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傭兵である俺がエロゲーの世界に転生した件について  作者: エージェントK
第2章 中学生編
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第15話 黒狼VS暴走族

今回で暴走族との戦いが終わります。



「坊主……よくここまで集められたな」


 和泉モータースのガレージ内に和泉のおっさんの呆れた声が響くそれもその筈ガレージには十数台のバイクがあるからだ。


「当然ですよ。大野 ダイ達を仕止めた後も狩りましたからね」


 俺は電子タバコを吸いながら当たり前のように返事をする。


 大野 ダイ達を仕止めた後も俺は堕悪苦寝棲狩りを続けた。雄介君仕入れる情報のおかげで奴等がどこでどのように行動しているかが手に取るようにわかったので少人数で行動する奴にターゲットを絞り集中的に狙った。そのせいで今では堕悪苦寝棲はヘッドと2〜3人の構成員のみとなった(事実上の壊滅だな)。ちなみに劾の時は奴等を混乱させる為に死体を隠したがそれ以降はしていない、死体の処理するのが面倒になったからでなく『お前等を狙っているぞ』という見せしめ目的だ。目的通り奴等の足並みは乱れ狩り易い状況になった、それと警察は死体の状況を見て堕悪苦寝棲と敵対していた怒羅権帝琉が堕悪苦寝棲を完全殲滅するために放った複数人の刺客による犯行として怒羅権帝琉の取り締まりを強めた。これで俺が堕悪苦寝棲を壊滅させてから怒羅権帝琉の相手をせずに済むのでありがたかった。


「坊主お前さん、ツイてるな。調度日本製のバイクなら種類問わず有るだけ売ってくれって客から注文あってよ在庫がなかったから助かったぜ」


 そう言いながら和泉のおっさんは俺に紙袋を渡す。中身を確認すると万札の束があった。俺が狩ったバイクの買い取り料金だろうかなりの額だ。


「ありがとうございます。ですが、少し多すぎませんか?」


 盗難品のバイクがここまでの価格になるとは思わなかった俺は何か裏が有るんじゃないかと警戒する。


「そうでもねーぞ、注文したのはベトナム人なんだが東南アジア(向こう)でバイクは貴重な移動手段だからな。日本製のバイクは合法非合法問わず高額で取引されてんだよ」


「なるほど……」


 そういえば前世で東南アジアはバイクの定員人数の規定がないから家族の移動手段としてもバイクって重宝されてたな(フィリピンでバイクで五人乗りしている家族を見た時は笑った)、なるほどそのベトナム人は東南アジアでそのバイクを買った額の倍の値段で売るんだろうな、それでも正規の手段で日本製のバイクを現地で買うより安上がりなんだろうが……。


「では私は、最後の仕上げがありますのでこれで……」


 そう、今日で堕悪苦寝棲を終わらせるその準備の為に俺は帰ろうとしていた。


「ちょっと待ちな坊主!……これやるよ」


 和泉のおっさんが俺を呼び止め、金が入った紙袋とは別のズシリと重みのある紙袋を俺に寄越した。


「……これは?」


「いいから開けてみな」


「わかりました………ッ!こ、これは!?」


 訳もわからず中を開けて俺は驚愕するガレージが暗いせいでよく見えないが間違いないアレだ。前世で見慣れ使ったことすらあるそれを俺が見間違う訳がない………拳銃だ。


「トカレフですか………一体どこで?」


「取引相手のロシア人から気に入られてな、護身用に使えって貰ったんだよ」


 トカレフTT-33、1933年に旧ソ連で制式採用されたシングルアクションの自動式(オートマチック)拳銃である。生産性と耐久性を追求した結果、少ない部品数で過酷な環境でも動作する安価でシンプルな構造の拳銃となった。安価で単純な構造故に東側諸国でコピー生産された(中国の54式手槍やユーゴスラビアのM57など)。一昔前ではソ連の制式採用拳銃がマカロフに代わり処分される筈だったトカレフや中国で非合法に作られた粗悪な54式手槍が日本に密輸されヤクザの武器になったことで銃に疎い一般人でも知っている銃となった(ヤクザ映画にも登場するので知名度のある拳銃である)。


