第13話 復讐鬼
今までは主人公の一人称視点のみだけでしたが今回は試験的に部分的なんですが三人称視点に切り替わります。ご了承お願いします。
「雄介!?学と一彦は!?」
「遅れました」
薫の説明によると雄介の舎弟である学と一彦が大ケガをしたらしく刈穂の病院に運ばれたとのことだった(秋穂にも診療所はあるが入院設備はない)。とりあえず二人の容態を確認する為、俺は薫と2人乗りで父さんのフェックスで病院に向かった。え?免許?バカ野郎友人の危機だ!そんな細かいことは関係ねえ!
病院に付き受け付けで確認すると二人とも治療は終わり病室で安静にしているとのことだ。一体何があったというのだ……。
「オウ、二人も来たか……」
二人の病室の前には壁に寄りかかった雄介がいた。その表情はなんとも言えないものだった。
「雄介!二人は!?」
「……重傷だが命に別状はない、今は薬で眠ってる」
薫に二人の安否を聞かれた雄介は説明しながら病室のドアを開ける。病室には頭を包帯でぐるぐる巻きにされ右足にギブスが巻かれた一彦と右目が青タンになり右腕にギブスを着けた学がいた学はいつも牛乳瓶のような眼鏡をかけておらず、牛乳瓶眼鏡は彼の横でヒビだらけの状態で置かれていた。
「酷い……」
青ざめた顔で二人を見つめる薫、学校の友達がこんな酷い姿になっているんだ無理もないだろう。
「坂上君、彼等に何があったんです?」
「実は―――」
雄介の話によると今日は三人で隣町の刈穂のゲームセンターで遊ぶ約束をしていたらしい刈穂まで自転車で向かう予定だったらしいのだが雄介の自転車がパンク、修理が終わるのを待とうとする二人を無理矢理先に行かせ雄介は自転車の修理をしていたそうだ。自転車を直し刈穂に着いた雄介はもうスピードで逃げるように走り去るバイクを目撃、バイクが来た方向から女性の叫び声が聞こえたので行ってみたら二人の泣き叫ぶ女の子とケガをして倒れている学と一彦を発見したそうだ。
「その女の子達は何か関係しているので?」
「前駐在やってた吉村のおっさんの双子の孫娘だよ」
彼女達の話によると夏休み二人で遊びに出掛けたら四人の暴走族風の男達に絡まれたそうだ。その男達は最初『一緒に遊ばない?』などと言って彼女達をナンパしていたが彼女達が一向に応じないことに激怒して無理矢理ろじうらに連れ込もうとしたらしい、だがそこに吉村のおっさん経由で面識のあった学と一彦が止めに入り事態は一変した。喧嘩慣れした一彦が四人相手に大立ち回りしたら激昂した男の一人が近場に落ちていた鉄パイプで一彦の頭を殴打した。頭を殴打されダメージを負った一彦にそいつは何度も殴打した。学も双子を庇う為に男達に立ち向かったが双子を守りながら四人戦うのは荷が重く最後はリンチ状態になった。そこを運良く歌いながら自転車を漕いでいたが近づいて来たので慌てバイクで逃げたようだ。
「かなり痛め付けられたらしくてよ、前歯の何本か無いし、腕や足は骨折してるし、一彦に関しては頭にヒビが入ってんだぞ?女助ける為とは言え無茶しやがって……」
そう言って雄介は自分の拳を強く握りしめた。自分の舎弟がボコられたのだ怒って当然か……。
「下手人には?」
「逃げ切ったらしい、だが双子の話だと奴等は白の特攻服を着込んでたそうだ。それと鉄パイプで一彦を殴った野郎を仲間が『ダイ』と呼んで止めを差すのを止めさせていたな。白の特攻服なんて今時着てんのは堕悪苦寝棲くらいのもんだし、堕悪苦寝棲には『バーサークのダイ』って言われてる切れたら手が付けられない暴れん坊がいるから、九分九厘堕悪苦寝棲が下手人だな」
予想外だ。原作では『最近暴走族が出て困る』という何気ない日常会話に登場するくらいでイラストもなく名前すら作中で明かされなかったモブ集団だと思っていたのだが……まさかここまでのことをやらかすとは思わなかった。やはり手負いの獣は見境が無いな。
「……んじゃ俺はそろそろ帰るわ」
