彼女に悪役は似合わない
連載の方を最近投稿できてなかったので、肩慣らし?に短編。
「あ、マクベル様ぁ昨日怖かったんですぅ~」
「ん?突然、何かな?ヒーズベルト嬢?」
長い廊下を友人と歩いていると、突然腕に抱きつくように現れたフェルシア=ヒーズベルト男爵令嬢に声をかけられた。ちなみに誰かの気配はしていたので、腕を捕まれないよう避けた。
ラズベリー色の髪に薄い紫の瞳をした女は、同じ学園に所属する同級生だ。最近、隣の友人ーライオス=ホープソンに紹介されるまで知らない女だった。正直、うっとうしい。知り合ってから遭遇する回数が増えていたのだ。左耳につけている蒼のイヤーカフを軽く触る。
「昨日~、私階段からつき落とされたんですぅ~。ほらぁ、これ見てくださぃ~とっても痛くてぇ~、全治2週間なんですぅ~」
ヒーズベルト嬢が軽く包帯を巻かれた右足をチラリとみせる。
「なっ、なんだとっ!?一体誰がフェルシアにそんなことを!!」
「ほぅ、痛そうだねお大事に、ヒーズベルト嬢」
気持ちの悪い甘え声で嘘くさい泣きそうな顔で話をした彼女に対して、大袈裟な態度のライオスは目の色を変えて憤り、俺は別に親しくもない女に可もなく不可もない最低限の対応を返すが、彼女は気にすることなくさらに話を続ける。
「もぅ~マクベル様ぁ、聞いてくださいよぉ~。昨日私を階段からつき落としたのマクベル様の婚約者様なんですぅ~」
「……??マリアが?」
「何て女だ!!よくも、フェルシアに!!」
「すっごく怖い顔でぇ、私のマクベルに手を出さないで!この雌豚が!!って言われてぇ、私……私……」
「あぁっ!!泣かないでくれ、フェルシア。君に涙は似合わないよ」
「ライオス様ぁっ」
そのまま二人の世界に入っているのを放置して、俺は婚約者のマリアローズのことを考える。彼女が果たしてそんなことをするだろうか?いや、ありえない。彼女が俺のことに嫉妬をするだろうか?いや、残念ながらそれこそありえない。絶対にありえない行動に俺はキッパリとヒーズベルト嬢に言葉を告げる。
「ヒーズベルト嬢、ハッキリ言わせてもらうよ。彼女が、マリアがそんなことをするのはありえない。」
「そんなぁ!マクベル様は私が嘘をいっていると思うんですかぁ~!?」
当たり前だ。1週間前に知り合った女より生まれたときから一緒に過ごしているマリアの方を信頼するに決まっている。
あと、いい加減に許可も出してない愛称で呼ばれたくないな。
「マクベルっ!!いくら君の婚約者だからってかばうのかい?!君との友情はここまでのようだ!」
「ライオス、お前にマリアを紹介していなかった俺が悪いが、マリアに会えばお前も分かるよ。今から彼女に会いに行こう」
そう言って、俺たちはマリアローズのもとへ向かった。
※※※
中庭テラスにて。キャッキャッとした感じの声が聞こえる。
そこでは、
「マリア様!今日はこちらをお持ち致しましたの!」
「ありがとう、お姫様。うん、美味しいよ腕を上げたね、しかも糖分控えめに作ってくれたのかい?優しいね」
言われた令嬢は頬を染めて、ぽぉーっと見つめて「いえ、そんなっ気づいてくださるなんて…」
「お姫様が作ったものだから、分かるよ。ご馳走さま、次の機会も楽しみにしているよ」
お礼を言われた令嬢はきゃーと言いながら走り去る。ちなみに令嬢は同級生で身分は伯爵だ。
「マリアお姉様!!私、今日は授業で先生に褒められましたの!!」
「それは、凄いね。いい子いい子」
