プリン姫物語
とある国に、プリンが大好きなお姫さまがいました。名前はプリン姫です。プリン姫の髪はふわふわと長くて、金色です。丸いキラキラした目は、宝石のような紫色。とても可愛くて、みんなから愛されていました。
プリン姫は3時のおやつに、3つ目のプリンを食べながら言いました。
「どうしてプリンにはカラメルソースなのかしら。甘いスイーツなのに、苦さがあるなんて」
マシュマロも、シュークリームも、クッキーも、とっても甘いのです。でも、プリンはいつもカラメルソースがあるからちょっぴり苦くて、プリン姫は不思議に思いました。
「甘い生クリームや、チョコレートをかけてもおいしいわ。フルーツもいいと思うの」
そんなことを考えていると、突然辺りが暗くなって。しわがれたおばあちゃんの声が聞こえました。
「ほう、そうかい。なら、プリンにふさわしい相手を探しに行くんだね」
突然プリン姫の前に、真っ黒のローブを着たおばあさんがいました。有名な魔女です。プリン姫はびっくりして、ソファーから立ち上がりました。魔女は持っていた大きな杖をプリン姫に向けて呪文を唱えます。
「ババローア」
すると、部屋にプリン姫の姿は無く、魔女もいなくなったのでした……。
「あれ? ここはどこかしら」
プリン姫は気が付くと、城の外にいました。クリーム色の空に、ふわふわと綿あめが浮いています。ピンクや緑の綿あめもありました。山はプリンやケーキ、家はビスケットです。これがプリン姫の国です。
「どうしましょう。城に帰らないと、今日はプリンパーティーがあるのに!」
ケーキとお菓子でできたお城は遠くに見えます。プリン姫は急いで歩き出すと、体がいつもと違うことに気が付きました。なんだかぷるぷると黄色いのです。
「あれ?」
近くにシロップの川があったので、覗き込んでみました。するとびっくり。
「え、私、プリンになってる!」
川の水に映ったのは、小さなプリンでした。プリンのおめめは紫色、手と足は棒で、信じられないと顔を触るとぷるぷる柔らかいのです。
「どうしましょう……あら?」
川に映るプリン姫は困った顔をしていました。そしていつもと違うことに気が付きます。プリン姫のプリンはクリーム色だけです。頭の上にカラメルソースがありませんでした。
「いつもあるから、変な感じね……だめ、早くお城に帰らないと」
プリン姫は顔を上げると、お城に向かって歩いていきます。しばらく歩いていると、木の陰から誰かが出てきました。
「プリン姫、プリン姫」
出てきたのはホイップクリームを頭に乗せたうさぎさんです。
「あら、誰? どうして私を知ってるの?」
「お姫さまですから、知っていますよ。今日、お城でプリンパーティーがあるでしょう? 僕を一緒に連れていってくれませんか?」
プリン姫はうさぎの頭の上でゆれるホイップクリームをじっと見つめました。プリンとホイップクリームはよく合います。一緒にお城にいくのもいいかなと思いました。
「僕と一緒に行ってくれたら、このホイップクリームの帽子をあげますよ。さぁ、少しかぶってみてください。プリンにはホイップクリームが一番なんですから」
そう言って、うさぎはホイップクリームの帽子をプリン姫の頭に乗せました。すると、プリン姫の前に一口サイズのホイップクリームが乗ったプリンが出てきたのです。
「わぁ!」
プリン姫はプリンが大好きなので、思わずぱくりと口の中に入れました。なめらかでくちどけのいいホイップクリームが、柔らかいプリンを包んでくれます。甘くて優しい味です。
「……でも、ちょっと違うわ」
おいしいのですが、プリン姫は首を横に振って帽子をうさぎさんに返しました。うさぎさんは残念そうに帽子を受け取ります。
「そうですか……」
うさぎさんはしょんぼりして、どこかへ行ってしまいました。プリン姫はごめんねと思いながら、お城への道を歩いていきます。
「プリン姫~」
次は空から声がしました。プリン姫が立ち止まって空を見上げると、茶色い鳥さんが降りてきました。その鳥さんはクッキーみたいな色で、さくらんぼのネックレスをしていました。
「あら、鳥さん。どうしたの?」
「プリン姫、私をお城に連れていってください。私はプリン姫に合うさくらんぼのネックレスを持ってきました」
そう言うと、鳥さんは羽を広げ、プリン姫にネックレスをかけました。また、目の前に小さなさくらんぼが乗ったプリンが現れます。プリン姫はどんな味かなとワクワクして、あむっと食べてみました。
卵のやさしい味わいがするプリンにはちみつの甘み。そこに少し酸味のあるさくらんぼがアクセントになって、さわやかな味わいになっていました。それに赤いサクランボは色もきれいなのです。
「どうですか、プリン姫。とてもきれいで、おいしいでしょう?」
「うん、おいしいわ……でも、酸っぱいよりは甘い方がいいの」
「そうなんですか……残念です」
断られた鳥さんはしょんぼりして、さくらんぼのネックレスを返してもらうとお空へと羽ばたいていきました。バサバサと遠ざかっていく鳥さんを見送ってから、プリン姫はさらに進みます。
その後、チョコレートの帽子をもった羊さんや、マシュマロのイヤリングをした猫さんが来ましたが、プリン姫は一緒に行きたいとは思いませんでした。どれもおいしいけれど、やっぱりなんだか違うのです。
プリン姫はとぼとぼと一人、お城への道を歩きます。だんだん日は暮れてきて、暗くなってきました。プリン姫の前に影が伸びていきます。プリン姫は寂しくて、悲しくなってきました。
「私は卵とミルク、ハチミツのプリン姫。香りはバニラ……かわいいホイップクリームも、きれいなさくらんぼも、やわらかいマシュマロも、私には合わないの」
胸の中がほろ苦くて、プリン姫は一粒の涙をこぼしました。すると、焦げ茶色の涙は影に落ち、影の中から何かが出てきました。
「……え?」
プリン姫が驚いて足を止めると、焦げ茶色の影は徐々に人の形になって、色が変わっていきます。紅い髪に金色の瞳をした男の子で、カラメルを固めた指輪をしていました。
「プリン姫、迎えに来たよ。僕はカラメル王子。プリンはね、カラメルソースが一番なんだよ」
そう言って、カラメル王子はプリン姫の指にカラメルの指輪をはめました。カラメル王子からの贈り物。いつの間にか、プリン姫はプリンの姿ではなく、人の姿に戻っています。目の前に、カラメルソースがかかった小さなプリンが出てきました。いつものプリンで、プリン姫はにこりと笑います。やっぱり、プリンの上には茶色いカラメルソースが一番です。
「おいしそうだわ」
小さな口を開けて、プリンを食べます。トロッととろけるプリンからは卵とミルクにハチミツの味わいがして、バニラエッセンスの香りがたまりません。そして、ほろ苦いカラメルソースが甘さを強くして、もっと食べたくなります。
「ほんと、カラメルソースが一番おいしいわ」
「じゃぁ、僕と一緒にお城へ行こうか」
カラメル王子はすっと手を差し伸べました。プリン姫は嬉しくなって「うん」と力強く頷きます。プリンと一緒なのはカラメルソース。甘さとほろ苦さをお互いに贈り合います。だからプリンはおいしいのです。
こうしてプリン姫とカラメル王子は一緒にお城へ行って、プリンパーティーを楽しみました。チョコレートプリンに抹茶プリン、たくさんのプリンを一緒に食べて、二人はとても幸せになったのでした。
めでたし めでたし