日本・・(5)
俺のアドバイスを求める質問に対して、急に表れた方の女性が話をしてきた。
正直彼女の方は顔をうまく見ることができない、と言うよりも認識することができない。
俺の能力と同じように、何かしらの力を使っているのだろう。
顔の見える距離で話をしているのだが、実際に見えるかどうかは別問題・・という事か。
「斎藤殿、先程貴殿はこの世界に来たとおっしゃった。どのようにしてこの世界に来たのはおわかりになりますか?」
「正直に言います。この国の王・・名前は言っていた気がしますが忘れましたが、そいつが6000人もの犠牲のもとに勇者として召喚したと言っていました。ちょっと信じられませんよね?なので、前の世界のクラスメイト・・・えっと、知人で解りますか??が5人召喚されています。今回の召喚でこの世界に来た異世界人は俺を含めて6人ですね。そいつら、俺もですが何か不思議な力を持っているんですよ。あ、この話ももちろん真実ですので、さっきの魔道具使ってもらっても良いですよ。」
顔の良く見えない彼女は、最初に話をしてくれた彼女と目を合わせ、何か話している雰囲気だ。何も聞こえないし口も動いていないけど・・・
待つこと少々・・
「斎藤殿、申し訳ありません。今お聞きした情報はこの世界の安全を脅かす緊急事態です。よって、私の主に大至急報告する必要があるので、ここで失礼させて頂きます。」
と言った瞬間に、彼女は視界から消えて行った。
でも、俺達が世界の安全を脅かす事態??もしかして、俺拘束とかされちゃうの??少々不安な気持ちが顔に出ていたのかもしれない。
「斎藤さん、大丈夫です。我々はあなたが<アルダ王国>に害をなす者ではないと判断しました。なので、あなたの身の安全は保障しますよ。」
ふぃー、良かった。有り得ない異世界転移を成し遂げて・・いや強制召喚か?そして即死亡フラグなどやってられないからな。
「ありがとうございます。では、<アルダ王国>に向かうにはどうすればいいですか?」
改めて質問をしてみた。
「そうですね、私はとある事情で、この<シータ王国>を離れられないので、さっきの相棒が戻ってきたら同行させます。」
「ありがとうございます。助かります。でも二人一組なんですよね?良いんですか?」
「大丈夫ですよ。基本的にですからね。」
助かった。右も左もわからずに<シータ王国>から、追われる身になっているであろう俺の、今後の人生を大きく左右する局面を乗り切ったな。
「それで・・さっきの方はどれくらいで戻ってくるのでしょうか?」
「一部の情報は既に我々の持つ能力で報告済みですし、移動に関しては基礎体力もありますから・・そうですね、主との話の長さによりますがおそらく1~2時間程度と言ったところですね。」
ふぅ、あまり長くはなさそうだ。それならばもう少しこの世界について情報を取るか?
と思っていたら、
「斎藤さん、申し訳ありません。今主から連絡があり、私はドルロイ・・この国の王について至急調査をしなくてはならなくなりました。こちらの状況は既に連絡済みで、是非斎藤さんからお話を聞きたいそうです。あと5分程で別の者が迎えに来ますので、その者と同行して<アルダ王国>へ向かっていただけますでしょうか?」
なにやら急に忙しくなっている。きっと世界の安全を脅かすらしい事態の対処に当たるのだろう。
だが、この優しい女性だけで大丈夫か?相棒も今はいないようだし・・・
「あの、差し出がましいようですが・・俺も力にならせてもらいます。さっきも言いましたが、俺の知人も不思議な能力を持っていて、名前しか聞いていませんがかなり強力な力であることは想像できるんです。俺の知人ははっきり言って悪人です。こんな俺に親切にして頂いた方が危険にさらされるのを黙って見ているわけにはいきません。」
そう、仁も絶対に同じことをする。恩には恩と善行、目には目と歯で返すんだ。
「優しいのですね。申し遅れました。私は猫獣人のキャムと申します。耳は髪の毛で隠しているんですよ。おっと、本題からそれましたね。心配頂きましてありがとうございます。当然無理はしませんし、相棒の代わりに重大案件という事で、隊長が来るので問題ありませんよ。」
「なるほど、あなたが斎藤殿か・・不思議な力を感じるが、まだ使いこなせていないようだな。」
は?突然後ろから声がした。
キャムは片膝をついている・・・・
嫌な汗が止まらない。これは・・蛇ににらまれた蛙どころではない。象に踏まれる蟻だ。この人にとっては俺は蟻で、いくら全力で抗っても、俺が何かをしていた事すら気付きもしない・・存在すら気付かないで踏みつぶせる程の力を持っているのが何となくわかる。
俺の中に芽生えた能力が完全に定着すれば、もしかすると・・と思わないでもないが、今はそんな状況じゃない。
こんな人がキャムと一緒に行くなら、はっきり言って俺は足手まといだ。
気持ちを切り替えて、ゆっくり振り返る。
そこには黒い服をきた不思議な人?がいた。
「初めてお目にかかる。私はそこにいるキャムの所属する、とある部隊の隊長をしているウェインと言う。斎藤殿は<アルダ王国>に来ることを望んでいるとの事で、既に魔道具によるチェックもパスしたと聞いている。であれば、我が<アルダ王国>は歓迎させてもらう。移動については我が主が斎藤殿の話を早く聞きたいとおっしゃっているので、事情を少しは知っているそこにいるキャムも一時的に同行させよう。私は任務があるのでここで失礼するが、<アルダ王国>までは若干距離があるため、そこのエレノアが<転移>で・・失礼、あまりこの世界の事を理解していない事を失念していた。瞬間的に移動できるスキルを使用して斎藤殿を主のいる<アルダ王国>までお連れする。よろしいか?」
