表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
91/115

80 目的

 

 思い立ったが吉日と言うし、セーベに、リテラさんへの別れの挨拶をすることを今のうちに勧めておこう。


 セーベに話しかけたい奴は何人かいるようで、ジリジリと近付いているようだが時間切れだ。

 オレが話しかけるからな。

 別に今更何の気兼ねもない。

 裸もみたし、彼女の母の裸まで見たし、プリンあげたし。

 あんまり関係無いような気もするが、気にしたって仕方ないのだ。

 それにオレにも話しかけたい奴がいるのか視線を感じる。

 ここでそいつらに捕まるとセーベに話しかけられなくなる。

 オレはクーシャンの入ったお椀を持って食べつつ、スタスタとセーベに近付いた。


「おーい、セーベ~。ちょっといいか」


「あっ、はい。何ですか?」


「いや、なに、さっきセーベが挨拶しなきゃって言ってたろ?」


「え、聞こえてたんですか? ゼンエスさんと話されてましたよね?」


 料理をチョコチョコと摘まんでいるセーベに話しかけたらフォークを置いてセーベが振り返った。

 挨拶について切り出すとゼンと話していたのにも関わらず、呟きレベルの独り言を聞かれていたことが気になったようだ。


「オレは結構耳がいいほうでさ、ちょうどゼンとの話も一区切りついたとこだったんだよ。思案気だったから注目してたっていうのもあるけど」


 なんとなく聞こえただけのことを、聞いていたという風に受け取れるように言い換えた。

 セーベは特に疑わず、そうなんですね と納得していた。


「まぁ、それは置いといて、その挨拶はもうしてきたほうがいい。理由としては単純に2つだな。まずリテラ…さんの体力の問題。そして2つ目は思い付いたら行動すべきだから、かな」


 大まかに思い付く理由を2つ。

 何故そんな理由を述べたかと言えば、後悔してほしくないからというオレの思いのせいだ。


 1つ目の理由でもある、リテラは既にこちらの言語をしゃべれず、足も踏み出せない。

 体力を使い果たしてオレの前でぐったりと倒れたほどだ。

 セーベとテーベにはそんな母親を助けるためという目標を背負ってほしい。

 その目標を提示するくらいはオレがしよう。

 こんな世界なら少し変な記憶欠損や神経麻痺くらい魔法や魔道具で治せるんじゃないかと思うんだ。

 事実アンからはそういうものも無くはないと言っていた。

 アンではまだデータベースの接続権限がどうのとかも言ってたからけど。

 ま、探せば見つかるだろう。

 悲観することは全くないはずだ。


 2つ目の方はやはりオレの経験則からの理由。

 親には感謝の言葉を伝えるべきだということ、今まで与えられたことを少しでも返す約束を作るために。

 当たり前の愛情は時として人を醜く助長する。

 愛情に気づかず、横暴に、自己中心的に振る舞ってしまう。

 しかし、どこかで気づく。

 愛情を与えられていたのだ、と。

 オレの場合は後戻りできない状況だったし、取り返しのつかないタイミングだったのだが。

 つまりタイミングは大事だが、ずっと機を伺うだけでは逃してしまう。

 要するに、思い付いたら動くことが肝要って話を言いたいわけ。

 果たしてここまで伝わるだろうか。


「あ~、分かりました。すみません、余計な心配をお掛して…、先に、マ…──母と話してきます」


 まだリテラのことをママと言ってしまいそうなセーベのことだ、ストレートに心情を吐露するだろう。

 別に両親をママパパと呼んでいても小さいセーベには違和感はわかないがな。

 むしろ年相応な感じがする。

 そんなことを考えたからだろうか、顔に出てしまったらしい。


「ガルゥシュさん? 何か失礼なこと考えませんでしたか?」


 これに対しては苦笑いしながら手を軽く左右に振るしかない。

 怪しげに睨まれたけど、悪気はないんだよ。

 少し悩むような素振りを見せたあと、ペコリとお辞儀をして去っていった。


 フゥっと軽く息を吐く。

 やはりまだ余所余所しいところはある。

 それも仕方ない、彼女はこの里以外の異邦者にはほとんどあったことがないのだから。

 いづれ慣れていくだろうと思うけどさ、テーベは口調が悪いからな…これはこれでいいか。


 手に持ったクーシャンをひとすすりする。

 ホクホクとした芋をハフハフしながら食べる。

 残った汁を飲み干すように椀を傾ける。

 量が減るにつれて底に溜まった成分が喉に更なる辛味を突き刺してくる。

 飲みきって、これまた軽く、ホゥと息を吐く。

 もう五の月といえども辛味のあるクーシャンで吐く息が白い。

 実に旨かった。

 あとでアハタさんにレシピの確認をとろう。

 アンにも分からない隠し味があるようだし。

 いや、分からないわけじゃなく敢えて言わないようにしてるのかな?

