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テンプレ嫌いな異世界は、転生した俺を生かす気が無い

作者: モロコロス

 オッス!俺は純平!近所のばあちゃんを助けようとしてトラックに跳ねられ、気づけば白い世界でよく知らないオジさんに、異世界に転生させてあげるからね、と優しく諭された!


 わけわかんねえ!


 テンションをあげないとやってられないぞ!などと供述しているうちに五分が経過した。テンションあげるのって意外と体力使うので、直ぐにやってられなくなった。


 はあ。帰宅部の弊害だわ。俺はテンションを通常に戻して辺りを見回した。


 小高い丘の上に一人立っている俺の周り、鬱蒼と繁る森しか見えない。ここどこ!


 ぼんやりと周囲を眺めて、動くものも見えないなあ、と思って。ああ、森が切れてる、その先は草原?平原?あそこまで歩けばこの森を抜けられるんじゃないだろうか。


 俺は、一息つくと、森を抜けようと歩き出した。ここに居ても意味ないし。


 スムーズ過ぎる、躊躇が無い?そりゃそうだ。神様んところで何時間も泣きに泣いて、諦めて最後には納得したんだ。こっちで頑張るしかないだろ。頭ではわかってるんだ。


 しかし森の中で迷子になりそうで、本当に頑張って、そう兎に角頑張って、やっと森を抜けたのが次の日の午後で、気合も頑張りもそん時には失せていた。二十四時間歩き通せば誰でもそうなるって。


 ただひたすら薄暗い森の中を歩いてる途中の事なんて覚えていない。水も飲めず眠れずひたすら歩いた俺。ようやく森以外の景色が見えるんだ。疲労困憊だが、変なのにも会わず、無事にしかもよく真っ直ぐ歩けたな俺。よし!ただひたすら自分を褒める俺。


 ちゅぃんちゅぃん。


 ちょうど、小鳥の鳴き声が聞こえた気がして、無事森を抜けた俺を祝福してくれるのかい、小鳥ちゃん?と思ってそっちの方を向いたら、あらビックリ鳥です。鳥?


 森を抜けた平原に一本、幅広い道があって、そこに馬車が横向きに倒れていて。中がガサゴソしてる感じだった。いきなり惨劇の現場にご遭遇。一応テンプレ?


 馬っぽいけど首が無いのが馬車のそばで二頭分倒れていて。首っぽいのは別ん所に血だまりと一緒にあった。うわあ、なんか湯気っぽいのが浮いてる。今ちぎれたばかり?


 そして、人間くらいの大きさで、口から牙の生えた鳥っぽいのが、馬の死体の上に座ってこちらをじいっと睨んでいた。


 牙?鳥?ねえ、キミくちばしどこ?目が獲物を見る目だよ?さっきの鳴き声はキミ?


 その鳥っぽい奴の目を見て、しばらくして恐怖にかられた俺。まず笑顔を見せて手をあげて、敵じゃないよ、俺、敵じゃないよ、食べても美味しくないよと言いながら鳥と反対の方向に後ずさる。具体的には森に戻っていく。


 くちばしの代わりに牙の生えた鳥ってめちゃくちゃ怖いんですけど。むしろ恐竜なんですけど。祖先が恐竜ってホンマやったんや!全然テンプレじゃないわこれ!


 その鳥っぽい何かが歯を鳴らす。ちゅぃんちゅぃん。そんでこちらを睨みつづける。鳴き声じゃなかったかあ。歯鳴りってやつかあ。っとこっちきた!


 そういえばチート、チートって俺どんなチート貰ったっけ?


 白い世界でチートみたいな話された気がするんだけど頭がパニクってて思い出せない。そういやずっと泣いててまともに聞いてねえわ。やば!


 サメのように牙だらけの口を大きく開けて、翼を大きく広げると、鳥はまっすぐこちらに駆け出してきた!いや飛べないのかよお前!助かったけど!逃げなきゃ!


「うぎゃあああわあああああん」


 鳥の咆哮じゃないです。俺の悲鳴です。森の奥に逃げる俺。ズボンが濡れる。涙が溢れる。俺そんなに足速くない。森に飛び込んだら足元がデコボコしてる。森の中はすぐ薄暗くなる。歩くで精一杯だったよ、さっきまで。転びそうでうまく走れない。どうしよう、と思ってると右肩に痛みが走った。


 がぶり。


 肩を見ると、人間の頭くらいの大きな鳥の頭が。つまり、あのサメみたいな口でバックリ、右肩を噛まれたところだった。


 一瞬の思考停止のあと、何も考えられなくなる程の激痛が俺のすべてを支配する!


