門番の想い1
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俺は、栄誉ある辺境北伯領<アルダ>の門番、魔族の「ボノガ」だ。
この領地<アルダ>には、人族以外の種族が多数住んでおり、仕事も平等に与えられている。
ここ以外の領地では、ここまで多種族がいるという事はどこに行っても考えられない状態だ。
いや、領地だけではなく、この国以外でもこのように多数の種族が共存している地域はないだろう。
多種族が混在している地域はあるが、ある種族が他の種族を支配しているとか、とても共存とは言えない状態がほどんどだ。
ここで少し、俺の身の上を聞いてもらいたい。
俺は楽園であり、生涯の忠誠を誓っている<アルダ>生まれではない。
実は、4大地下迷宮の入口が東西南北に分かれていて、それを各辺境伯が納めていることは知っていると思う。
北伯様以外は東のクズ、南のゴミ、西のカスだがな。
で、その地下迷宮入口は、それぞれの入口にお互い背を向けるように東西南北に位置しており、入口よりも内側の領域には「魔界森」と呼ばれる、人族にとっては侵入すらできていない森が存在する。
実は、俺はそこの奥深くの魔族領で生を受けた。
人族は森に入ってこない、いや、入ってこられない状態ではあるが、実はこの森の中には魔族の他にも人族以外の種族が集落、または領地を持って生活している。
お互いに不可侵であり、まれに情報交換や物々交換をしていると聞いたことがある。
で・・だ、魔族は生まれた瞬間から、皆魔力が多いのが特徴だ。
森の周りには、とんでもないLvの魔獣が多数存在するため、自己防衛のために進化したのではないかと俺は思っている。
だが、俺は生まれた時点では魔力がほとんどない状態だった。
なぜかは分からないが、年に数人はそのような状態の魔族がいるらしい。
そして、その魔族は人間の言うところの教会に集められ、質素な生活を強いられる。
当然食事は、自分で森の魔獣を危険を冒して刈る必要があり、いつの間にか仲間が減っていることもよくあった。
要は、魔族として、仲間として、認めてもらえなかったのだ。
今思えば、よく生き延びることができたもんだ。
そして教会で過ごすこと15年、この魔族領によからぬ噂が流れた。
それは、人族が異世界なる所から特別な能力のある人族を召喚し、この森を侵略して領土とする・・と言うものだった。
おそらく多種族との情報交換時にもたらされたものだろうが、皆襲撃に怯え始めた。
人族はこの森に入ったことがないため・・1、2歩程度は興味本位で入ったことがあるかもしれないが・・、我ら領地、集落の位置は把握されていないはずである。
そこで、各種族の長は、例えば俺らのように種族として認められずに、自らリスクを冒して魔獣を刈って食料としているメンバーが、まかり間違って、森の外周、人族の領地に近い位置で捕獲された場合、そこから位置が特定されて攻撃されてしまうのではないか・・と言い出した。
種族として認められてすらいない、力のない者が、人族近くの位置にまで行けるはずがないのにだ・・・
ここまで言えばわかってもらえると思うが、このくだらない理由で俺を含む教会の皆や、魔族以外の他種族で同じ状況となっていた者は、目隠しをされ、眠らされた状態で、夜中に人族がいない状態の森の外に捨てられた。
幸運だったのは、全ての種族の長が連携していたため、どの種族の誰一人として欠けることなく、この楽園<アルダ>領近くに捨てられたことだ。
他の領地であったなら、今頃生きてはいないだろう。
むしろ今は<アルダ>領前に捨ててくれて感謝している状況だ。
そして、目が覚めた時、俺は他種族の者を初めて目にした。他種族の者も俺たちを初めて見ただろう。
しかし、置かれた状況を皆が瞬時に把握し、絶望の淵に叩き落された。
なぜなら、「人族は、決して人族以外を受け入れない。受け入れる場合は、奴隷として死ぬまで過酷な状態で使役する場合のみである」と聞いたことがあるからだ。
そして目の前には人間の領地を否が応でも理解させる高い城壁・・・こちらは力がない人族以外の寄せ集め・・・
中にはまともに食事もできず、やせ細った者までいる始末だ。
これから起きるであろう絶望の未来に、皆が下を向いて黙っているところに、
「ねぇ、皆は人族ではないようだけど、なんでこんなところにいるの?」
若かりし現領主様、ダン・アルダ様が話しかけて下さったのだ。
あまりに現状を悲観しすぎて、ダン様が我らの中に紛れ込んでいるのに気が付かなかったのだ。
しかし、おそらく我らが目を覚ます前からそこにいたはずで、我々の息の根を止めることもできたはず。
