私はウェイン(4) 幻獣部隊の覚悟
主な作戦がキャンデル副隊長から説明され、その後も会議は続いた。
やがて会議も終了し、各任務を遂行するためにこの部屋から退出していったが、<念話>で幻獣部隊の招集をかけた。
任務はさしあたり副隊長が実施している。
王城にある幻獣部隊専用の部屋に集まり、ロメの<未来視>についての話をすることにした。
幻獣である、ユフロ、エレノア、レイラ、セリア、マーニカが集まって着席したため、話を始める。
「任務中にすまない。今回は幻獣部隊としての話をさせて貰おうと思い招集させてもらった。今回の<シータ王国>についてだが、ロメの<未来視>によればジン様が重傷を負ってしまうという未来が見えたという情報は既に知っている通りだ。無数に起こり得る未来の一つではあるらしいが、可能性が高い未来であるとの事から、何としてもそのような事態は防がなくてはならない。」
全員、ジン様に命を捧げている為、私と同様に真剣な顔をして話を聞いている。
「我ら幻獣部隊の最も重要な任務は、ジン様のお命をお守りすることだ。そのためには我らが犠牲になっても戸惑う事はあってはならない。まずはここを改めて確認しておきたかった。例え戦闘中に私が倒れたとしても、決して動揺することなくジン様の事だけを考えて行動するのだ。正直今の生活はジン様のおかげで仲間にも恵まれており、それを失う事で心に痛手を負うのは事実だ。あまりにも素晴らしい環境を作って下さったので、我らは心が脆くなっており、仲間を失うと動揺して隙を作ってしまう可能性もあると考えている。」
「確かにウェインの言う通りです。同族である幻獣部隊を始めとして、王族の方々、この<アルダ王国>の皆様、更には大同盟の皆様もとても素晴らしい仲間なので、失ってしまうと喪失感も出てしまうでしょう。」
エレノアが同意し、皆頷いている。
「その通りだ。だが戦争とは無情だ。前回は死者は出なかったが、今回もそうであるとは限らない。よって、私はこの場を持って<シータ王国>との戦時に、たとえ死しても悔いの無いように、兄妹のような幻獣部隊のメンバーに、この場で別れを告げておこうと思う。皆、こんな私についてきてくれてありがとう。」
皆が立ち上がって私に近づいてきて握手してきた。
そしてセリアが、
「ウェイン、あなたの覚悟は受け取りました。ただ、その覚悟があるのはあなただけではありません。皆同じ気持ちです。ジン様の為に散らす命ならば喜んで散りましょう。またこの記憶を持って召喚されることがあるならば、今と同じく、皆と同じ道を歩めますよう。」
全員頷いて、皆と堅い握手をした。
だが最後に、私は一つお願いをしなくてはならない。
「皆の覚悟も受け取った。最後に一つ確認しておきたい事が有る。万が一、ロメの<未来視>の通りになってしまった場合、神獣殿でも対処できなかったことになる。どの様な状況かはわからないが、これ以上最悪の事態に進ませるわけにはいかない。この時点では最早キャンデル副隊長の作戦は失敗しているだろう。とすると、我ら幻獣部隊の命をもって防衛している間に、ジン様を<魔界森>へ退避させる必要がある。その任務には、レイラに就いてもらいたい。<光魔法>によって回復を行うのだ。そして、状況が許せば防御を行うためにユフロも同行してくれ。二人だけ別の道に進ませてしまうのは忍びないが、我らがジン様の為に頼む。」
私は、レイラとユフロに深く頭を下げた。
もし最悪の状況である場合、我らの命はないだろう。そして幻獣部隊として残されるのは、レイラとユフロの二人、場合によってはレイラだけとなる。
残された彼女達は、我らの事を気に病んでしまうだろう。だが、ジン様の為に何としてもこの任務は受けて貰わなければならないのだ。
やがてレイラが、
「わかりました。その任務お受けします。ですが、易々と負けてしまうわけではないですよね?」
