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偽装彼氏を引き受けまくった結果

作者: 燦々SUN

 事の始まりは、女子校に進学した幼馴染からの一本の電話だった。


『ごめん! 友達にあんたのこと、中学から付き合ってる彼氏だって紹介しちゃってたの! そしたら今度彼氏を呼んでトリプルデートしようって言われて……お願い! 一日だけでいいからあたしの彼氏のフリをして!!』


 まさか、これがかの有名な偽装彼氏ってやつか? 都市伝説だと思ってたんだが……と思いつつ、まあ要するに一日遊ぶだけだしそのくらいならいいかと思って、デート代は全額そっち持ちという条件で引き受けた。


 そして、つつがなくデートを終え……つつがなく? うんまあ、流れで全員ラブホに行くことになって、「え? ど、どうする?」みたいなちょっと変な雰囲気になったりもしたが、当然手は出さずにテキトーにだべって30分で部屋を出た。

 女子校通ってる子でもヤることヤってんだなぁとちょっと悲しい気分になったり、一緒にいた男2人がお楽しみの中、偽彼女とコソコソ帰る自分にすごく虚しくなったりもしたが、まあいつか本当の彼女と実践する時のための勉強になったと思えば、無駄ではなかっただろう。


 その後、しばらくは「関係が続いている証拠を撮る」と言う幼馴染に連れられて何度かデート(?)を行い、自撮り写真を撮りまくったものの、それも俺の「そろそろいいんじゃない?」という提案によって、一月ほどで終了。

 予定通り、幼馴染は友人達に俺と別れたと伝えたらしく、この件はこれで終わった……のだが、その一週間後。幼馴染の親友でもある、我がクラスのアイドル様に声を掛けられた。


「お願い! 難しい手術を控えているおばあちゃんが、生きている内にわたしの彼氏が見たいって言っているの! 一日でいいから、わたしの彼氏になって!!」


 どうやらあいつ、他校の親友だと思ってあっさり偽装彼氏の件をバラしたらしい。

 だがまあ、学年一の美女と目されるクラスのアイドル様と、一日限定とはいえ恋人関係になれるなら男として正直悪い気はしない。

 純粋に孫の恋人を見たがっているお年寄りを騙すのは少し心苦しいが、今回は偽装彼氏ではなく一日限定の彼氏だ。限りなく黒に近いグレーだが、人助けと思って引き受けることにした。


 そして、つつがなく入院中のおばあさんとの顔合わせを済ませ……つつがなく? うんまあ、おばあさんに「あんたが彼氏とキスしているところを見れたら、手術を乗り越える気力が湧いてきそうなんだがねぇ」とか言われてキスするフリをしたりしたが、唇の横にちょこっと触れただけだったんでそこは許して欲しい。

 結局、手術は上手くいったらしくて今おばあさんはピンピンしているらしい。お陰で幼馴染と同様に一月ほど彼氏のフリを続けることになったが、それも一月後に彼女の方からおばあさんに俺と別れたことを伝えてもらい、この件は終わった……のだが、その一週間後。今度は我が妹に手を合わせられた。


「お願い! お兄ちゃん! 友達に彼氏いるって言っちゃったの! 紹介しろって言われちゃったから一日だけ彼氏のフリをして!!」


 ……どうやら、俺が幼馴染とデートしていることをどこからか知った妹が、幼馴染に「お兄ちゃんと付き合ってるの?」と訊いて、偽装彼氏の件がバレたらしい。

 それにしても、なんでどいつもこいつもそう見栄っ張りなのか。というか、俺に頼まずに本物の彼氏を作ればいいものを。お前らのルックスなら男なんて選り取り見取りだろうに……と言えば、揃いも揃って「知らない男の人は怖い」とか箱入り娘みたいなことをのたまう。

 まあ可愛い……可愛い? うん、まあ顔は可愛い…………うん、他ならぬ妹の頼みだ。兄として一肌脱ぐことにした。


 そして、つつがなく妹の友達への紹介を終え……つつがなく? うんまあ、友達の手前、腕組んで歩いたり1つのクレープをあ~んし合ったりしたが、すごく仲が良い兄妹だと思えば別におかしくはないと思う。なんか、途中で妹が「お兄ちゃん……なんか手慣れてない?」とか言い出してちょっと怖い顔になったりもしたが、それは些細なことだ。


