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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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83 はなし

 

「おーい、お前らぁ! いい加減におきろーそろそろ馬車が来る時間になるからー」


 基本的に目覚めが悪い男子どもには早めに声をかけておく。

 モゾモゾ動き出したので二度寝はしないだろう。


 ルーメンへの問いも終わった。

 いつも通りの魔法特訓と素振り先に終えたらやることもなくなった。

 いわゆる手持ちぶさた状態になってしまったな。

 んー、パパッと朝御飯でも作ろうか。


 有り合わせでいいだろう。

 え~と、目玉焼きと卵焼きと…スクランブル…エッグと…あれ?

 う~ん片寄ってる…な?

 まあ、いいや。


「ということで、はい。朝食作っといたから」


「いや、待ってくれガルゥシュ。実に美味しそうだ、美味しそうなんだが、あまりにも」


「あまりにも卵ばかりだってか? 大丈夫だって、卵は栄養満点なんだぜ? 別に他に浮かばなかったわけじゃねぇよ?」


「うそくせぇぞ…まぁ、いいや。ガルゥシュの作る料理は最高だし」


「そうよねぇ、よだれが出ちゃうくらいにぃ」


 ひぃ…やめてくれ、オレの目を見つめてよだれを拭く動作をするのは。

 そういうのは料理に対してやってくれよ、ピタシーナちゃん。


「うまそーな匂いがするのはここかなぁッと。おいっス! オハヨー!」


 ひょこっと男子部屋に顔をのぞかせたのは案の定エミッタだった。


「おはようさん、エミッタ。ところで一人か?」


「んー、匂いにつられて来るでしょ~たぶん」


 その言葉に違うことなく、匂いにつられてやってきた他の女子。

 挨拶を交わして朝食を食べる。

 女子たちが来ることは予想済みだったし、人数分朝食の用意はできてる。


「とりあえず、ご飯を食べながらでいいから聞いてほしいことがある。なに、そう困るような話じゃない」


 なに? と口にするみんな。

 やっぱりソフィは感づいているようだけど。

 もしかしたらゼンもかな?


 巻き込んでしまうのは悪いとは思うんだが察してくれる。

 この二人なら。


「あー、えと、冒険者学校辞めるわ、オレ」


 若干の静寂。


「お、おいおい? 何言っちゃてるんだ? 急になんで…」


 つっかかてきたのはクラメ。

 その顔は怒っているようでもあり、悲しんでいるようでもあった。

 クラメはリス族のクラベに負けず劣らずの直情タイプだからな、言いたいことはすぐにでも言うだろうと思ってたよ。


「そ、そうだよ…なんでなの? なんで急にそんなことを…ガルゥシュさん…」


「急になったのは、急になくなってしまったからだよ」


 ボソリと呟いたメルネーちゃんの言いたいこともわかる。

 オレにはそんな素振り全くなかっただろうからな。

 人の機微には敏感なメルネーちゃんでもわからないか。

 しかし、やけに悲しそうに呟くな。


「なくなったって何がなの? ガルゥシュが言いたいことは、たまに分からないことがあるから…」


「はは、そりゃ済まない。クレールには世話をかけるな」


「はー、そういうことを言いたかったわけじゃないわよ…」


 頭を痛そうにさするのはクレールの癖だな。

 苦労性のクレールには今までいろいろ面倒をかけてしまった。


「う~ん、結局さー! あんた、何言われたってやめちゃうんでしょ? 違う?」


「あー、うん、そうだと思う。とんでもない衝撃が起こらない限りね」


「だろうねー。教官が生き返ってくれない限り…でしょ?」


 エミッタは清々しいほどド直球をつき付けてくる。

 でもそのストレートさがエミッタらしい。

 ものすごく答えずらいんだけど、言葉で表すならその通り。

 頷くことしかできなかった。


「……」


 沈黙が胸に痛い。

 セントはこういう時、決して口をはさむことはしない。

 自分が口下手だと言うことをわかっているから。

 目を閉じて腕組みしているだけだ。


「……黒魔術なら…」


「それは無理…だろうし、やってほしくないな」


「ん…ごめん…」


 チヌネアが沈黙を待っていたようにボソリと呟いた。

 場を和ませるため言ったのか、本気なのか判断に困る。

 まぁおそらく、後者ではないだろうが。


 再び静寂が間を作り出す。


「…みんな、済まない。僕もだ」


 それまで口を開かなかったゼンがゆっくり放った。

 みんな息をのむ。

 オレと、ソフィ以外のみんなが。


「…ごめんね。私も」


 この時しか言い出せなかっただろう。

 目を伏せたソフィがゼンの後に続いた。

 エミッタが腕を震わせて机に叩きつけようとして、やめた。

 ため息がこぼれた。


「悲しいわね。三人もやめちゃうって」


「ピタシーナ……」


 彼、は。

 彼はオレたちの中で最も年長だ。

 年長と言うには遥かに上だが。

 詳しい歳は知らない。

 でも、年上として多感な時期のオレたちを導き、後ろから見守っていた。


「ごめんな、皆。今までありがとう」


 こんなことして何になるか分からないけど頭を下げた。


「仕方ねぇ…仕方ねぇよ」


 クラメの呻きが苦しかった。

 メルネーちゃんの犬耳は実に悲しげに垂れていた。


「…じゃあ、帰る支度を」


 オレが話出したため、この話を切るのもオレだ。

 話始めたときに湯気を放っていた卵料理もすでに冷めてしまった。

 もし、オレが話すのが上手かったら、皆納得してくれたのだろうか。

 出来れば納得してほしい。

 オレだって…オレだって寂しいんだ。

 でも、信用してしまったから。

 あの声の…あの使命を。


 ──“邪悪”を討ち滅ぼせ と。

 それはつまり邪悪がいつの日か、迫ると言うこと。

 いつ、誰に、何が、どうやって──


 考えてもきりがない。

 だけど、そのいつか来る日のために力をつけなきゃいけないことだけは解る。

 それは教官のいない冒険者学校では難しい。


 だから、辞める。


 ……ダメだ、やっぱ寂しい。

 皆忘れるのかな。

 この一年を。

 忘れられないよう、何か贈ろうか。

 そうだ、クレハーロにいる知り合い全員に贈ろう。

 よし、そうと決まれば何を贈るか─。


 腐りかけてた思考は少し前に進み始めた。

 そう、前に。

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