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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第六章 月の涙
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86 大剣

どうも作者さんです。

書き溜めをしようと思いました。

 

 コンコンコンと三度のノック音を起こす。


「テレイゲル君かね?」


 これだけでオレだと判別するとは。

 皆ノックとかしないのか?


「失礼します。フンバ校長、特待生実地訓練より帰還しました。しかし──」


「お疲れでしょう、座りなさい。話があるのでしょう?」


 扉を閉めるのもせずに話始めたオレに校長は席を勧めてくれた。

 この人がヅラを被ってると言われても、この表情は笑えない。

 学校を仕切る者らしく凛々しく渋い。

 この人ならばしっかりと対応をしてくれるだろう。


 オレが座るのを見てお茶を出してくれる。

 湯気の立つ暖かいお茶だ。


「さて、まずはお帰り。森はいかがでしたでしょうか。君にとっては味気なかったかもしれないがね」


「いえ、森は余りにも危険でした。しかし森のことよりもお伝えしたいことが」


「はて、それはもしやベゼック氏のことかね? ここには見えないようだが」


 ベゼック教官は基本的には業務に忠実な人だった。

 ホウレンソウの大事さを把握していた。

 特に報告を欠かさなかった。

 普段は荒々しい人なのに重要なところは生真面目だった。

 そんな教官が校長室に見えないというのは異常と判断できる。

 校長の瞳に懐疑の色が浮かぶ。


「はい、その事です。今から自分は真実しか言いません。どうかその事を念頭に置き聞いていただきたいのです」


「ふむ、分かりました」


 一口お茶をすすった校長は手で話を促した。

 覚悟を決めて話をはじめる。


「まずは結論から言わせていただきます。ベゼック教官は森にて殺害されました」


「なに?」


 詰まることなく言った言葉は静かな校長の一言で空気が重くなる。


「殺されたのです」


「いい、話を」


 続けろと。


「森までは特に問題なく、事が起こったのはチームごとに拠点を作り始めた時でした。自分の感知にある魔物が引っ掛かったのですが、ランクB-の幻獣キマイラでした」


「キマイラ…? その魔物に?」


「いえ、キマイラは自分が倒したのですが…その時に逃がしたクレールとクラメの叫び声が聞こえたので、現場に急いだのですが。

 時既に遅く、教官が倒れておりました。

 殺害者はゴルチェラード・セテレテータと名乗りました」


 そこからはひたすらにオレだけが話す。

 教官が殺された状態で憑依されたこと、あいつらを逃がすためにオレが引き付けたこと、セーベに助けられたことを。

 しかし、最後にゴルチェラードは吸血鬼(ヴァンパイア)、と続けたところで校長が机を叩いて立ち上がった。


「吸血鬼…ですか。これは厄介なことになりましたね…して、そのゴルチェラードはどうなったのでしょうか」


「自分が先ほどのリス族セーベの力を借りて倒せたと思います。死体が無くなる程でしたので─」


「待ってください、死体が無くなる? 倒せたと言う証明にはなりませんが本当にその存在を消せたのですか!?」


 オレの曖昧な表現が校長の琴線に触れたようだ。

 吸血鬼といえば数百年間歴史上姿を現さなかった種族だ。

 そのため滅びたとされた伝えられている。

 校長がここまで焦りを見せるのは至極当然だった。

 

 それにしても、倒せたか? 存在を消せたか…?

 あんな極大な光魔法の前にはどんな生物も消え去りそうなものだけど。


「えっと、確認は出来てないですが辺りを探してもどこにも見当たらなかったので…」


「馬鹿者! それは非常に不味い、早急に対策を立てる必要があるでしょう」


 まさか温厚な校長から叱責をこんな風に受けるとは思わなかった。

 思わずソファーから腰が浮き上がってしまった。


「申し訳ありません! 余りにも余力がなく…」


「過ぎたことはしかたありません。ベゼック氏程の者がほとんど瞬間的に敗北しているというのが、その吸血鬼の戦闘力を表していますね。君も苦戦したのでしょう? しかし何故、吸血鬼が今になって…」


 顎に手をやって考え始めた校長は、ブツブツとオレからの情報の精査をしていく。


「校長、奴は自らでその目的を語っていました」


「む、そうなのか」


「はい。なんでも、吸血姫(ヴァンパイアクイーン)に弱くて醜いと言われた復讐です」


「なんだそれは。そんなことの為……歴史の裏から出てきたと言うのか」


 その通りだ、未だにオレは奴の理由が酷くつまらないもので意図を理解できていない。

 オレだって前世ではキモチワルイ系だったから言われた覚えなんて数えられないくらいあるが殺したいと思ったことはないなー。

 強いて言えば一発殴らせろってぐらいか。


「本当に分からないことばかりなのです。それにクイーンのことも気になります」


「そうですね。それで、ギルドに報告はしましたか? 現状出来ることは少ないですが、ギルドに調査依頼と情報の流布を頼んでおきましょう。そしてベゼック氏のことですが何か遺品はあったのでしょうか? 欠けた生徒はおりませんね?」


 多いな。

 これでも必要なことだけを聞いてきてるんだと思うけど。


「えーと、ギルドにはまだ伝えていません。おそらく門の早馬が教官がいないことは報告していると思います。あと、教官以外に欠けたのはいません。教官の遺品には剣が」


「分かりました。私が一筆して報告しておきましょう。君の口からも説明しておいてほしい。君は重要参考人だからね。そしてベゼック氏には家族はおりません。その剣は今どこに?」


 校長の意見もギルドに伝えておくのだろう。

 ギルド運営の学校を治めているだけあって多少なりとも顔が効くのだろう。

 しかし薄々分かってはいたが教官には家族…いないのか。

 確かに休日でも街で狩場で見かけたからな。

 一緒に狩りすることも多かったし。

 …はぁ。えっと剣は見せた方がいいのかね?