「え!?雄介もう帰るの?」
帰ろうとする雄介に薫が尋ねる。
「人数いたって病院に迷惑掛けるだけだろ?留美とか見舞いに来そうな奴には連絡したからよ」
そう言って病室を後にしようとする雄介だったが………
「………離せよ。悪原」
俺が雄介の肩を掴んで止めたのだ。
「手を握り締めすぎて血が出ている人をそのまま行かせるわけないでしょうが」
雄介の手は力一杯握り拳にしたせいか爪が食い込み血が垂れていた。これだけでも彼が怒っているのが解る。
「それに君、怒りに任せて返しに行くつもりですね?」
「えっ……嘘!?」
「………」
「黙秘は肯定するのと一緒ですよ」
返し……つまり報復だ。雄介は学と一彦をあんな目に合わせた『バーサークのダイ』と残りの三人いや堕悪苦寝棲そのものに返しをするつもりなのだ。
「ああ、そうだよ……仲間があんな姿にされたんだ……奴等を同じ目に逢わせねーと気がすまねぇんだよ!」
怒りの感情を吹き出しながら叫ぶ雄介、屋上で漏らした怒気とは比べものにならないくらいだ。最早怒気というより殺気だな…………ヤバい状況だなこういう怒りと殺意に身を任せた奴は大抵無謀な無茶をするそれこそ自分の命を省みないで………あっ、そういえば原作でもこの時期にクラスメイト二人がケガで入院した後、別のクラスメイトが亡くなっていたな生徒達の雑談がオリジナルにもそれとなく伝わっただけなので名前までは解らないがその死んだクラスメイトは報復をしようとして返り討ちにあった雄介のことかもしれない……。
「ですが、坂上君はこの前スポーツ推薦を貰ったばかりでしょう?今無茶をしたらそれが取り消しになりますよ」
そう雄介は先日、刈穂高校からのスカウトということもあり早めにスポーツ推薦を手に入れたのだ。(刈穂高は有能な生徒は他の高校に取られる前に唾を付けておくタイプのようだ)
だがそんなスポーツ推薦も生徒が不祥事を起こせば取り消される可能性がある。それこそ暴走族に報復なんて取り消し確定だ。俺はこの世界で初めて出会った親友と呼べる存在に将来を棒に振ってほしくなかった。
「スポーツ推薦?そんなもんは犬にでも食わせろ!俺は仲間が苦しい思いしてんのに自分だけ幸せに暮らすような人間にはなりたくねぇんだよっ!」
「………」
俺は雄介の今の世の中に合わない熱い生き方に呆れると同時に憧れの感情を抱く、雄介と親友になったのも自分にはないものを持つ彼に惹かれたからかもしれない。
「なら伺いますが彼等が貴方の人生を棒に振らせてまで自分達の仇を討てと願うような屑野郎ですか?」
「あぁん?今なんて言った?屑野郎だ?あいつらはそんなんじゃねえよ!」
「ちょ!雄介やめなよ!」
仲間を馬鹿にされたと思った雄介は俺の胸ぐらを掴むがそれくらいで動じる俺ではない俺は顔色を変えずに淡々と話を続ける。
「なら何故貴方は報復なんてことをするのです?彼等は貴方の人生を棒に振ってまで復讐を願うような人間ではないと解っている筈だ。彼等の目が覚めた時に貴方が復讐を果たし遂げた代償に推薦を取り消されたと知ったら、彼等が喜ぶとお思いで?そんな訳ありません。彼等が罪悪感に押し潰されるのがオチですよ」
「…………クッ」
雄介も今の話で少し冷静になったのか俺の胸ぐらを掴む力が段々弱まりついには離した。しかし顔は怒りではなく苦悶の表情を浮かべていた。
「わかっちゃいるんだよ……俺が報復したってあいつらが喜ばないなんてよ。でもよ……考えちまうんだ。俺が自転車のメンテサボんなきゃパンクせずに済んだんじゃないのかって、パンクしなきゃ俺もあいつらと一緒に堕悪苦寝棲相手に暴れられたんじゃないかって………そしたら………あいつら……が………あんな姿にならなかったんじゃないかってよぉぉ………」
そう言いながら雄介は堪えきれなかった涙を溢した。
「気持ちはわかりますが今更ifの話をしてもどうにもなりません。今は過去の話をするのではなく未来のことを話ましょう。君の語る誰も喜ばない未来よりも現実的で最良の未来の話を」
