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傭兵である俺がエロゲーの世界に転生した件について  作者: エージェントK
第1章 小学生編
8/34

第6話 覚醒と卒業と・・・

今回の話で小学生編は終了です。次回は中学生編が始まります。


 やっちまった……この世界に来てから慣れないことも多くて少なからず失敗を重ねたが、今回の失敗は失敗中の失敗、大失敗だ……。




 だが後悔はない。たしかにいくらでも解決する手段はあった、だがそれは俺らしくない。俺が俺として自由に生きると決めた次点であの行動は必然だったのだ………。



 ことの始まりは五時間目の授業が終わり帰りのホームルームが終わってからだった……。


「ブタオ!今日も勝負するから手抜きしたら承知しないわよ!!」


 左手を腰に当て右手の人差し指をビシッとこちらに向けた恋が吠える。


「ハハハ、解ってるよ」


 最近、恋主催の放課後特訓は運動勝負にシフトチェンジしていた。理由は単純、俺が恋の運動能力を追い越してしまったからだ。男女の体格差や自宅での追加トレーニングの有無がこのような結果になったのは当然のことかもしれない。しかし恋がそんなことで納得する筈もなくこうして放課後になると勝負を仕掛けて来るのだ。別に勝負に負けたからってペナルティが有るわけではないが、今のところ俺が勝ち越している(以前ワザと負けたらバレてみっちり怒られたのでそれ以降は全力でやっている)。


 恋は体操着に着替えるために女子更衣室に向かって行った。俺も着替えないとな……




ガヤガヤ


「………なんだ?」


 体操着に着替えて廊下に出てみると何やら騒がしい……

 騒ぎは6年1組から起こっているようだ。1組には理子がいるから理子に騒ぎの理由を聞こうと思い1組の教室に入った。


「返してくださいッ!」


「嫌だね!ホレ、威太郎」


「ナイスコントロール!」


 俺の目に映ったのはプレゼント用のカラフルな絵柄のリボンのついた袋でキャッチボールをしている佐藤と鈴木、困惑気味にそれを見る1組の生徒、そしてその袋を必死に取り返そうとしてる理子だった。


「お願いです!返してください」


 理子が必死になって取り返そうとするが二人が袋をすぐに相手にパスしてしまいためなかなか取れずにいた。


「どーせブタオにやるんだろ?やーなこったww毅パス!」


 意地悪そうな顔のまま鈴木は佐藤に袋をパスする。


「あんなヤツにやるなんて勿体ねぇ、俺が貰ってやるよ」


「そ、そんな!止めてください!それは征男さまに……」


 理子が必死になって袋を取り戻そうとするがこの2年の間にさらに成長して背が伸びた佐藤が袋を持った手を上げてしまえば小柄な理子では取り戻すのは不可能だった。


 クソッ!失念していた……俺に直接ちょっかいかけても意味がないと思ったあの野郎どもは俺の側にいつもいる理子に矛先を向けやがった。俺に対する遠回しの苛めか?ふざけやがって!


 だがどうする?ここで俺が理子を助けに入ったら面倒なことになる鬱憤の溜まった奴らのことだ、逆上して暴力を奮ってくるだろう。奴等をねじ伏せるのは簡単だしかしそれをやってバタフライエフェクトが起きたら今後が厄介なことになる。例えば原作でのこいつらのポジションに別の奴等がいたら?そいつらが原作にない動きをしたら?そいつらが理子やヒロイン達に手を出したら?原作知識のある俺でも対処できないかもしれない。


 そう思うと助けることを躊躇してしまう自分がいる。奴等だって流石に女の子にそこまで手荒なことはしないだろとか、誰かが助けてくれるさとか、そんな希望的観測を並び立てる自分がいた。


 だがそんな都合のいい話有るわけなく奴等の行動はエスカレートしてるし、教室にいる奴等はあいつらの次のターゲットになりたくないのか、見て見ぬふりだ、しかも1組の生徒に混じって嫌な笑みを浮かべる高橋がいやがる黒幕ぶって高見の見物か?


