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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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82 早朝

 

 寝てスッキリした。


 ググッと伸びをしてモソモソとベッドから降りる。

 オレの上のベッドで寝てたクラメの寝相は悪いみたいで垂れてた足に顔が当たりそうになったので思いっきり叩いてどかす。

 靴を履いて靴紐をきつくしてたら、あくびがもれそうになったのでかみ殺した。

 どうやら皆、昨日遅くまで起きていたみたいだ。

 一応注意しておいたはずなんだけど。


 ゼンとセントに言っておいたし、クラメはリス族のクラベと話し込んでたから言ってないけど。…あれ?


 ピタシーナちゃんは、どこいった?

 あんな目立つ体を見逃すはずない。

 トイレにも行くついでに探しに行くか。


「くぁ~あ~」


 あ~やっぱり寝たりねぇー。

 いくら噛み殺してもあくびが出る。


「あらあらぁ、眠たいのかしらぁ~? ガルゥちゃぁん、熱い抱擁で起こしてあげましょうかぁ?」


「おう、おはようピタシーナちゃん。…抱擁はノーサンキューで」


「? のーさんきゅー? ってなにかしらぁ?」


「いや、何でもないよ。気にしないでくれると助かるな、どうも眠気が抜けてないみたいだから」


「あらぁそうなのねぇ。まぁ、一昨日からいろいろやってもらったものねぇガルゥちゃんには。クレハーロに戻ってからもいろいろしなきゃいけないでしょうし、もう少しゆっくりしなさいねぇ」


 どうやら先に起きていたピタシーナちゃんは朝の鍛練をしてたみたい。

 汗まみれとまではいかないがこんなゴツい人には抱かれたくない…


 ノーサンキューに関しては普通にミスった。

 思わず使ってしまうんだけど音節がこちらの言語と上手く噛み合わなくて翻訳されないみたいだ。

 あんまり使い方を歪曲して伝えたくないから、なんちゃって英語はなるべく自重してる。


 それにしてもこんな外見なのにピタシーナちゃんは非常に気遣いが上手い。

 少々話しただけであまり疲れないように接してくれるしな。

 今はまだまだ物理的にも精神的にも見上げるような乙女(オカマ)だけど、オレも成長したらピタシーナみたいな心遣いのできる(オトコ)になりてぇな。

 断じてオカマ(オトメ)にはなりたくないけどな!!


 水浴びに行くらしいピタシーナとはそこで別れて、トイレに行く。


 トイレというか(かわや)って言わないと通じないけどね…

 ついでに言っとくと上下水道なんて無いから江戸時代の厠に限りなく近い。

 これはロクシュの里に限った話じゃない。

 クレハーロや故郷のアシヤカ村もだ。

 オレ的にはいつかはこの世界に上下水道を敷設したいなと。

 あ、でも王都には下水道は存在してるとか。

 地方の農村部ではせっかくの糞尿を水にに流すなんて…という声があるらしい。

 水洗トイレの便利さを知らないからだよなぁ。

 流石に10何年もこの世界で生活してるからいい加減慣れてきたけど、不意に思い出すと不便だと感じる。


 …とまぁ、トイレもし終えたし、タイミングもいいことに奴が来た。


「おっす、おはようルーメン」


「!? チェッ、なんでワカッタのよ…」


 オレの背後を取って安心していたか!

 残念だったな!