そう言って俺は不敵に笑った。
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深夜2時、山間を通る蛇行はしているが舗装されている道を2台のバイクが走る。いなほ道と呼ばれるこの県道は土地問題の関係上一本道でありながらカーブが多く地元民からも不人気なのだが、この二人には関係なかった。
「イッヤホォオオオ!」
「たまんねぇーぜっ!!」
奇声を上げながらバイクを乗りこなす二人の男、一人は『谷山 誠』暴走集団、堕悪苦寝棲に所属する堕悪苦寝棲最速の男で通称『彗星のマコト』。
もう一人は『大田 劾』誠の次に早さを追い求める男で『音速のガイ』と呼ばれている。
「よっしゃ!また俺が一番!」
「クッソッ!また負けたよ!」
どうやら二人は秋穂村の入口にある『秋穂へようこそ』と書かれた看板をゴールラインにしてレースをしていたようだ。二人は堕悪苦寝棲が怒羅権帝琉に破れてこちらに敗走して以来毎日昼夜を問わず二人はこのいなほ道を走り回っていた。地元民からしたらカーブが多くて危ない不評の道でも彼等からしたら自身のドライビングテクニックを磨くに相応しい場所なのだ。
「あっ、聞いたぞ!ダイの奴また暴れたんだって?」
レースを中断して休憩していた二人だったが、ふと仲間内で聞いた噂を思い出した誠が劾に問う。
「もう噂になってんのかよ……ああ、あの野郎俺達のナンパ邪魔した中坊に殴られたからってぶちギレやがってよ落ちてた鉄パイプで滅多打ちにしやがった」
「うひゃ〜中坊相手でも容赦ないんだなアイツwww」
「あの中坊、俺とヘッドが止めなきゃ今頃死んでたなwwwまあ、俺達のナンパを邪魔したんだ当然の報いだなギャハハw」
「だなwザマァねぇよw」
人が二人も死にかけたというのに二人は何が可笑しいのかゲラゲラ笑う。そもそも劾の説明も真実とは言えない『ナンパを邪魔した』と言っていたがあれはナンパというよりは拉致と言っても過言ではなく、もし学と一彦が止めに入らなければ双子の貞操は無事ではなかったことは確実と言えた。
「まあ、ダイとナンパなんて危ない橋は渡んねぇ方が良いぞ」
「そういう誠だってこの前、危ない橋渡ったろ?爺さんの軽トラと事故り掛けたって聞いたぞ」
誠の忠告に劾が返す。
「あのジジィのことか……あのジジィこっちが楽しくバイク走らせてたら急に軽トラで飛び出して来ゃがってよ。俺が避けたってのに勝手に横転しやがってふざけてるよなw」
「なんだそのジジィ、マジふざけてるなw」
そしてまた不快な笑い声を出す二人、誠の説明もこれまた真実とは言えない代物でもうスピードでカーブを曲がった誠が対抗斜線にはみ出しその対抗斜線にいた軽トラを運転していた佐々木は驚き避けようとして横転したのだ。
「ジジィのこと思い出したらなんか腹立ってきた。もう一回走ろうぜ劾!」
「だな、こっちもダイのせいでイラついてるからな……よし!次こそは買ってやるぜ!」
「ハッ!やれるもんならやってみろよ!」
そして二人は刈穂に向かって走り始めた。端から見た目危険運転にしか見えない危ない走りで………
二人は気付いていない二人の会話を聞いていた者がいたことを
そして二人が走り去った村の入口から一台のバイクが現れたことを―――――
「ヒーハー!どうした!?音速の劾の実力はそんなもんか?」
「うるせぇ!これから本気出すんだよ!!」
二人は制限速度を無視した危険な走りをしていた。もっとも堕悪苦寝棲きってのスピード狂である二人からしたらこんなものはなんでもないようだ。
「ハハハハ!………ん?おい!劾!」
「ああ!後ろから変なのが来てんな!」
二人はミラーを見る、ミラーにはヘッドライトを光らせながらバイクが一台近づいて来た。今だ距離があるためバイクの車種や乗り手の姿は確認出来なかったようだが二人と同じく制限速度を無視していた。
