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よろしくお願いします!

「私はナツミ! この町一番のツアーコンダクターよ!」


 ミナといい勝負をしそうな、とても平坦な胸を張る突然現れた少女ナツミ。


「あれ? なんだろう? アルさんになぜか殺意を覚えるんですけど?」


 物凄く勘の良いミナの呟きをスルーし、僕はツアーコンダクターと言うナツミに視線を向けた。


「ツアーコンダクターって、町の名物や遺跡を巡って説明してくれる人のことだよね? それにしても君、ずいぶん若いんだね?」


 海千山千のいる社交界と言う荒波を乗り越えた、鉄壁の笑み(アイアンスマイル)を装着した僕が問う。

 ツアーコンダクターとは通常、知識が豊富な隠居した賢者が、町の領主や町長に頼まれてなる職業だ。

 それをこの若さでなんて……。

 素直に称賛しようとする僕に、


「はい! 私は町の許可を取ってないんで、若いですよ! ちなみにコンダクター歴は二〇年で、歳はぴちぴちの一六才です!」


 うん?

 町の許可取ってないとか、不味いんじゃね?

 とか、

 なんか色々と計算が合わなんだけど?

 とか、

 そんな僕の心の声と視線を完全に無視し、


「は~い! 今日は特別! と・く・べ・つ・に! 『竜の門』の前まで行くツアーの参加者が少ないんです! だ・か・ら! 特別に! あなたたちも交ぜてあげても、特別に低価格でいいんですけど?」


「あらあら、特別が多すぎて、うざいですわね?」

「おろおろ、なんか上から目線がうざいのじゃ!」


 姉上とヒルデの、一般人なら凍り付くような視線にさらされながらも、


「大丈夫! 大丈夫! 確かにあそこはうるさいけど、お客さんたちなら大丈夫だって!」


 なぜか自分の都合が良いように解釈するナツミ。

 二人の視線、いや、死線を受けても平気なばかりか、


「ぱくっ、もぐもぐもぐ……。なあ、こんな美人ばかりをはべらかせたダンナ! ここは私が、ばっちり案内するから! ベストスポットを見た後、彼女たちとしっぽり、ねっちょり、子作り大宴会しなよ!」


 おもむろに肩に掛けたバックから、薄力粉、卵、牛乳、砂糖や蜂蜜をふんだんに使ったこの町名物の、カステイラを取り出し、貪り微笑むナツミ。


「うわ、この強者の視線(死線?)の中で笑えるのは、タダのバカか…………」


 彼女が何者なのか?

 なんとなく察した僕は、彼女を絞めようと殺気立つ姉上とヒルデを片手を上げて静止、


「分かった。君にガイドを頼もう」


 そう言って、彼女が提示した料金を上乗せした金額を、カステイラの油分でテカるその手に渡したのだった。

応援よろしくお願いします。

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