日本・・(2)
俺は悠里が能力を試して安全であることが確認できたので、自身の能力であろう<心身操作>を試すことにした。
何となく使い方は理解できる。
相手の心を乗っ取り、俺の意思の通り行動させることができるのだ。
但し、相手の自我が無くなるわけではないので、言ってみれば強制的に俺の信者にして奴隷のようにこき使えるというわけだ。
支配者である俺にふさわしい能力だ。
そうなると誰に試すか・・・
解除もできるようなので、取り巻きの一人に試してもいいかもしれないな。
よし、じゃあ<魔力強奪>とやらを持っているやつに試してみよう。
正に能力を試そうとしたところ・・・豪華な服を着た、いかにも王!と言う感じの者がこちらに向かって歩いてきた。
「我はこの<シータ王国>の王、ドルロイである。今回勇者召喚によって召喚された特別な存在である方々よ、先ずは今の状況を説明させて頂いても宜しいか?」
ふん、俺達・・いや俺が特別な存在なのは当たり前だ。だが一応流石は王なのだろう。俺の価値をきちんと理解しているらしい。
おあつらえ向きに状況説明もしてくれるそうなので、話位は聞いてやろう。
その後はこいつで能力<心身操作>を試してやるか。
「ああ、説明してもらおうか。」
「先ずはここは<シータ王国>王城近くの特別な召喚場になっている。我らの至宝である召喚術を使用して力のある特別な存在である勇者を召喚した。そして、その召喚に答えてこの世界に来てくれた勇者がその方達であるという事になる。更に勇者の資質のある物は、この世界に来るときに特別な・・そう、この世界の者が持てないほどの特別な力を授かるはずなのだ。その辺りは確認していただけたかな?」
やはりあの脳内に伝わったメッセージは正しい情報なのだな。
そして、今の話から行くと最早ここは日本・・いや地球ですらないだろう。
なぜ言葉が通じるのか等疑問点はあるが、もう少し話を聞くとしよう。
「ああ、その特別な能力とやらは既に持っているのを確認している。」
「おお、素晴らしい。だが至急伝えなくてはいけない事が有る。その能力の中に<翻訳>と言う物を持っているか?」
俺にはないし、聞いた限りでは他のやつらにもないはずだ。
一応俺は周りを見るが、全員首を横に振った。
「いや、俺達全員持っていない。」
「やはりそうか。とすると、今はこの世界に召喚されて時のエネルギーの残りの力で言葉が通じているが、これが枯渇するとお互いの会話が成り立たなくなる。なので最初に確認させて頂いた。だが、我らの伝承で当然この部分を補える翻訳魔道具を6個準備している。これをつけてくれればエネルギーが無くなってお問題なく会話を続けることができるだろう。」
成程、このドルロイが王の力と秘宝を使用して、ようやく俺を呼び寄せることができたのか。
まあ当然だろう。俺と言う高みにいる存在を地球ではない世界に呼び寄せるためには、膨大なエネルギーが必要になるのは理解できる。
そしてその余剰による翻訳機能が発動している間に、俺と会話を継続するために翻訳魔道具なる物を準備している所など、中々使えるやつのようだ。だがしかし、俺には確認したい事が有る。
「こっちから質問がある。この世界には俺達と同じように召喚されたものはいるのか?」
「我が<シータ王国>がかなり前・・我は伝承でしか知らぬが、一度だけ召喚を実施した。当然過去の話なのでその召喚者はこの世にはいないがな。」
なるほどな。だからこの<シータ王国>とやらには召喚に関する伝承・・・召喚方法などが残っているのか。
とすると、俺的にはもう一つだけ確認しておきたい。
ここは地球ではない・・異世界なのだ。きっといるはずだ。
「ここは俺達が元いた世界ではないという事だと理解した。という事はだ・・俺達のいた世界の伝承ではエルフ族がいると思うが・・どうだ??」
「なるほど、そちらの世界にもいくつかの伝承があるわけだ。流石は勇者だ。ああ、エルフ族は存在する。大体奴隷だがな。」
奴隷ならば好きにし放題か。よし、俺はもうこの世界で生きていくことにしよう。退屈な前の世界に用はない。