 今回和泉のおっさんから渡されたトカレフは使い古された感じとしっかりと作られているフレームからして中国製の粗悪品ではなく本場ソ連(今はロシアか)で作られた純正トカレフで間違いないだろう。トカレフ本体にマガジンは装填されていないが弾丸が装填されたマガジンが5本紙袋に一緒に入っていた。


「このような物……よろしいのですか?」


「何言ってやがるかまわねぇから渡したんだよ。それに護身用に貰ったんだがコイツが必要になるような危ない橋を渡ったことも無い俺より今危ない橋渡っているお前さんが持った方が良いと思ってな」


「危ない橋って……後はヘッドと2〜3人潰すだけですよ?」


 構成員という手足を無くした堕悪苦寝棲は最早首を切り落とされるの待つだけの存在だ。今更危ない橋は無いと思うのだが……。


「聞いた話なんだが、奴等のヘッド……林 孝だったか?あの野郎追い詰められてチンピラから(チャカ)買いやがったらしい……人を殺すようなタマじゃねーらしいが追い詰められた人間は何をするかわかんねーからな」


「そうですね……」


 まあ、素人が拳銃の一つや二つ持った所で俺にはどうってことないが……彼との()()がある。用心しておくべきだな。


「坊主……気を付けろよ」


 和泉のおっさんは、神妙な表情で言う。彼は俺を心配してくれるようだ。


「お気遣い感謝します」


 俺はそれだけ言うとガレージから離れた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「こんな……筈じゃ……」


 深夜とある廃工場、火がくべられたドラム缶を囲む三人の男の一人が項垂れながら呟いた。男の名前は林 孝、堕悪苦寝棲のヘッドである………だったと言うべきか、既に堕悪苦寝棲の構成員の殆どが黒ずくめに各個殺害又は黒ずくめに怖じ気づき逃亡し、今は孝とこの場に居る二人と工場の外に居る見張り役一人のみしか居らず組織は壊滅したと言える。


「怒羅権のクソヤローに負けてこんな田舎に来たってのに………何でこんなことになっちまったんだよ!」


 残った構成員の一人『彗星のマコト』こと谷山 誠が叫ぶ。


「もう残ったのは、この場に居る三人と外で見張りをしている清水だけです。ヘッド、もうあの村から手を引きましょう」


 孝の右腕、『平野 忠司(ひらの ただし)が秋穂からの撤退を進言する壊滅的な被害が出ているので当然の判断だ、まあ言うのが少し遅過ぎたようだが、


「ダメだ!そんなことをしたら()()がパーになるじゃねーかぁ!なんの為にこんな村に来たと思ってやがるっ!」


 報酬―――これが孝が撤退という選択肢を選ばない理由であり、忠司の撤退進言を遅らせた理由である。そもそも怒羅権帝琉に破れた彼等がこんな田舎の村に来たのは、ある依頼からだった。依頼主は目だけが矢鱈と鋭いことを覗けばそこいらに居そうなサラリーマン風の男、奴は自らを山田と名乗り孝にある依頼をする『秋穂村の住民に嫌がらせをし村から出て行くように仕向けろ』という単純な依頼にヘッドの孝は怒羅権帝琉が追い討ち掛けるために仕掛けた罠ではないかと邪推したが前金として100万をポンっと出したのしかも成功報酬で200万払うと山田は語ったので、組織の再編と打倒怒羅権の為に活動資金が欲しかった孝は引き受けてしまった。サツにパクられる危険性もあったが山田が何とかするとのことだったので、構成員には村人に嫌がらせをするように指示した。村人宅への投石、危険運転、深夜の騒音、ひったくり等である。山田の何とかする発言を疑問視していた孝だったが自分達が村で犯罪を犯しても警察が捜査している気配がなかったので山田には警察にコネがあると予想した。まあ、コネがあると言っても傷害や殺人は不味いと思いひったくりで老婆をケガをさせた誠実や中学生を半殺しにしたダイには厳しく注意したがその二人はもういない……。


