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1話 悲劇の日


「母さん、いつも朝ご飯作ってくれてありがとう」


「なぁに、今日に限ってお礼なんて」


「昨日読んだ本に、親への感謝を忘れないようにって書いてあったんだ」


「本当ピートは、本が好きだね」



そう言うと、テーブルに用意してある両手くらいの細長いパン1つとシンプルな塩と胡椒の味付けの野菜スープを食べた。


この辺の平民では、この食事が普通の水準だ。



朝ご飯を食べ終えたら、食器を流しへ片付け、リュックを背負い、急いで玄関の扉をあけた。


「母さん、図書館へ行ってくるよ」


「行ってらっしゃい。寄り道せずに真っ直ぐ帰ってくるのよ」


「わかってるよ」



いつもように出発のあいさつを交わし、家を出た。




人になるべく会わないようなルートで、遠回りして図書館へ歩いて向かった。


それでも人と会ってしまい、陰口を言われた。



「顔無しが来たぜ」


「あの仮面いつ見ても気味が悪いなぁ~」


「本当だせ」



顔無しとは、俺の事である。


いつもの事で、慣れてはいるが、あまり容赦に関して言われるのは好きでは無い。


赤ん坊の頃に顔に鍋の熱湯をかぶる大怪我をしてしまい生死の狭間を彷徨った。


その当時、生活が貧しく、ポーションを買う事もできなかった。


父さんが、毎日必死に薬草を摘んで、その薬草で治療してくれて、一命は取り留めたが、酷い火傷の跡は残ったままだった。


顔全体のほとんどが、爛れている。


眉毛は無く。右目蓋は完全に開くが、左目蓋が半分までしか開かない。


唯一、口から顎にかけては、目立った火傷の跡が無い。


四肢がもげても治ると言われる高価なエクスポーションを使えば、この火傷の跡も治るだろうが、そんな金がうちには無い。


そのため、いつも朝起きると、自分で作ったピエロのような仮面を一日中付けているのである。


最近は両親にも、素顔を見られていない。





大きな2階建ての白いお屋敷のような図書館が見えて来た。


図書館へ入ると、俺の肩くらいの小柄な金髪ショートカットの可愛らしい少女が受付にいた。


彼女は、シーナといい図書館の職員の一人だ。


歳はたしか俺の2つ上で17歳だ。


この王都内で俺が久しく接することができる数少ない人だ。



「シーナさん、おはようございます。・・・少し、前髪切りました?」


「っえ、わかる!? 毛先を整える程度しか髪を切ってないのに良く分かったわね。流石ピートくん!」


「とても良く似合っていますよ」


「ありがとう」



そう言いながら、リュックから昨日借りた本を10冊取り出し、シーナさんへ手渡して、新たな本を探し始めた。




「えっと、今日は・・・これこれ、生物図鑑~上級魔族編~。それと、これも・・・・」



そう言いながら、お目当ての本を5冊ほど手に取り、すぐにシーナの元へ行った。



「今日はこの5冊の本を貸して下さい」


「わかったわよ。ちょっと待って、すぐに貸し出し手続きを行うから・・・」



シーナさんはそう言うと、魔法を唱え図書管理用の水晶に、本の貸し出し記録を付けた。


この王都エードの図書館は、30万冊もの様々なジャンルの本が置かれている。


その中でも、俺は、世界史、雑学、戦争、ダンジョン攻略、生物、などを好んで読みあさっている。


1日に少なくても5冊、多ければ10冊の本を読み。ほぼ毎日10年近く続けている。


この前シーナに貸し出し記録を聞いたら、これまでに2万冊以上借りている事がわかった。


自分でも凄い量の本を読んでいると感心したのを覚えている。


これからも、本をたくさん読み、様々な知識を得るつもりだ。


目指せ本読破30万冊!!などと考えながら、家に帰った。




「ただいま」


「おかえり。良くもまあ、毎日毎日、本ばかり読んで飽きないねぇ~」


家に帰ると、母さんが掃除をこなしながら言葉を返してきた。それを俺は、聞こえないふりをして、そそくさと俺の部屋へ入った。


俺の部屋には、机、椅子、ベッド、タンスがあるだけで、質素だ。


これと言って、本を読むこと意外に趣味がない。


椅子に座り、借りた全ての本をリュックから取り出し、机の上に置き、早速その1冊を読み始めた。





「ピート、夕飯よぉ~」


母さんが、呼ぶ声が聞こえた。


「(もうこんな時間か)今行くよ」


そう答えると、読んでいる5冊目の本へ目印の紙切れを挟み机の上に置くと、食卓へ向かった。




「父さん、帰っていたんだね。おかえり」


「おう、ただいま。今日も夕食後に入荷した商品の整理と書類作成を手伝ってくれ」


「わかったよ」


「今日は、いつもより入荷した品数が多いから、遅くなると思うがよろしく頼む」


「・・・しかたないなぁ。今日借りてきた本をまだ全て読み終えてないから、早く終わらせたいから、夕飯を食べたら先に行って商品の整理を進めておくよ」


「おぉ~、そうしてくれ。 父さんも夕飯食べて、・・・一服したら急いで向かうから」


そういいながら、椅子に座り、3人して夕飯を食べ始めた。





早く父さんから頼まれた商品整理の手伝いを終わらせて、今日中に残りの本を読み終えるため、急いで夕飯を終えて、父さんの勤め先の商店へ向かった。


父さんは、デルバ商会の末端の店舗で、働いている。


デルバ商会とは、ジャポン王国の商業ギルド内で一番大きい大商会である。


商業ギルドの売上の約5割がこのデルバ商会である。そして、地方の各町には、必ずといって良いほどデルバ商会の店舗が出ている。


低価格で一定の品質がある量産品を数多く揃え、更に貴族など向けに高級なオーダーメイドの衣類・装備などの取扱もしている総合商店である。


地域密着型の営業スタイルで、各地域の需要に合わせて品揃えも違い店舗ごとに色があるのも魅力の一つだ。



「ふぅ~。それにしても父さん来るのが遅いなぁ~。何しているんだろう」



それからしばらくしても、父さんは商店に来なかった。


結局、商品の整理をあらかた一人で終えてしまった。


普段、父さんが商店に来るのがこんなに遅くなることがない。


すごく嫌な胸騒ぎがしたため、急いで区切りを付け、家に戻ることにした。


そして、こういった胸騒ぎは嫌なことに良く当たってしまう。


今回も嫌な胸騒ぎは当たってしまった・・・。


家の前まで戻ると、扉が開いているのに気がついた。


急いで中に入ると、部屋の中が争ったような形跡があり、荒れていた。


血痕がそこら中にあり、俺は愕然としながら、奥にある両親の部屋に入っていった。





気が付くと、知らない天井が見えた。


ベッドから起き上がり、嫌な夢でも見ていたのだろうかと考えていると、部屋に一人の男性が入ってきた。


騎士団員だった。


「今回は、災難だったな。お前の両親は、・・・・・・・・・・・・・・」


騎士団員の彼が何を言っているのか分からなかった。

両親が、強盗に襲われ亡くなったというのだ。


家は酷い状況だったため、意識が朦朧としていた俺を気遣って、騎士団の詰め所で休ませたと言っている。


はっきり言って、両親が亡くなった事など覚えていない。


確かに、部屋が荒れていた事は覚えているが、それ以上の記憶がないのだ・・・。


俺は、絶望のまま、騎士団の詰め所から飛び出し、訳もわからずそこらじゅうを走っていた。


お読み頂き、ありがとうございます!

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