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カミツキ  作者: たるん
8/11

暗転

部活の顧問をしていないお陰で

普段は早く帰れる身分なのだが、

そんな身でも遅くなることはある。

外は暗くなり、残る同僚に声をかけて学校を出たのが

8時前、帰り道にコンビニで食料を確保して

自宅のアパートに着いたのが8時半を過ぎたあたり

2階にある自分の部屋に向かって階段へ歩いていくと、

階段奥の暗がりから人影が見えた。

表情は読めなかったが、少なくともまともな雰囲気ではなく

「あなたが尾崎先生ですね」

そう声をかけられても、とっさに返事を返すことができなかった

外見だけでいえば温厚そうな青年といった感じではあるが

それに似合わない眼光の鋭さがあった。


「私たち、だいぶ先生のおかげで困ってしまいまして、

責任ってのを取ってもらいたいのですよ」

名前の返事を待たずに、その男は言葉を続ける。

ふいに、肩に手がかけられた。

ギョッとして振り向こうとすると、脇腹に激痛が走る。

拳なのか膝なのかは分からないが

望まない暴力を体感したようだ。

痛みから反射的に体を屈め、うまく声が出せずに

うめき声だけが出た。

殴ったであろう人物の顔を見てやろうと、

痛みを堪えながら後ろに目をやる。


そこには、がたいのよい男が何かを振り下ろすところが見え、

一瞬バチっと火花が飛んだような感覚の後に屈んでいた体が

強制的に地面に倒されるのを感じた。

これは頭を殴られたかと思う間に、そのままフッと意識が途絶えた。



寝起きは最悪だった。

脇腹からの痛みが急にはっきりしてきて

痛みで叩き起こされた感じで

目を開けると自分の太ももが見えた。

椅子に座らされ、立ち上がれないよう

両腕は椅子の後ろにまわされていた。

感覚的に、両手首が何かで縛られているようだった。


顔を上げると、ここがだいぶ広い空間であることが分かった。

ただ何もないだだっ広い部屋で、フロアの電気はついていない。

ただ、ライトがこっちを照らしているので

自分の姿が確認できる状態だった。


1人で放置されているかといえばそうではなく、

ライトの向こう側に少なくとも2人の人の気配がする。


人がいる証拠に声をかけられた。

「先生、あんたには聞きたいことがある。

ちゃんと答えてくれたら楽に死なせてあげよう」

声を聞くと、それが家の前で声をかけてきた男と分かる。


声のしたほうを向くも、声がでなかった。

死という言葉を突き出され

思考が完全に止まっていた。


「難しいことを聞くつもりはない。

警察からどんなことを聞いているのか、

そして、どうやってあの場所を知ったのか。この二つだ」

ライトの後ろの影が動いた。

しゃべっていた方の男とは違う

かなりの大柄の人影で、

ライトを回ってこちら側に近づいてきた。

顔は見えないが、きっとこっちは家の前で殴ってきたほうだろう。


目の前に立ったかと思うと

大きな衝撃が左頬を打ちつけた。

どうやら殴られたようだ。

「さっさと答えろ」

じわじわと痛みが広がりガンガンと頭に響いた。

痛みに耐えているところに、さらにもう一発。


「さあ、きっと喋りたくなったんじゃないか」

ライトの向こうで男が喋る。


意識は飛びそうだったが、痛みも相変わらずで

まともに頭がまわらない。

ただ、次に来るかもしれない痛みから逃れたい気持ちから

なんとか言葉を発する。

「け、警察は」

痛みからくぐもった声になる。


「警察は、神奈川のほうで起こっていた事件が

こっちでも起こっていると言っていた」

一息にここまで喋ると、痛みの波が次の言葉を発するのを中断させる。

「事件を起こしていたやつらがこっちに来て活動している

というのが警察の見解のようだ」

なんとかここまで言葉にし、相手の反応を待つ。


「警察は、まあそんなところだろう。

で、先生もうひとつ聞いていたんだがね。

どうやってあの場所を知ったんだ」


御崎のことを話したところで信じてもらえないだろうが、

信じる、信じないを別として名前を出すことで

御崎に被害が及ぶことは断固として回避しなければならない。


警察で話したように出入りのある工場跡地の噂を元にして

現地に赴いたという話をした。

「先生、悪いが信じられない」

ライトの向こうの男は言った。


「細心の注意を払って、出入りも最低限にしていた。

あの場所を知っている者も限られている。

噂になるような事は、どうにも信じられないのだよ」

言葉に苛立ちが含まれているように聞こえた。

彼らはいったい何を聞きたいのかを考えた。

少なくとも御崎のことを知っていて、そのことを知りたい

ということは、まず考える必要はないだろう。

では、なんでたいしたことのないような事を

事細かに聞くのか、知っている者が限られていると言った。

であるなら、場所がわかったのは誰かが話したから

という疑いからの問いかけじゃないだろうか。


問題は、知りたい情報がそれとして、

こちらには向こうの満足する答えを持っていない

ということだ。


適当にでっち上げるなんてこと

まともに押し通せる自信はないし、

知らないを通しても素直に信じるということもしないだろう。

ただ、残念ながらこっちの選択肢は

噂でという当初の話を通す以外なく、

後は知らないと言う他はない。

「信じてもらえないとしても、

それ以外の答えを持っていない」

答えるとすぐさま、そばにいる男から蹴りが飛んできた。


蹴りは身動きできない身体でしっかり受け止め

勢いを殺しきれずに椅子ごと後ろに倒れこんだ。

胃が取れたのではないかと思うほどの

衝撃と痛みに、ただただ呻く以外なかった。


ライトの向こうの男が口を開く。

「先生が、本当の事を言っているのか

うそをついているのか、

どちらにしても欲しい答えが手に入れられていない

もう一度だけ聞くが、どうやってあの場所を知ったんだ」

そばにいる男が倒れた椅子を身体ごと引き上げる。

「他に当てがなかったから、噂を頼っただけで、

本当にそれだけだ」

やっとのことでそこまで答えた。

殴られ、蹴られたところはもちろん

どうしようもなく痛むが、後ろに組まされた腕の

特に右腕に尋常じゃない痛みが続いている。

倒れて椅子の下敷きになった時に

折れたのかも知れない。


そばにいる男が、めんどくさそうに

「こいつもういいんじゃないですかね。

何も知りませんよ、きっと」

顔だけライト向こうの男に向けて話しかける。


「先生、あんたの言うことを信じよう。

ではさよならだ」

ライト向こうの男の言葉と同時に

そばの男が動く。

また殴られるかと思うとそうではなく、

拳をこちらに伸ばしていた。


よく見ると手には何かが握られている。

そう思った瞬間、音が鳴った。

「パンッ」

乾いた音が部屋に響く。

と同時に熱いものを下っ腹に当てられたような

感覚が襲い、かと思うと熱さがそのまま痛みに変わる。


銃だ。

ライトに照らされたシャツの脇が

赤い色に染まって行くのが見える。

これは本当にやばいやつだ。


「さよならだ、先生」

撃った男も口を開いた。


体中に痛みがある。

無事な部分がないんじゃないかというくらい。

ただ、少しづつではあるが、

痛みがなにやら痺れみたいになってきている。

そして、だんだんと目を開けているのが

辛くなってきた。

目を瞑ったら、そのまま二度と起き上がれない

そんな思いから瞼の重さと戦っていた。


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