 精霊と言えども元となる樹のエネルギーを吸いとった今、感知できるんだよ。


「くっそぅ! なにそのドヤ顔ー!」


「ふはは、オレの後ろを取るなど10年早いわ!」


「うぎぎぃ…」


 ある程度この茶番に終わりが見えたので二人して真面目な顔に戻す。


「さて、教えてもらおう。昨日の問いの答えを」


「エエ、教えてアゲルわ!」


 昨日の問い、この世界に神樹ロクシュタリアのように神に近しい権能を持つものが他にいるかどうか。

 これはオレの行く先が決まる問いだ。

 知りたいことが多すぎるからな。

 聞き出しに行ってやる。


「まず、いるか、いないかで言うなら、いるわ!! えっと、あと…6、5? くらいいるわ!」


「おぉぅ、大雑把だな! おい!」


 いるわ! のとこで反応しかけて余りにも不確かなルーメンを見てツッコンでしまった。


 て言うか結構いるんだな。


「仕方ないじゃーん。あの子話が長くて…」


「あの子って…あぁ、世界編纂の精霊か」


「そうそう、あの子、土の精霊寄りの子だからね~話が長い長い。あっ、土の精霊ってね、性格はのんびり屋なんだけど頭がいいからそういう仕事に向いてるのよ」


 ほぉ、それぞれに性格があるのか。

 じゃあルーメンは楽観的でアホという性格だな。


「あー!! いま失礼なこと考えたでしょ!!」


「くそっ─なぜバレタッ! お前がアホであるということが─ッ!」


「ぅるさいわー!! ワタシはアホじゃなぁーーい!!」


「何を変な話してるんですか…? ガルゥシュさん、ルーメン…」


「はっ! セーベ、今ルーメンに教えてやってたんだよ。ルーメンちゃんはアホの子でーすってな」


 セーベが起きていることを知ってたのでセーベをも巻き込んでルーメンをバカにしてみた。

 あ~ダメだ、ルーメンと話してると真面目に出来ねぇ。


「なぁにおー!! このっこのっ!」


「あだだ、やめろっ、具現化したフォークでオレの額を突くなっ」


 コイツ、わざわざエネルギーを使う光の結晶化を下らねぇことに使いやがって。

 普通に血が…


「…ぷっ…ふふっ…」


 抑えた笑いが少し漏れたのか、セーベが顔を逸らして口を押さえている。


「わらってんじゃないわーー! セーベ!! ガルっちをバカにしてるなら止めないけどね!?」


 アホ…そういうことじゃねーだろ。

 はぁ、コイツと話してると話がどんどんおかしな方に流れていくな…

 肝心の答えもハッキリとしないし、詳しく聞きたいんだけどなぁ。


「いえ? ルーメンとガルゥシュさんは何か重要なことを話してたんでしょ? それなのに楽しそうに、けなしあってるから…」


「うん? けなし…何?」


「ほら、アホだ」


 怒ったルーメンはとりあえず放っておいて、さっきセーベが言ったように重要なことを話さなきゃ。


「えっと、私邪魔なら片付けもあるので家に戻りますね?」


「いや、セーベにも一応聞いてもらっておこう。ルーメンもアホだし…すぐ忘れるだろうから」


「─まだ言うか! このぉぉ!!」


「はいはい、スマンスマン。かしこいかしこいルーメンちゃん」


「ふふん、わかればヨロシイ」


 チョロい。

 所詮はアホ精霊、出会ってたった2日で扱いがわかってしまった。


「じゃあこの、かしこいルーメン様が教えよう!」


 セーベと二人で小さな拍手を鳴らす。

 オレもセーベも慣れたもんだ。

 ルーメンは更に調子付いた得意顔に。

 光をチラチラ飛ばすな。


「えっと、この世界には数柱の神聖な生き物がいてーロクシュタリアちゃんもその一柱らしいのね。で、世界編纂の子が言うにはロクシュって“六の樹”のことで、六柱目だって。六樹(ロクジュ)がそのまま呼ばれ続けたみたい、だからロクシュタリアちゃんの名前はタリアだって。私もしらなかったわー」


 ほぉーなるほどね。

 六樹、か。

 と言うことは一、二、三、四、五は確実にいそうだな。

 同じように樹だろうか。

 大方というか間違いなく神が作り出したんだろう。


「あ~と他の柱なんだけど名前は知らないって。どっしり根を構えてるのはタリアちゃんとあと一柱いるらしくて三亀(サンキ)らしいよ。エイゲニア王国じゃなくて…あ、あんせ? なんとか神国にいるみたい」


「アンセビメル神国のことか。南西にある国だな。で、…最も獣人差別の強い国だ」


 横目でセーベを見ると少し肩を腕で引き寄せてうつ向いていた。


「取り合えず、オレは神国に向かうことにする。他の柱の居場所はわからないんだろ?」


「あーうん。どうもフラフラしてるのが多い? あと小さすぎて見つからないのもいるみたいだよ?」


「マジか、それはめんどくさそうだな」


 精霊視スキルのように何かしらのスキルがないと見つからないとかあるのかもしれないが…生き物だろ?

 微生物のようなものかもしれないな。


「まぁ、いずれにしてもアシヤカ村には帰る予定だけど」


「アシヤカ村と言うのは?」


「あぁ、オレとソフィが生まれ育った村だよ。このロクシュの里のように自然豊かなとこさ。さすがにタリアのような素晴らしいのは無いけど」


 おぉ、セーベもルーメンも若干誇るような目をする。

 それだけ偉大で荘厳で印象深い樹なのだろう。


 六樹、タリアも胸を張るように枝葉を揺らした。





 ☆☆



 体を引きずるような重く湿った音が森に吸い込まれていく。

 男が吐く荒々しい呼気と共に。

 半身を失った腕だけの動き、ズダボロの姿。

 顔は焼け爛れ判別がつきにくい。

 しかしその口からは細く尖った白い“牙”が、彼の象徴の如く生え出していた。


 彼の者の名は──『ゴルチェラード・セテレテータ』


 血を望む種族、吸血鬼の生き残り。



 ただ今はその体から、生気のようなものは感じられない。

 腕一本、死ぬことを許さぬように這い進む。


 その瞳と牙だけは憎悪と血に飢えていた。

 血走った濁りの瞳は語る。


 ―――今は爪と牙を磨くことを第一とし、いたぶる力をつけるのだと。


 彼の心には屈辱が塗られていた。

 “吸血姫”と“精霊”、そして“ヒトのガキ”によって。

 そいつらを、新たに誓った復讐によって、醜い屈辱を、清算する。



 遠くで静かに蝙蝠(コウモリ)が獲物を貪っていた。

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