 クソ!恋が入れば止めてくれそうなもんだが恋は女子更衣室に行ったのですぐに来そうにないし……どうすればいいんだ!?


「そういえば何入ってんだ?どれどれ……」


「え!?や、止めてください中を開けないで!」


 佐藤が袋を開けようとするのを理子が止めようとするが鈴木が理子を羽交い締めにしてそれを防ぐ。


「ん?なんだよ……クッキーじゃねーか」


 中から出てきたのは少し不恰好なクッキーだったおそらく市販品ではなく手作りなんだろう……手作り!?


 俺の脳内に愛の発言がリピートされる。


『りこちゃん『征男さまに美味しいクッキープレゼントして驚かせたい』って張り切ってたよ』










 あのクッキー俺にあげるやつだったのか……


「なんだ、ただのクッキーかよ」


 中身を見てガッカリする佐藤


「俺、クッキー嫌いなんだよな。イラネ」


 佐藤はつまらなさそうに袋に入ったクッキーを床に落とす。


「あぁ!そんな!」


 鈴木から解放された理子は慌ててクッキーを拾おうとするが……



 グシャァ


「あ………」


 クッキーはデカイ足によって踏みつけられた。


「あ、ワリィwwフン図蹴けちゃったわwww」


 踏みつけた佐藤はそう笑いながらいい踏みつけた足でクッキーをグリグリとより一層踏みつける。


「そ、そんな……」


 無残な姿になったしクッキーを見て膝から崩れ落ちる理子……その瞳から一筋の涙が……







 



 ブチンッ







 俺の中で何かが切れた………















 もうバタフライエフェクトなんてどうでもいい、今は理子を泣かせた奴等に仕返しをすることで頭がいっぱいだった。


「ちょっとあんたら何やってんのよ!?」


 奴等に向かって歩を進める俺の背後から恋の怒鳴り声が聞こえる。どうやら恋が異変に気付いて止めに入ったようだ。


 恋が来たならばわざわざ俺が出てくる必要もなくなる。しかしそんなことは関係ない!理子を泣かせた奴等に直接手を下さないと気が済まなかった。


「なんだブタオかよ。なんかようか?あぁん?」


佐藤の腰巾着の鈴木がガン飛ばしてくるがそんなチャチなもんでビビる俺ではない。


「お?どうしたブタオ?愛しの待田が泣かされて怒ってんのかwww?」


 佐藤が煽ってくるがそれも無視する。俺がそれくらいの煽りで怒ると思ってんのか?そうだよ怒ってるよ。


「おい!いい加減なんか言ったr「黙れ」ッ――――」


「ヒッ――――」


 ゾクッ―――――――


 煽りになんの反応も示さない俺に痺れを切らした佐藤が胸ぐらを掴んで来たが黙らせる。別に暴力を奮った訳じゃない殺気を佐藤に直接ぶつけて黙らせただけだ。何故か近場にいた鈴木も巻き込まれる形で殺気を喰らいビビっている。まあ、キャンキャン吠える犬っころが黙ったのだからラッキーと思おう。


「お望み通り喋ってやったぞ?なんか言ったらどうだ?」


「くっ………」


「ヒッ………」


 なんだよ俺が喋ってやったのにだんまりかよ。まあ、殺気ぶつけてるから仕方ないか、戦場に入ればこれの数十倍はする殺気に当てられたことのある俺からしたらこの程度の殺気雑作もない。


「でだ、お前さっき言ってたよな?『愛しの待田が泣かされて怒ってんのか?』だっけ?……そうだよ怒ってるよ」


「うっ!…………………」


「あ、あああ……」


「う、苦しい……」


「なん…だよ……これ………」


 感情が高まってるせいか、佐藤と鈴木にも向けてた殺気が教室中に拡散、その場にいた生徒達にも殺気が伝わり皆顔色を悪くしている。少し申し訳ないと思うが見て見ぬふりをした罰だと思って諦めろ。


 黙らせるために殺気を放ったがちとやり過ぎたか?あのガキ大将の佐藤は歯をガタガタ言わせながら真っ青な顔で脂汗をかいている。鈴木に関しては歯どころか膝がガタガタ震えて立っているのがやっとの状態だ。