「なんだありゃ?俺達と勝負したいのか?」
「俺達に勝負を挑もうとは生意気な」
突然の乱入者に不快感を示す二人、一方乱入者は二人に近づいたことでその全貌を現した。黒く塗装された中型バイクフェックス、ライダーは肩から何かをスリングストラップでぶら下げているが距離がまだあるのでいまいちわからなかった。黒のライダースーツに黒のフルフェイスのヘルメットとバイク、ライダーともに黒ずくめであった。
「いっちょまえにフェックスなんて乗りやがって………劾!振り切ってやろうぜっ!」
「良いぜ!あの真っ黒野郎に吠え面かかせてやる!」
二人は一斉にバイクを加速させる彼等は無粋な乱入者を負かしてそうとしていた。負かすと言っても危険な運転でその乱入者に自爆(単独事故)させるという悪辣なものだが―――――。
20分後―――――
「嘘だろ!?なんで着いてこれるんだよ!?」
「あの野郎俺達の後ろにピッタリ着いてきやがる!」
あれから背後の黒ずくめが自爆(単独事故)するような危ない運転を仕掛けたが黒ずくめはそれをすんなりとクリアしてずっと二人の背後を張り付いていた。誠も劾も怒羅権帝琉との抗争時、バイクチェイスで数多の怒羅権帝琉のライダーをそのドライビングテクニックで病院送りにしてきた。結局彼等の組織堕悪苦寝棲は抗争に敗北したが二人は怒羅権帝琉に出血を強いた。そしてそれを二人は誇りにしていた………だが、その誇りも今は徐々に崩れ去ろうとしていた。
「クソクソクソクソッ!いい加減事故りやがれ!」
「こっちくんじゃねえぇよ!」
二人は焦る、二人のバイクはカスタマイズされておりそんじょそこらのバイクとは性能が違うという自負があった。一方黒ずくめのバイクは見た限りカスタムもチューニングもされてないスタンダードな素のバイクである。普通なら振り切られて然るべきなのだ、しかしそうだというのに黒ずくめはカスタマイズされた二人のバイクにピッタリ張り付いている。
(バイクの性能はこっちの方が上だってぇのに……まさかそれ以上に向こうの腕が上だって言うのかよっ!?)
誠の脳裏にそんな考えが過る誇りが崩れ去った今、性能差を払い退ける程の技量が黒ずくめにあるとようやく認識したのだ。
(認めねぇ……認めねぇぞ!そんなこと!)
一方劾は崩れ去ってなお残ったちっぽけなプライドにしがみついてその技量差を認めようとしなかった。只でさえ自分の上には『彗星の誠』という越えねばならない存在がいるというのにその更に上がいるという絶望的な事実を認めたくなかったのだ。
黒ずくめの技量を認めた誠と否定した劾、黒ずくめに対する認識の違いが二人の命運を別けるッ!………と言いたい所だが、今回の場合劾が黒ずくめの技量を認めようが認めまいが、誠以下の運転技術で黒ずくめに背後を取られている段階で関係なかったりする。
(うん?あの野郎なんか取り出したぞ?)
劾がふと、黒ずくめの姿を見ようと自身のバイクのミラーを覗き込むと黒ずくめはスリングストラップで首からぶら下げていたものを右手で持ち構える。
(あっ、あれは!?)
劾はそれを見て顔を青ざめた、黒いカーボン製のフレームにピンっと張ったワイヤーのような弦、それは映画や漫画でも見掛ける物でバイクとナンパ以外に興味がない劾でも解る代物だった。
(ボウガンじゃねえぇかぁ!!)
しかもその銃口は自分達に向けられているのだ。慌て当然だろう。誠も黒ずくめがボウガンことクロスボウを向けたことに気付いたようで自身のバイクを蛇行させて狙いを定まらないようにした。
(そ、そうだ俺も蛇行運転しなきゃ!)
ようやく誠の行動の意味を理解した劾が誠の真似事をして銃口から逃れようとするのだが少し遅かった。
ピュン――――グサッ
「あああああ!」
突然劾の左腕に激痛が走り痛さのあまり思わず叫びます声を上げながら右手で左腕を押さえてしまった。
ガッシャアアアン!
