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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
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88 ギルマス

どうも作者さんです。

twitter #魔女集会で会いましょう が趣味ド刺さりで尊さに押し潰されて息ができない。ありがとう絵師様方。

 

 何気ない動作で近寄ったギルドマスターと呼ばれる女。

 彼女はオレの耳元でこう囁いた。


「…んー、《ユウシャ》…んにゃ、まだ《核》──カナ?」


 至近距離で囁かれたことはなく、顔がこんなにも近いこともなかなかあるものではない。

 通常であれば照れたりうつ向いたりするだろうが、オレは強く彼女の目を見つめた。

 顔の近さなんかどうでもいい。

 彼女の口にした内容が知りたかった。


「あひゃ、そんなに見つめられると照れちゃうに~」


「…どういう…」


 思わず低くなった声が。

 行き場を失った。


「すみません、何をしようとしているんですかっ?」


 ソフィが遮った。

 強引にオレとの間に立ち入ったんだ。

 助かったと思った。

 オレはまた考え無しに言い寄り、詰め寄っただろう。

 返答次第では敵対するところだった。

 おそらくオレから攻撃したろう。


 まずはソフィに任せてみることも必要か。


 しかしオレ以外ではあの言葉に分かるものはリテラ位のものか。

 よく考えると勇者の発音も変だった。

 強引な日本語のような。


「あまり強引なことはしないでください」


「うん? んー? ありりー? サリちゃん?」


 ソフィを見て首を傾げて不敵に笑う女。

 顔の細部まで見ようと一歩ふみだした。

 サリちゃんとは誰のことだ。

 それがソフィを見て思うこと?


「何をいってるんですか。あなたのような不審な人に近寄られたくはありません」


「ありゃ、ソリャゴメごめ。人違いかもしれん~? んじゃ自己紹介しようかー?」


 突き放したような言い方だけど適切な判断な気がする。

 知らない人がいきなり顔の間近に寄ってきたら怖いだろ?


「ほんじゃーこれ」


 スカスカの胸から取り出したのは一枚のギルドカード。

 オレたちの持つ物より上等そうな金属製だ。


「…なっ!」


 ソフィの驚いた声。

 手にもつギルドカードをソフィの肩越しから覗き見た。


「マジで!?」


「あちしん名はねー、ボルキー・ヒキュウ♪ 男っぽい名前だけど~歴としたおんなぁー? だよん? んで、冒険者兼クレハーロ支部ギルドマスターだよー」


 本当にそうだった。

 ギルドカードに書かれているのは超A級冒険者であることの証明。

 デカデカと書かれたドラゴンの頭だった。


 この世界にはドラゴンがいる。

 数種類だが非常に強力な力を持つ種族だ。

 魔物認定されている国もあれば神扱いしている国もある。

 ともかく人に仇なすドラゴンはギルド規定により討伐対象となる。

 その一体は、確実に倒しているのだ。

 このボルキー・ヒキュウが。


 騒めくギルドの冒険者たち。

 ギルドに長年いるものぐらいが落ち着いてる。

 オレたちは例外だ。

 どちらにも当てはまらない。

 射竦められたように動けず、話すこともできず、ただ見極めようとしているだけだった。


 鑑定を防がれたことは初めてだったから、しっかり自分の目で人を計らないといけない。

 そうだ、アンが特に警告していないなら現時点では危険ではないのか。

 豹変する可能性もあるにはあるけど、ソフィはオレの特殊スキルで守られると思う。

 オレ自身は油断だけはしないようにしよう。

 魔力感知ではほとんど感じない。

 制御しているのかもしれない、やはり相当強いと見た。


「やっぱり似てるわ。今はあんまり会ってないんだけどさぁー、サリシャ・メテ・レンベーズって娘に似てんだよねん?」


「えっ? さ、サリシャさん?」


 何でソフィのお母さんの名前が?

 サリシャさんはこのボルキー・ヒキュウの知り合いなのか?


「なぁに? 知ってるの? あちしの親友さね、サリちゃんは。苛めてやると綺麗な顔して艶やかに鳴くのさ」


 オイオイ何言ってやがる?

 聞き間違えか?