 知ってしまうと、つまらないものさ。とか言ったりなんかしちゃったりして…と。


 さて、クーシャンのことは置いておいて、リテラは寝ているだろうがもうあまり時間もない。

 起きてもらうことにして、喋れないことをオレが説明するか。

 一度現実に起こっていることをセーベには知っておいてもらいたい、絶望はオレがさせない。

 希望を示してやる。

 セーベたちも目的をもって旅に出ることができるだろう。


 もうそろそろかな、何時までも喋れない母を見るのは辛いだろうから。

 そう思って、チラッとソフィたちの目を見ると、分かったように頷いてくれる。

 ほとんど意思疎通は完璧だ。

 流石に『先に寝てて』までは伝わってないだろうけど、ね。


 そういえばルーメンはどうしてるんだろう。

 祭りの前から会ってないな。

 近くでいるとうるさいが、いないと静かでソワソワしてしまうんだ。

 あ、プリン食ってないだろう、アイツ。

 テーベ、エミッタに次いで良いリアクションを取ると思うんだよなぁ。

 是非みせてもらいたい、優越感に浸れる対象として笑。

 まぁどこかで食べ物探して飛び回ってるだろう。

 そのうち、聞き付けて俺のとこに来るだろうさ。

 ということで閑話休題。


 んじゃ、タイミングを見計らってセーベの部屋に入ろう。

 そのためにまずは村長宅にお邪魔しまーす。

 スキル【隠密】を使って忍び足で忍び込む。

 感知ではセーベの気配がしっかりわかる、だがリテラの気配がかなり薄い。

 いるのは間違いないのだが、如何せん不安になるレベルなのだ。


「──ママ、愛してくれてアリガトウ」


 聴覚の鋭くなっているオレは扉一枚くらいなら耳を当てなくても中の音を聞き取れる。

 セーベはしっかりと自分の想いを口に出来たみたいだ。

 それに対する反応は感じとれ、ない。

 やはり娘の声でもリテラの活力は戻らない、か。

 ただ言葉を話すことができない訳じゃなかろうに。

 もしかして、セーベの言葉が理解できない? こちらの世界で積み上げてきた言語が?

 脳の影響だろうか。

 そうだとしてこの世界の治療法で脳を治せるのか? 副作用は?

 クソッ、疑問ばかりが頭を巡る。

 確証もなく脳に干渉は無理だ。

 アンにも解けない問題か。【解答解説】のアンでさえも。

 だが、世界を巡り解決するヒントも見つかるはずだ。


「──ママ、あのね、私ね、外の世界を見て回ってくるね。ママを救う方法を探して」


「─っ!?」


 セーベは、ハッキリといった。

 ──母を救う、と。

 オレが言葉を付け足すことなくともリテラを見て察したんだ。

 あぁ、素晴らしいな。セーベは親孝行者だ。

 感謝もせずあの世界から消えたオレとは違う。

 この世界ではまだ親孝行出来てないし。

 さてさて。


「偉いな。セーベは──」


「ふむ、そうであろうの。我が愛娘は、果てしなく偉いのだの」


「っ、いたのか村長。まぁ気づいてましたけど」


 敢えて触れなかったんだが村長は裏口から入って自分の娘の部屋を覗いていたみたいだ。

 いや、まぁ除いていたわけじゃなく聞き耳を立ててただけね?

 覗いてたらただの変態親父だろ。

 それに関してはオレの言い方が悪かった。

 だから拳をポキポキ鳴らすんじゃないよ…

 ったく、絶対セーベの勘の良さは親譲りだな。

 それともオレ、顔に全部出てる? えっ、ウソ。


「何、顔をいじっとるんじゃの? と、そんなことより、わ、わいの妻はどうした?」


 おい、何をどもってやがる。

 この人はホント自分の妻を恐がりすぎだろ。

 ひょっとするとさっきの拳を鳴らしたのは、その恐怖心を和らげるためじゃ無かろうな?