「お前等、俺に手を出してもつまらないからって理子に手を出すなんてどういう了見だ?」


 素の口調に戻っているがそんなことはどうでもいいとばかりに俺は奴等に対する殺気を高める。奴等には肉体的な苦痛よりも精神的な苦痛を味合わせたい。


「ち、違うんだ!俺らは只頼まれただけなんだよ!」


「オイ!寄せ!威太r―――「黙れと言った」グッ!」


 顔を涙やら鼻水やらで汚くしている鈴木が何やら密告を始めた。それを佐藤が止める為に怒鳴るが俺が再度黙らせる。


「へぇー頼まれた、ねぇ……それはお前のことか高橋?」


「ヒィ!」


 俺は振り返りながら声をかける。そこには無関係な生徒に紛れ後退りしながら逃げようとする高橋がいた。


「お前のことか、と聞いている答えろ高橋……」


「ち、違う僕じゃない!僕も待田を苛めれば、ブt……征男君を精神的に苦しめられるって進められただけだよ!」


 高橋の野郎普段のインテリぶったたいどが嘘のようにビビってやがる。メガネがズレてるのがマヌケに見えて少しだが溜飲が下がる。


「進められたね……でも実行に移したのはお前らだよな?」


 俺は指をポキポキ鳴らしながら高橋に近づく。


「ヒィ!そ、それは謝るよ、な、なんなら誰に進められたか、言うからs「いや別に言わなくていいよ」えっ………」


「進めた奴なんてお前らを()()()() からゆっくり捜しても問題ないだろ?」


 高橋の顔が絶望に染まる。せっかくズレたメガネのおかげで下がった溜飲がこいつの無様な命乞いのせいでまた上がってしまった。殺気ぶつけるだけで済ませようとしたけど……無理だ直接肉体に言い聞かせないと気が済まない。暴力沙汰になろうが知ったことか!とりあえずは高橋の顔を2度とメガネを掛けれない顔に変形させてやろう。


「女の子泣かせたんだ。覚悟しろよ」


「や、やめ……やめてくれ!頼むよ!」


 逃げ出そうとした高橋だったが殺気に当てられたせいで腰が抜けたのかすっころんだ。



「さあ、歯を食いしばれよ」


 俺が拳を高橋に放とうとした時だった……。


「やめてください征男さま!私はもう……大丈夫ですから!」


「ッ!?……理子!?」


 理子が俺の腰にしがみついて止めたのだ。


「征男さま!私大丈夫ですから、落ち着いてください!」


 理子の必死の懇願で俺は冷静さを取り戻し、殺気を消す。殺気消したら安堵の声とともに崩れ落ちる1組生徒が多数でた。どうやら俺の殺気のせいで金縛り状態になっていたらしい、流石に小学生にあの殺気は大人げなかったと少し反省する。


「ごめん、理子ちゃん…我を忘れてたよ」


 俺はハンカチを取り出すとまだ涙で濡れている理子の顔を拭う。本来ならこれを最優先にするべきなのに自分の怒りを優先してしまった。精神が肉体に引き寄せられているとはいえ、情けない話だ。


「いいえ、気にしないでください。私なんかの為にあそこまで怒ってくれて正直嬉しかったです」


 そう言いながら理子は自分の発言に恥ずかしそうであったが笑顔を浮かべた。


 理子と二人の時間に浸りそうになったが、思考を無理矢理戻しあの3人組を見た。


「た、助かった………」


 すっころんだ高橋は安堵の声をあげていたが何故かズボンが濡れていた。クンクン、この辺り立ち込めるアンモニア臭……この野郎、小便漏らしやがった。


「あ、あああ……ああああ……」


 鈴木は情けない声を出しながら必死にお尻を押さえていた。クンクン、腐っ!?何だこの臭い?ま、まさかこいつクソ漏らしやがったか!?


「クソがっ………」


 それに比べ佐藤はタフだ。殺気を直に喰らったのにすくむだけですんでいるからな。腐ってもガキ大将てところか?


