大同盟の交流・・(24)大会2日目 セリアVSエレノア
引き続き幻獣同士の戦いです。
さあいよいよやってまいりました。幻獣同士の仁義なき戦い。
セリアVSエレノア
彼女たちのステータスの違いは、エレノアは<精神耐性>を持っており、セリアは<身体強化>を持っている。
こう見ると<身体強化>を持っているセリアが有利に見えなくもないが、きっとお互い幻獣同士の戦いという事で、<神の権能>を使うのだろう。
彼女達をそこまで勝利にに駆り立てる物はなんなのか・・・俺とのお出かけなら、皆とそれぞれ行っても何の問題もないので、もう少しだけ俺の心労を減らしてくれた方がありがたいのだが・・・
あの二人の戦いであれば、何が起こるかわからないので神獣達も俺も<神の権能>による観客の保護を瞬時に行えるように、既に発動している。
なので、ステージにいる彼女達からは既に<神の権能>を使用しているのが確認できているんだ。
改めてみると、契約魔獣が使用できる<神の権能>を使用している時点で、両者のステータスは同じと考えてよい。
勝負の分かれ目は、ステータスによらない部分・・・地力をどれ程鍛錬しているか、そしてどの様な戦略で戦うかになってくる。
観客はこの試合も見ごたえのある試合になる事を予想して、前のめりでステージを見ている。
セリアは銀髪のセミロング、エレノアは金髪のセミロングだ。
互いにステージ中央で一礼し、向きを変え全方向の観客に一礼を繰り返した後、お互いに距離を取った。
そして互いに向かって礼をし、開始の合図を待っている。
他の試合と同様に、力の奔流による魔力の流れによって二人の髪は揺れている。
やがて試合開始のドラムが鳴らされた。
お互いに本気で殺りあう勢いで、魔方陣が空中と地面の至る所に展開されている。
それぞれの魔方陣に力を溜めつつ、新たな魔方陣を高速で生成しているのだ。
そして、地面の魔方陣から無数の氷と土の槍がそれぞれに向かって飛び出してきたかと思うと、空中を漂っていた魔方陣からも光、水、氷、炎、風、雷・・と魔法の乱発だ。
誰がどの魔方陣を生成したのかすらわからず、ステージは轟音と共に煙に包まれた。
その状態でも継続して光や轟音、そして時折、風によって煙が動く様子が確認できるが、お互いの攻撃は止まっていない。
大画面魔道具には、最早何も映されていない。いや、あまりの力により映すことができないのだろう。
こうなると、このままエスカレートした場合の闘技場の安全は確保できない。
ガジム隊長は今までの試合とは異なり、隊員にしきりに何か指示を飛ばしており、それを受けた隊員も忙しなく動いている。
「皆、この試合は本気でまずそうだ。万が一の防御系統の魔法、発動準備を頼むよ。」
俺も神経を研ぎ澄ませて、いつ何が起こっても良いように身構える。
<神の権能>を使用して確認すると、彼女達は魔法・体術を駆使して互いを牽制・攻撃している。
防御に関してはスキル任せの自動防御のような形で、攻撃に力を入れているのだ。
つまり・・・この闘技場破壊の時が近づいている。
闘技場を覆っていた不可視の膜が若干赤く色づいてきた。
『こちらガジムです。緊急事態が発生しています。この試合がこのまま継続されると、魔力保管用の魔道具にある魔力が枯渇します。その時点で闘技場の衝撃や余波を防ぐ機能は停止し、観客にも被害が及ぶ可能性があり、一旦試合を停止したいと思います。』
父さんも若干焦った様子で二コラから報告を聞いている。
今回の<念話>は、俺達メインに送られており、父さんたちは魔道具を通じて報告を受けている。
このメッセージには万が一の危険があったら対応を頼む・・と言うのも含まれているのだろう。
そして、闘技場にある大型魔道具から試合停止の合図が流れた。
ここで止まらなければ俺が<念話>で、それでもだめならば介入しようと思っていたが、二人とも即戦闘を中止し、魔方陣も全て消失した。
残ったのは、徐々に回復しつつある闘技場と、完全に可視状態になってしまっている赤い防御膜、そして中央付近にいる二人の美女だ。
「ジンよ、このまま試合の継続は難しいんじゃないのか?」
父さんの指摘通り、多少の休憩時間を取ったとしてもこの状態での試合継続は難しいだろう。
「うん、ちょっと厳しいと思う。今回はある特定の力を開放して戦っているんだけど、それを禁止する方向であれば、多少の休憩時間を取ることで大丈夫だと思うけど・・」
「そうか、わかった。安全第一なので特定の力を禁止する方向で調整してくれ。」
「わかった。<念話>で調整しておくね。」
俺は、<神の権能>についての具体的な説明は敢えて避けて、特定の力として説明した。ここは身内以外が多すぎるからね。
しかし、さすがのガジム隊長も、神の力を使われては対処できなかったのだろう。
「モモ、幻獣達の鍛錬場での鍛錬は、<神の権能>は使ってなかったのかな?」
神獣のお姉さん的な立ち位置にいるモモは、幻獣達からもお姉さんのように慕われており、色々と情報を持っていたりするので、聞いてみた。
「はい、地力を上げるためにスキルを一切使わなかったり、スキルを磨くために特定のスキルのみを発動したりと、工夫した鍛錬を行っていたようですよ。」
