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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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81 束の間

ありがとう…ありがとう。

 

 家族の時間を邪魔する気はないから、セーベの部屋から静かに退出した。

 緊張した…村長は妙な迫力があってさ。

 ため息を吐くつもりはないが、心がざわついて気持ちが落ち着かない。

 んー、何かしようか。


「あっ、ガルっち。オマツリたのしーねー!」


「おっ、ルーメンか。何してたんだ?」


 ギュルンギュルン光を撒き散らしつつ華麗に舞う小さな精霊ルーメンは目を輝かせてそう言った。

 思わず口にするほど楽しんでいたようで良かった。

 でも、祭りの最中は全然見当たらなかったけど、どうしてたんだろうか。


「んーとね、んーと、あっ。あれ食べた! あの~冷たくて…オイシクてー、甘いのさっ! とにかくあまいヤツ!!」


「え? もしかしてお前…」


 コイツ、オレの見てねぇところでプリン食ったな!?

 チックショー、反応見たかったな。

 絶対面白いと思うんだよな。


「何? くやしがってるのぉ? うらやしい? ねぇねぇうらやましいんでしょぉー」


 ウッザ!

 なんだコイツ…目の前でブンブン飛び回るんじゃねぇ。

 さっき華麗にとか思ったのが間違いだった…あーもう、叩き落とすぞ?


「ひぇっ、えっなに? そんなに睨まないで!? いやぁー!」


「あのなぁ、それを作ったのはオレだ。作るとこ見てただろ?」


 あまりにも、鬱陶しかったから手をスッとあげたらルーメンはビクッとして飛び退った。

 ホント、コイツはアホなのか。

 オレがプリンを作るとこを間近で見てたくせにそれを忘れている。


「え、えぇ!! アレあんたの!? う、うっそだぁー!!」


「フーン、そうか。もう、食わないのな。あ~あ折角、美味しくできたから余ってる分も出してやろうと思ったのになぁ。残念だな」


 嘘つきやろうだと言われたので腹がたった。

 もう知らん、コイツにプリンは渡さん。


「ちょ、ちょっとタンマ!! 余ってるって言った!? お、お願いしますぅ!! ホンの少し、ホンの少しでいいから! ほ、ホラ! 私、あんたを助けるために頑張ったじゃん?」


 う~んそれを引き合いに出されたら弱いな。

 それにコイツは気晴らしにはピッタリかもしれないな。

 からかいついでにあと一回チャンスをやるか。


「そうだな、オレを救うために頑張ってくれたんだ。だがよぉ、オレの傑作であるプリンをしっかり味わってねぇ、お前に1つ聞きたいことがあるんだが…答えてくれるよなぁ?」


「えっと、何? 口悪くない? こ、怖いんだけど? で、でも答えたらくれるんだよね!? その、ぷりん?だっけ?」


 ビビらせてしまったか?

 けどなぁ、コイツはある程度脅しぎみにいかないと答えてくれなさそうなんだよなぁ。

 あと、疑問符が多すぎるぞ、ルーメン。


「あぁ答えたらくれてやるさ、とろけるようなプリンをな」


 一度体験したことがあるからかゴクリと喉を鳴らす精霊。

 ホントにコイツは精霊か? 唾液もあって食欲まで…

 ま、いいや。プリンをあげるのは、ほとんど決定してる。

 聞きたいことの為の餌なだけだ。


「さて、オレがお前に聞きたいのは──神樹ロクシュタリアのように神に近い権能を持ったものは他にいるかと言うことだ」


 ──必要なことだ。

 使命を帯びたオレの次の目的地として。

 神樹ロクシュタリアの情報では足りてないことを…


「えっと…そういうこと? ちょっと今暗いから分からないかも。他の精霊さんに助けてもらわないと…」


 ルーメンいわく、そういう深い質問は朝か昼にしろ とのことで、どうも記憶を辿るのは暗いと難儀するらしい。

 あと、夜になると心細いとかで怯えやすい性格になるのだとか。

 なんだそれ……うん、まぁともかく他の精霊には世界編纂の精霊もいるそうなのでそちらに聞いてみるそうだ。

 距離は関係無いのかと聞くと、空は繋がってるでしょ? って言われた。

 オレが悪いのか?


「えーと、そういうことだから…明日の朝でもいい……?」


「あぁ、全然構わない。どうせ朝陽が昇るころには起きるしな。あと、報酬は前払いしてやろう」


 虚空に穴を開けて寸胴鍋と木椀を順に出す。

 その瞬間には心細いとか言ってた面影は見えない、顔中を輝かせてヨダレを拭く動作をする。


 そういえば、どうやって食べるのか…?

 疑問が顔に出てたのか説明口調で説明してくれたが、わかりずらかった。

 えっと要するに光を凝縮して形作ると。


「やってみた方がはやいよね? いでよ! 光のスプーンッ!」


 ひ、光のスプーン…だと。

 ドヤ顔をすなっ…、そういうところが残念なんだよ


 と、まぁ色々あったもののルーメンは概ね想像通りの反応を示してくれた。

 某学園料理漫画のように恍惚とした表情を浮かべ、服が千切れ飛ぶような幻想が見えた。


 なお、ルーメンの反応は何故かオレの笑いのツボに入ったことを追記しておく。


 ある程度落ち着いたから、ルーメンは先ほどの他精霊と交信するためにロクシュタリアの樹を上に飛んでいった。


 空は既に真っ暗だ。

 篝火も小さくなっており祭り独特の物悲しさを覚えた。

 ロクシュタリアの樹の葉が揺れる音が強く耳に残った。


 明日も朝早い、腹も膨れたし、そろそろ寝るとしよう。



 ソフィたちにオレはもう眠いから先に寝ると伝え、あてがわれてた部屋に戻った。


 五人も寝れる部屋は異常に暗く、寂しさに(うずくま)るかのようだった。

 一人しかいない今だからなのか、オレが寂しいからか。

 かつては何も感じず俺だけの城かとでも言うような感覚だったのに…ゼンと同じ部屋で眠るのに慣れたせいもあるな。

 今は淋しいと感じる。


 昨日今日で色々ありすぎた。

 ベゼック教官を亡くしたことはオレの胸の内に深く穴を開けた。

 前世でも今世でもあそこまでオレに罵詈雑言とも取れる言葉を掛けてくれたのはあの人だけだ。

 いや、本当に刺さったように取れない暴言は弟と妹だが…深く染み込んでるのは教官の言葉だ。

 ソフィの父であり、オレの剣の師匠ダグランは甘くは無かったが動きでオレに教えてくれてた。

 剣術の指針としては師匠で、剣士の心得は教官という風に染み付いている。


「ハァ……オレらしいっちゃ、らしいか」


 天井に向けてため息を吐きながら自嘲する。

 乾いた笑いすら出てこない。

 瞼が重くなってきた…あらがえない眠りはいつぶりだろう、もしかするとクローネ母さんのお腹の中ぶりかもしれない。

 それは言い過ぎか。

 …とりあえず眠い。


 うっすらと瞼が落ちてきてオレは眠りについた

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