私はウェイン(6) ジン様と前世のクラスメイト?
キャンデル副隊長から、能力者の識別についての情報が展開された。
と、その時に何と<心身操作>によって操られている【諜報部隊】の内の1名がジン様に向かって攻撃を仕掛けてきた。
いくら<心身操作>で操られているとはいえ、隊長として厳正に処分しなくてはならない。
そう思い、一歩前に踏み出すと、ジン様に止められた。
「ウェイン、あの子は俺に任せろ。」
と言うと、瞬時に背後を取り、気絶させた。
私は即<影魔法>で収容し、事なきを得た。<アルダ王国>に忠誠を誓う【諜報部隊】の隊員を手に掛けなくて済んだのだ。安堵したが、まだ操られている隊員は3人程いる。
ジン様は人化を解いている神獣殿をこの場には連れてきていない。<強制隷属>対策だろう。
しかし、彼女達はジン様を心配するあまり、決着が長引けばこちらに来てしまうのではないだろうか。私も逆の立場なら同じようにしてしまうからわかるのだ。
そしてジン様の隣にはいつの間にかユージ様が表れている。
ユージ様の能力である<光術>で姿を隠していたのを解除したのだろう。
ユージ様が召喚者の<心身操作>持ちに向かって話をしている。
「おい北野、そしてその金魚の糞3匹と雌ブタ、お前らは違う世界に来ても迷惑ばかりかけやがって、クズはどこに行ってもクズだな。」
「ハン、斎藤、お前きっと大した能力を持っていないからこんな腐った国に逃げてきたんだろ?偉そうなことを言うな。あの久田のように尻尾振って逃げるのがお似合いだぞ!」
「あぁ、お前らに話した俺がばかだったよ。そんなんだから指輪の呪いを受けるんだ。」
「なに!なんで知ってるんだ。お前はなんであの場にいなかったのに知っているんだ。そうか、この腐った国の連中とグルだな。そうだとしたら手加減はいらないな。」
なにやら会話が成り立っていないように見えるが、ユージ様は話し続ける。
だが、その間にキャンデル副隊長から指示が飛んでおり、かなり緊迫している。
『各隊長に告ぐ。これはジン様の許可の元実施している作戦だ。まずは【諜報部隊】3人の救出が最優先事項との指示を受けているため、この会話の最中に隙をみて<影魔法>でウェイン隊長が救出を実施、その後総攻撃を実施する。救出直後に全ての攻撃を叩き込む。攻撃のタイミングはウェイン隊長の指示による。ユージ様はジン様が退避させるので迷いは捨てろ!』
そんな中、会話は進んでいる。
「本当にバカだな。ちょっと考えればわかるはずだけど・・まあいい。説明も面倒くさい。だが一つ伝えておくことがある。お前、久田が逃げたといったな。俺の親友の仁を・・・それは大きな間違いだ。現に本人がここにいる。」
そういってジン様の方を向いた。
召喚者は全員ジン様の方を向いているが、一部意識は我らにまだある為、救出のタイミングはここではない。
「久しぶりだな北野。お前が引っ越してきてからは本当にろくでもない生活だった。おまけにそこの悠里も取られるしな。だが、そのおかげで俺はこの世界で楽しくやらせてもらっている。お前たちのように薄っぺらい関係ではなく、本当の仲間と共にな。」
「おまえ、本当に久田か?」
「ああ、お前に散々煮え湯を飲まされた久田 仁だよ。」
「そうか、ははは!、そうかそうか。よし決めた。お前も俺の僕にしてやろう。日本にいた時と同じように這いつくばらせてやるよ!」
その瞬間、<アルダ王国>全部隊からとてつもない殺気が溢れ出た。もちろん私も無意識に出てしまっていたが・・
あまりの殺気に5人がひるんだその時、<影魔法>を発動して隊員を救出することに成功した。申し訳ないが、自害などされないように気絶してもらっている状態だが・・。
『救出完了』
その刹那、表現することが難しいほどの攻撃が、やつら5人に襲い掛かった。
<魔力強奪>が前面に出て防御しているが、限界が近そうだ。
そこを見逃すほどキャンデル副隊長は甘くない。
『ミーナ殿、背後から<強制隷属>を攻撃!』
瞬時にミーナ殿が<強制隷属>の背後から攻撃を仕掛けたが、突然動きが鈍った。
<重力魔法>だ。ミーナ殿を中心に、周りの石畳がまとめて1m程沈んでいる。
常人ならぺしゃんこになっているところだが、その状況でも動けるミーナ殿はすさまじい。
一旦離脱して、再度キャンデル殿の指示を待っている。
そこに、力の奔流を感知した神獣達が来てしまった。まずい!<未来視>にこの状況がおぼろげながら見えていた!!
