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「というような感じで出会ったわけよ」
「なるほど」
話を聞き終えた目の前のうさんくさい男は、テーブルの向かいで私の出したマグカップを嬉しそうに傾けた。中身は水道水だ。
勘違いしないで欲しいのだけど、いくら育ちがお寒い私でも、客人にお茶をいれるくらいの常識くらいは持ち合わせている。目覚めと同時にちょっぴりアンニュイな気分に浸りながらあいつとの出会いを回想していたところに、この男は不躾にもアポも無しに訪ねて来たと思ったら「ノイマン氏との関係を聞かせて欲しい」だ。いっそ組の誰かにつまみ出してもらおうかと思ったけれど、卑怯にも阿多野先生からの紹介だなんて言い出すものだから黙るしかない。せめてもの抵抗で生ぬるい水道水を出すことで不歓迎の意を表明したのだけどなしの礫だ。この面の厚さならぶぶ漬けを出したところで大喜びで掻き込むに違いない。
「ノイマン氏はその後もちょくちょく通われたんで?」
「一回こっきり。それである日突然やってきたと思ったら札束積んで店にFA宣言させたのよ」
「それでノイマン氏の店に移籍したと」
私は首を振った。
「最初はそういう流れなのかなと思って身が竦んだけどね。ほら、あの人が出してる店なんて芦原の中でも高級店でしょ? 私みたいな場末上がりのキワモノなんて場違いにも程があるじゃない」
私がそう言ったら、目の前の男はしげしげと私の顔を眺めた。
「どこに出しても恥ずかしくないほどおキレイと思いますが」
「どうも。でもこの顔になったのはつい最近だから。店から連れ出されて、どうなることかと思ったらこの部屋を宛てがわれてね。メイド付きの上げ膳据え膳の食っちゃ寝生活よ」
「それはあやかりたい」
「でもね、これまで貧乏暇無しで生きてきたから額に汗して働かないと落ち着かなくって。愛人として囲われてるのかなと思ってたから、たまーに訪ねてきたときは張り切ってサービスするつもりだったのに、いつもちょっと話をして帰るんだから調子狂っちゃう」