「おい、佐藤」


 もちろんそんな評価を本人に伝えるつもりはないが奴に声をかける。


「な、なんだよ……」


 ビビってる癖に強がる佐藤が滑稽に見えて笑いそうになるが顔には出さず淡々と喋る。


「足……退けろよ……」


「あ……?」


「そのフンずけたクッキーから足退けろって言ってんだよ!三下がッ!」


 イライラした俺は再度佐藤にだけ殺気を当てる。


「あ、ああ!」


 佐藤は慌てて踏みつけたクッキーから足を退ける。俺はクッキーの入った袋を拾うと汚れを叩く。


「あの、征男さま……そのクッキー「理子ちゃん帰ろうか?」え?ゆ、征男さま!?」


 俺は理子の手を引くと教室から出るため歩き出す。入り口近くには野次馬の生徒達がいたが俺にビビって道を開ける。


「ブタオ、あんた……」


 入り口近くにはあの騒動を止めようとした恋が顔を真っ最中にしながら俺に声をかけた。その瞳には恐れの色が見えた。


「ごめん今日は勝負なしね」


「え、ちょっとどういうことよ!?」


 俺は恋を無視すると理子の手を引きながら教室から出た後ろから恋の呼び止める声が聞こえたが俺達を追ってくることはなかった。

















「宜しかったのですか?」


「何がだい?」


 俺と理子は自宅に帰る帰路についていた。理子はランドセルを背負っていたから問題ないが俺は早くあの場を離れたかったが故に荷物を持たないでここまで来てしまった。今の俺の持ち物は今来てる体操服とそのポケットに突っ込んだ葉巻変わりのスティックシュガーのみだ。


「東堂さんを置いて行ったことです」


「仕方ないよ。恋ちゃん恐がってたし……」


「そんな、恐がるって……征男さまは悪くないですよ!」


「まあ、理屈と感情は違うからね」


 恋のあの瞳を思い出す。あの怯えた瞳……幼馴染に向けるような瞳ではない。まあ、俺が故意では無いとはいえ、あんなに殺気をぶちまけたんだあんな瞳で見られても仕方がない。こりゃ学校に行く度にあの瞳に見詰められそうだな(学校しばらくバックレるか?)。


「それより理子ちゃん、このクッキーって今日の家庭科の時間に作ったんだよね?」


 俺は納得していない理子の気を反らすために先程のクッキーを理子に見せる。


「は、はい……征男さまに食べて欲しくて作ったのですが……もう「え!?これ僕にくれるの?嬉しいな〜」え?ゆ、征男さま!?」


 俺は砕けたクッキーの中から一つ摘まんで食べた。


「ゆ、征男さま!?ダメですよ!そんな床に落ちた物を食べては!」


「大丈夫大丈夫!それよりこのクッキー美味しいね。また作ってよ」


「は、はい、ありがとうございます!って、そうじゃなくてですね!」


「いや〜ご馳走さまでした」


「はい、お粗末様です。って全部食べちゃったんですか!?」











 理子の慌てふためく声をBGMに俺達は帰宅した。



















「葉巻吸いてぇ〜」


 俺は自室でスティックシュガーを咥えながら独り言を呟く。


 あれから数ヶ月たった。俺はあの日以来学校に行っていない。あの件で停学を喰らった訳じゃない(そもそも俺は殺気をぶちまけただけで暴力は奮っていない)別に引きこもってる訳でもない毎日欠かさずトレーニングしてるし外出もしてる。なら何故学校に行かないのか?


