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近衛の実力2

 魔獣達の攻撃は確かに<SS:聖級>だ。その中でも上位クラスだな。

 その内の一匹などは<精神干渉>系統のスキルを使っている。その上、攻撃の余波で地形が変動してきた。


 でも、そんな優しい攻撃では彼らにとっては丁度いいマッサージだ。


 「よし、決めた。生け捕りは辛うじて一番強いあいつ。そして私はあれとあれとあれだ。」

 「くっ、隊長に先を越されてしまった。では私はあれとあれとあれ。」

 「ふ~、ここはこのハルドが大人になりましょう。しょうがないから残り物で良いですよ。」


 爆風吹き荒れる中、呑気な声が聞こえてくる。

 当然魔獣達にも聞こえており、更に苛烈な攻撃がされるのだが、その中を三人がゆっくりそれぞれの目標に向かって歩き始める。


 ドロップの武具は展開しているが、初期状態のままだ。

 ラムの状態を見る限り、武具の性能を開放してしまうと、いくら制御しても確殺瞬滅コースなので、実戦の鍛錬にならないのだろうな。

 こうなると、魔獣達が哀れになってくる。


 魔獣達も自らの攻撃が全き効かない状態を把握しているからか、近衛達が近づく分無意識のうちに後退している。


 「隊長、これじゃあいつら逃げるかもしれないので、結界でも張りますか?」

 「ああ、オルド頼むよ。」


 近衛達は、距離が縮まらないこの状況を改善するために、自ら一気に距離を縮めるのではなく、逃げ道を防ぐ方法を選んだ。

 いつの間にかそんな術まで使えるようになっていたのか、改めて彼らの鍛錬を一度しっかり確認しようと心に誓った。


 魔獣達は結界が張られたのもわからないまま後退を続け、結界の壁に背中が当たった段階でようやく状況に気が付いたようだ。


 「こ、これは結界。いつの間に。貴様ら我らにこのような・・・」


 魔獣のくせに大汗を流しながら、一応この中で最強のやつが呟いている。

 そこに、この魔獣を捕獲する役目を負った、いや、手に入れた二コラ隊長が爽やかに告げる。


 「そこの魔獣、お前の相手は私になった。喜べ、そちらにいらっしゃるジン様の寛大な処置により、お前だけはこの場で滅される事はない。つまり私はお前を殺せない。なかなかのハンデだと思わないか?是非力の限り抗って見せてくれ。」

 「な、そうか、捕縛の場合はハンデ戦になるのか。クッソ、流石は隊長・・・美味しい条件を持っていかれた。」

 「うむ、だが我らももう既に同じ知識は得られたので、次は捕縛対象を獲物にする事を主張しよう。」

 「フフフ、オルド、ハルドよ、残念だったな。だが既に今回はこの私が捕縛の任を承ったのだ。この決定は覆らないぞ。ハハハハ。」


 未だに無意識に魔獣達を煽っているが、実は魔獣の攻撃は一切止んでいない。彼らは本当に必死に攻撃を仕掛けている状況なのだ。


 「き、貴様ら~、どこまでも我らをコケにするか。確かに貴様らは別格の強さだ。だが魔神様には遠く及ばない。我らがここで果てたとしても、魔神様の手にかかれば貴様らなど赤子の手を捻るような物だ。精々つかの間の勝利に酔うんだな。」


 最後に、負け惜しみのような脅しをかけてきた。

 この状況ではどうやっても近衛達には勝てない事を悟ったのだろう。

 だが、その脅しすら近衛は無意識に躱して見せた。

 今回の戦いは、精神戦か?と思う程だ。


 「隊長、聞いた?聞きました?今回は俺達かなり譲歩したので、あいつの言っていた魔神とやらは俺で良いですよね?」

 「バカ、ハルド、俺達と言え俺達と。何ちゃっかりお前だけ美味しい所持っていこうとしてるんだよ。」

 「いや、【近衛部隊】隊長としてあまり無責任なことは言えない。ここは改めて仕切りなおして魔神の対戦相手を決める必要がある、と私は思う。つまり、この場での事はノーカンだ!!」

 「何がノーカンだこのエセ隊長!」

 「そうだそうだ、ここは公平に多数決で行くべきだ。」

 「何が公平だ。お前達は絶対グルだろ。」

 

 【近衛部隊】が精神的に崩壊してしまった気がする。

 本当の彼らのキャラはこんな残念キャラなのだろうか?

