大同盟の交流・・(26)大会2日目 ハルドVSミーナ
制限無し、そして今日の最終試合がまもなく行われる。
ステージには二人の近衛が表れた。
一人は猫獣人のミーナ。既に武具を展開し、黄色のガントレットと、茶色のソルレットを装備している状態だ。
一方のハルドは、何と武具を展開しておらず、腕輪の状態のまま表れた。
おいおい、これだと200%の確率で瞬殺されるんじゃないだろうか?
すでにステージにいる状態なので少々気まずいが、試合開始前という事で<念話>で状況を確認させてもらうことにした。
『ハルド、なんで武具を展開していないんだ?』
『ジン様、私は通常の訓練の意味合いも込めてこの試合に参加させて頂いております。現実では万が一の場合、我々が常に武具を展開している状態ではない・・いえ、通常は展開していない状態であるため、そこから強敵と突然対峙した時の対応をどのようにするのか、の検証としてこの試合を実施してみたいと思いまして・・武具の展開速度も常に早くできるようでないと、一瞬の差が命取りになる場合がありますので。』
『わかった、ありがとう。』
ハルドはかなり生真面目で、このようなある意味遊びのような大会でも、自らの研鑽の一部として色々考えているらしい。なんだかこんな細かいことでも、彼らの高すぎる忠誠心が垣間見える。
一方のミーナは・・何も考えていないのだろうな。忠誠心は当然高いけれど、彼女は何かを考えるのが得意なようには見えない。さすがはロイド兄さんの護衛だ。
彼女はこの試合で全力を出せる事をかなり喜んでいたので、試合開始直後から突っ込んでいくのではないだろうか。
俺達は新たに王族用に準備されているジュースを手に、試合を観戦している。
いよいよ近衛同士の戦いだ。ドラムがなり、両者共に徒手空拳で戦う時の構えを見せる。
左半身を前方に出し、左手を顔の前、右手はやや引き気味に腰の近くに引いている。
まだハルドは武具を展開していない。
その後、ミーナの姿がブレたと思った瞬間、ハルドを中心に、上空、地面全てを覆う勢いで彼女の残像が見えた。
観客はステージを見るとハルドしか見えない状態になってしまっているので、大画面の魔道具に見入っている。
最近の試合はこのような状態ばかりなので、開始直後から殆どの観客は大画面の魔道具を見ているのだ。
これって、この会場にいる意味があるのだろうか?と思わなくもない。
そして、ミーナの残像全てが、中心部分にいるハルドに襲い掛かった瞬間、ハルドは瞬時に武具を展開して双剣で迎撃している。
ステージを見ている観客は、ギンギンと迎撃の大きな音が聞こえているのと、ミーナの残像がある一点、ハルドのいる位置に向かって行っているくらいしか見えていないだろう。
ハルドが直前に伝えてきた通りに相当訓練しているのだろう。初めて武具を展開した時よりも遥に早い展開速度であったのは間違いない。
そして、ある程度敵が攻撃を始めている最中からでも武具を展開して迎撃できているのだ。
やがてミーナの第一陣の攻撃は終わり、一旦両者共に離れた状態で対峙した。
他の試合ではなかったことだが、ミーナが突然ハルドに話しかけた。
「流石はハルドにゃ、なかなかやるにゃ。こっちは体もあったまってきたので、徐々に力を入れてくにゃよ!前回の鍛錬場での借りを返すにゃよ!」
「いやいや、ミーナが5勝4敗で勝ち越しているではないか。ここで同列にさせて貰うつもりなので覚悟してもらおう。」
どうやら彼らは鍛錬場で模擬戦を実施しているらしく、当然だが実力が拮抗している為、同じような勝率ではあるが、直前はハルドが勝っているらしい。
お互いが力を入れ始め、体の表面から魔力が溢れ出てきている。
ミーナは若干腰を落として力を溜めたかと思うと、今度は正に電光石火・・<転移>でも使ったかの勢いでハルドの前に表れて攻撃を加えようとしたが、ハルドは<転移>で上空に退避している。
お互いの手の内をある程度知っているのだろう動きだ。
だが、当然ミーナもこの退避についても想定内なのだ。彼女も<転移>を持っており、ハルドの背面に表れて踵落としを見舞っている。
しかし、ミーナもハルドも<危機回避>や<危険察知>を持っているので、攻撃は中々当たらない。
今回の踵落としも、ハルドは振り向かずに双剣を頭上で交差することにより易々と防いでしまった。
「やっぱりこの状態では勝負はつかないにゃ。これからが本番にゃ。」
そして、ミーナの武具に変化が起こった。
黄色のガントレットは黄金、茶色のソルレットは黒に変色した。