 答えは簡単、只気まずいだけだ。あんなに殺気ばら蒔いた後だあの3人組が仕返ししてくるかもしれないし、他の生徒からも恋みたいな瞳で見られそうだと思ったからだ。それに高校とかと違って休んだって問題ないからな。両親も何かを察したのか俺が休んでも文句は言わなかった。まあ、おかげで有意義な数ヶ月を過ごすことが出来たので行幸と言える。




 トントントン


「どうぞ〜」


「征男さま、準備が出来たようです」


 ドアをノックして理子が入って来た。そうか、もうそんな時間か……


「解った。すぐ出るよ」


 俺は必要最低限の物を詰めたリュックを背負うと外に出た。






 そう、今日は引っ越しだ。



「結局、征男さまあの後1度も学校に行きませんでしたね」


「アハハ、1ヶ月くらいで済まそうとしたんだけど、そのままズルズル休んじゃった」


「もう、向こうの中学は休まずちゃんと行ってくださいね!」


「はぁ〜い」


 もちろん休むつもりはない、休んだら秋穂にいるまだ見ぬヒロイン達が犠牲になるからだ。


「そういえば今日は卒業式だけど理子ちゃん行かなくてよかったの?父さんや理貴さんに頼めば出発の時間くらいずらしてくれたと思うけど」


 そう今日は俺達が通っていた小学校の卒業式が有るのだ。父さんのミスで見事に引っ越しの日と被ってしまったのである(必死に土下座して俺や理子に謝る父さんが可哀想に感じたのは言うまでもない)。


「卒業式なんて人生で後2〜3回は有るんですから一回くらい休んだって構いませんよ」


 そういうモノなのか?俺の勝手な偏見かもしれないが女子ってこういう行事を大切にするイメージがあるから少し以外である。


「それより征男さまの方は宜しかったのですか?東堂さん達と会えるのも今回が最後かもしれないんですよ?」


「今まで休んでたのに卒業式だけ来るなんて図々しくない?」


 俺的には今回で最後とは思っていない何故なら原作開始時にまた会うからだ。だが、そう自信を持って言えるのは、俺に原作知識という未来予知にもひとしい叡智を持っているからだ。しかし理子にそのような物はもっていないだからせっかく今まで俺と違って休みなく登校していた彼女が卒業式に限って休むことが理解できなかった。


「お、征男、理子ちゃん来たか」


「二人とも忘れ物はないね?」


 そこには車の準備をしている父さんと理貴さんがいた。必要最低限の荷物を父さんの自家用車2003年仕様のセレナに積み込む、持ち運びが大変な家具は既に買い揃えて向こうの家に置いてあるそうだ。



「ユキオちゃ〜ん!喉乾いたでしょ?はい、お茶」


「理子も水分補給しときなさい今回は遠出だからね」


 母さんと文子さんが俺と理子に水筒に入ったお茶を差し出す。遠出か……東京から東北までこのセレナで父さんと理貴が運転を交代しながら向かうからな、つーかこの世界で初めての東北だな、前世と何か違いがあるのだろうか?



「ありがとう母さん、ところで父さんもう出発するの?」


 俺は母さんから受け取ったお茶を飲みながら父さんに聞く


「ん?ああ、もう少し待ってなさい。そろそろ来るから……」


 腕時計を見ながら意味深なことを言う父さん


「来るって……一体誰g―――「ゆきおく〜ん!!」グハッ!」


 突然背後からタックルされた。バカな平時から人の気配に敏感な俺が気付かなかっただと?


「クッ、誰だ!って愛ちゃん!?」


 そこにいたのはしばらくぶりに見る幼馴染の愛だった。あの運動音痴の愛が俺の警戒をすり抜けたというのか?愛、恐ろしい娘!


「ゆきお君酷いよ!学校来なくなったと思ったら引っ越すなんて……どうして何も言ってくれなかったの?あんまりだよ!」


 涙ながらにそういうと愛は俺に抱き着いたままわぁんわぁん泣き出してしまった。


「えっと……」


「征男、女の子を泣かせるなんて感心しないな。出発遅くするから愛ちゃんに謝罪と別れを言いなさい」


 父さんはそういうと理貴さんと一緒に離れた。文子さんも『後は若い子同士でゆっくり話なさい』とウィンクして野次馬根性剥き出しの母さんを引っ張って行った(母さんェ……)。


