン、そして何故か微笑んでいる神獣達。
ついでに魔神がなすすべなくやられた事を目にして怯える魔獣達もいる。
「う~ん、正直俺もどうしていいかわからなくなってきた。魔神はなんだか武人としての意識に目覚めたようだけど・・・かなりの人達を犠牲にした事実もあるしな。一旦保留にして保護している神々の意見を聞くのはどうだろう?」
「わかったにゃ。」
そう言ってミーナは倒れている魔神の首を無造作に掴むと、そのまま地面を引きずるように連れてきた。
<念話>で全てが終わったことを<アルダ王国>の全幹部に伝えて、<神狼>の町の鍛錬場に<転移>した。
次話で最終話です。
今日の10時に投稿させていただく予定です。