対してハルドは、このままでは危険だと<危険察知>が反応したのだろう、即座に武具に力を込めると、こちらも変化が起きた。
双剣の色は、銀は金に、赤は紫に変色し、紫色の剣からは魔力が噴出してハルドを覆っている。
きっと防御系統の力を増強しているのだろう。とするともう一方の金色に変色した剣は攻撃系統が上昇しているはずだ。
ミーナはハルドとかなり距離を取った状態から正拳突を繰り出した。ゴンという音と共に衝撃波が生まれ、ミーナとハルドの間にあるステージを豪快に抉りつつハルドに襲い掛かる。
ハルドは金色の剣を一閃して、同様に斬撃を飛ばしてその衝撃波を相殺した。
「・・・・・」
俺はあっけにとられた。うちの近衛は強すぎるのではないだろうか。
幻獣が<神の権能>を使ってしまうと敗戦濃厚になるが、はっきり言って異次元の強さであるのは間違いがない。
ミーナはこの衝撃波は防がれると思っていたらしく、既に<転移>と高速移動を駆使してあらゆる方向から衝撃波を放っている。
更にその衝撃には一部<土魔法>が付与されているようだ。
最早彼女の動きは<神の権能>を使わないと補足することができない。
残念ながら大画面の魔道具でも補足できていないようだ。
ハルドは、金の剣から同じように<土魔法>を付与した斬撃を飛ばして相殺しているが、如何せんミーナの動きが早すぎる。
徐々に近接を許して、直接一撃を食らってしまった。
場外まで吹っ飛ぶ勢いで飛ばされていたが、<転移>を使ってステージ上に現れた。
殆どダメージは無いようだ・・・おそらく紫の剣の刃から噴出している魔力がハルドを覆っており、これにより防御力が大幅に上昇しているおかげだろう。
このままではハルドは防戦一方になるのだが、ハルドには何やら次の手がありそうだ。
ミーナは通常の衝撃波と、<土魔法>を付与した衝撃波を断続的に発生させて攻撃を継続している。
更には隙をみて近接して、直接ハルドを狙うのだ。
対して、ハルドは直接攻撃は時折受けてしまうが、高い防御により大きなダメージは受けていない。
また、衝撃波に対しては斬撃で相殺している。
こうなるとステージ上は最早何も見えない。
大画面の魔道具でも、ミーナの動きは補足できていないため、時折ハルド近くに現れる攻撃の余波が見えるだけだ。
やがてミーナは、空中に衝撃波を集め始めた。ちょっと何を言っているかわからないが、衝撃波を巨大化させているのだ。
高速で動いているミーナは、空中に衝撃波を集めつつ、直接攻撃でハルドを牽制している。
そして、空中の衝撃波が頭上からハルドを襲い、ミーナが離脱した瞬間にハルドの目が輝いた。
<魔眼>を発動したのだろう。
どの様な効果があるのかはよくわかっていなかったが、なんと、衝撃波の向きがミーナに突然向かったのだ。これは・・衝撃波を乗っ取ったのか?
突然向きを変えた衝撃波と共に、ハルドはミーナの背後に<転移>して双剣で襲いかかった。
だが、ミーナの速度は神レベルであるため、一瞬でミーナの姿は掻き消えた。
<転移>は使っていない。正直高ステータスになると、微妙な魔力の揺らぎで転移先はおよそ判別することができる為、そこに攻撃されることを防いだのだろう。
ハルドもミーナを見失い、<気配察知>を使用すると共に、紫の剣の刃から噴出している魔力を増大させて、自身の防御力を上げている。
すると、ミーナが背後から表れて<土魔法>で作った無数の槍でハルドに攻撃を始め、振り向いて迎撃を始めるハルドに衝撃波を浴びせた瞬間に、ハルドの背後に表れて右手の甲に正拳を放った。
ハルドは右手に持つ金色に変色している武具を弾き飛ばされてしまった。
瞬時に腕輪に戻して再度顕現させようとしているが、その隙を見逃すミーナではない。
腕輪に戻した時点で、進化させていた武具の強化・・防御力は失われているので直接ミーナの正拳を受けて飛ばされてしまった。
素のステータスでもかなりの防御力を持っているが、ミーナの攻撃をまともに受けたため<転移>を使用する余力はなかったのか、そのまま場外に飛ばされてミーナの勝利が決定した。
ミーナも戦闘になるときちんと戦略を考えているのだろうか?
何れにしても、異常な盛り上がりを見せた大会2日目はこれで終了となった。
はっきり言って、ミーナの速度は異常だ。神の力を使わないと補足できないとは・・・そして、それに対応して見せたハルド、全員これからも厳しい鍛錬を積むのだろうから、今後の成長が楽しみだ。
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