「ですが、この人数じゃ依頼をこなすことはおろか、あの黒ずくめに殺されるのがオチですよ!!」


 孝の発言に反論する忠司、この人数では山田の依頼はおろか、神出鬼没な黒ずくめに対抗するなど不可能だった。


「ビビってんじゃねーよ忠司!あんなチンケな村に居るジジババなんぞここにいるメンツだけでも追い出せる!それにこっちには黒ずくめの野郎をぶっ殺すのにコイツを買ったんだ、負ける訳ねーよ」


 そう自信満々に言いながら孝は懐から焚き火の炎が反射して黒光りする回転式(リボルバー)拳銃を取り出す。『M-10ミリタリー&ポリス』.38スペシャル弾を6発装填出来るリボルバー拳銃だ。


「これさえあれば………ひ、ヒヒヒ」


「ヘッド……」


(チッ……追い詰められておかしくなったか)


 M-10を見ながら不気味な笑い声をあげる孝に誠と忠司は後退るそもそも二人は忠義心から組織に残った訳ではない誠は『堕悪苦寝棲の彗星のマコト』という肩書きを忠司はせっかく手に入れた組織のナンバー2という権力を手放せず逃げることを躊躇していた所を追い詰められたヘッドが拳銃を手に入れたため組織を抜けるなんてことになったら撃ち殺される危険があるからである。つまりは逃げるタイミングを失ったのだ。二人は今、拳銃を持ったヘッドよりクロスボウくらいしか飛び道具を持っていない黒ずくめと戦った方がマシという消去法でこの場に残っているのだ。


「それに奴だって俺達がこんな廃村に隠れてるなんて思う訳ねーしな、ギャハハハ!」


 二人の気持ちを知らない孝はそう言って気色の悪い笑い方をする……もしかすると追い詰められたせいでクスリにも手を出したのかもしれない。


「……仮に俺達の居場所がわかったとしてもこの廃村への道は一本だけその道を清水が見張ってますので奴が来たら一目瞭然です」


 忠司はもし黒ずくめが来た場合の対処を説明する。彼等が居るこの廃工場は秋穂より更に北にある山間にある廃村、穂先村のかつては営業していた材木加工場である。彼等がここに居座っているのは孝と忠司が説明した通り黒ずくめに見付かる可能性が低いことと穂先村に行く道が秋穂からの一本道しかないので黒ずくめが来てもその一方道を見張っていればすぐに気付くからである。


「奴が来たら村の建物中を散り散りに隠れるんだ……俺達を探して隙を見せた奴を皆で一斉に襲い掛かれば俺達でも勝てる筈だ……ヒヒッ!不意討ちばっかしてくる奴だが不意討ちされることは慣れてなさそうだからなヒヒヒ」


 そう言いながら不気味な笑い声を上げいずれ来るだろう黒ずくめをイメージして銃に構える孝、その瞳には焦点が定まってなかった。」


(やっぱりクスリヤってんな?チッ!あんなんじゃ当たるモンも当たんねーよ!クソッ奴が来たらどさくさに紛れてあのピストル奪って俺が撃った方が良いんじゃねーか?)


 自分の組織のヘッドに対して不謹慎なことを思う忠司、今回の一件で彼の只でさえ下落していたヘッドのイメージは既に紙切れ同然までになっていた。もし孝が拳銃を持っていなかったら忠司は間違いなくトンズラしていただろう。


(これで黒ずくめをぶっ殺したら次は孝の野郎をぶっ殺して俺が次のヘッドになるか?いや誠と清水しかいないこんな組織に価値はねぇ他の族に入れて貰うか?)


 忠司は今後の予定を思い描く、ここまで追い詰められても黒ずくめに勝てると思っているようだ。銃という隠し玉がある以上そういう安易な気持ちになるのは当然かもしれないが……だがそんな甘い考えが通用するような柔な相手ではない。




 ピシュッ―――ブスリッ!


