3
よろしくお願いします。
「え? 四人部屋と二人部屋しかない?」
魔王の脅威も無くなり平和になった世の中では、ちょっとした怖いもの見たさで竜の巣を見ようと、観光客が殺到した。
そんな観光スポットで、唯一僕らが泊まれる部屋が取れたのはこの宿だけだった。
一階は酒場で、二階が宿屋と言う、この国では至って普通の宿屋。
で、残の部屋がそれだけだけなの? っと、声に出した事を後悔した。
なぜなら、
「あらあら、その二人部屋! 当然私たちの愛の巣……。我がタリスマン侯爵家の姉弟が使うべきですわね!」
高らかに言い放つ姉上と、
「おろおろ? 二人部屋は婚約者同志のわっちとアルが使うのが、常識じゃろ?」
なぜかヒルデは、両手に魔力を溜めて戦闘準備万端!
ゆっくり体を休むはずの宿屋で、なぜこんなにも空気が重く、殺気立っているのか?
うん。
僕は覚悟を決めた。
だから、
「え? なんですかアルさん? 私をジッと見て?」
コテンッと何の疑いも無く、隣で僕を見つめるマリアーナ。
ゴメン。
でも僕は………………さっさと休みたいんだ!
僕は心の中で東洋の最上級とされる謝罪。
Do・Ge・Za!
をして、彼女の尊い犠牲に敬意を払い、
「あ~あ。姉上とヒルダの争いって、日を股ぐんだよね? あ! 僕もう休みたいから、マリアーナ。一緒に休まない?」
「え? 私? え? え?」
戸惑うマリアーナに何気なく爆弾を落とした。
そんな僕の言葉に、姉上とヒルデの体がピクリッと動き、
「ああ? 誰と誰が一緒の部屋ですって?」
「ああ? 誰と誰が一緒の部屋じゃと?」
地の底から噴き出るような殺気が、この場を支配した。
うん。ゴメンマリアーナ。
予想よりかなり、いや、ずっとずっとず~~~~~~~っとヤバイ!
僕は反射的に彼女を腕に抱き、クルリッと体を反転させる。
刹那。
ズシャァァァァァァァァァァァ!
さっきまでヒルデがいた場所。
きっと部屋の扱いが荒い冒険者も立ち寄るこの宿の、頑丈だと思われる床が抉れた。
その下にある地面は……………。
うん。
底がまったく見えない!
宿屋のオッチャン! 後でちゃんと修繕費払います!
そう心の中で呟く僕だが、これで現実逃避してはいけない。
さっさと部屋で休みたい僕は、片手でマリアーナを抱えながらも、めんどくさそうに姉上たちと向き合う。
「何をしてんですか姉上、ヒルダ! 僕はもう休みたいんですよ! お二人とも忙しそうだから、同室をマリアーナに頼んだのですが?」
首を回してため息を一つ。
「別に僕は、ベッドが一つだって、姉上とヒルダと一緒にいたいと思ってたのですが……」
「「はい! 喜んで!」」
え? いったいどこの脳筋騎士団?
なんて思えるほど威勢の良い声を上げ、
「「でも、その前に…………」」
二人は殺意を通り超し、ある意味無の境地のような、悟りを開いた瞳でマリアーナを見ていた。
刹那!
「……………グビッ! 『身体強化!』」
自身の防衛本能に従い、魔力回復役を飲み(いやいや、お前今日、魔法使ってないだろ?)脱兎のごとく宿屋から飛び出すマリアーナ。
「あらあら?」
「おろおろ?」
それをとても楽しそうに追いかける姉上とヒルデ。
僕はそんな彼女たちを見送り、
「マリアーナには後で何か、取っても疲労を回復するものを送っておきます!」
そう言い放ち、僕は吹き飛んだ扉に向かって黙とうしたのっだった…………。
次回! あの人物が登場!(いや、誰だよ!)