晴海
晴海 彩香は塾の帰り道で困っていた。
多分、大学生くらいであろう男二人組みに
呼び止められ、なかなか解放してもらえない。
「大事な塾は終わったんだから、少しは息抜きしてもいいじゃない」
明らかに地の色ではない、明るい茶色の髪をした
男のほうが執拗に声をかけ続けてくる。
もう一人の眼鏡をかけている男のほうは
うなずきながらも彩香の歩く方向を塞いでくる。
「帰りが遅いと本当に困るんです。帰るので道を空けてください」
「そんな冷たい事言わないでさ、ちょっとだけ一緒に遊んで行こうよ」
男達のほうは一向に諦める気配がない。
周りには結構な人が行き来しているものの、
こちらを見ても特に止めるでもなく我関せずとばかりに
そのまま通り過ぎてしまう。
助けてくれないなら自分でどうにかするしかない。
「本当に帰るんで」
男の隙間を半ば強引に通って行こうとするも
肩を捉まれ行く手を遮られる。
「ちょっとまだ帰せないな。少しでいいんだよ」
強く肩を掴まれ振りほどけない。
なんでこんな自分にかまってくるのだろう。
諦めないしつこい男達に段々と恐怖を覚えて
出てきそうになる涙を堪える。
不意に視界に別の男の影が映る。
「ちょっと君達、そこの交番に声をかけて来たから
少し待っててもらえるかな。あまりにしつこいようだから
仲裁してもらうよ」
スーツを着た若い男で、きっと会社帰りなのか
鞄を片手にもっている。
言いながら指した先には制服姿の男が見える。
「何だお前は」
明るい茶髪の男が急に出てきた男に怒気を孕んだ声を上げるが、
「おい、行くぞ」
眼鏡をかけた方の男が、もう一人の腕を掴み
引っ張って行く。
離れて行く男たちを見て、やっと解放されたと思うと
急に我慢していた恐怖が溢れ体が震えて、涙が滲んでくる。
それでも、突如現れた救世主にお礼を言わねばと
震える声で感謝を伝える。
「あ、ありがとうございました。とっても怖くて、」
そこまで話して涙がとめどなくあふれて声にならなくなった。
「いやぁ、諦めてくれてよかったよ」
あらためて男を見ると、清潔な感じのスーツ姿が似合う男で
20代くらい、美男子というほどではないけれど、
整った顔をしている。
「実は警察には声をかけてなくてね」
えっ、と先ほどの制服の男のほうをよく見ると、
多分、警備員なのだろう、近くのビルへと入って行く。
「大丈夫かい」
やさしく肩に手をかけて聞いてくる。
先ほどの男達の手とは違って安心感がある。
同じ手だというのに何が違うのだろう。
「だ、大丈夫だと思います」
「駅に行くんだったら、念のため改札まで一緒について行ってあげるよ、
俺のほうも帰り道だし、またさっきの男が戻ってこないとも限らないしね」
さっきの男達といた際の恐怖心が甦ってきて
「迷惑じゃなければお願いします。」
二人揃って駅のほうへと歩き出した。