ひとまずの結果
目が覚めるとそこは自宅だった。
ただ普段と違うのは目覚めた場所は
やわらかい布団の上ではなく
固いフローリングの床であった。
一瞬、昨日の拉致された一連が夢かと思ったが
生々しい記憶がそれを否定した。
じゃあなぜ家にいる。
寝ぼけた頭は混乱から抜けられない。
とりあえず体を起こして
撃たれたはずの体を確認した。
服は昨日着ていたまま、だいぶ汚れている。
シャツを捲ってみても、撃たれたはずの腹には
何の痕もない。
痛みもない。
あれほど出ていた血の跡もない。
これは服も同じで埃にまみれては
いたものの、出血の際に赤く染まったであろう
シャツに、そのような形跡は残っていない。
そして、そもそもどうやって
家に着いたんだ。
何がどうなってる。
そういえば、御崎がいた。
そして、御崎に助けられたと思う。
とすれば御崎が家に運んできたのか。
考えは頭の中でぐるぐる回り
何もまとまらない。
視点が時計に止まる。
時間は6時。
今日はまだ学校がある。
この格好ではさすがに行けない。
急に現実問題が目の前に来ると
必要な作業に向けて思考がまとまる。
とりあえず、学校で御崎に聞けばいい。
まずはシャワーを浴びて体の汚れを落として
さっぱりして学校の準備だ。
実際にシャワーを浴びてみると
昨日の暴行が嘘のように
体に跡が何も残っていないのが分かった。
生々しい暴行の記憶は思い出すだけで
体の震えが止まらなくなるほどだ。
新しい服に袖を通し、
買い置きしてあったパンを齧りつつ
テレビをつける。
お湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れる。
コーヒーを飲みながらテレビのニュースを
なんとなく眺めていると
だいぶ落ち着いてきたことを感じられた。
時間になったので家を出て学校へと向かう。
いつもと同じ人ごみ、いつもと同じ町並み。
昨日の夜の非日常性を思えば
なんと平和で安心できる状況か。
平和な日常に浸っていると、すぐに駅に着く。
学校までの道のりで通り過ぎる生徒達と
挨拶を交わしていく。
職員室では、晴海の騒動の余韻が感じられは
しつつも、概ねいつも通りになっていた。
教室に向かうと休養中の晴海以外は揃っていた。
もちろん御崎も例外ではない。
いつも通りに挨拶をし、出席を取る。
いつもと変わらぬ風景がそこにあった。
放課後、江田刑事の来訪があった。
事件の関連性の強い情報ということで
二つ隣の市にある雑居ビルの一室で
人身売買で名の売れた人物が捕まった
という話だった。
「それがまた、奇妙な話でしてね先生。」
応接室に座り、出されたお茶を一口飲むと
江田が口を開いた。
「神奈川からの件で追っていた2人だということが
顔から確認できたので事件に関連性の強いという話を
したんですが、当人達を見つけた時の状態が
尋常じゃなかったんです。」
話を聞いていると、まさに昨日の夜の男たちの
話なのだとほぼ確信していたものの、
正直に話すことも躊躇われた。
「尋常じゃないといいますと」
「まず一人、これがまともに会話できなくなってまして、
泣いてばかりだし、口を開いても怖いと怯えてばかりで、
まともに会話が成立しないのです。
まぁ、この男がビルの前で泣き叫んでいたところを
通報されて、この二人の身柄を押さえることに
なったんですがね。」
もう一口、お茶を飲むと江田は続けた。
「もう一人は雑居ビルの中で見つかりまして、
これが主犯格になるんですが、まず目が見えてないようで、
さらには足の感覚がないということで、まともに
動ける状態ではなかったんです。
こっちは会話はできたものの、何があったかについては
口を開かないし、そもそも目も不自由で歩けもしない男が
松葉杖も車椅子もない状態でビルの一室にいたという事実が
不可解でして。そもそも、聞いている情報では二人ともに
五体満足なはずだったので、いったいいつそんな状態になったのやら。」
手に持ったお茶をテーブルに置くと
少し明るい調子で再び話し始めた。
「二人からまともに話が聞けないので
今回の件に関わっているかどうかの
確認はできないものの、これまでの関与が
認められている事案で逮捕になることは
間違いないですし、仮に関わっていなかったとしても
周りへの牽制にはつながるはずです。
まだ完全に安全とは言い切れない現状ではありますが、
少なくとも改善はされていきます。」
そう話し終えると
何かあればまた話を伺わせてもらいます
と言葉を残して署へと戻っていった。
昨日の事を聞きに来られたのかと思ったが
現状の報告ということだったのだろう。




