暗闇
晴海 彩香は最初戸惑っていた。
それもそのはずで、見ず知らずの場所で目が覚めたから。
といっても薄暗い中で本当に知らない場所かもわからなかったが。
微妙に頭がぼんやりしていて、
なんでこの場所にいるのかを考えられず
立ち上がろうと体を起こすと両手を後ろに回され縛られていることがわかった。
まったく身に覚えのない事態に余計に混乱する。
立ち上がろうとするも、うまく立てずに
バランスを崩して倒れる。
「大丈夫?」
不意に聞こえた声で、ほかにもここに人がいることを知った。
「誰ですか、ここはどこなんですか」
なんとか上体だけ起こしながら当然とも言える疑問を口にする。
暗い中、不安な気持ちが早口の震える声に表れる。
「春永 香苗、あなたより先に来ていたの。ここがどこかはわからないけど
少なくとも私たちは監禁されているみたい」
不穏な言葉をさらりと口にすると、続けて
「あと、小川さんと川喜多さん。二人ともここに連れてこられているわ」
そう紹介されて初めて香苗の後ろにも人影があるわかる。
「あなたは誰、どこからつれてこられたの?」
後ろの右側の人影から声がかかる。
「私は晴海、晴海 彩香と言います。」
どこからという言葉に記憶を辿ると少しずつ思い出してくる。
「秋永駅の近くで絡まれていた私を男の人が助けてくれて、
改札まで送ってもらう途中、落ち着くからって、
近くの喫茶店に入ってそれから。」
はっきりと思い出した。
男が頼んだのと同じコーヒーを頼んで、
世間話をしながら気分が落ち着いてきたとおもったら
急にどうにも抗えない眠気が襲ってきた。
眠らずに頑張っていたが、ここに来た記憶がないということは
気絶したように眠りについたのだろう。
「きっとその時に飲んだコーヒーに何か入ってたんじゃないかと思う。」
「あなたがここに入ってきた時は、意識なかった。
その時に声をかけたけど、反応なかったし。」
「そこの入り口は外側から鍵が掛かっていて、
こっちからは出られないようになってる。
人は滅多に来なくて、最近だとあなたが入ってきた時くらい。」
香苗がそう言うと、彩香は疑問を口にした。
「なんの為に私たちをここに集めているんですか。」
彩香は口に出してそう言いつつ、少なくとも
楽しませてくれることはないなと心で思う。
部屋は真っ暗ではなく、うっすらと明かるいのは
窓の部分でブラインドがほんの少し閉じきっていないが為に
もれている光のおかげだろう。
明かりといえばその程度。
彩香がブラインドのほうを向いているのに気づいたのか
春永という子が話しかけてくる。
「そこのブラインド、開けて場所を確認しようと思ったんだけど
荷物が多すぎて縛られた手だとどうにも動かせそうにないの」
暗いながらも回りに色々と荷物が置かれているのは
なんとなくわかった。
不意に離れたところから何かが近づいてくる音が聞こえた。
その音はゆっくりとしたリズムでこちらに向かってくる。
ドアの前に立ったかと思うとカチャッと
鍵を開けるような音。
そのまま、ドアがゆっくりと開き
部屋の外の明るい光が飛び込んでくる。
立っていたのは体つきから男であることはわかったが、
廊下の明るさから顔はよく見えない。
だけど、昨日の男とは違うのは分かる。
「新しく来たのも、ちゃんと大人しくしてるな」
体つきはがっしりとした感じで声も違う。
恐怖で無意識に体が後ずさる。
「怖がらなくていい、大事な商品だ。」
そう言うと、開いたドアは閉じられ、
カチャっと鍵を閉めていった。
今度は遠ざかっていく足音を聞きつつ、
商品という言葉が頭の中をぐるぐる回り
混乱だけが胸の中で膨れ上がっていった。