第11話 顛末
今回は前回の話の後日談です。
「これで一件落着か……」
あの事件から数日が過ぎ俺は自室で口から煙を吐きながらあの事件のことを振り返る。
事件そのものは無事解決出来たが、面倒なのは後処理だった。
駆け付けた警官達によって添島は逮捕された。手錠を掛けられ警官達に連行される添島を何も知らない教師や放課後も残っていた生徒は呆然と見てることしか出来なかった。小さな村ということもあり添島逮捕の知らせがその日のうちに村中に伝わったのは言うまでもない。
添島は逮捕されても容疑を否認していたが俺達の証言と奴の自宅から今回の犯行計画書と児童ポルノ(無修正)が押収されたので言い逃れは出来ないであろう。
俺達も事情聴取の為に刈穂町の警察署に同行した。二人は問題無かったのだが………俺がヤバかった。
海外ではあれくらいやっても正当防衛で済んだのだが日本(それともこの世界?)では違うようで過剰防衛にあたるようだ。前世では人生の半分を海外で過ごしていたので日本のこういった細かい箇所を見落としてしまったようだ。幸い相手が強姦未遂の罪で起訴が確定と言っても過言ではない添島なので警察も俺を逮捕する気は無いようで(犯罪を未然に防いだ学生を逮捕したらマスコミに叩かれるからな)厳重注意で済んだ。
今回の事件は地元紙でも取り上げられ俺は『同級生の危機を救ったお手柄中学生』として取り上げられた。連日マスコミが俺の家に取材をするためにやって来たが興味がなかった俺は取材を拒否していたのだが、記者連中はどこで嗅ぎ付けたのか名前が公表されてない薫や留美の家にも取材しに来やがった。ただでさえ今回の事件でショックを受けている二人に追い討ちを掛けるようなものである。そこで俺は仕方なくマスコミの取材を受けることにした。俺が取材を受ければマスコミの注目は俺に向き二人からは離れるからだ。不本意な取材だったが記者達から取材費をブン獲ったので良しとしよう……それにマスコミ連中には利用させて貰ったからな。
『どうして君は学校ではなく、学校から遠い駐在所に助けを求めたんだい?』
始まりは記者のこの質問からだ。俺はこの質問を利用しあることを公表したそれは……
『学校は……いえ、校長や教頭は信用出来ませんでした』
要約するとこうだ、俺が校長室の前を通った時に校長と教頭の密談を聞いてしまったというものだ。曰く校長は退職後の天下り先の為に教頭は栄転の為にもし自分たちがこの中学に居るうちにそれらが白紙になるような問題が発生したら協力して無かったことにしようという会話である。勿論会話の存在自体は嘘だ(そもそも校長室の壁や扉は音漏れするほど薄くない)しかし会話で出た天下りと栄転は事実であるので記者連中が調べればすぐに解ることだ、そうすれば俺の問題を無かったことにする発言も信憑性を帯びてくる。只でさえ校長と教頭は今回の事件について保護者と村民に対しての説明会と記者会見を開いたが俺が学校を通さず直接警察に通報してしまった為に情報が得られず、質問されても答えられないという情けない姿を晒してしまい保護者・村民・マスコミから叩かれていたのだ。天下りと栄転の事実と俺の発言が公表されると校長&教頭叩きは本格的になった。教育委員会の幹部である添島の父親も息子が逮捕されたことと自分の息子を自身の権限で秋穂中に赴任させたのでマスコミ批判されついには汚職の事実を突き止められた。どうやら息子以外にも金品と引き換えに任意の学校に教師を送っていたらしく父親も逮捕された(ちなみに教頭の栄転にも関与した模様)。纏めると添島父子逮捕、校長天下り取り消し、教頭栄転取り消しからの教育委員会からの査問という結果になった。あっ、ちなみに俺は村長と警察から感謝状と金一封を貰いウハウハである。
「まあ、問題なのはその後なんだよな……」
吸った煙を吐き出しながら今日行った出来事を振り返った。
事件の影響で学校がゴタゴタしていた為、学年主任(中1の時の担任))である老教師が俺達三人に2〜3日の休みを進めて来た。校長と教頭が袋叩きに合っている今、彼が学校を取り仕切っていると言っても過言ではない。俺はともかく二人の心労を癒すためにもこの休みは必要だ。俺は無理して学校に行こうとする二人を説得して休ませた。三日間の休みは先のマスコミが取材来た以外は問題もなく過ごせた。休みが終わると俺達は学校に行ったこの時には二人ともショックから立ち直ったようで元気な姿を俺に見せてくれた。学校で俺は時の人となり騒がれからかわれた。そして一番衝撃的だったのは――――
