悠里の処遇
俺達は円卓で皆とたわいもない話をしている。
作戦と言う作戦はなくとも叩き潰せる事を確信したためだ。
程無くしてトーカから連絡が来た。
『ジン、悠里とかいう女と辺境伯の子供三人確保したよ。全員気絶しちゃってるけど・・・それにこの女の手、折れたままだけど今は治してあげる気にならないからこのままそっちに連れて行くね。能力はどうする?今剥奪しておく?』
『いや、能力使われても相殺できるでしょ?それならとりあえずそのまま連れてきて。』
トーカが俺の指示で悠里と辺境伯の子供三人を捕縛してくれたようだ。
そして、トーカは<神の権能>で四人を空中に保持したまま円卓の間に現れた。
「はい、ここに置いておくね。シロ、何かあったらジンをお願いね。」
そう言って、四人を床に転がすと再召喚された幻獣達の方に嬉しそうに走り寄っていく。
彼女も幻獣達の復活を心から喜んでいる。特に、ウェインを除く女性陣で何やら盛り上がっているようだ。
ウェインは・・・むさい男達に囲まれているが、こっちはこっちで楽しそうだからいいか。
俺と、そして俺の護衛の位置にいるシロは四人の前に椅子を移動して、彼らの目を覚まさせた。
一応本来の護衛はラムだが、彼女は幻獣部隊達と女子トークを繰り広げているので、あっちでそのまま楽しんでもらいたい。
と言うよりも、一回こちらに来そうになったのを<念話>で止めたのだ。
やがて悠里が気が付き、俺と周りの状況を確認すると下を向いてしまった。
それはそうだろう。彼女にしたら敵の最大戦力が集まっている中に一人で来てしまったのだから。
俺は悠里について時間をかけて話をしたいため、先ずはアレン、ブゴウ、ショリーについて処遇を決めよう。
「おい、お前ら性懲りもなく<アルダ王国>にちょっかい出してきたな。あれほど忠告してやったのにだ。もちろんそれなりの覚悟があるんだろうな。あの作戦で何人犠牲にしたんだ?その償いをしなくてはならないだろうな。」
三人がガタガタ震えている。
「だが、<アルダ王国>で償うとした場合その奴隷紋は邪魔だな。とりあえず無駄に暴れられても困るから解除しておくか。」
即奴隷紋を解除してやった。
辺境東伯の息子であるアレンが、あまりの出来事に理解が追い付いていないようで、思わず言葉にしてしまった言葉がこれだ。
「な、なんでこんなに簡単に解除することができるんだ?」
「感謝する必要はないぞ。お前たちがドルロイの命令でここで無駄に暴れる事を事前に防いだだけだ。これからきっちり償ってもらうからな。」
というと、ガジム隊長がやってきた。
「お前は、俺にゲ〇をかけやがったドワーフ!」
こいつは威勢が良いな。状況がすぐ見えなくなる短絡的なところも変わっていない。
他の二人はこいつの後ろをくっついているだけのやつらなので、下を向いたまま黙っている。
「おう、お前の言うドワーフのガジムだ。その腐った根性を叩き直してやろうか。ジン様、こいつらの処遇はどの様にお考えですか?」
「うん、父さんとも相談する必要はあるけれど、多数の犠牲を出しているから何もなしと言うわけにはいかない。そうすると・・・<アルダ王国>では奴隷は禁止しているが、犯罪奴隷は別だ。その辺りが妥当だと思うんだけど。」
「わかりました。こいつらには一度目の襲撃時に笑わせてもらった恩がありますからな。犯罪奴隷となったら、我ら【技術開発部隊】の管轄にさせて頂いても良いでしょうか?」
「父さんの了解が得られればそれでいいよ。奴隷紋の管理はその場合ガジム隊長にするけど良い?」
「もちろんでございます。ではダン王に聞いてきますのでこれにて失礼します。」
アレン、ブゴウ、ショリーは、急展開について行けずに少し呆けている。しかし、ガジム隊長の強さも身近に接してわかったのだろう。アレンなどは当初の勢いは全くなくなってしまっている。
そして、そんな三人をランドル副隊長、ノレンド副隊長が端の方に連れて行き、この場には悠里と俺、そしてシロのみとなった。
悠里はガジム隊長やランドル副隊長、ノレンド副隊長の強さも理解し、青ざめている。
もちろんここにいる俺、そしてソラもあのトーカと同等の力を持っていることを理解しているのだろう。
俺は<神の権能>を使用して、悠里の状態を確認した。
