<アルダ王国>幹部の会議(2)
幹部達の<アルダ王国>に対する忠誠は痛いほど伝わった。
彼らの忠誠を無駄にせず、そして散っていった者たちの遺志を継いで<シータ王国>を根絶やしにしなくてはならない。
次なる作戦はどうするか・・・当然【管理部隊】のキャンデル副隊長、そして、ロメは作戦立案に必須として、頭脳系で【遊撃部隊】所属、<戦略術>を持つジュリ当たりが妥当だろうか。
そう考えていると、ジンが立ち上がった。
「皆、心配させてごめん。もう大丈夫だから。それで今後の作戦の前に報告があるんだけど、すでにあいつらの<反射攻撃>と<魔力強奪>はいない。そしてこれが追加の報告だけど、<重力魔法>も複雑骨折をした状態で見捨てられて孤立している状態だ。今の俺たちならば難なく排除することはできると思う。残りの<心身操作>と<強制隷属>はモモ、そしてドルロイと一緒に<シータ王国>の王城に向かっていると報告が入っている。」
ジンは幻獣達に対する想いもあるだろうが、為すべきことを理解し行動している。我が息子ながら頼もしい。
幻獣達契約魔獣に対しては、ジンは10人まで契約ができる状態であり、今まではその枠は全て埋まっていたのだが、今は5人の枠が空いてしまっているそうだ。
つまり、このことからも5人の幻獣達は確実にこの世界にはいない事が証明されている。そんな悲しみを表に出さずに最新の情報を<アルダ王国>の為に提供してくれているのだ。無駄にはできん。
「そうか、ドルロイの動きは気になるが、奴らの戦力を確実に削ぐためにはまずはその<重力魔法>を排除するか。」
「そのことでみんなに相談があるんだ。」
この状況で相談とは・・、ジンは排除に反対なのか?<重力魔法>に関して言えば、ジンの前世で裏切り、そして深手を与えた者であると聞いている。
「実は、<重力魔法>の召喚者は悠里と言って、皆もう知っている通り前世で裏切られ、そして先の戦闘では俺に重症を負わせた女なんだ。今後のドルロイが取れる作戦を限定する為にも、ドルロイの手駒に成り得る者は排除した方が良いのは分かってるんだ。でも、悠里は前世で裏切られる前は本当に良くしてくれた。その行動に対する感謝の思いが邪魔して、冷静な判断ができなくなっていると思う。なので、皆の率直な意見を聞かせて貰いたいんだ。」
「現状を把握させて頂きたいのですが、その悠里と言う召喚者は現在孤立しており、今後ドルロイと合流する可能性はほぼ無いという事で良いのでしょうか?」
キャンデル副隊長が状況の確認を行う。
「うん。さっきはドルロイの作戦の幅を減らせるようにと言ったけど、悠里の元に戻ってくる可能性は殆どないと思う。正直、利用するだけ利用されて、最後は捨てられたんだよ。見捨てられて一人になる辛さは痛いほどわかるんだ。」
「なるほど、状況は理解しました。ここで一般論を申し上げてもジン様の望む解決策は出てこないでしょう。なので、【技術開発部隊】によってやつらの能力を排除または制限できるような魔道具ができれば捕縛し、行動に制限を与えますが、ある程度普通に生活させるのはどうでしょうか?繰り返しになりますが、奴らの能力が制限または排除できることが前提ですが・・」
キャンデル副隊長は、ジンの思いを汲んでくれているようだ。
そうすると、ガジム隊長の進捗によっては捕縛することになるが・・・
ガジムは難しそうな顔をして下を向いている。
代わりにノレンド副隊長が説明を始める。
ノレンド、ランドル両副隊長は、ガジム隊長の下についてからあの<フラウス王国>時代の騒がしさはなりを潜めている。
幻獣部隊が犠牲になったことを知ると、人気のない王城の隅で、<神狼>の町の方向に向かって涙を流して深く礼をしていたほどだ。これは二コラからの報告だが・・・。
「皆さん、ガジム隊長に代わり説明させて頂きます。召喚者の持つ能力はかなり特殊であり、ユージ様に協力いただき現在解析中ですが、進捗は60%と言った所です。現時点で<重力魔法>に対して制限を加えることは可能ですが、いつ力を取り戻されてしまうかわからない状況です。このままの状態ですと、解析完了までは一ヵ月を見込んでいます。」