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!


 思わず右肩に左手を当てようとして、まだ鳥っぽいの噛みついてる、と一瞬思ったけど左手は本能の赴くまま、勝手に右肩を抑えようと動き、ああ?おまえ何ワシに手え伸ばしとんねん、て目をしてるその鳥っぽい奴の、まさに眼に左手は伸びて。


 ぐちゃあ。


 鳥っぽい奴の眼を突き破った俺の左手の中で何か、具体的には鳥の脳が潰れた。左手の感触やら、顔やら口やらに、汚らしい真っ赤な液体や茶色や白い固体が飛んできたので、俺はぶええええ、と呻いて気絶した。


★★★


 怪我して気絶ってそのまま死ぬ可能性もあった筈だが、俺は奇跡的にも気絶から目覚めた。まず左手を鳥の頭から引っこ抜く。


 幸い鳥っぽい恐竜モドキは顎の力が抜けたか、俺の右肩じゃなくて左手にぶら下がるように倒れていたので、ただ左手を引っこ抜くだけで済んだ。肩から外せと言われたら泣いてた。


 そんで左手をそこら辺の葉っぱで拭ったり、顔を拭ったり、口に入った色々が怖くて唾吐きまくり。


 無事キレイキレイを済ませて、いやまだ全然汚れてるんだけどこれ以上は綺麗にならないな、と諦めた。


 痛む右肩を見るとサメっぽい鳥っぽいあれの口に噛まれた歯型が右肩にバッチリ残ってた。あんなに痛かったから肉ごと噛みきられたと思ったが、そして流血も心配だったけど、特に血も流れてなければ、右腕を動かしても痛む部分はほとんど無い。カッターシャツにじんわり血が滲んでるくらいである。


 うん、これ、きっとチートだろう。俺はそう考えて納得した。


 実際には、あの鳥っぽい恐竜モドキ、噛みつくと同時に歯の毒腺から神経毒を注入、倒れた獲物が痛みと恐怖に震える姿をじっくり堪能するまで噛みついたままで、獲物が気絶してから肉を噛みちぎるというなかなかエグい習性をお持ちだそうで。たまたま俺が噛みついたばかりの奴の頭を潰したので事無きを得たらしい。後でそれを聞いてぞっとしたが、その時の俺はそんなことも知らなかったので勝手にチートだと納得し、さっきの馬車の所に戻った。

 

 馬車の扉はさっきと違って開けられている。馬車の中にも近くにも人の気配はない。そんな長いこと気絶してたわけじゃないと思う。見える太陽の位置がそれほど変わってないから。


 こりゃあ、逃げたね。


 助けていただきありがとうございます。とかのテンプレ展開を少し期待してたんですけど、まあ普通逃げるわなあ。俺の正体もわからんし、なんか別の獲物に気を取られてる今のうちに!てなったんだろうなあ。


 俺は馬車に残った荷物を漁った。具体的には食料、これ多分干し肉かなあ臭うなあ、それに変に臭い水の入った皮袋、逃げた人が持ちきれなかったであろう荷物やらを漁るんだけど、食料と水と服と金が欲しいって完全に泥棒っていうか強盗のスタンス。


 御者はやられちゃってたらしく、馬車の裏手に黒っぽいズタズタの何かがあったので、手を合わせて拝んでおく。すいません。怖くて近づけません。


 金の入った袋と言っても、中に入ってるのは木の札とか鉄の欠片とか、せいぜい銀っぽいのとかだった。金は無かった。持って逃げたんだろうな。こっちは粗末な麻っぽい袋だし。


 ゲームの勇者さまが他人の家のタンスや瓶を壊しまくる理由が分かった気がした。


 武器になりそうな、柄までついた鉄の棒まであって、結局馬車に残された荷物で装備一式が整った。幸運なのか?


 よし、装備は整った。あとはステータスだね。


「ステータス」

「ステータス・オープン」

「スタット」

「メニュー」

「エスケープ」


 結論として、ステータスを見ることは出来なかった。何言ってもダメだった。なんなの、テンプレ嫌いなの?


★★★


 ていうかさあ、ラノベとかだとさあ、エラい簡単に街についてんじゃん。アレ嘘じゃん。


 俺は馬車から逃げた人の足跡を偶々見つけたので追うことにしたんだけど、何も無い道が延々と続き、かといって心配で休んだり寝たりも出来ず、とぼとぼ朝まで歩いてたら、やっと村らしい集落が見えた。小さな集落で、家が五六軒見える。


 やった、ようやく現地の人との初交流!テンプレっぽいのキター!


