活動開始
状況を幹部に報告したが、幹部が勢ぞろいしている所でタイナルと話をするのは彼女の負担が大きいと考え、俺、神獣達とタイナルだけで話をすることにした。
流石にこの状況では、神獣達も俺の膝の上に座ったりはしない。
少しホッとしつつも情報を得るために話を進める。
「いきなりだけど、なんで魔獣が攻めてきているのかを教えてくれないか?」
「ジン様は、この七大陸にそれぞれ神がいる事はご存じですよね?」
当然俺達は頷く。
「我々の国家は、<コビア大陸>にある一国家でした。その王族は魔族の中でも強大な力を持つ鬼族なのですが、今の王は前王を力で排除したのです。普通はそんなことは決してさせないのですが、あの王は強すぎます。あらゆる力を奪って自らの物にしてしまうのです。」
そうか、既に俺達も<能力剥奪>を持っているので、どれ程危険かは理解できる。
「その状況をとがめた大陸の守り神であるお方に対しても、あの愚王は能力を奪って封印してしまったのです。それから我らの国家は最早別物になってしまいました。神の力を得た愚王は魔神として大陸を侵略し、更には他の大陸にも侵略し始めてしまう始末です。それを止めるように進言はしたのですが、危うく私の能力まで奪われそうになったため、避難した上でできる事・・・と言っても彼らにしてみたらコバエが飛んでいる程度にしか思われていないでしょが、せめてもの抵抗をしていたのです。」
彼女の話には嘘偽りはない。申し訳ないが万が一を考えて俺達全員<神の権能>を使用して真偽は確認させてもらっている。
「そして、大多数の者達は現在拉致されている状況です。これは詳しい状況は分かりませんが、より力のある者達を得るために必要だとの事なのですが、申し訳ありません、詳細はこれ以上は分からないのです。」
俺達は思わず顔を見合わせてしまった。ドルロイがしたように、強制召喚を実施するつもりなのは明らかだ。
「その拉致されてしまった人達の場所は?」
「各大陸で行われているらしいので<コビア大陸>の事しかわかりませんが、ある程度であれば把握しています。今愚王は<ジロム大陸>に一部の側近と共にいるはずですので、<コビア大陸>にある我が祖国の王都に幽閉されているのでしょう。」
それならば話は早い。
「タイナル、良く聞いてくれ。このままだと拉致された人達の命はない。俺達の知っている情報だと、彼らの命を犠牲にして力のある者達を強制的に召喚する術があるんだ。親玉が他の大陸にいるのならまだ術は実施していないのかもしれない。一刻を争うので、すぐに救出に行くぞ。」
「ま、待ってください。ジン様達の強さは何となく理解できますが、愚王・・いえ、魔神の側近も有り得ないほど強いのです。各大陸には必ず側近がいるので、そう簡単に奪還できるとは思えません。万が一その側近たちが魔神と同じような能力を持っていたとしたら、敵の力を上乗せしてしまうことになるので慎重に行くべきではないでしょうか?いえ、決してジン様達の力を疑っているわけではないのですが。」
これは説得するのは大変か?
しかし、いつあの術を使われてしまうかわからない。
俺達が救い出した子供達も、親や兄弟の無事を心から祈っているんだ。
「状況は理解した。だが、全てを理解した上で<アルダ王国>として行く必要がある。<アルダ王国>は幸せを追求する国だ。理不尽な扱いを受けるとわかっている者達を見捨てることはできない。」
「ジン様・・」
タイナルは涙を浮かべて頷いてしまった。
彼女も今すぐにでも助けに行きたいのだろう。
「ありがとうございます。実は幽閉されている者達の中に、私の部下が多数いるんです。そのおかげで辛うじてわずかな情報を得ることができているのですが。正直に申し上げて救出は諦めていました。部下達もそんな状況をわかっているのか、私に労いの言葉をかけてくれるんですよ。そんな部下を救えない隊長なんて・・・」
前回の<シータ王国>との戦いの際、ある意味一人で戦っていたモモは思う所があるのか、タイナルの前に行き優しく微笑み、
「タイナルさん、いえ、タイナル隊長、あなたの隊員、国民に対する思い確かに伝わりました。そんな状況でもあなたの事を思いやってくれる隊員達、そしてそんな隊員を纏めているタイナル隊長、とても素敵だと思います。そんな人達を見殺しにしてしまうなどしていい事ではありません。この件はご主人様に任せておけばきっと助け出してくださいますよ。」
タイナルは、流れる涙を抑えることができないまま俺に向かって深く頭を下げた。
「ジン様、どうか我ら同胞をお救い下さい。」
「ああ、任せておけ。確認だがその魔神とやらは<ジロム大陸>にいるのは間違いないか?」
「100%とは言えませんが、かなり高い確率でいると思います。」
とすると、一部【近衛部隊】まで駆り出した方が早いか?