状況はあまり芳しくないようだ。
「ジンよ、お前の気持ちはわからなくもない。だが、<重力魔法>が<アルダ王国>に危害を加える可能性が高く、その状況を制御できなければ私は<アルダ王国>の国民を守るために<重力魔法>を排除しなくてはならない。わかるな?」
ジンは力なく頷いている。
ドルロイには二度も辛酸をなめさせられているのだ。甘い手を打って三度目を許すわけにはいかない。
今の状況では一ヵ月待つことはできないだろう。
「だが、即排除しなくてもいい。今の状況であれば<重力魔法>はその場を動かない・・・いや、動けない状況だろうからな。引き続きトーカ殿に監視してもらえれば、現状はこのままでも良いだろう。だが、動きが有ったら排除することになるのは覚悟しておいてくれよジン。そしてソラ殿が監視しているドルロイ達だが、状況がまだ見えないので何とも言えないが・・・ロメの<未来視>には何か出ているか?」
「ダン王様、実は・・あの・・」
緊張しているのか?歯切れが悪いな。幹部会に出席させられているので緊張するのもわからなくはないが・・
「ロメ、何もそんなに緊張することはないぞ。なあ?キャンデル副隊長?」
同じ【管理部隊】のキャンデル副隊長に声をかけると、彼も緊張をほぐそうとしてくれている。
「その通りだぞロメ。緊張するのもわからなくはないが、お前のスキルは素晴らしいのだ。自信をもって<アルダ王国>の為に使って見せろ。」
「はい、あの申し訳ありません。決して緊張しているわけではなく、自分でも少しびっくりした未来が見えたものですから・・・もし起こり得なかったとしたらどうしようと思ってしまいまして・・」
「ロメ、大丈夫だ。お前のスキルについては把握できている。あくまで一つの可能性として聞くので問題ないぞ。」
一応、安心して発言できるように促してみたが・・・
ロメは、深く息を吸うと覚悟を決めたように話し始めた。
「では申し上げます。私の<未来視>で見えた一つの未来は、幻獣部隊の全隊長が揃って<心身操作>と<ドルロイ王>、そして無数の魔獣達に対峙し、そしてモモ様を含めた神獣様達がジン様の周りを固めて警戒している様子が見えました。」
「「「なに!!」」」
全員驚いている。
ジンやここに残っている神獣のシロ殿、そして幻獣唯一の生き残りのレイラもだ。
「どういうことだ!!どうすればその未来につながるんだ!!」
ジンが少し取り乱している。
もう決して会えないと思っている幻獣部隊の隊長にもう一度会えるかもしれない未来なのだから、実現したい気持ちが先走ってしまっているのだろう。
「ジン、気持ちはわかるが落ち着け。」
「でも父さん・・・いや、ゴメン。わかったよ。」
よし、そうするとあの<重力魔法>は現状維持で、ロメの見た未来に近づけるように行動すべきだ。だが、その状況も無数の魔獣に相対しているという事なので決して油断できる状況ではないのだが。
残念ながら、私の頭脳ではこの未来に近づける方法は思い浮かべることはできない。
ここは<並列思考>と<戦略術>を持つジュリに聞いてみるのが良いか・・
「ジュリ、お前はこの状況どう考える?」
「はい、無数の魔獣と言う時点でどこかの地下迷宮の魔獣に<心身操作>を使用しているものと思われます。そして、その時点で隊長達、そしてモモ様もこちらに戻ってきているという事は・・・少なくとも今ドルロイ達は王都に向かっているとの事ですが、どこかの地下迷宮に向かうはずです。ここは<未来視>を確定させるためにもこちらからは妨害を一切しない方が良いでしょう。そして、隊長達の復活ですが・・・これは、申し訳ありません。方法については何もわかりません。」
ジュリには、管理者権限までの情報は与えていないので、<心身操作>による魔獣の制御であると推測を立てている。なので、実際は地下迷宮攻略の可能性もあるのだが、我らがやつらの地下迷宮攻略を邪魔しなければウェイン達が復活する可能性が高いのだろう。