「ゴホンッ! あ~その何じゃ、わいは別に妻を心配しているだけでの?」


「いや、まぁ別にいいんですけど。──あの、本当にリテラさんを心配しているのなら……覚悟を……してください。これにはオレも関わってるんで」


 村長はまだ知らないんだ、リテラが能力を失い、言語を失い、歩くための脚力を失ったことを。

 オレの纏う雰囲気が変わったからか神妙に頷く村長。


 オレは扉の近くから一歩体を引いて村長が通るため、壁際によけた。

 ドアに手をかけ比較的元気な声を出して扉を開ける──


「オーウ、失礼するでの! セーベ、リテラは──」


「あ、パパ…」


 響いたコジベ村長の声は途中で息を飲むことで途絶える。

 恐らくベッドに横たわり表情の消えたリテラの顔を見たのだろう。


「な、ど、どうしたんだ…の? のぉリテラ?」


「あ、あのねパパ。ママは…ママはね…」


「…リテラさんは能力を解放した副作用で失明し、話せなくなり、歩けなくなったんです。亡くなった訳ではないですが…辛い生活になるでしょう」


 突然説明を始めたオレのことをジロリと見た村長は死んではない、死んではないと呟きながらセーベの隣に座った。

 その手は妻の手を柔らかく包み込む。励ますように。

 セーベもオレのことを見たが、恨むような目は向けず涙を拭って決意のこもった目でオレを見た。


「ガルゥシュさん、私、ママを救うための方法を探します。あなたはこれを私に言いたかったんでしょう?」


「あぁ。オレが言わなくても良かったんだな。…村長、必ず見つけてきます。それまで…」


「…ぁあ、言わんとすることは解る。だが、ひとつ尋ねてもエエか」


 静かに丁寧に言葉を繋ぐ、村長の目はリテラの横顔を優しげに見つめていた。

 それだけで愛が感じられる。

 それだけにハッキリと答えなくてはいけない。


「どうぞ。答えられることはキッチリ答えます」


「よし、ならば…リテラが倒れた原因を……の」


 やはり、そうだろう。

 突然の状況、情報がいる。

 分かってはいたが、オレも直接的なことは正確に把握できている訳ではない。

 しかし、村長の声には有無を言わせぬ覇気が混じっていた。

 大まかなりとも説明すべきなのだ。


「はい。オレがわかる範囲ですが、いいですか」


「構わぬ、説明してほしい。リテラは何かのために自らの身を犠牲に使ったのだ。それを納得したいのだの」


 村長の意思がヒシヒシと伝わってくる。

 オレは一度回想しつつ、神樹ロクシュタリアから得た情報を混ぜつつ丁寧にひとつひとつの事柄を村長とセーベに聞かせる。


「まずオレとリテラさんが会ったときから話をしましょう───



 そんな前置きをしてからゆっくりと話始めた。

 長き説明をセーベと村長は時にうなずきつつ静かに聞いてくれる。



 ──というのがロクシュタリアの樹から得た情報を加味してまとめた事の顛末(てんまつ)です」


「ふ…む。(こと)(ほか)、事態は大きかったようだの。なればお主のためにリテラは能力を使かったのだな」


「え、えぇ。そうなりますね」


「待って、パパ。ガルゥシュさんは別に悪いことはしてないよ? きっとママが自分の心で決めたことだよ。だから…」


 セーベがオレの擁護をする発言をしてくれる。

 それは正直ありがたいが、逆に罪悪感が湧いてきてしまった。

 セーベの だから はオレを許してやってくれって意味だろう。


「分かっておる!! 婿殿が悪いとはまったくもって考えとらんの! それにしてもよくやったぞ! リテラ!」


 ゾクンと何か胸を打つ。

 村長の愛が深すぎて、オレの理解を越えて先に胸を打ったんだと思う。

 全く恨まず、妻を褒める。

 彼らが崇める神樹からの指令を一部違えたリテラの行動を褒めたのだ。

 今まで会ったことのない愛し合う夫婦の愛が、とても…とてもオレを慈しんでくれた。

 唇を強く噛んで涙が溢れることを我慢する。


「そして、セーベ! 婿殿! ロクシュの里の長、コジベ・リースタが頼む!」


「は、はい!」


「パ…はい!」


 豪快にリテラを褒めた村長はオレたちの方に体を向け、ピリッとした声を発した。

 オレは突然のことに驚きつつ返事をした。

 セーベはパパと言おうとしたのを飲み込んで返事した。


「どうか、どうか妻を救う術を見付けてきてくれ!」


 分かりきった答え。

 オレもセーベも既に決めている。


「もちろんです!」


「ママは私が、私達が助ける!」


 こうして旅の目的はハッキリと口に出して胸に刻まれた。

10月13日は、私がなろうにてこの作品を書き始めた日です。祝ってくれたらいっぱい書く。

ポイント・感想・ブクマ待ってます。叱咤激励何でもOKです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