「ああ、もちろんだ。だが、万が一になるが、その場合はジン様をよろしく頼むぞ。辛い任務で申し訳ないが・・。」
レイラは何も言わずに頷いてくれた。
少し沈んでしまった気持ちを持ち直すように、少し明るめに、
「よし、そうならない様に今から任務を遂行するか!!」
そう言って、幻獣部隊の会議を終了した。
実は私にはスキル<複写>があり、<未来視>についても複写済みで既に能力を発動させている状態だ。
その結果、経緯などは一切わからないが、ジン様が重傷を負ってしまう未来は確かに見えている。
残念ながら日を追うごとに、起こってしまう確率・・とでもいうのだろうか、真実味が増してきているのだ。
何もなければこのような最後の挨拶などはしないが、今回はそうなってしまう可能性が高いと思っている。だが、たとえこの身が砕け散ろうと、ジン様のお命は必ずお守りしてみせる。
そうして我ら幻獣部隊は、各隊長の任務や大同盟各国の生活物資を<魔界森>に転移させたりと忙しい一日を過ごした。
そして、ユージ殿、いや、ユージ様が話していた能力の定着がまもなく終わってしまうと連絡が来た。
すでに【技術開発部隊】による自立型攻撃装置と、攻撃を開始してから30分ほどで全てのスキルを失う魔獣が<神狼>の町で待機している。
<神狼>の町にある闘技場や鍛錬場に使用している魔道具は撤去済みで、<神狼>の1層、そして深層に住んでいる龍人族も全て避難済みだ。
更には<神狼>の機能は進入禁止措置以外は全て停止している。ジン様によれば、管理は水晶様が実施しているそうだ。
防壁内部には【防衛部隊】が配置され、【遊撃部隊】と、ここが作戦の最初の山場となる<鑑定眼>での敵の識別の為、我が【諜報部隊】精鋭部隊が防壁の外に潜んでいる。
キャンデル副隊長と、【遊撃部隊】に所属している<戦略術>を持つ兎獣人の判断では、やはり戦場は<神狼>の町になるとの事で、<アルダ王国>全部隊の大多数がここに集結している状態だ。
もちろん他の町にやつらが来ても、スキルの<転移>や魔道具を利用した<転移>ですぐさま迎撃できる体制を取っている。
ジン様と神獣殿は、町のほぼ中央にいて頂いており、神獣殿は威嚇の意味もあり、既に人化を解除している。
改めて彼女たちの真の姿を拝見したが、流石は神の名を冠する種族だ。
おそらくまもなく開戦となってしまうだろう。
【諜報部隊】の力をもってしても、未だにドルロイの行方は追う事ができていない。
まだドルロイを始めとした<シータ王国>の連中の姿は見えないが、今この時も【技術開発部隊】のガジム隊長や、ノレンド、ランドル両副隊長を始めとして、各隊員が補強や機能の確認をし続けている。
前回と同じ失態を冒さないように必死なのだろう。その気持ちはよくわかる。
我らもジン様、そして<アルダ王国>、更には大同盟の為にやつらを徹底的に排除する。
今回は前回のように決して見逃すことなどせず、この場で決着をつけてやる。
決意を新たにしていると、我が【諜報部隊】のイノザより連絡が入った。
『<シータ王国>の部隊がこちらに向かっているようです。<念話>の傍受によれば召喚者五人を筆頭に、騎士を各50人召喚者の下につけ、ドルロイの護衛としてアレン、ブゴウ、ショリーの名前が出ています。総勢召喚者の部隊が250人、ドルロイとその護衛で合計254人になります。』
思ったより少ないな。やはり前回の敗戦で戦力を殆ど失ったのだろう。
『皆さん、キャンデルです。現在イノザ殿より報告があった通り<シータ王国>の戦力が判明しました。各隊長から隊員に情報展開をお願いします。ただし、現時点での情報であり、敵の戦力が増加することも想定してください。今のところ作戦に変更はありません。』
キャンデル副隊長から状況報告があった。
いよいよだ。