私はウェイン
僕ウェインの活動です
私はウェイン。ジン様の僕として召喚されたものだ。
私の意識がはっきりした時には既に目の前にジン様がおり、ジン様のお名前は何故か理解できた。また、私の命よりも大切なお方であると本能で理解した。
そう、私はジン様の命令に全力を以て当たる必要があるのだ。
そして、偉大なるジン様に認めて頂き、お傍に使えることをお許しいただくことが私の希望であり、野望であり、欲望である。
今回の召喚でご命令頂いた「ジン様のご実家に、ジン様の音声およびお手紙、ナイフをお届けし、ご実家の皆様から受け取った物をジン様にお届けする」と言う、失敗は決して許されない任務を完璧に遂行し、私の野望に一歩ずつでも確実に近づくのだ。
私は全力を以て影の内部を移動した。
しかし スキル<影魔法:Lv6・・上級>では、連続していない影の中は移動できず、一度陰から出て移動先の陰を少しでも視認する必要がある。
このような不甲斐なさでは、我が野望を成就するのは夢のまた夢だ。
しかし、スキルは使用し続けることでLvを上げることができるため、この任務中にもLvが上がるように研鑽するのみだ。
そうこうしているうちに、<神狼>の入口にたどり着いた。
実は、ジン様に、
「管理者権限の及ぶ入口までは転移させようか?」
とおっしゃっていただいていたのだが、スキルのLvアップを行いたいことや、ジン様のお手を煩わせたくなかったことから、不敬ながらもお断りさせていただいたのだ。
そして、説明は受けていたが、この<神狼>を管理?している辺境東伯の領地が目の前に見えた。
と言うよりも、城壁と門しか見えないのだが・・
<探索:Lv3・・中級>を発動しても、城壁近くに衛兵等が潜んでいるようには感じられず、門も目に見える門番しかいないようで、随分と甘い警備であるように見られる。
ここは、ジン様を嵌めたクズの一角の領地のようなので、どうでもよいが・・・
そう、どうでもよいのだ。私の命よりも大切な任務を遂行しなくでは。
私は影を視認し転移、影内移動、また影を視認し転移、影内移動を繰り返して、ジン様のご実家に向かい疾走した。
夜になり日の光が無くなると、影が途切れることはないため一気に速度を上げて影内を疾走する。
そして日が昇り、影の連続性が無くなり影内を移動できなくなった時点で、移動できる影を視認しを繰り返し、2日目の昼過ぎに、ジン様ご実家が管理なされている<神猫>の巨大な入口が見えた。
何故<神猫>の入口であると理解できたかと言うと、基本的に地下迷宮の入口には、呼び名となっている魔獣がモチーフとして描かれているからだ。
いや、逆にモチーフをそのまま呼び名としたのだろう。
そして、ご実家の城壁および門を見ると、明らかに<神狼>から見えた城壁と比べて警戒態勢が高くなっているのを肌で感じた。
早速<探索:Lv3・・中級>を使用すると、城壁の至る位置に弓兵・・おそらく<弓術>のスキル持ちが配置され、門の入口には屈強な魔族・・に見えるもの・・が検問を行っている。
そう、ジン様のご実家の領地では、人族以外の種族と共存しておられるのだ。
とすると、私の種族である双鬼も、ひょっとしたらご主人がこちらに戻られても、ずっとお傍に置いていただける可能性が高いのではないか・・・・
しかし、何度も言っているが、まずは任務遂行だ。
私は、<影魔法:Lv6・・上級>により、城壁内部の陰へ移動を試みたが、魔法的な防御も実施されているらしく、転移することができなかった。
よく見ると、城壁に魔力を感じるので、恒久的な防御態勢が敷かれているのであろう。
私が転移失敗し、おそらく城壁に施されている魔法防御が反応したのだろう。城壁の弓兵や門番が一気に緊張したのが分かった。
これは素直に事情をお話しさせていただき、ご家族の皆様にお目通りさせて頂くのが最善だろう。
門番はおそらく魔族なので、人族でない私が行っても少なくとも話は聞いてもらえるはずだ。
私は辺りに気配がない位置まで移動した後、陰から出て姿を完全に表してから歩いて門に近づいた。
「そこで止まれ!」
門番が、門から若干距離があるにもかかわらず私に警告した。
警戒レベルが上がっているため、このような処置になったのだろう。
指示の通り私は止まり、次の指示を待った。
「我々はたった今、何かしらのスキルにより不法侵入を試みられた。このダン・アルダ辺境北伯様が納める<アルダ>は、人族以外も領民になっており、人族以外を認めていない他の領地から不法な扱いを受けているため、警戒させていただいている。見たところ人族ではなさそうだが、どのようなご用件か?」
ダン・アルダ様とは、私が敬愛するジン様のお父上である。