「えっ………いだぁああああッ!」


 空気を切るような音がしたと思えば次の瞬間、誠が叫び声を上げ左肩を押さえる。見れば誠の左肩にはクロスボウのボルトが突き刺さっていた。


「なぁ!?」


「ま、誠!!」


 痛みに耐えきれず泣き叫ぶ誠を見て混乱する孝と忠司。


「やぁ!誠君、この前みたいに仲間見捨て逃げ出さないように先に仕掛けさせて貰ったよ」


 工場内に陽気な声が響き渡り、混乱していた二人はようやく自分達が攻撃されたと理解した。


「く、黒ずくめ!」


「ば、バカな、奴が来たら清水から連絡が来るはずだ!」


 黒ずくめの登場により更に混乱する二人、黒ずくめが来たら道路を見張る清水からスマホで連絡をする手筈だったからだ。


「清水?ああ、道端にボケッと突っ立てたアイツか……後ろから回って首の骨折ってやったよ」


「う、嘘だ!この廃村に来れる一本道を見張っていた清水の背後をどうやって回れるんだぁ!」


「はぁ〜お前等、道はあの舗装された所だけだと思ってるだろ?抜け道があるんだよ」


「抜け道……だと!?」


「地元民しか知らない舗装されてない道さ、お前等みたいな余所者じゃまずわからんだろうな……俺も存在知ったの最近なんだけどな」


 二人は黒ずくめの最後の小声の発言は聞こえていなかったようだが前半の発言には衝撃を受けた。まさか抜け道なる存在があったなんて想像していなかったからだ。


「まぁ……そんな訳でお前等の策は意味をなさなかったという訳だ。安心しろ最期までしぶとく逃げ回ったその根性に免じて楽に死なせてやるよ」


 背中に背負ったの木刀を片手で抜き切っ先を二人に向ける黒ずくめ。


「誰が死ぬかボケぇ!死ぬのはお前だぁ!」


 今まで冷静に現状を分析していたいや冷静さを装っていた忠司も流石にこの黒ずくめの発言には我慢出来なかったようで孝の拳銃を奪うのも忘れ護身用の金属バットを拾い握り直すと黒ずくめに向かって襲い掛かった。


「勢いは買うが……それだけだ」


 それだけ言うと振るわれる金属バットを片手で握る木刀で受け止めつばぜり合いに持ち込み相手いる片手で忠司をぶん殴った。


「ぐふぅ!」


「木刀持ってるからってそっちを気にしちゃダメだろ?」


 顔面を殴られ転倒した忠司にダメ出しするとそのまま木刀を両手に持ちにし力一杯ぶん殴る。


 グチャアァ


 忠司の頭がカチ割れ中身が飛び出る。


「フム、スイカ割りの時と似た感触だな……さて」


 チャキ


「おう、動くんじゃねーよ」


 忠司を潰し次の獲物に移ろうとした黒ずくめにM-10を突きつけたにやけ面の孝が前に出る。


「おや、おっさんの言う通り本当に銃を持ってやがったか」


 黒ずくめは木刀を捨てると両手を上げる。


「へへへ、これで形勢逆転だな黒ずくめ!いや……坂上!」


「はぁ、お前も俺のことを坂上と呼ぶか……」


 手を上げながらため息を吐く黒ずくめに対して孝は爆笑する。


「ヒャハハハ、誤魔化すんじゃねーよ、お前が坂上だってことはとっくの昔に割れてんだよ!まあ、わかった時にはうちのチームはお前のせいで壊滅、報復する力も無くなっちまったがな!!」


 笑っていたと思ったら突然怒鳴り出す孝、情緒が不安定のようだ。


「お前のせいでチームは壊滅だ、落とし前どうつけてくれる?お前の命だけじゃー足りねーな……そうだ!お前を殺した後お前の家に要ってやる。そしてお前のお袋と親父を殺してやるんだ!アハハハ!これだ!これをやろう!」