 ちょっと何しゃべってんのか分からねぇ。


「あ、あなた何が言いたいんですか。本当にお母さんの知り合いですか?」


「うひ…♪ お母さん…お母さんねぇ。なるほどぉ…あ~実に美味(オイ)シソウ♪ 特に─」


 舌なめずりをするように口を歪めるボルキー。

 その目は獲物を狙うように、ソフィの細足を見詰めていた。

 後ろに居るオレまでも身震いしそうな気味の悪い目だ。

 これはオレが盾になる方がいい。

 まだマシだろうし、先ほどのことを聞きたい。


「まってくれ、ギルドマスター。あんたがサリシャさんに何かしてたのは後で詳しく問い詰めてやる。その前にさっきのは何だ?」


「サリちゃんとの愛しくも甘~い日々は聞かないのん? レンベーズ家四女のあの娘と腹違いの姉である次女のあちしのさ」


「えっ…ママのお姉さん…」


「うひひーそう、そう胸は全部あの娘が持ってっちゃったからあちしはスカスカさね」


 もぉ嫌だ。

 コイツの口からは耳を疑うような情報しか出てこないのか。

 小出しに出てくる事が信じられないことばかりで落ち着く暇がない。

 全部この言動と身なりが信用ならなさ過ぎるせいだ。


 スカスカとか言うときに手を胸に当てて上下に擦ってた、自虐ネタだけど笑えない。

 つーかレンベーズ家って侯爵じゃなかったか?

 公候伯子男の順だから貴族としては上位貴族じゃねぇか。

 何でこんな変なやつが育ってんだ。

 ボンボンの生まれだから甘やかされでもしたのか?


「ふざけないでください。頼みますからさっきの言葉の真意を教えてくれません?」


「敬語とかキショイからいいよー、まぁいいや教えてあげようかん?」


 敬語は完全に上辺だけだから別に無くて構わないならそうさせてもらおう。

 しかしそれにしても勿体ぶるような言い方をするな…


「んじゃー教えてあげるからギルマス室に来なね。いいよねヨーデン? ちょっち気に入ったからさ」


「別に構わんとも、あの部屋はお前さんの部屋じゃし。ガル坊のことを見極めたのは流石じゃ。少なからず分かっとるんじゃろ?」


 オレたちの話を腕組みしながら口を挟まずいてくれたドワーフのヨーデンさん。

 確か三階がギルマスの趣味部屋とかセドル父さんが言ってたような。

 オレのイメージだとぐちゃぐちゃな部屋。

 サリシャさんは綺麗好きだったが、ボルキーは反対に片付けられなさそうな気がする。


「行こうか、っと。あぁそうだ君の名前が知りたいんだけどん?」


「オレの名前はガルゥシュ・テレイゲル…」


 背を向けて歩き出したと思ったら、首から上だけをこちらに向け厭らしい笑みで問うてきた。

 やはりまだ信用できないところがある。

 その為少し、偽名で言うか迷った。

 一応向こうも鑑定系を持っていることを考慮して本名だ。


「うひひ、テレイゲルだ。まさかあの怖がりの息子かね…似ても似つかないねー」


「父さんの事も知ってるのか。怖がりってのは知らないが、世界は狭いな。ま、ギルドに所属してたから知ってるのも当たり前か」


「そうさねー、A級冒険者は全員知ってるよん。君の父親も怖がりの癖にA級だしー、たまに依頼を押し付け…えー、受けさせたりしてるからなー」


 おっとそれは知らなかった。

 ちょくちょく父さんは冒険者時代のことを話してたけど、ランクは特に言わなかったしな。

 父さんは畑仕事が苦手だったから、金稼ぎに行ってくるって依頼を受けに行ったりしてたみたいだ。

 そういえば街の門番サレドニーさんもボルキーの依頼の事話してた。


 父さんか、最近会ってないな。

 そういやアシヤカ村に帰るんだったか、ソフィたちと一緒に。

 そう思うと急に帰りたくなってきたな。

 ギルドに報告したら馬車を手配しに行こう。

 だからその前にギルドでのことは済ませないとな。


「ボルキー、父さんのことは後にしよう。まずこちらの報告を聞いてもらいたかったんだ、聞きたいことは後回しにする」


「あいあい、分かったよん。それは君一人でいいー?」


「──僕も参加する。問題ないだろガルゥシュ?」


 頷こうとしたところをゼンに遮られた。

 今日はよく遮られる日だな。

 あんまり自分の意思を貫けてない気がする。

 別にゼンがいて困ることは特にない。

 むしろ周りを良く見れているゼンがいることは心強い。

 いや、困ることがひとつあったな。


「いいんだけど、ゼン。ひとつ約束してくれないか?」


「なんだい?」


「ボルキーの言うことに惑わされないでほしい。それだけでいいから」


「モチロンだよ。彼女はあまり信用ならないからね」


 聞こえないような声でボルキーのことを言ったゼンは当たり前のように頷いていた。

 ゼンには分からない話をする可能性がある。

 《ユウシャ》に、《核》。

 称号にある【英雄の核】、それの話を。

はい。作者さんです。

12月よりバァーチャルユーチ〇ーバーにハマっていることを宣言いたします。

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