 喜んで集落の入り口までスキップする勢いの俺だったが、入り口には若い男たちから爺、ババアもとい、おばちゃんが鋤やら鍬持って立っていて。


「余所者が来た」「怪しい」で話もさせてもらえないの。言葉が通じてちょっと安堵したけど。


「あの」

「何だ。ここにはお前みたいな奴が欲しいもんなんかねぞ」

「ダメだ話すな、お前らはダメだ」


 話をするのは爺の一人で、後の連中は無言で俺を睨むだけ。訛りがあるねえ、それっぽいねえ。


「いや、ここってどこなんでしょう。近くの町って」

「ここは俺たちの村だ。町なんてしんね」


 けんもほろろ。武器持ってるから怪しい山賊崩れに間違えられた様子。幸運じゃなかったかあ。


「町ってアレだろ、領主の野郎が住んでる城?」

「いいんだ、こんな怪しい奴に言うことなんかねえ!」


 こそこそと後ろの男連中の声が聞こえるが、だよね。怪しい一人旅の人間なんて、信用ならないし、何も言わないのが一番安全だよね。あと何で仲間内は訛らないんだよ。


 仕方なく交流を諦め、せめて食料なり恵んでいただけないかと最後のつもりで頼んだら、いきなり全員の顔色が変わった。そんで次々に石を投げられた。


「ふざけんな!」

「今年の年貢だって危ねえがに、余所者に恵むもんあるわきゃねだろ!」

「お前領主んとこのあれか!」

「隠すもんなんかねえ!娘売る相談さしてっとこくんじゃね!」


 次々に叫ぶ村人。爺まで弱々しくだが石を投げてくる。


 テンプレ外しは理解したが、村の困窮ぶりへの衝撃は大きかった。


 俺は慌てて土下座する。石が当たるんだけど仕方ない。


「すいません、無理なお願いして本当にすいません!」


 その後、持ってた袋の中の金の半分くらいを、目の前にぶちまけた。村の人がビックリした隙に立ち上がった俺は、


「すいませんでした!」


 と叫んで深く頭を下げ、一目散に逃げだした。幸い、追ってくる村人は居なかった。


 お母さんが後ろに隠してた娘さん、明らかに幼児。あんな娘さんを売る相談してた所に、のんきに飯奢って下さい、とか鬼だろ。せめてお金は払うからとか言えばよかった。それでも激怒されたかもしれないなあ、金なんて食べられないし。


 当たった石のせいで頭がグラグラしたけど、気にせず後ろも振り返らず、俺は恥ずかしくて逃げる他なかった。この世界も普通に残酷だな、と思いながら。


★★★


 どうにか、石造り二階建て程度の高さの城壁に囲まれた町っぽいところの、入口に立っている。


 あれから道をあるいて、村が見えても接触を避け、三日くらい歩いて漸く見えてきたのが、この城塞っぽい町かなあ、城ってやつ。周りは何もない。前に小さな平原が広がってて、後は山に囲まれてる様子。


 畑とかどこにも無いんだよね。町に近づくごとに周囲が拓けて、畑やら村やらがあり、城壁には野菜など生鮮品を町に売りにくる商人達で溢れって、いうテンプレではない。最初の村人以外、まったく誰とも会わない三日間だった。テンプレ嫌いなんでしょ、もういいよ。


 助けてくれる人も無く、革袋の水が尽きたので途中の川で水を汲んだら生水でお腹壊すし。もう一回水汲んで、超頑張って火を使ったりと、なかなかにサバイバルな三日間だったなあ。ようやく隠れられそうな場所で、辺りに気を遣いながら寝ることを覚えた。


 そのサバイバルも今日で終了、やっとこの町で、俺の異世界生活が始まるんだなあ。そう思ってたんだけど。テンプレ通りならな!不安だな!


「ごめんくださーい」

「むむ、怪しい奴」


 槍を構えた兵士が門番してるところに話かけたが、目に止まってからずっと不審な目を向けられている。テンプレっぽい善良なおっさん、では無いですね。


「あの、旅の者なんですけど」

「よし捕まえろ」

「ええええええ?」


 いきなり槍をつきつけてくる兵士三人。慌てて手をあげる俺。首根っこ捕まえられて、借りてきた猫のように大人しく城壁の中、取調室に連行される。さすがに問答無用の捕縛は想像してなかった。


「それで?」


 部屋に着き、目の前にはいかついおっさん。脇には槍を構えたおっさん達。後ろに大きい穴。あ、ここ取調室じゃねえや、処刑室だわ。穴からウンコみたいなきっつい匂いするし。これが腐臭だな?


