門番の想い2
次話から、ジン視点に戻ります。
ダン様を始めご家族の方々は、少しでもジン様の状態を良くするために、さりげなくアドバイスをし、また領内随一のドワーフに特殊なナイフを作成させてプレゼントしていた。
そのため、短い期間ではあるが、<テイマー:Lv0・・無級>から、<テイマー:Lv1・・初級>にLvアップしていた。
だからと言って、魔獣をテイムできたわけではないが、攻略中に少しでも何かの力になれば・・と思わずにはいられない。
そして、ジン様が、<神狼>の攻略に出立されてから5週間程度が経った。
いつもの通り、領内からの出入りをチェックする業務に携わっていた時、突然魔法防壁が作動した。
ここ暫くは嫌がらせもなくなっていたのだが・・・ 嫌でも緊張が高まり、防壁からの狙撃要員であるエルフ族も警戒レベルを大幅に上げていた。
そんな時、前方からこちらへ向かって歩いてくる者がいた。
見た目明らかに人族ではないため、今回の嫌がらせかはわからないが、ちょっかいをかけてきた者ではない可能性が高い。
その証拠に、悪意のある者を判別できる<魔眼>持ちは、問題ない旨サインを出している。
しかし、何が起こるかわからない為注意は怠ってはいけない。
「そこで止まれ!」
こちらの指示に従って歩みを止めてくれたため、もう少し詳しく説明する。
「我々はたった今、何かしらのスキルにより不法侵入を試みられた。このダン・アルダ辺境北伯様が納める<アルダ>は、人族以外も領民になっており、人族以外を認めていない他の領地から不法な扱いを受けているため、警戒させていただいている。見たところ人族ではなさそうだが、どのようなご用件か?」
すると、驚くべきことを言い始めたのだ。
彼は、ジン様の僕であり、他の辺境伯クズ子息共にジン様が裏切られたというのだ。
これを聞いた瞬間、無意識に殺気が漏れ、同僚に脇腹をつつかれた。
「落ち着け、まだ話の途中だぞ・・」
ふ~、そうだ。思わずジン様のお辛さを考えると、クズ共に対する殺気が抑えられなくなるが、先ずは話を聞くのが先だ。
すると、ジン様が無事であり、ジン様に依頼されたダン様を始めとしたご家族の皆様へのメッセージを持って来たのだという。
俺はすぐにでもご家族とお会いできるように、通信の魔道具を使用して面会の許可を取ろうとしたが、<魔眼>持ちの門番が、
「おい、気持ちはわかるが、魔法防壁が作動した直後でもあるんだぞ。少なくともいきなり面会は避けた方が賢明だろう」
彼は常に冷静であるため、俺の暴走を諫めてくれるのだ。
確かに、今は警戒態勢を上げている状態であるため、即、直接面会の設定を行うのは、安全上好ましくないな。
そう悩んでいると、こちらの状態を察したのか、
「改めまして、私はウェインと申します。もし直接メッセージをお伝えすることができない場合、先に手紙を領主様にお渡し頂けないだろうか?」
そうだな。手紙であれば<魔眼>持ちにチェックさせれば、大きな危険はないだろう。
そう判断した我々は、手紙を領主様に見て頂くこととした。
同僚が、手紙を持って急ぎダン様の所へ行った。
その間、俺はウェインと名乗ったジン様の僕と<アルダ>や、ダン様ご家族について話をしたが、こいつは中々どうして話が分かる。
そう、ジン様に絶対の忠誠を誓っているようなのだ。
もし、ウェインとこの<アルダ>で共に生活をすることになったとすると、きっと良い仲間、同僚になれるだろう。
そうこうしているうちに、通信魔道具から面会の許可が下りたと連絡があった。
俺はすっかりウェインを信頼していたため、やっと面会ができるんだと安心した。
即馬車でダン様がいらっしゃる城へウェインと共に向かった。
馬車で暫く揺られると城に到着した。ここからは歩いて応接まで案内する予定だが、ダン様ご家族のことだから、応接で待つなんてことはありえないだろう。
と、予想通り、ダン様を始め、ヤリス様、ソフィア様、ロイド様、ご家族の皆様が揃っていた。
そして、ウェインからジン様のメッセージが伝えられ、ジン様自体の状態も問題ないことが確認された。
ホッとしたが、話によるとジン様はしばらく帰還されないらしい。
寂しい気持ちはあるが、ウェインのような者が仕えているため、きっと安心できるだろう。
しかし、国王を含め、他の辺境伯のクズ共が、今後我らに対しておとなしくしているとは思えない。
あいつらクズ共は、ジン様が行方不明であると報告を上げる予定だという。
もしもジン様の生存が知れたら、クズ共はどのような挙動に出るかは容易に想像できる。
我々は、どんな状況にも対処できるように・・・そう、ダン様に初めてお会いした時に堅く心に誓った、ダン様に命を懸けてお仕えするだけだ。
クズ共、いつでも来い。