もしかしたら・・ユージも言っていたが、前世のマインドコントロールと、更に<心身操作>によってこのような行動を起こしてしまったのではないかと思ったからだ。
そして結果は、思った通り<心身操作>の影響下にあった。前世の状態については既にわかりようがなく、先ずは<心身操作>の解除を実施した。
「悠里、お前北野の<心身操作>の影響下にあったぞ。なので解除してやった。だがな、いくら操られていたとしても、全ての行いがそのせいではないだろう。お前もあの三人と同じく償いが必要だ。」
悠里は下を向いたまま何も反応しない。
本人もわかっているはずだ。いくら<心身操作>が強力な能力であったとしても、既に前世からの影響か、自らの意思もあって俺達に牙をむいたのだ。
「今後俺達は北野とドルロイを叩き潰す。あいつらに関しては最早償いと言うレベルでは済まないので、この世から消えてもらうつもりだ。だがその戦闘の際にお前の能力を再度使われて不測の事態が起こると対処が面倒だ。なので、その能力も剥奪する。」
悠里が驚いたようにこちらを見る。
「そ、そんな・・能力の剥奪なんてできるわけが・・」
言い終わる前に、俺は既に悠里から能力を剥奪した。ついでに指輪の呪いも解除しておく。
「悠里、もうお前は何の力もないただの人間だ。既に能力は剥奪した。これからはどこで過ごすのも自由にしてやる。これが俺に出来る最大の譲歩だ。この国の国民、そして大同盟を組んでいる近隣諸国はお前がしたことを全員が知っているので、かなり生活には困窮するだろうが、それがお前のしたことへの罰だ。別に大同盟以外の国に出てもいいぞ。その時は魔獣に対抗する術を持たないお前の末路は決まっているけどな。」
「ちょ、ちょっと・・」
悠里が何かを言い終わる前に、【管理部隊】の隊長セリアと、キャンデル副隊長を呼んで事情を話し、カード作成の上本人の希望の場所に放逐することにして貰った。しかし、北野と斎藤の処遇もある為、一旦地下の部屋・・・と言っても外から鍵のかかる部屋で鉄格子があり見張りがいるが・・・にいて貰う事にしている。
最後の情けで少々の金銭をカードに入れておいてやろう。
ギルドに対しても、本当に最後の情けで命の危険がない仕事を斡旋するように伝えておいてやる。
一応カードや<神の権能>を使用して、時々状態を確認することにしよう。
俺も甘いな。
そんな俺を見て、シロは微笑んで寄り添ってくれる。
あ~、早く神獣達皆が揃わないかな。
やがて、ガジム隊長が戻ってきた。
「ジン様、ダン王の許可が取れました。奴隷紋と【技術開発部隊】管理下に置く旨、よろしくお願いします。」
そして、ランデル副隊長、ノレンド副隊長が辺境伯の子供三人を引きずってきた。
俺は、新たに即奴隷紋をやつらに刻み、こう伝えた。
「これからがようやく贖罪の一歩だ。精々全力で頑張れよ。ひょっとしてガジム隊長が認めたら待遇が良くなるかもしれないからな。」
それだけ伝えると、幻獣達の歓談の輪に加わるべく俺はその場を後にした。
実際は、【技術開発部隊】はかなりの重労働が沢山ある。
研究して物を作り、試して、改善して・・・の繰り返した。その中で今はLvが高い隊員が揃っているためにあまり苦も無く実施しているが、あの三人のLvでは相当苦労するだろう。
更には父さんが何か指示を出すと、作業完成まで喜々として全員が不眠不休で一気に作業を行うのだ。あいつらの贖罪にはうってつけかもしれないな。
今は一応緊迫した状況のはずだが、相手の戦力減少、そして俺達の異常なほどの戦力上昇に伴い、楽しい時間を過ごすことができた。
モモが解放されたらもう一度、いや、何回でもこのように皆と楽しく過ごせる場を設けよう。
やがて父さんが入室し、
「各国に状況を伝えることができた。皆心から生還を祝ってくれていたぞ。この状況であれば最早避難は解除しても良いと判断したので、少ししたら顔見せも兼ねて、幻獣部隊は分担して<転移>を使って避難民を各国土に移送してくれ。但し、<神狼>の町だけは避難継続としておく。セリア隊長、キャンデル副隊長、そしてロメとジュリ、問題ないか?」
全員が頷いて了承している。俺も頷いて了承の意を示しておく。
これであいつらが魔獣と共に攻めてくるのを待つだけだ。
そうすればモモと再び会える。
こんなに戦いが待ち遠しいのは初めての事ではないだろうか。




