砂蒸しのマリエさん
最近の挙動に不安を感じさせる同居人の裕二への自分の思いにストレスを感じるマリエさん
指宿の砂蒸しで
首から下を温められながら
マリエはアパートに置き去りにしてきた
同居人の裕二のことを考えた
有名な激辛のカップ麺を
はふはふ言いながら
「いっへらっひゃい」
などと能天気に
送り出してくれた
マリエは裕二の浮気を確信していたが
明らかな証拠はなく
いつもと変わらぬ
のんびりとした態度の裕二を
背中に感じながら
玄関を出た
いつもは深刻な声で
友人や同僚からの
電話に出るということはない
しかし最近は
台所の隅や
ユニットバスの中で
ボソボソと
神妙な調子で話しをしている
電話のあとに
目を合わせない
なにかの不自然さと
違和感を
部屋の中に漂う空気や
なにげなくテーブルに置かれた
携帯電話に感じる
男はみな浮気するもの
高校からの親友や
その親友の仲良しの娘やら
みな口をそろえて言う
もっともらしく
じわじわと吹き出してくる汗に
体内を巡る血管の中の汚濁や
心にわだかまる疑いという毒が
溶け出して
身体の外に排出されたらいいのになと
すこし悲しい気持ちになりながら
裕二の不自然さの根拠を探す
思い当たることがない
ただいつもと違うなにかが
生活の中にあり
見えないインフルエンザのウィルスのように
マリエの心を侵食しつつ
すこしづつ体力を奪うように
健全であってほしい
自分の愛情に翳りをもたらす
「もうすぐわたしの誕生日なのになあ」
裕二と付き合い始めてから五年
一緒に暮らすようになってから二年
あんまり記念日とかにこだわらないので
誕生日のたびに
ケーキを買ってきてくれたり
花束でテーブルを飾って
部屋で待っていてくれたり
そうして
自分の誕生日を
忘れないでいてくれたことが
嬉しくて
素朴に素直に喜んでいた
「なのに今年は」と
砂を洗い落としながら
部屋着の浴衣に着替えながら
夕食を待つあいだ
憂鬱な想いに
あらがうすべを見出せずに
ちびちびと
酒を飲んでいた