 外道な台詞を笑いながら吐く孝、それをヘルメット越しでも呆れているとわかる黒ずくめ


「あ〜あ、コイツ言いやがったよ」


 黒ずくめは呆れを越えて憐れにすら思っているようだ。しかしそんか黒ずくめに気付かない孝


「そうだ。殺す前に坂上、メット取れよ。前にお前の顔写真を見たが実に良い顔してたよ腹立つくらいに………だからよ殺すにしてもこのチャカで顔面ぶっ飛ばして、お前の親が見ても誰だかワカンネー顔にしてやる。あっ!お前の親、顔見れねーや俺がお前を殺した後にすぐ殺すからな!アハハハ!」


「お前……後悔しても知らんぞ」


 黒ずくめはやれやれと言った感じでヘルメットを脱いだ。ヘルメットの中に隠された顔は秋穂中学の生徒、坂上 雄介――――


「はぁ?誰だオメー?」


 ではなかった。孝は呆然とした。確かに写真で見た坂上同様、整った顔立ちの男だったが顔が全然違う。坂上がワイルドな面の男に対して、目の前の男は理知的な男だからだ。


「だからあれほど言ったろ?俺は坂上ではないと……本人はお前の後ろに居るがな」


「へぇ?後ろ?グフェ!」


 孝が振り替えるとそこには目の前に黒ずくめと似たような格好をした奴が木刀を振り下ろしていた。木刀は孝の頭部に命中、孝は衝撃でM-10を落とした。


「はい、キャッチ!」


 孝が落としたM-10を空中でキャッチする黒ずくめ……いや悪原 征男、彼はM-10が地面に落下して銃が暴発するのを防ぐためにわざわざこのようなことをしたのだ。


「ぐ、ぐおお……く、黒ずくめが二人だと……!?」


 ぶん殴られ血が滴る頭部を両手で押さえながら征男ともう一人の黒ずくめを驚愕の表情で見る孝。


「お前等の為に呼んだ特別ゲストだ。さぁ、ゲストさんメットを取ってやれ」


 どこか芝居染みた口調で話す征男、この後の展開を予想したのか、楽しそうである。


「………」


 征男の指示の元メットを取るもう一人の黒ずくめ。


「なぁ!?やっぱりお前だったか、坂上!!」


 メットを取ったもう一人の黒ずくめの正体を知り驚愕、そして増悪に顔を歪ます孝、そうなっても仕方ない何故ならその正体は―――


「で、俺を殺した後に誰が俺の両親を殺すって言った?」


 最近まで自分達の組織を壊滅させたと思っていた坂上 雄介だったからだ。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 アハハハ!あの顔傑作だな!俺は爆笑しそうになるのをポーカーフェイスで隠してメットを取った雄介の顔を見て滑稽な姿を晒す林 孝を見ていた。


 和泉のおっさん言った通り野郎は拳銃を持っていた。一応おっさんから貰ったトカレフを革ジャンのポケットに入れて奴が発泡しようとしたら反撃するつもりだったが、孝の背後に雄介がスタンバっていたのでその必要はなかった。え?なんで雄介が居るのかだって?それは先日の病院でのことだ。