「剣は自分が持っています」


「そうか、見たところ持ってなさそうだが」


「あ、ここに……」


 しまった、忘れてた。

 ゼンたちにこの魔法は利権を得ようとする人と世界が変わってしまうからヤバいって言われてたのに迂闊に見せることに──校長の優しさに掛ける!


「あの、どうかこれからのことは内密に…お願いしたいのですが…」


「はい? …ふむ。君がそう言うからには何かあるのでしょう。分かりました、内密に致しましょう」


 よかったぁ…なんとか口約束だけでも取り付けられた。

 本当は書類で約束しておきたいけど、この人にもお世話になってるし…うん、信じよう。


「──では、よいしょっ」


「ん、んんん!? な、何処から!?」


 驚きによって前のめりになったせいで校長の髪がズレ落ちそうに…あぁ、危ない!


「──ゴホンッ」


 ああっと、凝視してしまっていた。

 オレも小さな咳払いをして姿勢を正す。

 一応、校長の咳払いで二人とも落ち着きを少し取り戻した。


「あー…と、これのことも内密にしていただきましょう。ん゛ん゛、それでは先ほどのことを」


「えっとオリジナル魔法です。原理を説明するのは難しいです、はい」


「ふむ、いえ…これは亜空間を擬似的に創造…闇の属性に近いのでしょうか…つまるところ──」


 長ーい思案の時間が訪れました。

 とりあえず手をつけてないお茶をすする。

 教官の剣は机の上に置いたけど良かっただろうか。

 しかしお茶が冷たい…冷えてしまってる。

 湯気立つほどだったのに。


「あの~、そろそろ…」


「──む、すまないですね。またも思考の渦に入ってしまっていたようです。さて、このベゼック氏の剣は君が持っていなさい。他に使えるような人はなかなかおりませんし、彼の想いもつまっていますし、いざという時にあると心強いでしょう」


 驚いた、オレが持っていても良いのか。

 さっき校長が教官には家族いないって言ってたな。

 ただ、この剣少しでかくて扱うのが厳しそうだ。

 完全に叩き潰す用、大剣のカテゴリーに入りそうだ。

 二刀流は無理だな、片手剣じゃないと。

 フルダイブゲームの英雄でもあるまいし。

 そもそもオレの愛剣クンペルは片手半剣でちょっと長いんだよな、片手でも両手でもいけるけど二本は難しい。


「分かりました。では、有り難く使わせていただきます」


「ちょっと待ちなさい。そういえばその剣には名前があったはずです。確か──」


 再び空間を開けて教官の剣を仕舞おうとするオレに校長が待ったを掛ける。

 名前? 確かに聞いていた方が良いかも。


「─そう、“ベゼッセンハイト”だったと思います」


 ベゼッセンハイト…これは…ドイツ語だったはずだ。

 確か…熱狂とか、夢中とかの意味だったと思う。あと憑依っていう意味が。

 なんだ? ゾワッとする。

 鑑定…?


 〈大剣ベゼッセンハイト:攻撃力+40 狂乱は意味を成さない。憑依を滅ぼせ、打ち倒せ。構わずに〉


 な、どういうことだ?

 鑑定の説明文は確かに変えられる。

 でも、作成して24秒しか説明変えられなかったハズだけど。

 しかも製作者だけが。


 ──うそだろっ?

 教官はこれを作ったっていうのか?

 素人目から見ても完璧な出来だ。

 でもこれは…オレへのメッセージだ。

 つまり死ぬ寸前に、この剣は完成した。

 恐らく教官の血か何かで。


 柄にうっすらとだけど血のような赤さが見える。


 凄いな教官は…託してくれたんだ想いを。

 怒りで狂うな、冷静でいろと。

 あの時のオレに教官の剣を鑑定する余裕はなかったけど、気づけてよかった。


 本当にあの人がオレの教官でよかった。


「あ、ありがとうございます」


「そうしてください。彼も喜ぶでしょう」


 大切にするものが増えた。

 いつか使わせてもらうときも来るかもしれない。

 それまではオレの亜空間で寛いでもらおうじゃないか。



 さて、校長の一筆した手紙も持ったし、次はギルドに向かおう。

 ギルド長はいるかね…未だに会ってないんだけども。

 セドル父さんの知り合いだって話なのに。

はい。作者さんです。

書いてるうちに内容がすごい方向にいく癖があります。

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