「悪原っ!二人を助けてくれて………ありがとう!!」
雄介が泣きながら俺に感謝して来たことだ。どうやら雄介も体育の時に彼女達に矢鱈と触りまくる添島を不審に思っていたようだが気のせいだと思っていたらしい、だが今回の事件でそれが気のせいで無かったことを知り二人を危機から救えなかった悔しさと二人を救った俺に対する感動からの涙だったようだ。もしや雄介は二人のどちらかに好意を寄せているのか?と思って遠回しにそれとなく聞いてみたが雄介から見たら薫は小さい時から一緒に育った幼馴染で妹のような存在であり女として見ていない、留美も綺麗であることは認めているが友達としてしか見ていないようだ。好きな女の為ならまだしも友達の為にあそこまで涙を流せる硬派な雄介に少し憧れてしまった。
まあ、雄介は問題無いんだ。問題は俺が助けた二人なのだ。
「まさか、あんな騒ぎなるなんて思わなかったなぁ」
学校帰り道端の石を蹴りながら感慨深けに言った。
「ええ、まさか教育委員会の幹部が逮捕されるとは思いませんでした」
罷免で済むと思ったらまさかの逮捕だもんな、まあ汚職していたから当然か。
「ちっがぁーう!」
添島父の逮捕のことかと思ったら薫に否定された。他に騒ぎなんてあったか?
「多分薫さんが言いたいのは征男さまの人気の方かと」
理子がわかっていない俺に説明をする。
「今、悪原君って学校ですごい人気だもんね」
理子の説明に留美も賛同する。
「どうせ一過性のものです。事件のほとぼりが覚めたら皆忘れて元通りですよ」
突発的にヒーローになった者はその場だけは騒がれるが時間が経てば忘れさられるものだ。
「征男はわかってないなぁ〜征男と雄介はね結構前から女子の間で人気なんだよ」
なんもわかってないと言わんばかりにため息を吐く薫、俺が女子に人気?雄介ならともかく俺が?何の冗談だ?
「そうですよ征男さま、お二人とも隠れファンクラブが作られる程に人気ですよ」
理子は薫の説明に補足を入れる。ふ、ファンクラブだと……!?
「たしか坂上君は不良ぽいっけど面倒見の良い所、悪原君は知的で紳士な所が人気の理由だよね?」
留美も二人に便乗する。マジかよ……確かに雄介は昭和テイストな不良だが、実際は仲間内では面倒見がよく雄介が活躍する体育の時間は女子の黄色い悲鳴が雄介に向けられていたが、まさか俺もだとは……
「まあ、そんなことより、征男!助けてくれてありがと!この恩は絶対に忘れないから!!」
薫がとびっきりの笑顔で言った。事件の時の怯えた表情が嘘のようだ。
「忘れてしまいなさい、あんな事件……」
正直あんな事件は彼女達には忘れて欲しかった。いくら原作みたいな最悪の状況を回避したとは言えあれは……十代の少女が経験して良いことではない、個人的にはさっさと忘れて欲しいのだ。
「でも私達が襲われた時に颯爽と駆け付けてくれた悪原君の姿は………忘れられそうにないよ」
「うんうん!わかるわかる!」
留美の発言に腕を組んで同意する薫、颯爽と駆け付けたのではなく待ち伏せしてたなんて口が裂けても言えない。
「あの時添島先生が怖かったけど悪原君が駆け付けてくれて私、嬉しかったよ」
「うんうん!わかるわかる!」
やけに俺の評価高くて少し恥ずかしい(穴があったら入りたい)
「それにあの時の悪原君格好良くて私………好きになっちゃった」
「うんうん!わかるわかr――――………えぇーー!!留美もぉ!?私も征男のこと好きなんだけどぉ!……あっ!言っちゃった!」
……今衝撃的な言葉が二人から発せられたのだが気のせいだろうか?
「え?薫ちゃんも?奇遇だね」
「奇遇って……何を呑気な、あぁもうっ!留美みたいな可愛い娘相手じゃ、私が告白したって勝ち目ないじゃん!!」
orz……気のせいじゃなかったよ……ってか、二人とも俺を好きって一体どんな冗談なんだよ……。
「薫ちゃんも十分可愛い思うんだけど……そうだ!薫ちゃんも悪原君のことが好きなんだよね?なら良い話があるからこっち来て」
「う、うん、わかった」
手招きする留美に渋々応じる薫、一体何の話をするつもりなんだ?