 俺を生かすつもりの無い異世界転生?そもそも異世界転生のチートで、異世界の生水にお腹壊した奴いたっけ?始めの村で石投げられた奴いたっけ?俺を生かす気無さ過ぎだろ。


「え、えーと、町に入る入場料とか?審査とか?」

「公園じゃねえんだ。入場料でホイホイと中に入れるわけなかろうが」

「あの、身分証明するものもなくてですね」

「許可状が無ければ話は終わりだ」

「流民か」

「そもそも王家の御印が押されてようが、ここは領主様の本拠。使いの者としても事前に連絡くらいあるだろう」


 脇のおっさんたちまで怪しい怪しいと決めつける。真ん中のおっさんは頷いた。


 後から聞いたんだけど、領主の許可状が無い限り、村に暮らすものはその村から出てはならず、許可を得て城、町に暮らすものは町を出ることはできない、それが常識なんだって。


「あの、ギルドとか無いですかここ」

「ん?何ギルドのことだ?」

「冒険者ギルドとか」

「なんだそれは?」


 いかついおっさんは首を傾げる。えっとギルドすら無い系ですか?


 生かすつもりまったく無いみたいな。


★★★


 おっさんは首を傾げて聞く。


「冒険者とはなんだ、そもそも」

「改めて考えたら、冒険者ってなんだろうなあ」

「貴様ふざけているのか」


 脇の兵士が槍をくいっと動かす。いきなり刺されてもおかしくない状況。


「うわ違います違います!あの依頼を受けて魔物を倒したり、素材を集めたり、ダンジョンを探索したりでお金を貰ったりする、いろんな土地を廻ってそういう仕事を生業にする人たちなんですけど」

「うーむ」

「いや、そんな勿体ないことさせるわけがないだろう」


 もう一方の脇に構える兵士が言う。え?勿体ない?


「ダンジョンの探索は、通常、囚人に行わせる」


 正面のいかついおっさんが頷く。手にした宝は国家で総取りってことだね。


「そうだ。幸い戦争でそれなりに実力がある捕虜や囚人があり余ってるからな、どの国も」

「減ったら適当にどっかの領土襲ってかき集めればいい」

「わざわざ金を払って頼むのも勿体ないな」

「魔物の討伐にいたっては、そんなあやふやな事情で動く私兵などに頼っては危険で仕方ない」

「そんな連中おらずとも我らがおるではないか」


 うんうん頷く兵士のおっさんたち。言ってる事かなりエグくね?


「いや待て、流浪者保安協会のことではないか?それは」

「ああ、確かに」

「それなんですか?」


 俺はおっさんたちを遮って聞いた。違う名前だけどギルドっぽい気がする。遮られたおっさんは顔をしかめたが、他のおっさんたちが口々にしゃべり出した。


「簡単に言うと、お前のような流民、棄民を管理する局だ」

「流民や棄民が国や町に溢れては困るのでな、捕まえて協会で保護している」

「どの国でも問題だからな、協会同士の横のつながりもあるらしい」

「どうせ放っておいたら死ぬような連中だ。労働力として使うだけではなく、素材集めや魔物の巣に近い畑の警備、ダンジョンの探索、魔物討伐など、色々仕事を与えて管理しているのだ」

「そうか、たまに討伐隊を募ったりしてるな」

「ダンジョンの偵察にも使うか」

「死んでも所詮流民だ、大した被害もないし、使い勝手はいい」

「そうか、あいつらを『冒険者』と呼んでやればいいのか」

「人生がそのまま危険な冒険に満ちたお前たちにはお似合いの名だな」

「嫌な仕事ではなく、冒険と銘打てば進んでやる者が居るわけだ」


 はははは。兵士達は大笑いだ。テンプレっぽくないテンプレキターって叫びたい気分。エグいよ。


「ふむ、保安協会に引き渡して欲しい、というのがお前の希望になるのか?」

「確かに所属票を持って入れば問題はなかったが」

「もう終わった話だしなあ」


 いやらしく笑う三人のおっさん。俺はウンコ臭い穴、ゲハゲハ笑って俺に襲いかかろうとするおっさん、槍を構えて逃亡を阻止するおっさん、扉の向こうを見張るおっさんの様子を見回す。


 こいつら慣れてやがる。きっとこうして旅の流浪者、いや冒険者を拉致しては、毎回お楽しみだったんだろうな。終わったら後ろのウンコ臭い穴にポイってか。


 最初の村人達、泣きそうな顔をしてお母さんの服にしがみついていたあの幼児を思い出す。冒険者を優遇どころか使い捨て扱いするこの兵士達を見る。普通に残酷で理不尽な世界に、怒りのアドレナリンがドバドバ状態だった俺は、そのまま授業の柔道を思い出しながら、ゆっくりと俺に向かって手を出すおっさんの伸ばした袖を掴んだ。え?と不思議な顔をするおっさん。


 いや、もう我慢の限界。どうせ襲われて汚されて穴にポイなんだろ?