「ごめんね、あんなことがあってから他の皆と会うのが気まずくなっちゃって……引っ越しのこと言い出せなかった」


 俺は愛の顔をハンカチでふきながら謝罪の言葉を口にする。


「あんなことってりこちゃんが苛められたこと?なんでゆきお君が気まずくなるの?ゆきお君は悪くないんだよ!」


「僕、恋ちゃんと怖がらせちゃったし……」


「恋ちゃんはそんなこと気にしないよ!」


 愛の言葉を聞いてると罪悪感が込み上げてくる。やはり学校には行くべきだったな……。唯一救いは愛がここに来てくれたことか……だが、どうして引っ越しのこと解ったんだ?まさか……


「理子ちゃん……愛ちゃんに引っ越しのこと話したの君でしょ」


 俺は一歩下がったところから微笑んでる理子に言う、父さんも愛が来ること知ってたぽいっが仕事と引っ越しの準備で忙しい父さんが愛に伝える暇はない。なら消去法で考えて俺が不登校になってからも学校に行っていた理子しか考えられない。


「はい、私が西寺さん達に伝えました。やはりお別れを直接言った方が言いと思いましたので」


 まさか、理子に謀られたとは思わなかった。だが2年前のイエスマンだった彼女が考えて行動したと思うと成長を実感して喜んでしまう。


「ゆきお君!言っておくけどりこちゃんを責めるのは筋違いだからね!悪いのは全部ゆきお君だよ!」


「はい、反省してます」


 別に責める気はサラサラないのだが、恋が可愛らしい顔で『私怒ってます!』と言いたげな瞳で睨んでくるのでとりあえず謝る。


「ゆきお君には罰として引っ越してからも毎日連絡してください」


 と、言うと愛は自分が使う子供携帯(電話・メール・GPS機能だけのシンプルな携帯)を見せる。


「うん、解った。毎日電話するよ」


 ちなみに俺の携帯は子供携帯ではなく多機能な最新モデルだ。しかしスマホに慣れた俺からしたら満足な性能ではない。早くスマホが市場出回って欲しいものだ……。


「約束だよ!」


 愛はそういうと俺を強く抱きしめた。オゥフ……愛さんや、あんたもう中学生になるんだからそう簡単に異性に抱き着くのやめなさいや。精神年齢37(いやこっちの年数入れたら39か)の俺じゃなかったら色々と勘違いしちまうよ。しかも強く抱き締めてくるもんだからこの2年の間に成長した愛のお胸様が俺の胸板にっ!


 

 俺が愛のお胸様を堪能していると後ろから気配が……理子は俺達の前でニコニコと微笑んでるので違う……もしや



 俺は背後の気配が動き出したので愛を左手で抱き寄せながら上半身だけを捻って後ろ向きそのまま空いた右手を掲げる。


シュッ――――バシッ


「やっぱり恋ちゃんだったか」


 俺の視線の先には黒い筒を俺に振り下ろした恋がいた、振り下ろしたと言っても俺が右手で受け止めたがな。


「避けてんじゃないわよっ!このブタオ!」


 人にそんなもん振り下ろしといてその台詞は無いんじゃない?まあ、言われて当然のことしたけどさ……。


「ちょ!?れんちゃん!そんなの振り下ろしたら危ないよ!」


 愛が恋に避難の声をかけるが恋は鼻を鳴らすだけだった。


「いいのよそんな奴、あたし達を心配させた罰よ!」


 ヤバい恋もカンカンに怒ってたか……やっぱり不登校なんてするもんじゃないな。


「ホントにごめん、まさかここまで皆に迷w「ちょっと待って!」どうしたの?」


 俺の謝罪の言葉を遮る恋、一体何だろうか?


「あんたの謝罪の言葉を聞く前にどうしても言いたいことがあるの」


「言いたいこと?」







 一体何だろう?