「この際だから二人同時に付き合ってもらおうよ」
「えぇ!?ちょっとそれって、二股じゃん!」
二人ともコソコソ小声で話してるから所々しか聞こえない、二股とはなんぞや?
「薫ちゃん、本人が了承しちゃえば二股じゃないよ、それとも薫ちゃんは悪原君を独り占めしたいの?」
「ひ、独り占めって……まあ、たしかにそうはしたいけど……それやったら留美や理子との関係崩しそうで……少し怖い……」
薫が神妙な顔になっている。会話は聞き取れないがどうやらシリアスな場面らしい
「私もそれが怖いんだ……だから親友である薫ちゃんと一緒に悪原君をシェアしたいなって思ったんだ」
「留美と一緒に征男のシェア……そう考えたら悪くないね、うん!私も賛成!そうだぁ!シェアするなら理子も誘うよ!」
「それ良いね!待田さんも悪原君のこと好きっぽいし、いやあれは完全に好きだよね……待田さんちょっとこっちに来て」
「は、はい……」
話が盛り上がってきたのか理子が呼ばれてガールズトークが始まった……ヤバい俺蚊帳の外だ。
「理子!私達で征男をシェアしない?」
「シェ、シェアですか?」
「そう、私達三人で悪原君と付き合うってことだよ。待田さん」
「つ、付き合うって私ごときがっ!お、畏れ多いですよ!」
「ふ、複数人で付き合うってことには抵抗は無いんだ……」
留美の説明?に理子が慌て、薫がそんな理子を呆れた表情で見ているがどんな話をしているのだろうか?
「当然です!征男さまのような方なら交際相手が複数いても不思議ではありませんから」
「筋金入りか……」
「でもシェアには寛容なんだよね?なら待田さんも付き合おうよ待田さんだって悪原君のこと好きなんでしょ?」
「ッ!……は、はい、たしかに好きじゃないと言ったら嘘になりますが……わ、私は征男さまにお仕えする身、お付き合いだなんて……」
「待田さん、従者と主が恋に落ちるなんて小説だと良くある話だよ。大丈夫っ!その恋、私達と一緒に叶えようよ」
「留美、普段からどんな小説読んでるのよ」
なんか話が変な方向に向かって行ってるような気がするんだが、俺だけ先に帰ろうかな……?
「征男!」
「悪原君!」
「征男さま!」
こっそり帰ろうとしていた俺は三人に呼び止められてしまった。どうやら話は纏まったらしい、
「はい……なんでしょう?」
三人は顔を見合せると先に意を決した薫が前に出た。
「征男、知ってると思うけど私って男勝りだからさ、男子からは女の子ぽくないって言われてたんだよね。でもさ、征男が私を女の子扱いしてくれて私……嬉しかった。その時からかな?征男のことを意識するようになったの……でも私ってそういうわかんないからさ、気付かなかったんだけど……あの時に征男が助けに来てくれてやっとわかったんだ。私は征男が好きっ!悪原 征男が大好き!!」
顔を真っ赤にしてそう叫んだ薫は恥ずかしいからか顔を両手で隠してそのまま留美の背後に隠れてしまった。正直発言が衝撃的過ぎて呆然としてしまった。
「薫ちゃん頑張ったね」
「お疲れ様です薫さん」
「うぅっ、恥ずかしいよ……」
留美と理子に慰められる薫、絵になるな。
「なら次は私だね……悪原君、前から良い人だと思ってたけど、あの日、私達を助ける姿を見てビビっと来ました!悪原君――いいえ、征男君、私も征男君のことが好きになっちゃっいました!」
留美は薫程ではないが顔を朱に染めて二人の元に戻った。
「うっ、留美なんであんなに落ち着けるのよ」
「星川さん、お疲れ様です」
「言っちゃった♥️」
マジかよ……薫に続いて留美からも告白をされてしまった……。脳の処理が追い付かない、待てよ二人が告白したってことはまさか!?