 体型の違いも味方し、大きな体の袖を掴んで持ち上げ、脇から体を後ろに抜ける事に成功した。ちょうど、槍のおっさんと俺に袖を捕まれたおっさんと俺が一直線に三人並ぶ。槍の心配もないし、思いっきりおっさんを蹴って、そして押す!


 蹴る場所はおっさんのウンコ穴、蹴った先にもウンコ穴だ!クソ野郎が!


 激痛に歪んだ顔の、正面に立ってた一番エラそうなおっさんはこちらを振り返りながら、ウンコ臭い穴に落ちていった。うわあああああああ。悲鳴と固い物同士がぶつかる音。ドロドロの何かに落ちる音が聞こえた。結構深いね。


 呆然とする残り二人のおっさん。この隙は俺の唯一なチャンス!俺は振り返って、槍を持ってるおっさんの手を蹴り上げる。槍の先が地面についてたし、手に力も入ってない、そんなに足をあげる必要がないから俺でも出来るし、ちゃんと当たったよかった。外してたらここで槍に刺されてゲームオーバーだったなあ。


 突然の痛みで片手を離したおっさんに代わって両手で槍を掴み、勢いよく槍を奪う俺。槍を奪われたおっさんが慌てる。俺は、奪った槍を素早く振り回して、その回転の勢いのまま、おっさんの顔面に突き出す!


「ぐふ」


 槍は眉間から右目沿いに突き刺さり脳に達したらしく、そのままおっさんは絶命した。両手でひねりながら力任せに槍を引き抜く俺。ひねり抜きで貫かれたおっさんの体がビクビク跳ねた。


 え、と一人落ちたウンコ穴、それと今まさにビクビクしながら崩れるおっさんを見る、監視役の最後のおっさん。俺は既に、槍を振り回して監視役のおっさんの顔を狙っている。監視役は声を出さずに、ただ槍が自分の顔に刺さるのを見ていた。槍は同じく目の辺りから脳を突いた。即死っぽい。両手でねじりながら槍を引き抜く。言葉もなく監視役のおっさんも倒れた。


 ふう。


 死んでる二人のおっさんを見て、だんだんと俺の体も震えてくるが、それどこじゃねえ。俺は必死でこの城から逃げる方法を考えなくちゃいけない。さもなきゃ死ぬ。


 ああ、俺の異世界生活始まらなかったわ〜、つうか始まらなさそうだわ〜。テンプレ結局一回もないわ〜。


 ぼやきながら逃げる方法を考えつつ、死体を漁る。こいつらもなんか獣臭いな。あ、このウンコ臭い穴から逃げられないかな。通路に出ても見回りの兵士に見られたら終わりだし。


 冒険者になる夢は町に入る前に潰えた。なんで転生してまで搾取される側にならなあかんの。絶対いやだわ。かといって町に入る手段も無さそうだし、まともな暮らしが出来るとは思えない。いかんいかん。先の話より今の話だ。どうにか、このクソ臭い穴を無事に降りて脱出しないといけない。


 死体が見つかったら追っ手とか、討伐隊すら考えられる。しかも討伐隊って同じく搾取されてる側の冒険者がやるんだろ。ありえる。絶対そんなことさせねえぞ。残った死体も穴に落としとかないとな。あ、ロープがあった。このロープつかったら穴の下まで降りられるな。ていうかそもそもその為に用意されてるロープだなこれ。コブ作ってあるし先っぽ変色してるし臭いし。


 仕方が無い。死体から役に立ちそうなナイフとかパクりおわったので、二つの死体を穴に蹴り落とす。ため息をついてから、辺りを確認し、おっと扉が開いていた。静かに部屋の扉を締めて、適当な家具で扉を塞いで。


 それから俺はロープを穴に垂らして、臭いロープを握り締め、このクソ穴を見下ろす、俺を生かすつもりは無さそうな、この世界で俺は生き残ってやるぞ、どんなことしてもだ。


 クソ。負けないぞと俺はロープを下り始めた。ああ、ウンコ臭い穴、やっぱめっちゃ臭い。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、続くのかな? もうちょっと読みたい。
[一言] 続き読みたいです!!
[一言] 面白そう。続き気になります。
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