救出
改めて、ユフロより報告があった。
その報告によると、救出した者達の家族は魔神の軍に拉致されてしまったそうだ。
なので、淡い希望かもしれないが生存の可能性はある。
彼らの今後はどうなるかわからないので、ジュリの説明があった通り<コビア大陸>の奪還をしつつ魔神軍の離反した者との接触、可能であれば情報を入手し、現在拮抗している<ブロス大陸><カムリ大陸>にも一部の戦力を持っていき、優勢にする方法とした方が良いだろう。
最終的には、戦力を<コビア大陸><ブロス大陸><カムリ大陸>に分散して、奪還、迎撃を行うと言う方針が示された。
<ブロス大陸>と<カムリ大陸>の担当だった各副隊長に感触を聞いてみたところ、現時点で感知されている最大戦力<S:帝級>以上の脅威は出てくる可能性は低そうだという見解に変わりはなかった。
つまり、問題なく制圧までできそうとの事だ。
その為、彼らには継続して各大陸を担当してもらうと共に、現地で彼らが必要だと決断した場合には、<アルダ王国>を担当している幻獣や各部隊の隊員も出動することとなる。
<コビア大陸>については、俺も実際行っているので雰囲気はつかめている。
この大陸にいると想定されている魔神軍の上位に位置していた魔獣と接触すること、そして並行して拉致された者達の救出を行う。最も重要な任務がある大陸だ。そうすると、【諜報部隊】と【遊撃部隊】の隊長であるウェインとマーニカに行ってもらうことにして、それぞれの隊に所属する各隊員は<ブロス大陸>と<カリム大陸>に行ってもらおう。
<ブロス大陸>と<カムリ大陸>の二大陸については、戦闘が続いている状態なので、被害者が多く出ないうちに各隊を出撃させた。
俺と神獣達は、<アルダ王国>の防衛と言う意味で今回は出撃していない。
<神の権能>で連絡が問題なく取れるように、マーニカには瘴気対策を、ウェインには離反したとされる魔獣の接触をお願いした。
その他の隊員は、周辺の操作と必要に応じた討伐だ。
すると、あっという間に瘴気の除去が終わったのかマーニカから連絡が来る。
『ジン様、瘴気の除去完了いたしました。<神の権能>についても問題なく使用できる状況であることも確認済みです。正直何の苦労もなくできてしまったので、拍子抜けではあるのですが・・・』
『苦労するよりはいいだろ?それじゃあ、各隊員のフォローに入ってくれるか?念のため一度そっちに行くよ。』
『承知しました。』
神獣達と顔を見合わせる。
「不安要素も感じないので、一度行って見ておこうか?皆である程度地域を分けて探索した方が、対象を見つけるのも早いだろうしね。」
全員が頷いた時、
『ジン様、王都の跡地からかなり離れた所におりますが、どうやら対象らしき者を発見しました。魔獣の軍団に囲まれて劣勢です。見た感じでは、虎獣人に似ているようですが・・・かなりの身体能力を発揮していますが、徐々に傷を負っています。このままですと、敗北するのは時間の問題でしょう。救助のために辺りにいる魔獣を排除してもよろしいでしょうか?』
やはりウェインの仕事は早い。
『問題ない。遠慮なくやってくれ。但し、その対象はなるべく傷つけないように。救助後は傷を癒してやってくれ。』
『承知いたしました。』
「モモ、シロ、ソラ、トーカ、聞いての通り対象が見つかったみたいなので、早速行って見ようか。本当は対象を探すのを手伝うつもりだったんだけど、ウェインの仕事の速さは相変わらずだ。」
「フフフ、ウェイン隊長も張り切っていますね?ご主人様。」
そう、再度召喚して<神の権能>を使えるようになってからの幻獣部隊は、今まで以上に俺の為に働いてくれている。基礎能力が上がっているので当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが・・・
何れにしてもありがたい。
早速<コビア大陸>に<転移>し、マーニカと合流した。
マーニカは<神の権能>を使って隊員の状況を把握し続けており、遠隔でサポートを行っている。
すると、かなり遠方でとてつもない火柱が立ち上がり、その直後爆風がこの場を襲った。
俺達には一切影響はないけれど、周りの木々は軽くへし折れて吹っ飛んでいる。
一応この<コビア大陸>に来ている隊員も優秀な部隊であるため、影響はない・・・よね?マーニカ?