「最後は私のようですね」
そう言いながら俺の前に来る理子、やっぱりか……
「征男さま、私は幼き頃より貴方と共におり仕えておりました。正直幼少の頃の征男さまは怖かったです。しかしある時から征男さまは人が変わったように成長しました。私は怖がらなくて済む安心感と一緒に貴方に惹かれていきました。貴方への思いは日増しに強くなっていき正直言いますと、もう思うだけで済みそうにありません!私はこの思いをあなたに伝えたい!征男さま私は……あなたのことをお慕いしておりました……」
言いたいことを言った理子は先の二人とは違い二人のもとに行くと泣き出してしまった。
「あわわ、な、泣かないで理子」
「よしよし、伝えたいこと全部言えたね?」
「はい……お二人のおかげで伝えたかったこと、全て伝えられました」
泣く理子を見て慌てる薫と理子を慰める留美の姿は三人の容姿が優れている為とても絵になるのだが、俺はそれどころではない三人の美少女から告白されたのだ。ポーカーフェイスで顔は誤魔化しているが、内心慌てふためいている。
三人は真剣な表情で前に出る。まずいっ!これは『誰を選ぶの!?』って詰めかけてくるオチだ。勘弁してくれ……
「えっと……あの皆さん一時の感情に流されず落ち着いてですね……」
「征男!」
「征男君!」
「征男さま!」
時間稼ぎをしようとしたが無駄だった。どうする!?誰を選んでも今後の関係が悪くなる……。
「み、皆さんまっ――「「「私達と付き合ってください!!」」え?」
予想外の発言に俺は間抜けな声を出してしまう。え?『私達と付き合ってください!!』……え?『私達から誰を選ぶの?』じゃなくて?
「えーと、私の聞き間違えじゃないですよね?今、私達と付き合ってって聞こえたのですが……」
「うん!そだよ!」
俺の問いかけに笑顔で答える薫、残りの二人も頷いているから間違いではなさそうだ。
「あの失礼だと思うのですが……正気ですか?」
「むぅ〜征男、信じてないでしょ!?私達は本気だよ!」
「薫ちゃんの言う通りだよ。私達は本気、征男君が好きだけど征男が誰か1人を選んで薫ちゃん達の友情壊したくないとも思ってるの、だから私考えたんだ……誰か1人を選んで友情壊すくらいなら三人仲良く彼女なろってね」
「少し考えが奇抜過ぎる気がするんですが……」
「あはは、やっぱりそう思う?でも征男君だっていきなり『私達から誰か1人選んで!』って言われるよりましでしょ?」
「……否定はしません」
困ったな。聡い留美には俺の悩みそうな所を前もって見抜いている。
「星川さんの考えはわかりました二人はどうなんですか?」
「うん、私も留美の考えに賛成!1人選ぶってなったら私、留美や理子に勝てっこないもん」
「私も征男さまのような人でしたら彼女が複数いてもおかしくありません、それより……私のような者がお二人と一緒に彼女になって良いものかと……」
どうやら二人も三人交際に乗り気のようだ。それにしても薫も理子も自己評価低いな…。
「まあ、そういうことだから、征男君どうかな?可愛い三人と付き合えるから君にとっても悪い話じゃないと思うけど?」
留美が畳み掛けてきた。
「あのような事があったというのに怖くないのですか?」
14歳の少女が信用していた教師に犯されかけたのだ。良くて用心深くなる悪くて男性恐怖症になっていてもおかしく無かったのだ。どちらにしろあんな事件の後すぐに男と付き合うって選択肢を選ぶ人は少ない筈だ。
「怖くないって言ったら嘘になるかな…………うん、怖いよ、だから征男君私達を守ってください」
「そういうことだから征男、私達のことよろしくね!……それとも私は邪魔?」
「征男さま!私はいいですから、どうかお二人だけでもっ!」
途端に涙目になる二人、道端で泣かないでくれっ!畑仕事してるばあさんがこっち見てるから!
「別に邪魔という訳では……」
「なら恋人で決まりだね!」
「お二人とも、おめでとうございます!」
途端に笑顔になる。理子さんや薫さんや、切り替え早くないですかね?