私は、門番の口調が命令口調ではないことから、話が通じるのではと判断し、領主ご子息であるジン様の使いであることを話し、取次をお願いした。
しかし、警戒レベルが高かったせいか直接すぐに面会とはいかないとのことで、先に手紙をお渡しいただくこととした。
手紙が領主様に届けられている間、門番はジン様について色々と聞いてきた。この門番もジン様ご家族を敬愛しているようだ。
見る目がある。
今のジン様の状態や、経緯を説明したが、クズ共の話となった瞬間は門番から殺気が漏れ、
「辺境北伯でおられるダン様ご家族は、私を含む人族以外の種族を快く受け入れ、このように仕事も与えて下さっている。それを面白く思わない他の辺境伯や、貴族、さらには王族までもがダン様を貴族の最底辺である男爵のように扱ってくるのだ。我らはダン様ご一家に恩返しができるよう、いつでもこの命を懸ける覚悟ができている。ジン様を裏切ったクズ共は、必ず報いを受けさせる!!」
やはり彼は魔族であった。人族ではこのレベルの殺気は出すことができないだろう。
「全くもって同感だ。私の主人はジン様だが、そのご家族、そしてそのご家族が守ろうとしているものも、私の仲間だ!」
と、話をしている最中に、手紙を届けてに行っていた門番の声が聞こえてきた。姿は見えない為、辺りを見回してしまったが、人族以外の魔道具作成が得意な種族が様々な道具を作成しており、音声を飛ばす魔道具により声を伝達しているとのこと。
なるほど、城壁の魔法防御もその種族によるものかもしれないな。
「ダン様が、ジン様の使いの者とお会いになるそうだ。至急応接に連れてきてくれ」
「承知した。・・・では、ついてきてくれるか?」
残りの門番は、相変わらず警戒態勢を解いていない状態のままであるが、原因は自分であることを言うタイミングを逃してしまったので、心の中で謝罪しておく。
私は、門番に促されるまま、傍にとめてあった馬車に乗らされ、そびえたつ城に向かった。
暫く馬車に揺られ、城の入口に到着したとたん、
「「「ジンは無事?」」」
応接とやらに到着するまでもなく、城の入口でご家族の皆様から詰め寄られた。
やはりご家族、魔力が似通っている。
そうだ、ここでご家族の方々に良い印象を持っていただければ、野望に一歩と言わず10歩位近づけるのではないだろうか?
そう思った私は、即ジン様からの指示である自身のステータスを表示しつつ跪き、
「皆様、私はご覧いただいている通り偉大なるジン様の僕であるウェイン!!。ウェインと申します。ジン様はご無事であり、全く問題がございませんのでご安心ください。ここにお預かりさせていただきましたナイフがございますのでお納めください。また、私のスキルを使って、ジン様の伝言を再生させていただきます」
ジン様のメッセージを聞き終わったお父上である領主様が一歩前に出て、私が差し出すナイフを受けっとって下さった。
「確かにジンのナイフだ。特に異常状態にはなっていないようで安心した」
ナイフの柄の部分をご覧いただき、状態を確認されたようだ。
ご家族皆様がホッとした表情になる。
少し空気が緩んだのか、兄上様であるロイド・アルダ様に話しかけて頂けた。
「ウェイン・ウェイン、わざわざジンのためにありがとう。手紙を皆で読ませてもらったよ。服については姉が用意する。それはそれとして、他の辺境伯の裏切りについてはある程度想定できる事態ではあった。ただ、今回の<神狼>の攻略については、なぜか王命と言う形だったから、断ることができずに心配していたんだ」
しまった。名前を憶えて頂くために強調して2回伝えてしまったせいか、微妙な名前で憶えられてしまっている。
どう訂正するか悩んでいる所、お母上様と姉上様であられるヤリス・アルダ様、ソフィア・アルダ様にも話しかけて頂けた。
「ジンが心配でしたが、あなたのような方を仲間にできて元気にしているようで安心しました。ソフィアには、たくさんの女性用の洋服を準備させますので、安心してくださいね」
「そうですよ。私に任せておいてください・・、でも、まさかあなたが着るわけではないですよね?」
まさか、まさかである。
私は、これ以上の誤解はまずいと思い、2つ程訂正させていただくこととした。
「皆様、大変申し訳ございません。いくつか訂正させていただきたいのですが、先ず私の名前は<ウェイン>でございます。先ほどは緊張しており、2度繰り返してしまい誤解を与えたこと、お詫び申しあげます。また、ソフィア様、もちろん私が女性用の服を着るわけではなく、我々の仲間、ジン様にお仕えする者が着る予定でございます」
そう、アピールではなく緊張のせいにして、名前を2回繰り返したことをうまくごまかした。
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