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異世界の人生はミルクから…。  作者: 翠ケ丘 なり平
第五章 大樹の祭
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78 料理とは

 

 リス族の恰幅のいい女性、アハタさんはお玉をヒュンヒュン鳴らしながらオレのために最高に旨い料理を作りにいってくれた。

 近くの空いてる椅子に腰掛けてその料理を待つとしよう。

他の皆は食べ足りないのか軽く散らばっていった。


 アハタさんが、これで至高の水料理こと薔薇の水滴とか出したらキレる自信がある。

 腹のふくれるものを朕は所望するぞ! とか何とか言ったりなんかしちゃったりして…


 それにしてもプリンは大成功だったな。

 あれだけ場が混乱するとは思わなかったけど。

 かといって、オレはメチャクチャ美味いとも思えなかったんだよね…やっぱり地球で食ってたコンビニのプリンとかの方が断然旨いんだわ。

 何て言うのかな、舌触りはザラザラしてるし、甘さが固まってたり、カラメルが苦すぎたり、何か硬いところがあったり、色が均一じゃなかったりとかなり酷い出来だったんだよね。

 そりゃオレはド素人だし、前世でもマトモに分量はかって料理した覚えがない。

 一時期、料理アニメいわゆる飯テロアニメを見て作ってた時期のお陰で作り方とかは分かるんだけど。

 やっぱり生きていく上で料理っていうのは大事だと思うんだよ。

 誰かを笑顔にするのも、幸せを感じるのも一欠片のお菓子や一口の料理で成すことができる。

 あ~美味い料理が作れるようになりてぇ…


 《固有スキル【生きるための才能】により通常スキル【調理】が成長し、派生スキル【料理】を取得しました》


 へ? おや、久しぶりだな!

 オレの固有スキルじゃないか!

 いつぶりだ? 前に反応したのは何年も前じゃないか?

 まったく、全然顔を見せないシャイなスキルだぜ。

 まぁ、確かにな生きるために最低限のことは幼い頃に揃えてくれていたからな。

 今更、取得するスキルは少ないんだろう。

 それでも反応したのは、やっぱりこのスキルのキーであろう“生きる”と考えたからなんだろう。

 この固有スキルにパッシブで発動してるものがあるかどうかそれは知らないけど、どっかで役に立ってるはずだ。

 ま、今は有り難いことをしてくれたとして感謝しよう。

 本当ならプリン作る前に成長して欲しかった。

 そんな文句は言うもんじゃないんだけどな。


 にしても【調理】が【料理】か。

 どう違うんだろうか。

 何となく料理のほうが広い意味を持ちそうっていうのは分かるけど、上位スキルか曖昧な気がする。

 こういう時にこそ【詳細】でスキルを確認するか。

 感慨深いな…【詳細】って受精卵になった時に獲得したんだよな。

 もうあれから十年ちょい経ってるのか。

 そんなに前なのか。

 そう考えるとオレってかなりオッサンの年齢重ねてるような…いや、考えまい。

 さっさと【詳細】使用しちゃおう。

 まずは【調理】から。


 {【調理】:食材を効率よく使用することが出来る。

 特定の食材に対する調理を最適化し、レベルが上がるほど調理速度が上昇する}


 ふむふむ。

 つまり、味の向上等には向いていない訳か。

 精々が無駄を省くためのスキルと言うことだな。

 じゃあ次、【料理】。


 {【料理】:見栄えや味のイメージを近付けることが出来る。

 食べる相手を想うことで料理の幸福度が上昇する}


 うん?

 なんだか曖昧な表現じゃないか?

 幸福度とかあんまりよく分からないし。

 えっーと、つまりオレが想像する地球で食った料理の味が再現出来るってことか?

 ほぉ。それはなかなか良いんじゃないか?