「あんたいつまで愛を抱き締めてるのよ!この変態ッ!!」


 顔を真っ赤にさせながら怒る恋はあの筒を再度俺に振り下ろした。


 シュッ―――バコン


「あ痛ぁ!」


 恋さんや、抱き着いたの俺やない愛さんやでぇ……


 俺は筒で叩かれた頭を押さえながらそう思うのだった。ちなみに今回はワザと恋の攻撃を受けた。それが責めてもの詫びだと思ったからだ。





















 

「ところで時間的にまだ卒業式の途中だけど二人とも大丈夫なの?」


 その後、恋の癇癪も収まり俺は恋と二人っきりで話をしていた。理子と愛が別れの言葉を掛け合っていたので空気を読んで離れたのだ。


「そんなもん、卒業証書受け取ったらバックれるに決まってるじゃない。卒業式よりも勝ち逃げしたあんたに制裁する方が重要なの!」


 勝ち逃げ?ああ、放課後の勝負のことか……言われて見ればあの日勝負パスして以来やってないな。こりゃ悪いことしたな……。


「ホントごめんなさい……」


「もういいわよ……あんたに一撃当てられただけで十分よ……ああ、一撃で思い出した」


 恋は自身が背負っていた赤いランドセルから俺をブッ叩いた筒と同じ黒い筒を取り出し俺に投げて寄越す。


「これは……卒業証書?」


 なんなくキャッチして中身を改めるとそれは卒業証書だった。


「バックれる時に担任から頼まれたのよ。普通届けるって担任の仕事でしょうに」


 仕事を押し付けられて不満をこぼす恋。


「わざわざ悪いね。ありがとう」


「あんた叩く次いでだから構わないわよ」


 なんともなしに言ってはいるが礼を言われて嬉しそうだ。考えてみれば転生してから彼女には世話になりっぱなしだったな。次に会える原作開始時までに何かお礼を考えないと……。


「でもまさか、二人が来るとは思わなかったよ」


「服男も来たかったらしいんだけどね。あいつ、卒業生代表だから……服男、残念がってたわよ。まあ、その分あたしが(卒業式の)打ち上げで服男を慰めてあげるわ!」


 恋は握り拳を作り闘志を燃やす。そうだ!原作が始まったら恋と服男がくっつくようにお膳立てしよう。恋と同じく服男が好きな愛には申し訳ないが借りを返すためにも恋と服男のために俺が人肌脱ごうじゃないか!


「ハハハ、頑張ってね」


 その後は恋から俺のいない間の学校の様子を聞いた。佐藤、鈴木、高橋の3人組はあの件の後、最初は学校での立場を失っていたらしい。まあ、今まで苛めてた奴に睨み付けられただけで(端から見たらだけど)糞小便垂れ流すんだから当然かもしれない。だが立場を失ったのは最初だけで、あの3人組はあの件の目撃者に口止めを強要、俺の換わりに他の弱い奴を苛めて暴君(とその配下)としての面目を保ったらしい。まったく、奴等のこういうところだけは優れているから笑えない。


「ところであいつら理子ちゃんにまたちょっかいかけてないよね?」


 俺はあの日以来から気にしてることを恋に聞いた。俺のいない間に理子があいつらから報復を受けていないかという懸念があったのだ。理子本人に聞いても『大丈夫です』とは言うのだが、理子の性格からして隠してる可能性があるため不安を拭えなかったのだ。


……もし奴等が理子に何かしたら……今度こそ奴等を……


「……あんた、あの時と同じ()してるわよ……ハァ〜、大丈夫よあの3馬鹿、理子に手を出すどころか露骨に避けてるわよ。それにあんたの名前を出すことも禁止してるわね。実際にあんたの名前を呟いた1組の男子がボコスコにされたらしいし」


「そっか、よかった……」


 俺の心配が杞憂に終わって安心した。それにしてもあの3馬鹿まさか、箝口令を敷くとはな……あれが余程のトラウマになったか、


「ハァ〜……あんたそんなに理子が気になるんなら学校来ればいいのに……」


「ハハハ……耳が痛いな」


 ごもっとも過ぎて反論する余地がないホント情けない話だ。


「あんた、あたしが恐がってると思って学校来なかったんでしょ?」


「………」


 図星だ、やはり恋の勘いや観察眼は侮れないな。


「言っとくけど、あたしあんたのこと恐がってないからね」


「え?」


「確かにあの時はすくんだけどああなったのて、理子の為だったんでしょ?なら問題ないわ!あたしは理子を苛めない、つまりあんたにあんな殺気だった目で睨まれることもないって気付いたのよ」