そうすると、ガジム隊長は<神の権能>の対策を練れるわけがない。緊急事態を宣言して試合を中止したのは英断だ。
<神の権能>を使わなくても十分見ごたえのある試合・・いや使われると何をしているかわからないので、むしろ<神の権能>を使わない方が観客にとっていい試合になるはずだ。
『セリア、エレノア、見てわかってもらえると思うけど、<神の権能>を使用すると闘技場が持たないので、この試合は制限無しだけど<神の権能>だけは使わないで貰っていい?』
『『承知しました。』』
よし、確認が取れたからガジム隊長にも連絡しておこう。
『ガジム隊長、あの二人には強力な力は使わないように言っておいた。なので、今までの試合程度の力に収まってくれるはずなので早めの回復お願いね。およその再開時間を案内しておいて。』
『ありがとうございます。我らの力不足で申し訳ありません。』
この<念話>の少し後、カードと大画面魔道具により試合再開は30分後と案内された。
当然試合中断の理由も、隔絶した力により闘技場の防御性能が保てなくなる可能性が高く、安全の為一旦中止させてもらった・・と説明済みだ。
もちろん今後の試合については、問題なく観戦可能なことも付け加えられている。
予期せぬ展開に、観客は一瞬騒然とした。まさか何も見えない状況になって突然試合が一旦中止されるとは思ってもみなかったのだろう。休憩後の試合開始からあまり時が経っていない状態で再度休憩になってしまったため、観客はそのまま闘技場にとどまる人が大半だ。
そして待つこと略30分、試合が再開された。
展開としては同じように数々の魔方陣が出ているが、<神の権能>を使用していない状態での発動なので、大画面の魔道具でも補足できるし、安全にも問題なさそうだ。それでも凄まじい力ではあるのだが・・
ステージ上では、セリアが<身体強化>を使っているのだろう、高速で分身体のような物を作り出して近接戦闘に持ち込もうとしている。
スキル構成から、そうなるとセリアが有利か?
それをわかっているからか、エレノアは距離を保ちつつ<氷魔法>で迎撃を試みている。
エレノア自体は<身体強化>を持っていないために、すぐに補足されてしまうかと思ったが、<雷魔法>を自らに使用しており、<雷魔法>による電気を微細なコントロールで利用し、身体能力を大きく上げているようだ。
結果的に、セリアよりもエレノアの方が動きは速そうだ。
<身体強化>を持っていないエレノアは、<雷魔法>を利用する技術を磨いてきたのだろう。素晴らしい動きで、俺達以外は大画面の魔道具を介して出ないと、姿をとらえることはできない。
だが、<身体強化>の効果は動きの速さだけではない。全てが強化されるため、例えば拳で撃ち合えば力が全く違ってくるのだ。
エレノアの場合は、<雷魔法>による速度を強みに攻撃を先に当てることになってくるのではないだろうか。
近接攻撃を当てたいセリアと、遠距離から<氷魔法>で迎撃しているエレノアの攻防は続き、闘技場は氷まみれになっている。闘技場に備わっている不可視の防御膜により寒さが伝わってこないので助かっている。
だが、こうなってくると足場はかなり悪い状態なので、動きが鈍るかと思ったがそうではない。両者ともに<転移>を駆使して同じ状況を繰り返している。
やがて、エレノアが常に<雷魔法>を制御しながら連続して<氷魔法>を発現している影響か、セリアに背後を取られてしまった。と言ってもお互いに<危機回避>や<危険察知>を発動しているだろうから、スキルによって無意識で回避されないように、ある程度の距離を取った状態ではあるが・・
セリアはこの瞬間に攻撃系統の魔法を一気に放つ為に攻撃に集中した。
してしまった。つまり、通常発動し続けている<危機回避><危険察知>に割いている僅かな力さえも全て攻撃に集中してしまったのだ。
その瞬間、氷まみれになっていたステージを通してエレノアの<雷魔法>がさく裂した。
水分を通した<雷魔法>はセリアに直撃し、通常なら一瞬で炭化するような攻撃ではあるのだが、耐性が高い幻獣であるセリアは一瞬硬直してしまった。
その隙に、<雷魔法>で身体能力を上げているエレノアは、セリアに対して速度重視の正拳を加え、体が動かないセリアはまともに食らった。
そのまま氷の上を流れるように飛ばされて、場外まで落ちたのだ。
セリアは痺れのおかげで<転移>での退避も行うことができずに、敗戦となった。
セリアは、少しでも<魔法耐性>などに使用している力を残しておけばこんな状態にはならなかったのだろうが、全力で行かないとエレノアにはダメージを与えることができないと思い、わずかな力も温存せずに攻撃に割り振ってしまったのが、結果的には大きな致命傷になった。
逆にエレノアは、<身体強化>がない不利な状況にも関わらず、知略を駆使して勝利を掴んだと言える。
<神の権能>を使い闘技場が破壊されそうになった時にはどうしようかと思ったが、結果は素晴らしい戦いだった。
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