 結局、これまた今までと同じ流れで一月ほど偽装彼氏を続けた後、妹の方から友達に俺と別れたことを伝えてもらい、この件は終わった……というか、なんだかんだ毎回一日じゃなくて一月付き合うことになってんなぁと思っていたら、満を持してラスボスの登場と言わんばかりに、とんでもないお方に声を掛けられた。


「すまない、17にもなって彼氏の1人も出来ない私を父が心配していてな……このままでは、したくもないお見合いをさせられてしまいそうなんだ。少しの間でいいから、私の彼氏のフリをしてくれないだろうか」


 そう頭を下げてきたのは、学園一のお嬢様と名高い、俺が庶務を務める生徒会のトップ。我らがカリスマ生徒会長様だった。

 どうやら、会計を務める我がクラスのアイドル様から情報が流れたらしい。俺といるところを会長に見られ、「君たち付き合っているのか?」と詰め寄られてゲロったらしいのだが……幼馴染といい、口軽いなオイ。

 まあ普段からお世話になっている、尊敬する先輩が頭を下げているのだ。ここは日頃の恩返しだと思い、後輩として協力することにした。


 そして、つつがなく会長のお父様との顔合わせを終え……つつがなく? うんまあ、「娘の彼氏として相応しいか確かめる!!」とか言い出したお父様に将棋で勝負を挑まれ、容赦なくボコった結果えらく気に入られてしまい、会長と1つの部屋で一夜を明かすことになってしまったりもしたが、当然指一本……えぇっと素肌には、指一本触れていないので問題はなかったと思う。

 その後、お馴染みの流れで一月ほど偽装彼氏を続けて別れた……のだが、その数日後。突然俺の教室に、1人の男が会長を連れて殴り込みをかけてきた。


「おい! この浮気野郎!」

「はぁ?」


 よく見ると、その男は幼馴染とトリプルデートをした時に会った、幼馴染の友達の彼氏の片割れだった。マジか、同じ学園の生徒だったのか。

 そいつは、連れてきた会長とクラスのアイドルを呼び寄せると、教室のど真ん中で俺を糾弾し始めた。


「俺知ってんだからな! お前がこの2人を含む4人の女子に、四股を掛けてんの!」


 そう言って、証拠としてスマホで撮った俺と4人とのデート写真を次々と見せつけてくる。

 ざわつく教室。その中で、そいつは勝ち誇ったかのように会長とアイドルに笑みを向けた。


「2人共、こんな浮気野郎とはさっさと別れた方がいいぜ? こいつが最低なクソ野郎だってのはよく分かったろ?」


 だが、2人の反応は当然……


「え、いや……」

「うん……まあ、知ってたし……」


 その瞬間、教室内の喧騒がピタリと収まった。

 ポカンと口を開けた男が、目をパチクリさせながら呆然と尋ねる。


「え? し、知ってた?」

「ああ……知ってたぞ?」

「うん……わたし達だけじゃなく、普通にみんな知ってるよ?」

「えっ、ってこと、は……」


 微妙な表情で頷く2人を前に、男は愕然とした表情でよろよろと後退あとずさりをし……突然真顔になると、俺に向かって深々と頭を下げてきた。


「すまねぇ……アンタ、(オトコ)だよ」

「へ?」


 気付けば、教室中から畏怖と戦慄が入り混じった表情を向けられていた。

 この日、俺は彼女公認で四股を掛けるリアルハーレム野郎として、学園中の生徒に認識されることとなった。



 その日の放課後。俺は幼馴染と妹も呼び出して、ファミレスで事の顛末てんまつを話した。

 すると、2人も何やら微妙な表情になってしまう。


「えっと……つまり、そっちの学校では、あんたがあたし達4人と付き合ってる、ってのが公然の事実になっちゃってんの?」

「ああ……4人と順番に付き合ったことを説明しようかとも思ったんだが、流石に一月ごとにとっかえひっかえとなると怪し過ぎるかとも思ってな……」


 下手に弁解して偽装彼氏の件がバレた場合、困るのは彼女達だ。そう思うと下手に誤解を解くことも出来ず、そうこうしている間に噂が一人歩きしてしまったのだ。

 しかし、既に4人の周囲の人間には俺と別れたことを伝えている以上、この矛盾を放置しておくのはマズい。どこかのタイミングで、既に別れているという事実を広めなければ……と言うと、4人揃ってますます微妙な表情になってしまった。