 強大な力を得てしまった者達の内、傲慢になったり他者を見下す者が一定数いると言われているので、それに比べればましだが・・・


 「フフフ、ご主人様、二コラ隊長始めとした近衛の方々は、実戦で力を試せる機会に浮かれているだけですよ。」


 モモがフォローしてくれるが、何だか微妙だ。

 そんな中、魔獣達は決死の覚悟でくだらない話をしている近衛達に向かって行った。

 近衛の三人はと言うと、今だギャーギャーやっているが、その状態のまま、つまり魔獣に目もくれていない状態で通常状態の武具を、一度振るった。

 すると、魔獣達は一匹を残してバラバラになってしまったのだ。


 これを見ていた一番後方にいた魔獣は、一瞬で戦意を刈り取られて膝をつき動かなくなってしまったのだ。


 「ちょ、隊長、オルド、もう少し手加減しないと!何の訓練にもならないじゃないか?」

 「お前も一緒だろハルド!手加減する事も訓練だろ!」

 「いやいや、私は担当であるあの生け捕りの魔獣、ホレ、そこに蹲っている魔獣の足にかなり手加減した攻撃を当てている。つまり手加減がきちんとできているという事だ。」

 「いや、手加減はしたはずなのだが・・・まさかこんなに脆いとは・・・」


 そうか!このキャラ、ノレンド副隊長とランドル副隊長の元の姿に似ているんだ。彼らが真面目になった分、近衛達がおかしくなったのか?


 そんなこんなで、<コビア大陸>の奪還と捉えられてしまっている人々の救出はあっけなく終了した。

 しかし、奪還したは良いが、このままだと再度魔神軍が攻めてくる可能性がある。瘴気の除去も割と面倒なので、誰かを駐留させる必要があるかもしれない。

 

 今回の戦闘だけでは判断できないが、もし彼らの戦闘能力がこの程度であれば、<アルダ王国>が誇る副隊長クラス以上が一人でもいれば安全に防衛できると判断した。

 帰ってから、状況を全員に報告して今後の方針を立てれば良いな。


 そして、この地に封印されてしまっている神についても、この魔獣が何か知っていればいいのだが・・・

 この魔獣に関しては、<アルダ王国>王都に連れて行くわけにはいかないので、<神狼>の町にある鍛錬場の一角を隔離して、そこに連行した。

 隔離したのは、間違って北野や北野を目標としている鍛錬中の隊員の訓練を邪魔しないようにする為だ。


 一旦<念話>で軽く状況を幹部全員に説明し、【技術開発部隊】のガジム隊長に<神狼>の町に来てもらった。


 「ジン様、お待たせしました。二コラ隊長、実戦はどうでしたか?そこの魔獣・・・<SS:聖級>ですな。だが、まだまだ鍛錬が足りんようだ。こいつは北野をクリアした隊員の次の目標とするのですか?」

 「ありがとうございます、ガジム隊長。正直何の鍛錬にもならない、得る事のなかった実践でした。この魔獣は今のところ情報を得る為に捕えているので、その後についてはジン様の判断待ちになっています。ですが、ガジム隊長の案、良い案ですね。ジン様、この件について前向きに検討いただけますでしょうか?」


 二コラ隊長を始めとした近衛達は、すっかり落ち着いたようだ。

 

 「あ、あぁ、わかった。検討しておくよ。」


 あまりの変わりっぷりに、少し驚いて、どもってしまった。

 そうそう、肝心な事をガジム隊長に聞かないといけないな。


 「ガジム隊長、こいつを北野と隔離した状態でこの鍛錬場の一角に投獄しておきたいんだけど、安全にできるかな?それと万が一の自害も防ぎたい。」

 「お任せくださいジン様。この程度のレベルの魔獣であれば何の問題もありませんな。」


 いやいや、一応<SS:聖級>なんですけどね?自分でもそう言っていたでしょガジム隊長。

 

 「我ら【技術開発部隊】も、各種素材を集める際に戦闘は必要になりますから、暇を見つけては鍛錬しているのですが、こいつであれば隊員達の良い的になってくれそうですな。ハハハ。」


 この<アルダ王国>の副隊長以上のクラスは、レベルの概念がおかしくなっている事に、俺はこの時初めて気が付いたのだ。

 あまりに<魔界森>の塔五階層でゆっくりしすぎていたらしい。



 

 


 

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