<アルダ王国>の守備が若干手薄になるが、ロイド兄さんもいるし各隊の隊員も有り得ないレベルでこの国を防衛している。
父さんに相談する必要はあるが、今既に<コビア大陸>に行っているウェイン隊長、マーニカ隊長、そして各隊の一部隊員達、更に【近衛部隊】を投入すれば問題ないだろう。
安全のために、神獣達の一部も<アルダ王国>に残ってもらった方が盤石か?
「私はついて行きますよ。」
まだ何も言っていないのにモモが反応する。
あの一件から、モモは一時たりとも俺の傍から離れたがらないのだ。
他の神獣達も同じ事を言うに決まっているので、俺からお願いする。
「トーカ、シロ、悪いけど<アルダ王国>を少しの間頼みたい。」
「むぅ、ジンからの頼みだと断れない。」
「わかりました。モモ、ソラ、ジンをお願いしますよ。」
二人共俺のお願いを聞いてくれる。
「ゴメンね。帰ったら一緒にゆっくりしような。」
「「約束だよ(ですよ)」」
早速俺は幹部が待つ円卓に行き、ウェイン隊長、マーニカ隊長、モモ、ソラ、俺、そして【近衛部隊】で救出作戦を一気に実施したい旨お願いした。
父さんたちは全く問題なく、むしろ近衛達が王族の護衛を外れる事を渋るかと思っていたのだが・・・
こんな会話であっさり了承された。
「ジンよ、我らとしては正直この<アルダ王国>、特に王城にいる限り万全、いや過剰な防衛であると思っている。そのため、近衛は実践から遠のいている。感を磨くためにもその方が良いと思う。
「ジン様、我ら【近衛部隊】今回の救出作戦に参加させて頂きます。」
あっさりだった。
確かに父さんの言う通り、彼らには実践が圧倒的に不足している。
前回の戦い、今回の騒動、全て蚊帳の外だ。
鍛錬は相変わらず尋常ではないレベルで行っているらしいが、実践とは緊張感が異なるし、不測の事態に対する勘所は経験を積んでいくしかない。
まあ、この王国の副隊長、隊員含めて異常なレベルになっているので安心している面も大きいのだろう。
「では、時間との勝負になるので救出してきます。」
現在進行している作戦も一部メンバーを再考した。
<ブロス大陸>
【諜報部隊】グリフ副隊長、一般隊員【遊撃部隊】リゲルガ副隊長
<カムリ大陸>
【攻撃部隊】ホープ副隊長、一般隊員【管理部隊】キャンデル副隊長
<コビア大陸>担当
【諜報部隊】ウェイン隊長【攻撃部隊】マーニカ隊長【近衛部隊】二コラ、オルド、ハルド、ラム、そしてモモ、ソラ、俺
<ドツマ大陸>
【管理部隊】セリア隊長
<リハク大陸>
【治安維持部隊】レイラ隊長
<ジロム大陸>は、魔神がいる可能性が高いので今回は作戦から外した。
<アルダ王国>については、【技術開発部隊】と【防衛部隊】がいるから問題ない。
近衛のミーナについては、新しい命がいるので今回は除外している。
そして、タイナルは俺達について来る。どうしても自らも隊員、そして自らの国の国王である魔神によって分断された人達を救出したいとの事だ。