もう一人、とんでもない綺麗な人がいつのまにかキャムの隣に立っていた。
キャムも可愛いが、この人は美女だ。というよりも・・この人からもとんでもない力を感じるぞ。
この場に巨象が二匹いる・・・・そして一匹の蟻。
機嫌を損ねないように、素直に従おう。キャムも同行させてくれる辺り、色々配慮してくれているようだしな。
「わかりました。ご配慮感謝します。よろしくお願いします。」
「エレノアと申します。斎藤様、それでは<転移>しますね。一瞬暗くなりますがご心配なく。」
エレノアさんがウェインさんに目配せした瞬間、目の前が暗くなり、そして<シータ王国>とは違う雰囲気の良さそうな町が見える門の入口に到着した。
これが<転移>か。便利だな。
「斎藤様、申し訳ありません。至急斎藤様の身分を証明するカードをお渡ししますので少々お待ちください。」
そう言ってエレノアさんは門番の所に行って何か話して、すぐ戻ってきた。
「お待たせしました。これがカードを作る魔道具になります。このカードは、<アルダ王国>や同盟国の間での身分証明書になりますし、連絡も受けることができる大切なカードです。急ぎですので詳細は後程説明させて頂きますが、大切に身に着けておいてください。」
何やら機械を持っていて、その機械に俺が触れるとカードが出てきたのだ。そのカードを受け取って見てみると、俺の名前・・ユージ・サイトウと表示がされており、何と能力の<光術>の記述も見える。
俺、この世界に来てから誰にも能力の名前を言っていないんだが・・・
困惑している俺をよそに、エレノアさんとキャムさんは急ぎ足で俺を門の中に入れてくれた。
「斎藤様、我らの主人がお待ちですのでここからもう一度<転移>を行います。場所はこの<アルダ王国>王城の謁見の間です。よろしくお願いします。」
おいおい、いきなり緊張する場面じゃないか。もう少し状況を詳しく教えてくれないと。例えば何人いるとか相手の性別とか、それによって気の持ちようが違うし。あれ?王族との謁見という事か?という事は何か無礼が有ったら俺終わり?そもそもこの格好・・アウトじゃないの?
動揺している俺をよそに、視界は一瞬暗転してなんともう謁見の間?の入口らしいところに来てしまった。腹を括るしかない。
俺はおっかなびっくりエレノアさんとキャムさんの後について行った。
頼むぞ男ハチマキ。男を見せろ。いや、魅せろ。
入室すると、金色っぽい絨毯の上に赤い絨毯が入口から正面奥の玉座?まで続いている。玉座には誰も座っておらず、俺と同年代の少年。きっと彼がジン・アルダだろう。そしてその脇にはこれまたとんでもない美女が沢山いるが、彼女達ももちろん巨象だ。
もう慣れましたよ。どうせ俺は蟻さんだよ。ここまで力の差があれば逆に緊張もしなくなるもんだ。
なんて思っていると、彼と彼のもっとも近い位置にいる4人の美女は俺を見て目を見開き、微動だにしなくなってしまった。
他の美女たちはその状況を見て困惑しているようだ。
もちろん俺も困惑している。
どうすればいいのか。自己紹介?男!ハチマキの紹介?ジャージの素晴らしさの説明?あのわけわかんない王の説明?クラスメイトのクズの情報?
色々な考えが頭を駆け巡るが、どれにするか決めかねていると、彼が、
「ユージ、異世界から召喚された人族ってお前か・・・」
と言いつつ涙を流しているのだ。
????俺は更に困惑した。その状況を見ていた同じく固まっていた超絶美女4人のうちの一人が、
「ユージ様。混乱してらっしゃるかと思いますが、ここにいるのは久田 仁様です。そして私たちはあなたに遊んでもらったペットなんですよ。ご主人様はこの世界に来てからもあなたの事をずっと気にしており、またお会いすることができて・・私達もとても嬉しいです。」
4人共に若干涙を浮かべながらとんでもない破壊力の笑顔を向けてくれた。あれ?いま久田 仁って言った?のか??
「おい、お前が仁なのか?だからジンって呼ばれてるのか?」
不敬などと言ってられるか。確認せずにはいられない。
「ああ、そうだ。またお前に逢えるなんて思ってもみなかった。親友!そのハチマキは何だ。いつもお前は俺を励まそうとするときはくだらないアイテムをプレゼントしてくれたな。お前は全然使わないくせに。きっとそのセンスのないハチマキも俺の為に準備した物じゃないのか?」
これは、仁で間違いない。俺の事をわかっている。わかってくれている。
俺も涙が止まらなくなってしまった。
気が付くと仁、いやこの世界で言うならばジンが俺の近くに来ていたので、お互い無言で拳をぶつけ合った。涙は出ているが。これは俺達が日本にいたころあいさつ代わりによくやっていた行動だ。
超絶美女4人はどうやらジンのペットだったとの事だ。
彼女達を除く美女軍団は、俺がジンの親友と分かった瞬間に俺に対して片膝をついて首を垂れている。
正直に言おう。俺はジンとは違い彼女ができたことがない。なのでこの状況・・・最早パニックだ。
オロオロしている俺を見て、ジンは涙を流しながらも笑い出しやがった。
畜生、お前こんな美女たちに囲まれて、良いご身分だな。
こっちはあのクラスメイトに囲まれてたっていうのによ。
でも、本当に逢えてよかった!!ずっと、ず~っと探してたんだぞ大親友!!!ということがあった後、俺は円卓の部屋に連れていかれたんだ。