「ああ、わかった。で、この魔道具とやらは指輪に見えるが・・指にはめるのでいいのか?大きさが皆同じに見えるが・・」
「この指輪は魔道具であり、指の大きさによって指輪の大きさも変化する。しかもいつの間にか外れて翻訳機能が使えなくならないように、外れない仕組みだ。安心して使ってくれ。壊れることはない・・と伝承にはあるが、予備はないのでそのつもりでいてくれ。」
成程な。相当高価な代物なのだろう。俺にふさわしい。
俺が貰ってやるが、俺以外もつけないとこの世界の者達との交渉も全て俺がすることになってしまうので、しょうがなくこいつらにもつけさせよう。
「おい、お前らも一つ貰っておけ。言葉が通じなくなると困るからな。」
そして各々好きな指に指輪を付けた。
ドルロイの言う通り、指を通したら指輪のサイズが勝手に小さくなり指と一体化した。
「フフフフ、全員指輪を着けたな。その指輪の本当の効果を教えてやろう。」
あ?何を言ってるんだこいつは。
「召喚によって強大な力を得る事、召喚には膨大なエネルギーが必要となる事は事実だ。何せ貴様ら異世界の者を一人召喚するのに1000人の犠牲が必要なのだからな。貴様らを召喚するために6000人の命が絶たれたのだ。だが、言語が通じなくなるなどという事はない。その指輪はな、貴様らが我に不利益を被ることができなくなる・・ある意味呪いの指輪だ。当然指と一体化しているが、指を切り落としても最早呪いは解けん。ハハハ、貴様のようなプライドの高そうなやつは、ちょっと特別なやつ・・などと少しおだてれば、こちらの話を疑いもせずに聞き入れる。扱いやすい奴だ。」
こいつ、そっちがそのつもりならこっちも能力を即お前に試してやる・・・
と実行しようとしたのだが、何故か実行できない。
くっ・・これが呪いの効果か・・・・
「クククク、何やら能力を我に使用しようとしているようだが、無駄なことよ。呪いが既に効いているのでな。だが安心しろ。別に貴様らを取って食おうなどとは思っていない。むしろ協力関係でいたいとすら思っているのだ。場合によってはエルフの奴隷も手当てしよう。む?なぜ指輪が一つ余っている・・1、2、3、4、5・・・6人目はどうした!」
やはりここに斎藤は召喚されていたようだ。
「俺達が気が付いた時には既にいなくなっていた。」
「なんだと、貴重な犠牲を払ったが・・・まあいい、まずは貴様ら5人で良いだろう。」
悔しいが逆らえないようなので、このまま話を聞くしかない。
「今、我が<シータ王国>は非常に危機的な状態に陥っておる。それもこれも一領土であった辺境北伯の裏切り行為によるものだ。やつらは勝手に我が<シータ王国>から独立を宣言し<アルダ王国>なる国を建国した。いまは隣国という扱いだ。当然我が国は反逆者を討伐しようとしたが、失敗してしまったのだ。やつらの中でも国王を名乗るダン・アルダの次男・・ジン・アルダが特に危険だ。そこで我は<シータ王国>に伝わる秘伝中の秘伝である召喚を実施することを決意した。この儀式は6000人者犠牲が必要になり、貴様らを制御する指輪も6個しかないのだからあまり実施したくはなかった。だが、我はあの反逆者を見逃すわけにはいかんのだ。どうだ?あの<アルダ王国>なるバカげた国を名乗る者共を蹂躙した後は、一生遊べるほどの財宝をやるし、好きなだけ好きな種族の奴隷を持たせてやるぞ!」
俺達に逆らえない指輪をさせた状態で、褒賞を提示するとは・・どの道断れないのなら受けた方が良いだろう。
この世界の状況もあまりよくわかっていないし、丁度良いかもしれないな。
「ああ、良いだろう。その<アルダ王国>とやらをぶっ潰してやるよ。丁度その次男とか言うやつの名前も、俺の世界にいた気に入らないクズと同じ名前なのも不愉快だ。だが、報酬は忘れるな?」
「もちろんだ。まずはお前たちが力の扱いに慣れて、この世界の事を理解した上で蹂躙することにしよう。当然我が把握できているやつらの戦力なども追々説明していく。」
「おい、お前らもそれでいいな?」
おれは悠里と取り巻き3人に確認する。と言うよりもこれは強制だ。
わかっているのかいないのか・・こいつらは頷くだけだった。
少し体調戻りました