<アルダ王国>幹部の会議(3) ・・幻獣再び
ジン視点に戻ります。
俺が悠里の処遇に迷っていると、父さんはトーカが監視している状態であれば即排除する必要はないと言ってくれた。
俺もウジウジしているとは思うが、やっぱり以前の良くしてくれて仲の良かった時代もあったので、その恩を返すと言うわけではないけれど、排除はあまり気が進まなかったので少しホッとした。
そして、会議は進む中<未来視>を持つロメが驚くことを言い出した。
なんと、モモが俺の元に戻り、そして既にいなくなっている・・・俺の契約魔獣からも外れてしまっているウェイン達が再度ドルロイ達に立ち向かっているというのだ。
一瞬我を忘れてロメに詰め寄ってしまったが、父さんに宥められて少し落ち着いた。
と、その時にソラから連絡がきた。
『ジン!、ドルロイ、北野、佐藤は<シータ王国>の王城にモモと一緒に入っていったよ。中に入ると視認される可能性がなくもないから、このまま外で監視しておくね。』
『ああ、頼んだよ。』
あいつらモモを足代わりにしたのだろう、相当な速さで<シータ王国>にたどり着いている。
しかし王城に何の用だ?一応幹部に報告しておくか。
「いまドルロイ一味は<シータ王国>の王城について中に入ったようだよ。王城の外から引き続きソラに監視してもらっている。」
「そうか、王城の中にはアイテム等はもうないはずだがな・・・いや、我らに害をなさないアイテムならあるか・・」
その通りだ。直接<アルダ王国>に害を与えないアイテムであれば、あの宝物庫ではない他の場所にあっても俺達は気が付けない。
『ジン、佐藤と言うやつの気配が消えた。どうする?乗り込む?』
「皆、<強制隷属>を持つ者のみ気配が消えたそうだ。キャンデル副隊長、ジュリ、どうする?突入させるか?」
「いえ、まだ多数の魔獣を手なずけるための手段を得ていないはずです。少なくともやつらが多数の魔獣を制御する手法・手段を手に入れるか、地下迷宮へ向かうまでは手出しはしない方が良いでしょう。」
「私もそう思います。」
キャンデル副隊長とジュリは揃って監視継続を訴えてきた。
『ソラ、そのまま継続監視で頼む。決して手を出すな。』
『わかった。』
「ジン様、今この時がロメの<未来視>につながるかの分かれ道であると考えます。決して手を出さずに、逐一状況の報告をお願いします。」
キャンデル副隊長も、尊敬する隊長であるセリアにもう一度会えるかもしれないので、非常に慎重になっている。
『ジン、あいつら出てきたよ。やっぱり<強制隷属>だけいないみたい。相変わらずモモに乗って腹立つわ。今度は王都から離れた方向に移動している。このままついてくね。っと、<転移>された。ちょっと待ってね・・・よし、随分と離れたところに行ったのね。』
モモの<転移>を使って移動したらしい。<転移>は、力のある者であれば、魔力の揺らぎである程度移動先は分かる。
特にソラはこのあたりの見極めは非常に上手いので見失わずにすんだ。
『なんだか少し大きな地下迷宮があるみたい・・って、いきなりモモと一緒に入って行っちゃったよ。どうすればいい?』
「皆、あいつら地下迷宮に入ったぞ。これからどうすればいい、後を追うか?」
「いえ、万が一があるとまずいのでここは外で監視しておいた方が良いでしょう。」
キャンデル副隊長の指示をソラに飛ばしておく。
と突然水晶さんから<念話>が来た。
『ジン様、<神狼>の制御にかかりきりで状況把握もできずに申し訳ありません。ドルロイ達がモモ殿の力を利用して<神狼>に侵入できないようにする為にほぼ全ての力を使っており、連絡することも連絡を受けることも、そしてドルロイ達の行動も完全には把握することができませんでした。ただ、彼らが地下迷宮に入ってくれたことにより、<神狼>に即侵入される可能性はなくなったので、連絡できるようになりました。そうそう、自慢ではないですが、この4大地下迷宮は全ての地下迷宮の頂点ですから、私は他の地下迷宮の状況は大体把握できるんですよ。そのおかげで、彼らが地下迷宮に入った事を容易に知ることができたんです。残念ながら地下迷宮の制御まではできませんけれど・・・』
少しのんびりした感じではあるが、<神狼>の地下迷宮を守ってくれていたらしい。助かる。
『水晶さん、もう知っているかもしれないけど、モモはあいつらに操作され、そして幻獣部隊はレイラを除いて全滅しているんだ。俺の力不足だ。』
『もちろん知っています。そのために急遽<神狼>の地下迷宮を守るために力を振り分けたのですから。しかしジン様、なぜそんなに悲しんでいるのですか?』
は?何を言っているんだ?
『いくら水晶さんでも怒るぞ。俺の家族なんだから落ち込んで当たり前だろう!!』
『それは知っていますが、なんで再召喚しないんですか?モモ殿も指輪の力で隷属を外すこともできるはずですし・・・あれ?もしかして忘れてました??』
あれ?そういえばそうだった??かな???
とすると、もう一度会えるのか??