咄嗟に右手で左腕押さえたせいで劾はバイクからこけてしまった。時速90キロは越えているバイクでだ。
「グッハ!」
転んだ拍子にバイクから投げ出され4〜5回ほどアスファルトの上を転がった劾――――
「おい!大丈夫かっ!?」
「ううっ………」
全身を打ち付けた激痛の中、誠の声がする。見れば数十メートル離れた先にバイクに股がったままの誠がバイクを止めて叫んでいた。
「な、なんとか……生きて……る」
誠に生存を伝える為に立ち上がろうとするのだが上手くいかない
「あ、あれ?」
疑問に思った劾は改めて自身の体を見回す。着ていた特攻服はズタボロで血まみれ、激痛のする左腕はクロスボウのボルト(矢)が突き刺さり、右足はあらぬ方向に曲がっていたのだ。
「あ、ああ、あああああ!お、俺の足がぁあああああ!!」
自身の足の状態を見て悲鳴を上げる劾、今頃になって骨折の激痛が伝わったのか?それとも変わり果てた足を見てショックに打ちのめされたのか?悲鳴の理由はわからないが運命というのは残酷で悲鳴を上げる彼を待ってはくれなかった。
「なんだ……まだ生きているのか」
辺りに響く底冷えする声に叫んでいた劾は黙ってしまった。そう彼はやっと思い出したのだ。何故自分の左腕にボルトが刺さり自分がバイクから転倒する羽目になった理由を………
劾の目の前には黒いジーンズに黒い革ジャン、黒いフルフェイスのメットを被った全身黒ずくめの男がそこにいた。
「あ、あああ………」
その姿を見て意味を成さない声を漏らす劾、
「やはりバイクに乗りながら射撃は難しいな……胸を狙った筈なのに左腕に反れてしまった」
黒ずくめの恐ろしい独り言に戦慄する劾、黒ずくめが脅しや痛め付ける為に自分クロスボウを放ったのではなく純粋に殺す為に放ったと知って恐怖した。彼等暴走族でもリンチや乱闘等は多くあるが人を殺すことは少ない、それもリンチのやり過ぎや喧嘩で勢い余ってなどの過失によるもので明確に殺意を持って人を殺すことはない彼等だって殺人に対する忌避感を持っているからだしかし目の前にいる黒ずくめはどうだ?殺すことに忌避感を持ち合わせていない感情に任せてではなく淡々と殺そうとしていた事実に劾は恐怖したのだ。
「まあいいか、お前には聞きたいことが合ったんだ付き合って貰うぞ」
「ヒッ、ヒィイイイ……ま、誠!助けてくれ!」
その恐ろしさに劾は逃げ出そうとするが曲がった足では満足に動けない、故に中まである誠に助けを求めたが……
ブロロロロッ!
「ま、誠?どこいくんだよ?お、おい!俺を置いて行くなよ!おい!!」
あろうことか誠は傷付き助けを求める劾を無視してバイクで逃走したのだ。
「誠………そんな………」
「まさか、仲間に見捨てられるとはな………まあいい、これで二人っきりになれたな」
「ヒッ!く、来るな!こっちに来るな!!」
劾は何とかこの場から逃れようと地面を這いずりながら黒ずくめから逃走を謀るが……
ピュン―――――グサッ
「あああああ!また足があああああ!」
黒ずくめは何の躊躇もなく劾の折れてない方の足をクロスボウで撃ち抜いた。
「そう逃げないでくれよ、劾君」
黒ずくめはクロスボウに新たなボルトを装填しながら劾に語り掛ける。
「君には質問があるんだ。この質問に正直に答えてくれたら良いんだがもし嘘をついていたら………」
そう言ってクロスボウを構える黒ずくめ
「ま、まま、待ってくれ!正直に言うから!もうソイツで撃たないでくれ!なあ!頼むよ!」
「ああ、良いだろう」
情けなく叫ぶ劾に落ち着いて答える黒ずくめ
「さっき村の入口で聞いたんだが、ナンパを邪魔した中坊をリンチしたそうじゃないか?」
村の入口での会話が聞かれていたことに劾は戦慄した。
