会議前夜
いよいよ、明日が大陸代表会議の本番になる。
王都周辺も厳戒態勢となっており、<神龍>の町も同じく厳戒態勢が取られている。
各地方領主にも明日からの会議についてと、そのために厳戒態勢が取られている旨は連絡済みで、王都である<神猫>の町、と会議開催場所の<神龍>の町に関しては一時的に転移門を閉じている。
もちろん、事前に各町にいる国民は必要に応じて他の町に転移してもらっているから問題ない。
最終チェックを幹部で実施し、全てに異常がないことを確認した。
すると、ヤリス母さんが珍しく会議に対して注文を付けてきた。
「ジン、今回の会議は何やら大きな動きがあるような気がしてなりません。決して前回の<シータ王国>の時のように無理をしないでくださいね。そして、わざわざ来ていただける各国の代表には、十分なおもてなしをするんですよ。」
前回の俺の落ち込んだ姿を見せてしまっているので、心配になっているようだ。
「ありがとう、母さん。大丈夫。俺には強い味方もたくさんいるし、無理はしないよ。」
あれ?前半はいいが、後半!おもてなし・・・何も準備していないんではなかろうか?
「えっと、父さん、父さん、今母さんが言ってくれていた歓待なんだけど、お土産って何か用意してるの?ドルロイはドロップを準備していたような事が情報としてあがっていたけど・・・」
「ああ、【管理部隊】のキャンデル副隊長がドロップの指輪<物理耐性:」Lv1 UP>を10個程準備してくれているぞ。」
良かった。流石はキャンデル副隊長だ。頼りになる。
そういえば、キャンデル副隊長の所も<シータ王国>に攫われてしまっていた奥さんとの間に子供ができたようだ。
そう、今この<アルダ王国>は爆発的に人口が増えようとしている。
もちろん豊に、そして安全になっている各地方でも同じ現象が起きている。
良きかな、良きかな。
キャンデル副隊長は、これからは大黒柱になるのだから、無理はしないようにしてもらわないといけないな。
もうすでに今日は実施することが何もないので、いつもの通り<魔界森>の棟五階層に帰還した。
神獣と俺で明日について話を始める。
「今回の会議では、<フロイライ王国>はあの魔族の兄弟が来るだろう?そしてもう一方の<ワンダ王国>の方は何の情報もない。もし仮に、あの魔族が最高戦力であった場合、水晶さんがらみの神に関する話であれば相当にが重いんじゃないだろうか?」
「そうですね、ただやはり今回は各国にいるはずの神に関する話が出てくると思うんです。そもそも全大陸の代表が集まることができないというのは異常なのではないでしょうか?」
「モモの言う通りだと思うよ。そもそも魔族がいた<フロイライ王国>があの召喚関連の魔道具や方法を<シータ王国>に伝授したんでしょ?あの酷い条件があるから<フロイライ王国>で召喚をしていないだけで、本当は異常事態が発生しているので、すぐにでも召喚したいんじゃないかしら。」
モモとトーカは、同じ考えのようだ。
残りの二人、ソラとシロも同じような事を言っている。
「そうね、でももし<フロイライ王国>が異常事態にもかかわらず召喚を決して行っていないなら、好感が持てるけど。」
「ソラの言う通りですね。一人召喚するのに1,000人も犠牲にしなくてはならないなんて、よくドルロイは実施しましたね。」
だが、現状二カ国はこちらに来る余裕があるともいえる。
逆に残りの四カ国は非常に切羽詰まった状態になっているのかもしれない。
何やら大きな流れに巻き込まれそうな気がしないでもないが・・・
万が一にも巻き込まれる可能性があるならば、<神の権能>をもう少し使いこなせるようになっておく必要があるし、皆との連携もとれるようにしなくてはならない。
少し気が張ってきたので、就寝前に棟の外回りを散歩することにした。
この棟の四階層まではかなり巨大な空間になっており、神獣達が四階層を四分割してそれぞれの個室としている。のだが、常に俺のいる五階層に入り浸っている。そして、一階層から三階層までは、緊急事態の避難所になっているので、今の所変更する予定はない。
なので、軽く散策するには外しかないのだ。
<転移>で外に移動し、前の俺の近衛騎士であり、今はリノス義兄さんの近衛騎士になっているラムが育ててくれた畑や果樹を見て回る。
彼女はエルフであり、作物を育てる能力にたけていたので、おいしそうな食べ物が沢山なっている。
彼女も時々この棟に遊びに来てくれているが、その都度手入れもしてくれているんだ。ここまでくれば、自然に任せても問題ないそうだが、ラムとしてはやはり気になってしまうのだろう。
少し果物をつまみ食いして小腹を満たすと、改めて五階層に転移して就寝することにした。
彼女たちは自らの部屋があるにもかかわらず、当然のように俺の布団に潜り込んでくる。
そもそも俺達に就寝は必要ないのだが、神人になる前までの習慣からか、何となく夜は眠るようにしているんだ。
こんな事を、今の齋藤や北野に聞かせたら、発狂しそうだな。
<神の権能>を使用するようになって、契約魔獣である神獣達、そして幻獣達の<神の権能>の力も加わったので、<未来視>を使わずとも何となくこれから起こる危険度についてはわかるようになっている。
ある意味第六感だろうか?
それによれば、明日の会議は内容はわからないが、会議自体に危険は一切なさそうな感じである為、今日は安心して眠ることにしよう。
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翌日、さっそく俺たちは王都である<神猫>の町に<転移>し、アルダ王国の正門で来訪者である<フロイライ王国>と<ワンダ王国>の到着を待っている。
厳戒態勢が引かれているので、今この辺りにいるのはどこかの隊に所属している隊員と、俺達幹部だけになっている。
やがて、目の前に砂ぼこりのようなものが舞うと、訪問者が魔道具による<転移>を使用してやってきた。
予想通り、<フロイライ王国>の護衛の立ち位置には、あの魔族の兄弟がいる。
そして<ワンダ王国>については、王族っぽい人が一人で来ている状態だ。
つまり、<フロイライ王国>の王族一人、護衛二人、<ワンダ王国>王族一人の四人の来訪者となっている。
何だか急に雲行きが怪しくなってきた気がする。
緊急の会談っぽい感じがしたのだが、来たメンバー、いやこの場合は来られたメンバーがこんなに少数では、各国の状況は予想よりも酷い状況になっているのではないだろうか?
「ようこそお越しいただきました。私が<アルダ王国>初代国王であるダン・アルダと申します。何となくですがすぐにでも会議を始めたほうが良い感じがしますが、その方向でよろしいですかな?」
父さんも、来訪した方々の祖国の状態があまりいいものではないと感じ取ったのだろう。即会議を行うことを提案している。
「ダン王、ご配慮痛み入る。私は<フロイライ王国>第一王子のジョルナス。そしてご存じだとは思うがこの魔族の二人は私の護衛だ。さらにこちらは<ワンダ王国>第一王子のレークト王子になる。よろしくお願いする。」
「では、我ら幹部の紹介は会議場にて紹介させていただきましょう。ではここから転移門を使用して会場までご案内します。」
他大陸からの御一行様と共に俺たちは転移門を潜って<神龍>の町にある会議場に到着し、円卓の間で自己紹介から行った。
もちろん彼らが<アルダ王国>に入場した際には、敵意や害意の反応は一切なかった。
各人の紹介が終了し、いよいよ本題に入ることになった。
まずは、ドルロイが代表として参加していた会議の位置づけとドルロイについての報告。最後にこの世界についての話があるそうだ。
やはり最後の部分が今回<アルダ王国>に来た最も重要な用件だろう。