すごく嬉しい。嬉しいけど、なんて説明しよう。
嬉しくなったら、忘れていたことがとても恥ずかしくなってきた。
そうだよ。幻獣部隊には再召喚の指輪のアイテム、そして神獣達には異常状態解除の指輪を渡してあった。
そうだそうだ!!いやったー!!!
「ゴメン皆。いま水晶さんから連絡があって・・・幻獣部隊とモモを取り戻せそうだ。やったぞ!!」
少し興奮気味に報告してしまった。
「ジン様、本当ですか??」
レイラがすかさず確認してきた。彼女も今は平気な振りをしているけど相当落ち込んでいたからな。
「ああ、レイラも思い出せ、その指輪・・・何の効果がある?」
レイラは目を見開いて両手で口を押えている。
「そ・・そうでした。そうでしたね。これでもう一度皆にあえるんですね。」
そのままポロポロと涙をこぼしている。
ラムがレイラに近づき、嬉しそうに微笑んで背中をさすっている。
ノレンド、ランドル両副隊長を始め、幹部全員とても嬉しそうだ。
「よし、じゃあ早速再召喚するか?」
と、そこにキャンデル副隊長とジュリは待ったをかけてきた。
「ジン様、少々お待ちください。万が一があると問題があるので、ここは召喚よりもモモ殿の異常状態を解除し、そのまま操られているふりをしつつドルロイの監視をした方が良いでしょう。」
成程、一理あるな。
『水晶さん、今からモモの異常状態の解除を先に行おうと思うんだけど』
『ジン様、モモ殿は今地下迷宮に侵入している状態です。管理外の地下迷宮にいる時は、何が起こるかわからないので万全を期すなら地下迷宮の外で実施した方が良いでしょう。』
「キャンデル副隊長、ジュリ、異常状態解除だが、今モモは地下迷宮にいるので、不測の事態があるかもしれない為やめた方が良いそうだ。」
ジュリは誰に言われたのか不思議に思うかもしれないが、説明が難しいのでこのまま押し通そう。キャンデル副隊長は水晶さんの事は知っているので、上手く話しを勧めてくれるだろう。以前は管理者権限の話は新任副隊長の中ではキャンデル副隊長だけに開示していた情報だが、このような状態になってしまってから全幹部に開示している。しかし、ジュリなどの一般の隊員には未だ非開示だ。
「なるほど、確かに地下迷宮の力が不意に干渉する可能性もあるかもしれないですな。とすると・・・モモ様の異常状態解除は地下迷宮の外に出たら実施するとしますが、解除した瞬間にやつらに違和感を持たれないでしょうか?」
思った通り、キャンデル副隊長は話を進めてきた。
「それはあるかもしれないな。今は<念話>でもうまく意思の疎通はできないので、対処をお願いすることもできないし・・」
それに対して、ジュリも追及はせずに次の案を出してきた。
「とすると、実際の戦闘開始時に解除して、即ジン様の近くに召喚してしまうのが良いのではないでしょうか?その場合危険は殆どありませんし、奴らの戦力が一気に減ることになるので動揺させることもできます。ただ、それまでの間モモ様には辛い思いをさせてしまいますが・・・」
確かに一番効果的ではあるだろう。
あいつらの監視についてはこのままソラについてもらおう。
とすると、幻獣部隊の再召喚をいつ実施するかだ・・・
『ジン様、彼らが地下迷宮にいる間であれば、地下迷宮外の魔力の揺らぎなどは感知し辛くなっているため、今のうちに再召喚してしまった方が良いと思いますが・・・』
「キャンデル副隊長、ドルロイ達が地下迷宮にいる間は、再召喚を行っても気が付かれる可能性が低いそうだ。とすると、今再召喚してしまっても問題ないと思うがどうだろう?」
キャンデル副隊長とジュリはお互いを見て頷いた。
「ジン様、では再召喚・・・我らが隊長を再び召喚・・・お願いします。!」
よし、もう一度彼らと共に戦うぞ!!
指輪を利用した再召喚の方法については、<神の権能>のおかげか自然と理解できている。
「我ジン・アルダがここに宣言する。我の召喚獣である幻獣達よ、我の呼びかけに応じ再び契約魔獣として顕現せよ!!」
すると、この場にいたレイラも光り輝き一瞬で消えたと思ったら、目の前に6人の幻獣達が以前と変わらぬ風貌で現れた。
ついうっかりレイラも含めて再召喚してしまったようだが・・・俺のために、俺達のために命を捨ててまで助けてくれた幻獣が再び目の前に現れたんだ。
「ジン様、再び我らを召喚いただきありがとうございます。呼びかけに応じ、幻獣部隊ここに馳せ参じました。次こそはやつらを徹底的に排除してご覧に入れます。」
ウェインがそう伝えてきた。
全員が片膝をついて俺の前で首を垂れている。あれ?なんだか君達少し、いやかなり強くなってませんか?
『再召喚がきっかけになっていると思われますが、この世界の神に命を賭してまで主君に使えるその姿勢を認められたのでしょう。<SSS:神級>になっているようですね。』
思いがけない異常なLvアップをなし得たようだ。