「い、言っておくがあそこまでやったのはダイであって俺じゃないからな!俺は寧ろ止めt「質問にだけ答えろ」ヒッ!」
言い訳を並べていた劾は黒ずくめの殺気で黙ってしまう。
「俺が聞きたいのは、ダイって奴の本名とリンチに参加したダイとお前以外のメンバーのことだ」
そう言いながらクロスボウを構える。
「い、言います!言いますから!ダイの本名は大野 ダイ他は『ハンティングのセイジ』こと原田 清実後はうちのチームのヘッド(リーダーのこと)林 孝リンチに参加したのは俺を含めてこの四人だよ!言ったぞ!俺は言ったからな!約束通り!撃たないでくれよ!」
自分の知ってる話を全て出して命乞いをする劾、劾が漏らした情報に黒ずくめは満足したのかクロスボウを下ろす。
「わかった約束通り、撃たないでおこう」
「よ、よかった……」
安心する劾
「そうだ正直に話してくれた君にはお届けものがあるんだ」
そう言うと黒ずくめは背中に手を回し背中に背負っていた少し不恰好な木刀を取り出す。
「そ、それは」
「俺の手作り木刀だ荒削りだが、お前を殴るのには十分だろ?」
そう言いながら軽く素振りをする黒ずくめ。
「そ、そんな……約束が違うじゃないか!俺は知ってることを全て話したんだぞ!」
「何を言っている?コイツでは撃たないと言ったが殴らないとも殺さないとも俺は言ってないぞ」
クロスボウを見せながら淡々と処刑宣告に等しい発言をする黒ずくめに恐れおののく劾
「ふ、ふざけるなァ!……お前あの中坊の仲間かっ!?そうなんだろ!復讐しに来たってかぁ!?俺を狙うのは筋違いだ!いいか、俺はお前の仲間を殺そうとしたダイを止めたんだぞ!!俺が止めなきゃあの中坊は死んでたんだぞ!!だから俺はあの中坊の命の恩人なんだよ!俺を殺すのは筋違いなんだぁああ!!!」
自分が助かる為に訳のわからない理論を叫ぶ劾、叫んでる本人は完璧な理論だと思い込んでいるので端からみたら滑稽でしかない。無論そんな滑稽理論に諭される黒ずくめではなく
「言いたいことは……それだけか?」
「へぇ………?」
たった一言で一蹴する黒ずくめ、自分の理論を一蹴されて呆然とする劾
「命の恩人?何を言っている?殺さなければセーフだと思ったのか?言っておこう。リンチに……いや、お前らが言うナンパとやらにお前が参加した時点でお前を殺す理由は十分なんだよ」
「そ、そんな………」
あまりの発言に言葉を失う劾しかし黒ずくめはそんな劾を黒ずくめは待ってはくれない。
「安心しろ、お前の情けない姿を楽しませて貰った礼だ。一撃で終わらせてやる」
「ヒッ!……嫌だ……嫌だぁ!!」
黒ずくめの最期通告に絶叫する劾
「か、金……金なら幾らでも払う!だ、だから!」
「生憎、懐は寂しくなくてね」
木刀を持ってこちらに歩みよる黒ずくめを見て恐怖する劾
「嫌だ……嫌だぁ!!死にたくない死にたくないっ!!」
劾は両足と左腕の痛みすら忘れ芋虫のように這いずりながら逃げようとする。
「おいおい、そんなに動いたら一撃で仕止められないじゃないか」
「ヒイィィィ!」
最早言葉にすらなっていないどうやら劾は恐怖のあまり言語を忘れたようだ。
「全く、最期の瞬間まで俺を楽しませてくれるとは、良い道化じゃないか……だがそろそろ終わりだ」
劾が最期に見た光景は自身に木刀を振り下ろす黒ずくめの姿だった。
30分後―――
堕悪苦寝棲のメンバーをかき集めた誠が現場に戻って来た。しかし激しい事故の痕跡は有れど、劾の姿は疎か転倒して破損した劾のバイクすら発見出来なかった。
三人称視点如何でしたか?
ご意見があれば感想欄に書いて頂けるとありがたいです。戦闘パートは暫く続きますので次回も宜しくお願いします。