なのに、このお方はそうしなかった。
俺は、わずかな可能性に掛け、現状捨てられたのだという事を包み隠さずお話させていただいた。
「なんだそれ!ふざけてんのか!!領主は領民を、家長は家族を守るのが当たり前だろう。そんなこともわからないのか!!」
と激怒された。俺たちは、「人族以外を認めない・・・」のフレーズと、ダン様の言動のあまりの違いに瞬きすら忘れ、お声を聞いていた。
「よく見ると、ガリガリになっている者もいるじゃないか。くそったれ、おい!お前ら、歩けるか?俺の家まで今すぐ来い。お前らさえよければ、今から俺の父にお願いし、領民にしてやる」
あまりの急展開に、頭がついていかないが、そんなことは関係ないとばかりにダン様は続ける。
「いいか、領民になるという事は、俺の父上の庇護、ひいては将来俺の庇護に入るという事だ。俺の領地では、種族の差別は決して許さない。もちろん人族も含めてだ。そして、領民は皆家族であり、お互いに助け合い、決して裏切らない。これさえ誓えるのであれば、喜んで領民になれるよう父上に進言しよう。父上も領民や俺達に同じことを言い続けているので、誓いさえ守れば、必ず領民となることができるだろう」
俺を含め皆が、知らず知らずのうちに涙していた。
家族として助け合う、今まで俺たちが一番欲しかった言葉を言っていただけたからだ。
この時俺を含む皆は、ダン様に絶対の忠誠を誓った。
最後にダン様はこうおっしゃった。
「皆、すまないが俺はお前らの元家族?なのかどうかは分からないが、元の住処の住人を許すことは決してできないだろう。そこだけは許してほしい」
と頭を下げられたのをよく覚えている。
俺は、この時ほど心が震えたことはなかった。
そんな絶対の忠誠を誓っているダン様が領主になられ、お子様を3人設けられた。
皆、ダン様の意思を継いですくすくと成長なさっている。
領主であるダン様、奥様のヤリス様、長女のソフィア様、長男のロイド様、次男のジン様には、その時にお救い頂いたメンバーのうち、その後の特訓で最強の5人となったものが、それぞれの近衛兵としてお傍に使えさせていただいている。
長くこの<アルダ>領で生活させていただき、門番の大役を得た俺は、周りの状況も完全に理解することができた。
領内の人族は領主様と同じ共存共栄の考えではあるが、領外の人族は、誰一人として他種族を認めていないのだ。
そのため、<アルダ>領は、国王から目を付けられ、本来辺境伯東西南北は同列のはずが、かなり格下の扱いを受けたり、領地に対するいやがらせもある。
そこで、お救い頂いたメンバーが活躍できた。
城壁の魔法防御作成はドワーフ族が、城壁に隠れ狙撃を行うのは、基本的に<弓術>スキルに長けたエルフ族が、門番は見た目に威圧できる俺や、敵意を持つものを感知できる<魔眼>スキルを持つ魔族が任を受けさせていただいた。
と言うよりも、自らが立候補させて頂いたのだ。
そんな中、ジン様があるスキルを得た。
<テイマー:Lv0・・無級>
俺が知る限り、テイマーは扱い辛いスキルであるのは間違いないだろう。
良いスキルを得ると、個人の持つLvの差を埋める実力を発揮できる場合もある中で、少々つらいスキルだ。
そんな状態でも、ダン様ご家族は悲観するでもなくいつも通りにジン様と接していた。
もちろん領民も皆同じだった。
ジン様はこの状況で何を思われているのかはわからなかったが、少しでも力を得ようともがいているように見えた。
そして、ある日冒険者登録をしてきたのだ。
そこまでは良いが、ジン様の近衛騎士によれば、他の辺境伯の子供に触発されて同時に皆で登録したらしい。
他の領主や領民には、辺境北伯は良く思われていないので、少し心配だ。
そして、その心配は的中したようだ。
なぜか王命で、辺境伯東西南北の子息のみで、4大地下迷宮の一つ、辺境東伯領にある<神狼>の攻略を命ぜられたのだ。
辺境東伯は、特に他種族排他主義者の筆頭であり、良い噂は聞こえてこない。
わざわざそんな領地の地下迷宮を攻略させる事に悪意を感じる。
そもそも、いまだ中層すら誰もたどり着いていない地下迷宮に子供のみで攻略などできるわけないのだ。
しかし、王命である以上行かないわけにはいかない。ジン様の近衛兵や、挙句の果てには人族を含む腕に覚えのある領民も、隠密行動で同行する旨ダン様に進言していたが、何かしらのマジックアイテムで露見してしまった場合、弱みを握られ、領地に対する不利益になる可能性を示唆し認めて頂けなかった。
ダン様のお気持ちを考えると、今すぐにでも王国を滅ぼしてやりたい気持ちになる。