「……征男君は何が不満なのかな?」
答えを渋る俺を不思議に思った留美が尋ねる。
「不満などということはありませんよ、あなた達のような可愛い娘達に好かれるなんて男冥利に尽きるというものです」
彼女達に言い寄られるのは悪くない、いや前世でもついぞ来なかった童心貴族の俺からしたらモテ期キター!と叫びたいくらいなのだが……添島をリンチするためにあの場に乱入しただけで感謝されるのは正直心苦しい。
「ただ、私も添島となんら変わらない存在です。普段は仮面を被っていますが、脱いでしまえば彼と同じくケモノですよ」
結果的に彼女達を助けたヒーローみたいな扱いになってはいるが添島と同じ目的の為に手段を選ばない人間であることに変わりはない下手すれば添島以下の存在だ。そんな人間が彼女達と付き合って良い訳がない。
「……ですから私とお付き合いはあまりお薦めできm――「私は良いよ」薫さん……」
俺の話を遮って薫が喋る、その目は真剣だ。
「いいよ、私は相手が征男なら」
「私も征男君ならいいえ、征男君しかいないよ」
「僭越ながら私もお付き合いするのなら征男さましか考えられません」
薫に続いて留美と理子も真剣な目で俺に言う……はぁ、そんな目で見られたら断れる訳ないじゃないか……。
「はぁ……わかりました。とりあえず中学卒業までのお試し期間ということでしたら良いですよ。それ以上は譲れません」
これが俺が出来る最大の譲歩だ。期限の間に俺に愛想を尽かせるか、新しい恋を見つけるだろう。うん、我ながら即興でよく考えたものだ。
「……今はそれで満足します。それではよろしくお願いします征男君」
俺の妥協案に留美が納得する。聡い留美が納得すればあとはこっちのものだ。
「やったぁー!これからもよろしくね征男!」
両手を上げて子供のように喜ぶ薫。
「征男さま、改めてよろしくお願いします」
理子も礼儀正しく一礼する。どうやらなんとかなったな。
こうして俺達は期限付きではあるが恋人になったのだった。
「フゥー……やっぱ吸った気しねーわ」
俺は口から煙を吐きながらぼやく、残念ながら俺が今吸っている物吐きながら巻き煙草でも紙煙草でもない未成年でも吸える水蒸気を出す電子煙草だ。スティックシュガーをくえてるだけでは我慢出来なかった俺は毎度お馴染み通販サイトAmazonesで購入したものなのだがシュガーに比べればマシというだけで満足はしていない。
「まさか彼女が三人も出来るなんてな」
結局あの後俺の彼女になることが決まった彼女達は嬉しそうに己の自宅に帰って行った。我が家の理子も終始笑顔だった。
「俺が彼女達の彼氏なんてなれんのかよ……」
パラリラ〜パラリラ〜♪
彼女達の彼氏なると決まった後だと言うのに俺は未だに不安に駈られていた。彼女達に話した通り俺は添島と同類だ。自分の目的の為に手段は選ばない、あの事件だって本来なら二人を添島から遠ざけるなり添島を誰もいない所で消すなどすれば彼女達に無駄に恐怖を与えることなく未然に防げた筈なのだ。
ブゥンブブ!ブゥンブブ!ブゥンブゥンブゥン!
しかし俺は添島を社会的にも抹殺したいという願望から奴を泳がせ奴がエサに食い付くのを待っていた。そう……彼女達というエサを……結果彼女達は、知らなくてよい恐怖を覚え助けに入った俺に好意を寄せるようになってしまった。これではタチの悪いマッチポンプである意図してやったわけではないが最低なことに変わりはない。
パラパッパパラパッパ♪
「俺なんかが人と付き合って良いのか?」
前世でスリルを味わうためだけに傭兵をやっていた俺が彼女達と付き合って良いものか今も不安で、こうして皆が寝静まっている夜中まで眠れず電子煙草吹かしながらこれで良いのか迷っているのだ。
パラリラパラリラパラリラ♪
「うるっせぇなぁ!!こっちがまじめに考えてる時に一体何処のバカだ!?」
さっきから鳴り響く不甲斐な音に遂に耐え切れなかった俺は思わず怒鳴ってしまった。今は深夜2時を過ぎた頃であり田舎である秋穂ではこんな時間まで起きている者は少なく皆が寝ていると言っても過言ではない、だと言うのになんだこの聞き覚えの不甲斐な人工音は……
ガラッ
窓を開け外を見ればそこにはバイク集団がいた。しかもただのバイク集団ではない『三段シート』と呼ばれるバイクに本来ない背もたれ、『爆音マフラー』と呼ばれる矢鱈音が出るマフラー、
過多に付けられた電飾や派手なカラーリングとステッカー、そして特効服を身に付けたライダー達、そう彼らは暴走族なのだ。奴等はうちの近くの道路を複数台のバイクで通って行った騒音を響かせて、彼らのような集団が何故こんな田舎の道路を走っているのかわからない、ただ…………。
「人の悩む時間を妨害したんだ……覚悟出来てんだよな?」
他人様に迷惑かけたのだ。それ相応の落とし前を着けないと気が済まない。
「……次の獲物はお前らだ」
俺は自分の頬が自然と吊り上がるのを感じた。
読者の皆様、閲覧ありがとうございます。活動報告も最近始めましたので暇潰しに見ていただけたら幸いです。