「堕悪苦寝棲のヘッド、林 孝だけは俺が仕止めたい、だから奴を倒す時は同行させてくれ!」


 先日病院の休憩室で情報収集の代わりに雄介から突き付けられた条件、それは堕悪苦寝棲のヘッドを自らの手で仕止めることだった。


「坂上君、それがどういうことだか、わかっていますか?」


 今世の親友である雄介には手を汚してほしくなかった。人を殺しても平然としてられる人間は極少数だ。人を殺した人間は殺した時はそれほどでもないが後になって苦悩する。その苦悩を自分なりに解決出来ればいいが出来ない人間は苦悩したまま、精神を病み殺した人間の声が聞こえるだの夢に殺した奴が現れるだのと言い出す。そして最悪の場合は無関係の人間を殺傷したり自ら命を絶つことになる。この問題に対して現代の軍隊では兵士に人を人として殺させるのではなく()()()()()()()()()という刷り込みを厳しい訓練の中に紛れ込ませて対応している。人と敵、端から見たら言い方の違いだけかもしれないが実際に訓練で的を狙って銃で撃つというものがある所謂射撃訓練だ。兵士はそれを軍にいる間何十回何時間もやらされる。殺っていくうちに的=敵という図式が彼等兵士の中に無意識に生まれる。そして実戦で人を撃つことになった場合、自分が撃つ人を敵と認識する彼等にとって敵とは的のことだ。故に彼等は相手が人間でも躊躇なく引き金が引けるのだ。この洗脳にも等しい刷り込みも欠点がある。兵士でも人によってはその刷り込みが解ける場合があるのだ、戦地帰りの兵士が自殺や銃乱射等の奇行をするのもそれが理由の可能性が少なくはないのだ。ちなみに俺は運の良いことに人を殺しても何とも思わない極少数の側であった、世間から言ったらサイコパスやシリアルキラーみたいに言われるかもしれないが俺は生憎奴等ほど無差別に殺害しないので多目に見てほしい。


 話がそれてしまったがつまり一般人による殺人とは殺人罪による逮捕等の社会的ペナルティがなくとも忌避するリスクが高いことなのだ。雄介が人を殺しても警察にバレないように証拠を隠滅することは出来るが雄介の殺人による心のダメージは流石に俺ではどうすることも出来ない。だから俺は一時の感情で過ちを犯してほしくなかったので先ほどの発言をしたのだが当の雄介は、


「わかってる……敵の親玉だけ殺させろってお前の手柄を横取りするようなもんだからな、でも学や一彦の兄貴分としてそして秋穂村の一員として学や一彦、佐々木のじいさんに伊藤のばあさんにあんなケガさせたチームのボスにはそれなりの責任を俺の手で取らせたいんだ……自分の自己満足だと思うそれでも頼む!俺に奴等のヘッドを獲らせてくれ!」


 そう言って雄介は俺に頭を下げた。アレ?なんか俺と雄介で認識がズレているんだが………俺は雄介に殺人というリスクを理解させる為に『どういうことだか、わかっていますか?』と言ったつもりだったんだが雄介はこの発言を『それは俺の獲物を横取りするということか?』という解釈で受け取ったようだ。


 アレ?こいつ殺人に対する忌避感無くね?さっき堕悪苦寝棲に対する返しをやめた理由だって仲間に罪悪感を背負わせたくないっていう殺人そのもののリスクより仲間を思っての行動だったし、まさか………俺の中で一つの可能性が浮上する。


「はぁ、わかりました。ヘッドだけはあなたに残しておきましょう」


「本当かっ!?すまねぇ悪原!この借りはキッチリ返すからな!」


 俺はその可能性を確かめる為にヘッド殺害を了承してしまった。













「お前、俺を殺して俺の両親も殺すなんていい度胸してんな流石暴走族のヘッド言うことが違うな」


「え、へへへ、じ、冗談ですよ坂上さん」


 そして現在、目の前には木刀を肩に担ぎながら不敵に笑いながら殺気を出す雄介とそんな雄介に怯え低姿勢になっている孝がそこにいた。つーか、孝お前さっきの威勢はどうした?銃がないとお前はそんなもんなのか?情けないこれが暴走族のヘッドとか聞いて呆れる。


「冗談?お前それで吐いた唾が飲めると思ってんのか!あァ?」


「ヒィ!か、勘弁してくれ!金ならやる!だから!」


 中学生に命乞いをする暴走族……ひでー絵面だ。


「金で済む問題じゃねぇーんだよ、お前のチームがうちの村に何をやったか考えて見ろよ?」


 あーあ、金って言った瞬間雄介の殺気が増したわ、雄介みたいなタイプは金の話は禁句なのに孝の奴死んだな(いや雄介が殺さなくても俺が殺すけどね)。


「ち、違うんだ!アレは金で雇われてやったことで悪意は……「お前金で雇われたらなんでもしていいと思ってんのかァ?」ヒィいい!すんません!すんません!勘弁してください!」