 どうしたのかと尋ねると、幼馴染が視線を逸らしながらおずおずと口を開く。


「そのこと、なんだけど……あたし、まだ友達に言ってないんだよね……あんたと別れたって」

「は?」

「その、実はわたしも……」

「え?」

「あはは……」

「おい、まさかお前も?」

「すまない……」

「会長まで!?」


 気まずい表情で視線を逸らす4人。なんと、揃いも揃ってまだ俺と付き合っているていでいたらしい。

 流石に呆然とする俺に、慌てたように幼馴染が言った。


「ま、その、こうなったらさ。もう噂を現実にしちゃったらいいんじゃない?」

「はあ?」

「こんなことになっちゃったのは、全面的にあたし達が悪いし……ここであたし達と別れたなんて言ったら、あんた四股掛けた挙句全員にフラれたクソ野郎ってことになっちゃうじゃない? それは流石に申し訳ないっていうか……」

「四股野郎って時点で既に十分クソ野郎だとは思うけどな」

「ま、まあそうなんだけど……」


 口ごもる幼馴染だったが、なぜか他の3人も割と乗り気のようだった。

 たしかに、ハーレム作って継続している男とフラれた男では勇者とピエロくらいの差があるが……それはそれとして、


「おい、マイシスター。お前はダメだろ」

「えっ……!」


 いや、ダメだろ倫理的に。そもそも絶対そのうち兄妹だってバレるし、妹だとバレた上で恋人だと言い張ろうものなら勇者ではなく魔王と化してしまう。

 流石にそこまでの度胸は俺にはない……と思ったのだが、なぜか妹は渋る。


「いや、でもこの状況で1人だけ離脱って……なんか、女として度量が小さいみたいだし……」

「んなこと誰も気にしねーだろうよ。そもそもお前のことをウチの学生は誰も知らないんだし」

「いや! でもなんか女として負けた気がする!!」


 それはなんに対するプライドなんだ……? 女の意地ってやつなのか? 俺にはよく分からんが。


「でもたしかに、妹っていうのは、ねぇ……」

「うん。仮の恋人だとしても……ちょっとどうかと思うなぁ」

「うむ……そうだな」

「なっ……そ、そっちの2人こそ、家族を騙すのってどうなんですか!? 友達に嘘を吐くより、家族に嘘吐く方がよっぽどリスク高いと思うんですけど!?」

「わたしは……別に、これから本当のことにすればいいんだし」

「父は、酔っ払った時によく自分が若い頃はすごくモテたと自慢しているからな。結婚前であれば多少のことは許してくれるだろう」

「け、結婚!?」

「ちょっと先輩!?」

「な、んな……っ!?」


 ……なんか、気付いたら女子4人で火花を散らし合っている。

 これ、俺が収拾つけないといけないのか……?


 現実逃避気味に大人しくジュースを飲んでいると、4人が一斉にこちらを見る。


「「「「で、どうするの?」」」」

「えぇ~~……」


 どうするって、なぁ……まあ、とりあえずいつも通り……


「待って、とりあえず彼女に許可もらうから」

「「「「え?」」」」


 呆けた顔をする4人を余所よそに、俺はスマホで本当の彼女に電話を掛けるのだった。

本当の彼女:ハードな寝取られ願望を持つ女子大生。幼馴染もクラスのアイドルも、実妹もお嬢様生徒会長も、もれなく興奮できるハイレベルな人。最終的には自分の元に帰って来るという本妻の余裕の下、嬉々として偽装彼氏の件に許可を出している。なんなら行くところまで行ってしまわないかなぁ~なんて期待しながら、偽装彼女とのデートの度に2人の後をけてハァハァしている変た……かなり業の深い美女。

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― 新着の感想 ―
すげぇや。(小並感) 本当の彼女怖いっすねぇ。何日に何時からとか全部把握済みってことですもんね。
本当の彼女がヤバい!? というか、偽装彼女の話は全部許可貰ってんだ? みんな知らなかったみたいだけど。
[気になる点] 本妻視点!!?(ガタガタッ) (コメント返信を見て)
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