「まあ、理子ちゃんじゃなくても恋ちゃんに何か合ってもああなってたと思うよ」


「へぇ〜嬉しいこと言ってくれるじゃない、でも残念あんたはお呼びじゃないわ、あたしに何かあったら服男に助けてもらうもの!」


「それは残念だ」


 本当、恋はブレないなそこが魅力なんだけどさ。





 それからもお互い頑張ろう会えなかった分を取り戻すように長く話込んだ。


「お待たせしました征男さま」


「レンちゃんお待たせ!」


 理子と愛がこっちに来た、お互い言いたいことを言えたようだ。


「理子ちゃんも来たし……そろそろ行くね」


「そう……」


 恋に改めて別れを告げる。恋も少し寂しそうにそれに応じる。


「りこちゃん向こうに着いたら電話してね!」


「はい、解りました愛さん」


 どうやら理子と愛もキチンと別れを告げれたようだ……ん?愛さん?


「ち、ちょっと理子あんた愛のこと名前で……」


 そうなのだ、理子は俺以外の人を名前では呼ばない例えそれが親しい幼馴染で合ってもである。それがどうだ、愛のことを名字の『西寺』ではなく名前の『愛』で呼んだのだ。一体さっきの間に何があったというんだ?


「りこちゃんに頼んだんだ『名前で呼んで』って」


「はい、私もいつまでも西寺さんじゃ他人行儀だと思いまして愛さん本人の了承も貰いましたんで呼ばせ頂きました」


 原作を知る俺からしたら素晴らしいほどの原作改変である。原作の理子は最後まで他人を名前で呼ばなかったからな。


「愛!あんただけ名前呼びなんてズルいじゃない!理子!これからはあたしのことは名前で呼びなさいッ!『東堂さん』なんて呼んだら許さないわよ!!」


「解りました。東d―――失礼しました。恋さんと呼ばせて頂きます」


「フン!よろしい」


 不遜な態度だが恋は嬉しそうだ(顔真っ赤だし)。それにしても原作女性陣3人が原作以上に仲が良いはとても喜ばしいことだ。ただ……ガールトークに花を咲かせるので疎外感が半端ない……父さん同情的な表情で俺の肩叩くのやめてくれない?余計寂しくなる。
















 別れを済ませたので俺達は父さんのセレナに乗り込む。


「それでは愛さん、恋さんお元気で……」


「りこちゃん向こうに着いたら連絡してね」


「ブタオになんかされたら、あたしに言いなさい。向こうまで行ってとっちめてやる!」


 理子が二人に出発前に言葉を交わす。


「酷いな恋ちゃん……あ、愛ちゃん服男によろしく伝えてね」


「うん!任せて!」


「恋ちゃん…またね」」


「あんたの顔見るなんて2度と御免よ!」


「ハハハ、相変わらずだな〜おっと、そろそろ出発するから二人ともさようなら」


 俺はセレナのスライドドアを閉めよう手をかけるが、


「ちょっとまって!」


 恋に止められた。


「あんたに一つ言い忘れたことがあったわ……」


「なんだい恋ちゃん」













「卒業おめでとう。()()!」


「!?」


 名前で呼ばれるとは思わず呆然とする。思えば恋に名前を呼ばれるのは初めてかもしれない。


「今度あったらまた勝負よ!」


 おい、さっきは会うのは2度と御免だって言ってなかったか?でもまあ、ここまで言われたんだこっちも返事しないとな。


「卒業おめでとう。()


「!?」


 おっとまた素が出ちまったか、だが関係ない。今は自分の言いたいことを言うだけだ。


「その勝負、望むところだ!」


 こうして恋達と別れの言葉を交わした俺達は京極市を後にした。











―――――そして………








「初めまして皆さん、()の名前は悪原 征男、東京の京極から引っ越して参りました。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」





 秋穂で俺の中学生活が始まった。





閲覧ありがとうございます次回から中学生編がスタートします。中学生編はバトルシーンがそこそこありますのでお楽しみに!

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