 情けなく土下座までする孝、そこには暴走族のヘッドだった面影はない。それにしても雇われたね……こんな嫌がらせのために落ち目の暴走族雇う奴とは一体なにもんなんだ?是非とも孝を問い詰めて聞き出したい所だがヒートアップしている雄介に水を差したくないので放っておく、こんな落ち目暴走族を雇うような奴のことだ今度は別の暴走族かチンピラを雇ってくるに違いない、聞き出すのはその時でも遅くない筈だ。それより今は雄介の活躍を目に焼き付けることの方が有意義だ。


「ケッ、これで暴走族のヘッドとは聞いて呆れるぜ!もういいこれで終わりにしてやるよ」


 木刀を大上段に構える雄介どうやら終わらせるようだ。


「や、やめてくださいお願いします!謝ります謝りますから!」


 自分の命が残り僅かだと理解した孝は涙と鼻水と頭からの流血でぐちゃぐちゃになった顔で無様に命乞いをする。最期の最期まで見苦しい男だ。


「最期まで往生際が悪い野郎だ……なァ!」


 グチャア――――


 雄介は木刀を振り下ろし命乞いをする孝の頭をカチ割った。奇しくも辺りに響いた音は俺が平野 忠司の頭を潰した時と同じ音だった。


「スイカ割りみてぇだな」


「プッ………」


 俺と似たような感想を言う雄介に思わず吹き出してしまったが幸い彼には気付かれていなかった。俺が清水と忠司を殺害した場面を見て尚且つ自分自身の手で孝を撲殺したというのにあの発言あれは強がりではなく心の底から思った率直な感想だった。


 やはり彼は俺と同じように平然と人を殺せる部類の人間なのだろう。今の場面を見て俺はそう確信した。人を人として殺せる人間は裏の世界では貴重だ才能と言ってもいい、良心の呵責や罪悪感に押し潰される心配もないからだ。だが俺としては雄介には裏の世界に関わってほしくなかった。彼はあの才能が無くても生きて行ける。彼の野球の腕はかなりのものだ、あれが有れば表の世界で十分に食っていけるだろう。これは俺のエゴかもしれないが彼には表の世界の親友としてこのまま生きていてほしい、最も孝を殺すことを容認した俺が言う台詞ではないがな。


「にしても悪原、お前って荒事になると一人称変わるレベルで口調が荒くなるな」


「戦闘になるとどうもな……」


 実際はこっちが素なのだが話がややこしくなるので本当のことは言わないでおく、あれ?そういえばなんか忘れてるような……


「見てやったぞぉ!」


 忘れた事を思いだそうとした俺の思考を遮るように大声が廃工場に響き渡った。もちろん雄介の声ではない


「あ、谷山 誠……」


「チッ!忘れてた」


 声がした方向にいたのは左肩にボルトが突き刺さりながらもバイクに股がっていた誠であった。


「お前等の顔はキッチリ見てやったからな!サツにチクればお前等はブタ箱行きよザマァみやがれ!」


 言いたいこと言った誠はバイクのエンジンを掛けアクセルを吹かし走り始めた。


「へぇ〜左肩にボルト刺さってんのによく運転出来るな」


「感心してる場合かよ、アイツがこのまま逃げたら俺達刑務所なんだぞ」


 場違いな感心をしてる俺に雄介が突っ込みを入れる発言の内容の割に慌てた素振りがないことからどうやら俺が何とかするだろと思っているのだろうか?


「まあ、何とかしますよ」


 まあ、雄介の予想はある意味正解だな。俺は孝から奪ったM-10を両手で構える。今世で初めての拳銃射撃だが外す気はない。相手は真っ直ぐ逃走する誠のバイク、最大100メートルは飛ぶ拳銃の弾丸でも有効射程つまり狙った所に確実に当たる距離は5〜10メートルで奴との距離は既に50メートルも離れている。しかしそれは些細な問題に過ぎない。前世の頃にM-10は使ったことはあったし辺りの地形、風の流れは確認出来たので外すことはあり得ないのだ。



 タァーーン





 辺り乾いた銃声が轟くそして





ダガシャーーン




 バイクの横転する音が響いた。




 堕悪苦寝棲は本当の意味で壊滅した。






次回からはしばらくヒロイン達とのデート回をしますのでお楽しみに

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