キャンデル副隊長も焦っているようだ。
『何故ここに来たんですか?すぐに戻ってください。』
すると、モモ殿が、
『【諜報部隊】隊員から、緊急事態と聞いて来たのですがどういうことですか?』
私は【諜報部隊】の隊員にそんな指示など出していない。
すでにやつらから取り戻した隊員の誰かが呼んでしまったのだろうか。
今までの強大な力を、更に優に超える力を持つ4匹の神獣達をみて、召喚者は一瞬すくみ上ったが、<心身操作>が<強制隷属>に指示を出した。
「あの4匹のどれかに能力を使え!」
私は、<強制隷属>と神獣達の中間に<影魔法>と<転移>を駆使して自立型攻撃装置とスキル時間制限付き魔獣を配置したが、奴の能力には障害物は関係なかったようで、有ろうことか神狼であるモモ殿が能力の対象になってしまった。
モモ殿のみゆっくりと<強制隷属>の元にたどり着き、それを見た他の3匹の神獣達はもちろん、<アルダ王国>全ての国民、騎士達が唖然としている。
だが私にはわかる。モモ殿ほどの力があれば、どの様に強大な力でも完全に隷属させることはできない。
神レベルの攻撃はしないように制御してくれるだろうが、抵抗もその程度が限界なのではないだろうか。
これは<未来視>によって経験した状況から推測しているのだ。
<心身操作>は、
「ははははは、良くやったぞ。これだけの力を持つ者をこちらに引き入れたんだ。一旦退却しても良いだろう。ドルロイの言う通り、凄まじい強さの獣がいたもんだ。俺達の作戦勝ちだな。」
「そんな事を許すと思うか?」
ジン様からとてつもない殺気が溢れ、最早<強制隷属>の影響を考慮しなくてよくなった、いや、良くなってしまったので、全員が姿を現して戦闘態勢を取っている。
もちろん残りの神獣達もだ。
神獣は<反射攻撃>を警戒して攻撃できないため、神獣を除いた全員が、全力で<心身操作>に攻撃を加えたが、そこにモモ殿が割って入り、全ての攻撃を防いでしまった。
ジン様は、現実を受け入れられないようで、動きに切れがない。
そこに、<重力操作>がやってきた。
この女はなれなれしくも、ジン様に話しかけてきたのだ。
「ねぇ仁、いえ、今はジンかな?実は私達、こっちに来てから能力に目覚めたことはそこのユージから聞いてるよね。その能力を定着している間にここの情報をドルロイから教えて貰ったの。それでね、私達だけこっちの情報を持っているんじゃ不公平でしょ?だから、少しだけ私たちの秘密を教えてあげる。」
話の内容に、私を含め<アルダ王国>全員が攻撃をやめて、聞き入ってしまっている。
「その定着期間って一週間程なんだけど、その間にそこにいるユージが持っていない能力も追加されたんだ。本当はそこのユージに使うはずだった指輪と、召喚の為に必要な魔道具の残りを使って、強化剤を作ったの。それを飲むと、身体能力がかなり上がるのよ。おかしいと思わなかった?いくら能力があっても、攻撃の余波で飛ばされもしないし、瓦礫が舞っている中にいても傷一つない状態に。」
そういえばその通りだ。召喚者共は、いつの間にか城壁にたどり着き、今現時点でほぼ無傷なのだ。
「つまりこういう事よ!」
そういって、その女が腰から短剣を引き抜き、ジン様を切りつけた。
本来<神の権能>を持っているジン様には何の影響もないはずが、モモ様を取られた影響からか力が弱まっていたのだろうか、ジン様が血を噴き出し倒れてしまった。この女、強い!
いや、そんなことはどうでも良い。今はジン様だ。
くそ、なんという失態だ。しかし悔やんでいる暇はない。
キャンデル副隊長も状況は改善できないと踏んだのか、即撤退の指示を出してきた。
『全員撤退。ジン様をお守りしろ!』
私は、ここでこいつらを止める!!