 でもあれだな、ほとんどオレの意を汲んで【生きるための才能】がスキル詳細を決めたように思う。

 直感だけどな。


 どちらにせよ、また料理しないことにはハッキリとスキルを知ることは出来ないと思うからまた何か作ることになりそうではある。

 今度ソフィのために何か作ってあげることにして、今は祭りを楽しむとするか。


 思考を終えて顔を上げるとかわいらしいクリクリのおめめと目があった。


「なぁ、ニィチャン! あれすげぇな! 作ったんだろ!?」


「お、おぉ」


「すげぇなぁ、おいらもたまに作るけど…」


 すげぇ を連呼する少年はケモミミをピクピク、目をキラキラさせてオレに詰め寄る。

 だが、どこか悩んでいるような印象を受けた。

 おそらくその悩む対象が…


「もしかして、その子のために作ってるのか?」


「ふぇ…」


「ああ! おいらはターリのために究極のうまいものを作ろうと思ってる。ターリ? 大丈夫か?」


 少年の後ろには少年の尻尾を掴んでいる病弱そうな少女。

 名前はターリというのだろう。

 オレがその子を顎で示すとオドオドと尻尾に隠れた。

 なんだろう、無性に庇護欲をそそられる。


「ゴメンな。怖がらせるつもりはないんだ。そうだ、プリン旨かったか?」


「ぇっと、ウン! スッッッゴイの! あれ! スッゴイの!」


 突然水を得た魚のように、体一杯に大きく腕を広げてお褒めの言葉を頂く。

 なにげに少年がひきつった顔をしているので、多分掴んだまんまの尻尾が引っ張られているのだろう。


「そうかぁ、旨かったか。良かった、ありがとうなターリちゃん」


「ううん! こっちがありがとうなの! あんなスッゴイの知らないもん、あたし!」


「うぐぅ…た、ターリ…」


「えっと、少年はどんなものを作ったりしたんだ?」


 ターリによる手放しの称賛に背中が(あわ)立つような嬉しくも照れ臭い気持ちを抱く。

 その称賛は少年の料理を否定するものと捉えたようで少年は「おいらは一体何を…」とか虚空に向かって呟いてた。

 何となく居たたまれない気持ちになったため、少年のこれまでの努力を聞いてみることにした。


「えっと、コグシラの木の実を砕いて作るピピって言う料理だろ? 千切ったマツラの葉とホツの肉を焼いたパリラって言う料理だろ? 乾燥させたキイシをマツラの葉で巻いたフプナっていう料理───」


 指折り数えていく少年、ぶっちゃけ材料から料理名まで全部聞いたことがない。

 こうなると反応に困ってしまう。

 オレが振った話題なのに、オレ自身が止めたくなる。

 誰かこれらの料理を教えてくれ…


 《これらは料理と言えるほど発展したものではありません》


 はい?

 どういうことですか?


「ねぇ、オニィチャン、ネッツの言ってるのってね…ピピはドロッとしててハチミツみたいな食感でニガイの。あとパリラは大体いつも炭で、フブナはただ巻いただけで苦くて…」


 おっと…まさかのターリちゃんから説明が来た。

 説明をしてるターリちゃんの顔はほとんど苦々しい顔でパァッと晴れやかな顔はしなかった。

 て言うかどれもこれも辛辣な評価を与えられてる。

 ある意味では可哀想な少年、おそらくネッツ君だ。


 ネッツ君は熱意だけは本物なのか、未だに指を折りながら料理として見なしているものを数えている。

 結構な種類を言っていくネッツ君。

 ちょこちょこ知ってる材料も出てきたが、料理に使えるような素材じゃないことはオレも分かった。

 これは止めないとまだまだ出てきそうだ。

 謎の料理が。

 

「えーと、ネッツ君? 君の熱意は伝わったよ。それで誰かに料理を教えてもらったことは?」


「う~ん。無いかな、だって料理って直感と発想で出来るだろニィチャン?」


「バカ野郎、料理っていうのはな、そんな簡単に出来たら人の心を掴むことなんて出来ないんだよ。ましてや最高の料理を作りたいんだったら教えは乞うべきだ」


 変に自信を持っているのかよく分からないことをいうネッツ。

 確かに直感も発想も料理には大事な要素だろう。

 だがそれは初心者がやっていいようなことじゃない。

 基本に忠実にすることを念頭に置かないと料理は上手くならない。

 そうだよ、オレだって最初は母親に教えてもらったさ。

 すぐに飽きてしまったけどな。


「だったらニィチャンが教えてくれよ! ニィチャンならすぐにおいらに教えられるだろ!?」


「無理だな。オレは明日の朝にはここを去るし、教えられる料理がほとんどない」


「なんでだよー! おいらはニィチャンがいいんだよー!」


 尻尾を強めに振りながら駄々をこねるネッツ。

 そんなこと言われてもな、明日には帰らないと徒歩で帰るはめになってギルドや学校への報告が遅れてしまう。

 出来るならそれは避けたい。

 皆疲れが溜まってるだろうし、歩くよりは馬車の方がマシだ。

 それにオレの料理を教えるとして、ネッツに言った通り素材等の関係で作れるものが思い浮かばない。


「コラッ、ネッツ! 婿さんを困らせるんじゃないよ。ほら、お婿さん、これがアタシが作れる最高の料理さ」


 両手を鍋に使っているため手は出さなかったが、ネッツに噛みつきそうな声を出すアハタさんがとてもいい香りを漂わせる料理を持ってきた。

 あぁ、腹減った。

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