多分大丈夫だ。うん。
あの攻撃は、ウェインの攻撃であるのがわかっているので、誰も焦っている様子はない。
少々張り切りすぎな感じはするが・・・
『ジン様、ご足労頂きましてありがとうございます。虎獣人のような、いえ、もう虎獣人とさせてください。彼女の救出と回復完了いたしました。少々張り切りすぎたため、魔獣が跡形もなくなってしまいました。一匹位は生け捕りにしようとしたのですが、若干遠方にいた者達も攻撃の余波で消え失せてしまいました。張り切ってしまったとは言え、かなり力は抑えたのですが・・・鍛錬場とは勝手が違うようです。』
彼らは暇さえあれば【技術開発部隊】特製の鍛錬場でその身を鍛え続けている。時々模擬戦を実施するのだが、その相手は同じレベルの幻獣部隊、時々他の部隊も相手にすることはあるようだが、ここにいる魔獣達に使っていい力加減がわからないのだ。
それ程ここの魔獣達とウェイン達には隔絶した力の差がある。
強くなりすぎた弊害だが、前回の<シータ王国>との戦闘のように、命の危険がないだけ良い。ある意味贅沢な悩みだ。
『虎獣人は、ジン様にお目通りを希望しております。今からそちらに<転移>しても宜しいでしょうか?』
『もちろん良いよ。』
瞬間、ウェインと確かに虎獣人のような女性が目の前に現れた。
さりげなくマーニカが俺と虎獣人の間に入り込んで若干警戒している。
もちろん神獣達も俺に引っ付くのをやめて若干警戒態勢を取っている。
但し彼女を威圧しないように、全員力は外部に漏れないようにしているのだが・・・
しかし、【諜報部隊】隊員の一部については、俺が到着した瞬間から気配を消さずに俺の周りを護衛するような形で警戒態勢を取っているので、彼女にしたら完全に敵地ど真ん中にいるような感じになってしまっているかもしれない。
ここの隊員達も少なくとも<A:上級>か<S:帝級>はある。
そんな中、虎獣人(のように見える)女性は語り始めた。
「<アルダ王国>のジン様でしょうか?初めてお目にかかります。前魔神軍斥候隊長のタイナルと申します。私が匿っていた人々を救助頂いたようでありがとうございます。」
すでにウェインが地下に隠れていた人々を救助したことは説明している。
しかし、彼女にしてみれば、祖国が侵略しようとしていた国家の国民、赤の他人のはずなのだが、その人々の為にお礼を言ってくるとはなかなか素晴らしい人材だ。
「いや、できる事をしただけなので。ところで、正直俺達は状況をあまり把握できていない。今のあなたの立ち位置を含めて説明してもらえないだろうか?」
すると、ウェインが、
「ではジン様、ここでは落ち着けないので一旦<神猫>にお戻りください。私とマーニカを中心に情報収集と更なる探索を進めて、都度ご報告いたします。」
正直ここにいても問題ないとは思うけど、隊員が俺の護衛についてしまっているので、ある意味無駄な人員の使い方をしている。
素直に従って、<神猫>で話を聞くとしよう。
「ありがとうウェイン。じゃあ、タイナルさん、これから<転移>するけど良いかな?」
「もちろんです。ご配慮ありがとうございます。」
そして落ち着いて彼女から話を聞くのだが、良くある権力におぼれた者達の話が語られるのだった。