頭を撫でられた令嬢は顔を真っ赤にしているが、その顔はとても嬉しそうだ。ちなみにあの少女は下級生で身分は侯爵だ。
「マリア!!今日はマリアにこちらを差し上げますわ!!受け取ってもかまわなくってよ!!」
今度はマリアを目の敵にしていた公爵令嬢だった。
マリアが箱を受け取って中を開けると、深い蒼色のハンカチだった。
「わ、私とお揃いの物ですのよ!こ、光栄に思いなさいな!!」
「ベスとお揃いだなんて、ちょっと照れるなぁ……でも、ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
「っ!!!」
「「「きゃーーー!!!」」」
周りからの黄色い声。感極まったようにふらぁっと倒れそうになるご令嬢におっとと言いつつ、令嬢をお姫様抱っこで持ち上げる見目麗しい麗人はそのまま近くにいた公爵令嬢の従僕に令嬢を差し出す。従僕は令嬢を連れ去ってどこかへ行った。多分、医務室に連れていったのだろうな。
そう、俺が絶対にありえないと断言できるのは目の前の光景をみればわかる。黄色い悲鳴をあげるご令嬢たちの中心にいる麗人が俺の婚約者のマリアローズ=フォルモントだ。
銀髪に蒼の瞳。まるで人形のような中性的な顔にすらりとした体躯に長身。似合うからといって、白の騎士服を着る麗人。
学力は学年男女の中2位で女子のトップ。騎士科でもないのに剣を持てばトップクラス。この前も街に出てナンパ男達に絡まれていた町娘たちを救っては彼女たちの心を盗んでいった。
文武両道という言葉は、彼女に相応しいと言えるだろう。
二人を見ると、ライオスはポカンと間抜けな顔でヒーズベルト嬢の顔は驚き、青ざめているようにも見える。
と、そこでこちらが見ているのに気づいたのかマリアがこっちに気づいて、周りの令嬢たちに断ってから近づいてくる。
ちなみに周りのご令嬢たちは、マリアが向かう先の俺を物凄い目で睨んでいる。
「我が愛しの婚約者様、何か用かな?」
「やぁマリア、こちらヒーズベルト男爵令嬢。会うのは初めてかな?」
「おや、こんな可愛い子を見つけなかった自分を悔やむよ。さて、初めまして甘いお菓子の妖精さん、私はマリアローズ。身分は公爵だけど学園内では可愛い女の子の僕だよ」
そういって、ニッコリ微笑みながらヒーズベルト嬢の手をとり口付ける。
(あ、これは落ちたな)
マリアが後ろで待っている令嬢達に呼ばれ離れていく。
そぉーっとヒーズベルト嬢を見ると、ぼぉーっとまるで恋に落ちたかのような顔をしている。いや、これは恋に落ちたのだろう。
しかし、そんな余韻を与える気がない俺は声をかける。
「さて、ヒーズベルト嬢。昨日、君は誰に突き落とされたのかな?」
3日後、マリアローズの周辺にいる令嬢達に混じったヒーズベルト嬢をみかけた。周りの令嬢達の勢いに負けているがそれでもマリアローズが誰かに微笑んでいるのを見ては流れ弾に当たってる。
「でも、残念。ローズは俺のものだ」
今日もマリアローズの耳には俺の瞳の色である翡翠のイヤリングをつけている。
主人公は学年トップ1位、剣も彼女よりは強いです。5回に1回は彼女が勝つ感じ、でも惚れた弱味的な?
婚約はお互いが7歳の頃から。母親同士が親友で生まれたときからほとんど一緒に過ごしてた。剣もはじめは、主人公が父親(騎士団長)に教えられてるところに彼女が遊びに来て、一緒に練習し始めた。
卒業したら結婚すると思うカップル。
たくさんの令嬢に恨まれるであろう主人公。
でも、多分マリアローズの花嫁姿に吹っ切れるかと思う?